超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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ザ・ソードセイント

 

「基本的、だがな。この世界の人間は最低五系統くれーは持って生まれるもんだ」

 

 バチリ、とスパークを弾かせた槍を肩に起きつつ、ゼウィスは言葉を作った。

 

「だいたい十系統超えれば多いって感じだが、究極魔法を使えるのはまた別の話ってな。俺はよく知らんけど」

 

 男は肩をすくめ、

 

「亜人なんかは十超えはほぼいないが、その分種族特性がある。人種の場合は二十越えりゃ種族が違う、なんて言うけど」

 

 それはいいとして、と彼は破顔し、

 

「俺はよぉ――――持ってる系統が一個だけだったんだよな」

 

 言った。

 

「雷属性の『帯電』しか使えねーんだわ。……おっと。今、一個は使えるんかーい? って思ったか? わかる。わかるぜ? 俺も昔は何度も思ったからな。中途半端に一個だけ使えても、何ができるんだよって」

 

 ゼウィスは苦笑し、槍を軽く振るって言い放った。

 

「ま、お前らを追い詰められちゃうんだなこれが」

 

 膝をつき、息を荒くするウィルとアレスへと。

 

「はぁっ……はぁっ……いやぁ、きっついね……!」

 

「っ……くっ……!」

 

 ウィルの白の胴着も、アレスの黒の鎧も、どちらも浅いが裂かれ砕かれ、血が滲んでいる。

 二人はそれぞれの刀を床に突き立てつつ、立ち上がる。

 

「強いは強いけど……なんというか……今までとは、あんまり戦ったことない強さだ」

 

「当然でしょう、先輩。あの人が言う通り、ゼウィス・オリンフォスは……」

 

 アレスは刀を鞘に納め、しかし視線はゼウィスから外さずに言う。

 

「ただ一系統と槍術を極めた、歴史上唯一の英雄です」

 

「こそばゆいなぁ、息子よ。そんなに褒めるんじゃない」

 

「……」

 

 息子という呼びかけに、アレスは複雑そうに顔を歪め、ゼウィスは楽しそうに言葉を続けた。

 

「この世界じゃ系統の数は才能だ。天才っていうのはウィル、お前とかトリウィアとかってのはまぁ今更だろ。俺は、逆に超の付く落ちこぼれさ。そんなのは俺くらい…………いや、そうでもないか」

 

 思い出したようにゼウィスは、槍を持たない手で顎を擦る。

 

「俺の同類が、教え子にいたな。今じゃヴィーテフロアの近衛で、≪ディー・コンセンテス≫だが。お前ら、戦ったか?」

 

 ウィルとアレスが互いに顔を見合わせた後、首を横に振る。

 

「ふぅん。そういうことなら≪天才≫あたりか? 流石にアレ相手じゃ話にならんだろが、それ以外ならおもしろくなっただろうに。ま、俺ほどじゃあないがな」

 

 そして、彼は指運で槍を回した。

 指先だけで、身の丈もあるような槍をペンか何かのように遊ばせる。

 

「『帯電』一つでできるのは武器や体に電気纏わせることくらいだ。だからそれだけを窮めた。そしてそれを運用するために槍術も一緒に窮めた。いや、言葉で言うのは簡単だけどよ。三十になるまでは、もー、ほんとそこら辺の雑魚扱いだったわけよ」

 

 笑い、そして男は槍を構えた。

 

「っ――――!」

 

 ただそれだけで、空気が一変する。

 緊張と戦慄がウィルとアレスを襲い、反射的に武器を握る手に力が籠もる。

 

「まだまだここからだ。ウィル、アレス」

 

 英雄は口端を歪め、獰猛に笑う。

 

「何もかもを懸けて辿り着いた、ただ一つの極点―――楽しめよ?」

 

 

 

 

 

 

「殿下。申し訳ありません、遅れました」 

 

「いえ、最高の……タイミング、でしたよ」

 

「無理をなさらず」

 

 パラス・パラディウムは、背後、息の荒いヴィーテフロアへと振り返らなかった。

 見るべきは正面。

 影の鎧を纏うヘラだった。

 

「パラス、復帰するのに、少し、時間がかかり、ます。その間、ヘラをどうにか、してください」

 

「承知」

 

 パラスは短く頷いた。

 

「では、行きます」

 

 直後、彼女は前に出た。

 

「っ!」

 

 パラスが彼我の距離十数メートルを詰めるのとヘラが背後へ飛び退きながら影を展開するのはほぼ同時だった。

 ヘラは影の槍を格子状に編み込み、正方形の盾を形成する。

 眼の前に広がった黒の色は二メートル四方。さらに高速で押し出され、パラスへと迫り、

 

「――――斬る」

 

 言葉通りのことを実行した。

 右の科装剣の一振りで両断。

 直後、影盾の後から飛来した十数の小さな影の刃は左の科装剣で対応する。

 手首を柔らかくスナップを効かせることで全て叩き落とす。

 そして、前に出た。

 続けてヘラが放つ数十本の影の槍も、右剣で大雑把に薙ぎ払い、左剣で細かく撃ち落とし、速度を落とさない。

 

「お主、二刀なのに左右で動きで繋がってなくてだいぶキモいのぅ!」

 

「失礼な女だな、貴様」

 

「これでも妾、共和国の首相なんじゃが!」

 

「そうか。殿下以下だな。まぁ世の中の大体の者は殿下以下だ、気にするな」

 

 パラスにとっては疑いようのない事実を口にしたら、ヘラにガン見された気がするが、気のせいだだろう。

 

「狂信者じゃの……!」

 

 大きく後退していたヘラの姿が消える。

 影による転移。

 パラスの視界、≪偽神兵装≫による網膜投影の情報表示には何も示さない。

 故に、

 

「お主――!?」

 

 背後へ斬撃を放ち、ヘラが放った影の斬撃を断ち切った。

 三歩ほどの距離、パラスの剣の間合いの外にヘラは現れていた。

 

「どうやって感知した!?」

 

「勘」

 

 短く言い返しつつパラスは一歩踏み出し、ヘラは再び転移をしようと影にその身を沈める。

 パラスは二歩目を踏みしめた時、ヘラは時間を稼ぐために影の槍を射出した。

 影槍の群れの密度は、左右で異なっていた。

 パラスから見て右は細く多く、左は太く少ない。

 直前の騎士の双剣を踏まえた展開だ。

 そもそもパラスが迎撃を行い、もう一歩進む頃にはヘラも転移を完了している。

 だから、

 

「より速く―――斬り、突く」

 

 一瞬だった。

 加速と共に、右剣で影槍の全てを迎撃し、左剣の刺突をぶち込んだ。

 影槍の全ては両断され、転移が完了するよりも速く科装の切っ先がヘラに到達する。

 

「ふむ」

 

 衝撃が風とともに巻き起こり、残身を取った後にパラスは背後に振り返った。

 

「ちっ……ゼウィスとはまた違った気味の悪さじゃのぅ」

 

「あいにく、あの英雄ほどに非才ではなかったからな」

 

 十メートルほどの距離を空けて、ヘラは出現していた。

 ヘルメットの右側に僅かな切創があり、血が溢れている。

 パラスの刺突は、転移には間に合ったが傷としては小さいものだった。

 

「厄介だのぅ」

 

 ヘラが息を吐きつつ、頬を撫でれば小さな切創はすぐに塞がっていた。

 

「妾、つい先程まで同じ戦闘職の小娘に経験でマウントを取って気持ちよくなっておったのに、ガチガチの近接に来られても困るんじゃが?」

 

「パラスー! その女の喉、かっさばいてください!」

 

「はっ! かしこまりました殿下! この剣を喉にぶっ刺してぐるんとしてやります!」

 

「物騒な主従じゃのー」

 

 ヴィーテフロアの言葉に飛び出したパラスに対し、ヘラはもう一度嘆息し、腕を掲げることで影の槍を背後に展開。

 振り下ろしながら、言葉を零した。

 

「だがまぁ。敵に回すと面倒極まるのぅ―――≪剣聖≫よ」

 

 

 

 

 

 

 射出され続ける無数の影の切り捨てながら、≪剣聖≫という名について思い返す。

 その『二つ名』はパラスがかつて、与えられるはずだったものだ。

 

 パラス・パラディウムは、生まれつき系統魔法に対する適性を持たなかった。

 

 ゼウィス・オリンフォスのように一系統しか使えないのとはまた違う。

 もともと五系統は保有していたが、パラスの場合、その五系統を組み合わせることができなかったのだ。

 系統魔法とは、自身の保有する系統を組み合わせて魔法を発動させる。

 それができないパラスにとっては持っている五つの系統は、意味を為さなかった。

 これはもう生まれつきの才能という話で、一系統しか持たないゼウィスと同じくらい珍しい性質だった。

 

 だから、パラスは小さい頃から剣を握った。

 

 他の子供が当たり前のように魔法を練習しているのを横目に、ただ剣を振るい続けた。

 騎士の家系ではあったため、剣術の訓練は受けさすもらうことができたが、基本を終えてもらった後はほとんど独学による鍛錬だった。

 

 パラスが特別だったのは、魔法の才能はまるでないが―――剣においては、天才だったということだ。

 

 十になる頃には、剣だけの勝負なら負けなかった。

 十五になり、剣の腕を買われて魔法学園に特例で入学もできた。

 ゼウィス・オリンフォスにさえ、魔法を使わないのなら互角に戦えた。

 なんなら剣だけでも天才すぎて、生徒会長にまで上り詰めた。

 なので、魔法の才能がなかったことは、パラスにとって悲しい話ではない。

 ただ、剣を振るう以外の選択肢がなかったから、そうしてきただけ。

 それが変わったのは卒業する直前のことだった。

 なぜなら、

 

「≪剣聖≫などという肩書より、よほど価値あるものを欲したからだ……!」

 

 誓いを新たにし、騎士は剣を振るう。

 

「わがままなやつじゃのぅ!」

 

 ヘラは転移を繰り返し、影を用いた様々な攻撃を繰り出してきていた。

 無数の槍に加え、剣や鎌を射出。さらには手の振りで斬撃波を放ち、行く手を塞ぐ壁、足元から飛び出す棘などを全方位から、複雑に織り交ぜている。

 対し、パラスがやることは単純だった。

 

「――――斬る」

 

 ただ、それだけ。

 やることが単純なら、パラス・パラディウムの剣術もまた単純だ。

 前後左右上下、あらゆる方向に対し、常に最速、最善、最強の剣撃を放つ、というもの。

 言葉にすればあまりに簡単で、しかし実行するには極めて難しいそれを、彼女は実現させる。

 

「唯、断ち」

 

 放たれた影の武器が威力が高いものなら一撃で斬り伏せ、

 

「唯、突き」

 

 数が多いものであれば同じ数だけの攻撃を行い、

 

「唯、斬る」

 

 真上だろうが真下だろうが背後だろうが、あらゆる方向からの攻撃を完璧に対応する。

 

「剣とは唯、斬るものなれば……!」

 

「≪剣聖≫っぽいことを言うではないか……!」

 

「はっ、おかしなことを言う」

 

 忌々し気に吐き捨てたヘラに、思わずパラスは失笑した。

 

「お前たちが寄越した≪偽神兵装≫、これがなかったら話は全然違っていたぞ?」

 

 パラスが身に纏う、梟を模した中装科装の騎士鎧。

 そして両手に握る科装の実体剣。

 高い概念強度を有した剣と鎧。

 それは、

 

「本来は私が持ち得なかったものだ。これまでは相手の魔法を斬ろうと思ったら剣の強度を鑑みて使い捨てにして、何本もストックを用意しなければならなかった。相手の攻撃も完全に避けないとすぐに死にかけた。そうなると相手を倒すにも時間が掛かる」

 

 だから、とパラスは付け加えた。

 

「学園時代は塩試合生み出しすぎて、塩会長なんて陰では言われていた」

 

「しょっぱい名前じゃのぅ」

 

 

 

 

 

 

 しょっぱい上に面倒だ、とヘラは心底思っていた。

 影による全方位かつ無音の攻撃の尽くが防がれている。

 転移によって攻撃を受けることは免れているが、これでは埒が明かない。

 塩会長、なんて呼ばれていたのも理解できる。

 

「妾も、それなりに近接はできるんじゃがのぅ」

 

 中遠距離からの支援が本職のヘラだが、影の武器を用いれば『二つ名』持ち相手でもある程度は食い下がれる。

 このあたりは経験の積み重ねだ。

 だが、相手は剣術にのみ特化した一点集中型。万能型といえるヘラからすれば相性が良くない。

 

「―――ふむ」

 

 影による攻撃と転移をし、パラスを凌ぎつつ、ヘラは考え、疑問を口にする。

 

「一つ聞きたいが、お主、どうやって妾を謀った?」

 

 元々、パラスはアルマの時間稼ぎを行っていたはずだった。

 それは失敗に終わったが、恐らくアルマがヴィーテフロアと通じていたから手心を加えられ、復帰、ヴィーテフロアの応援に来たのだろうと推測する。

 問題は、

 

「ヴィーテフロアは随時監視していた。だが、お主と口裏合わせる時間はなかったと思うが?」

 

「口裏合わせなどしていない」

 

「は?」

 

 思わず、手が止まってしまった。

 

「どういうことじゃ?」

 

「殿下からは何も聞いてない。≪天才≫に倒され気を失い、目が覚めたら私だけ城の外にいた。よくわからなかったが我が忠誠レーダーに従って殿下の下に駆けつけただけだ」

 

 そこで、パラスも動きを止め、首を傾げた。

 

「そういえば……なぜ殿下はお前と戦っている? 一緒に世界を壊すとか、そういう感じではなかったのか?」

 

「なんで剣向けとるんじゃ貴様」

 

「は? 殿下に言われたなら私の疑問など二の次だが?」

 

「…………自分ルールで完結しておるタイプかぁ」

 

 この手の人間には何を言っても無駄だと、ヘラは経験で知っている。

 ならば言うべき相手は、

 

「のぅ、ヴィーテフロア。流石にこのレベルの狂信とか忠誠を捧げる相手に何も言わないの、かわいそうじゃないかのぉ」

 

「なぁーにがかわいそうですか! 誰のせいで何も言えなかったと思ってるんですか! パラス! もうちょっとがんばってください、そろそろ復活するのでそのババアをぶっ殺してやりましょう!」

 

「イエス・マイ・プリンセス! 喉をぐりんとしてやります!」

 

「……何がそこまでお主を駆り立てるんじゃ? そこの小娘、大分性根が腐っているぞ?」

 

「確かに殿下は性格が清廉潔白ではないが……」

 

「パラス?」

 

「しかし、顔が良い」

 

「はぁ?」

 

 ヘラは、パラスが言ったことを理解できなかった。

 だが、パラスは真顔で言葉を続ける。

 

「殿下は、私の知る限り誰よりも顔が良い。≪天才≫はそれに匹敵したが、まぁ先にであったのは殿下だったしな。殿下の横で殿下の尊顔を見続けられるというだけで、私の人生は幸福の境地だ」

 

「…………………………………………おぉう」

 

 ちょっと、いや、かなりヘラは引いていた。

 実は何か自分がヴィーテフロアの動向に見落としがあって感動的なストーリーを期待していたのだが。

 

「まぁ……お主がそれでいいなら……いいんじゃない、かのぅ? うん」

 

「ふっ……我が忠誠に圧倒されたと見える」

 

 全く違うが、訂正する気にもならなかった。

 背後でヴィーテフロアがドヤ顔しているのが腹立たしい。

 できるのなら、回復中のヴィーテフロアを先に殺したいが、パラス相手だと隙が生まれてヘラ自身が深手を負わされる可能性のほうが高い。

 そして、ヴィーテフロアが復活すれば、

 

「……良くないのぅ」

 

 彼女の光と闇による対消滅の究極魔法が他人に付与できることを、ヘラは知っている。

 パラスにそれが追加され、ヘスティアから聞いているパラスの≪偽神兵装≫の能力も加味すれば、現在の拮抗は崩れ、こちらが明確に不利になるだろう。 

 で、あるならば。

 

「仕方ないのぅ」

 

 ヘラは、攻撃の手を止めた。

 可能な限り、パラスから距離を取った場所に転移し、

 

「正直に言えば、これは小娘が調子に乗ってからメンタルどん底に突き落とすタイミングで使いたかったのじゃが。頭のおかしい≪剣聖≫がおるならば仕方あるまい」

 

 背後、頭部と腰部から伸びる影の帯が、魔法陣を形成する。

 

「っ―――パラス、止めてください!」

 

「承知!」

 

「遅い」

 

 そして、影の女はその力を行使する。

 

「≪究極魔法(アルテマ・マジック)≫―――≪カナートスの泉≫」

 

 

 

 

 

 

「―――――!?」

 

 パラスがヘラを剣の間合いに入れた瞬間だった。

 視界の何もかもが漆黒に包まれ――――その喉奥深くへと、影の刃が突き立てられた。

 

 




ゼウィス
一系統と槍だけで世界最強になった男

パラス
系統は持っているけど機能不全だったので
剣だけ鍛えてたら剣聖になった女。
多分アースが違えばトリィ枠になっていた。
倫理観終わってるハイパー面食い。
≪剣聖≫の二つ名もらう手続きとかで王城行ったらヴィーテフロアに出会って二つ名とかどうでもいいから騎士にしてくださいって頼み込んだ。二つ名はぽしゃった。

ヘラ
お、おぅ……。


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