超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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アクシア

 

 アルマが広げた転移門から現れたウィル、アレスとヴィーテフロア、パラスの様子は対照的だった。

 ウィルとアレスは満身創痍、立つことすらままならないようだったが、ヴィーテフロアとパラスは疲労は見えたがしっかりと自分の足で立っていた。

 周りには御影、トリウィア、フォン、カルメン、パールが集まっており、トリウィアとパールが四人に治癒魔法を掛け始める。

 そんな彼ら、特にウィルに何を言うのかアレスは少し迷った。

 ゼウィスがウィルに余計なことを吹き込んだからだ。

 

「ウィル、さっきのことは……」

 

「アルマさん」

 

 彼の言葉は優しかった。

 ウィルは力なく座り込み、首を小さく傾ける。

 

「今は、やるべきことを」

 

「…………うん、わかった」

 

 アルマは小さく頷いた。

 言いたいこと、言いたくないことのすべてを飲み込み、振り返る。

 視線の先には未だ羽化外装がまとわりつく王城がある。

 ウィルたちを送り出した時は城全体を覆っていたが、

 

「君たちが戦っている間、僕達で半分は削ったってところかな」

 

 ところどころ、本来の姿が見えている。

 

「僕たち、というか私たちが一体分倒す間にアルマ殿が五体分消し飛ばしてたのが実際のところだがな」

 

「ほんとだよ。いや、アレちょっと硬すぎてすごい大変だった」

 

 御影とフォンがお互いに肩を貸し合いながら言葉を零す。

 二人共強化形態が解除されており、ヴィーテフロアとパラスくらいには疲労困憊だった。

 現状、まだ戦闘可能であり、強化形態を維持できているのはアルマとトリウィアだけ。

 

「どうすんじゃ? 正直もう半分倒すのしんどくないかのぅ。山場超えたのなら、援軍でも呼ぶか?」

 

「いや、必要ない」

 

 カルメンの提案に対し、首を横に振る。

 確認するのは分割思考の一つが観測している、マキナとル・ト、テュポーンが戦っている位相空間だ。

 そちらの戦いを大詰めを迎えているようで、

 

【脳髄王:二つの矛盾! みなぎる脳髄! 必殺! ブレイン・コンフリクト! オメガバァァァァストォォォォォ―――!!】

 

 やたら暑苦しい謎の歌を流しながら、巨大ロボの胸のクリスタルから極太のビームを放出していた。

 世界観が違いすぎる、とか、良い空気吸い過ぎだろ、とか思いつつ、

 

「テュポーンを閉じ込めていた空間が空きそうだ。これならこっちに位相結界貼り直して、城ごと吹き飛ばしても現実に被害を出さずに済む」

 

 テュポーンとル・トを戦わせていた結界に、アルマはかなりのリソースを割いていた。 

 問題はマルチバースにおいても上位の神格を戦わせている結界を王都全体に展開した上で、さらに王城にも同じような隔離結界を張ると、今度は戦闘の余波が近隣のアースにまで影響を及ぼしてしまう。

 次元震、とアルマは呼んでいるもので、それを起こすとかなり面倒なのだ。

 だが、今となってはもうその心配はない。

 結界を張り直せば、アース111のアルマ・スペイシアとしてではなくマルチバース最強の魔術師として思う存分に力を発揮できる。

 

「ウィルたちが頑張ったんだ。僕がもうひと頑張り――」

 

 言葉の途中で、アルマは顔を跳ね上げた。

 一瞬の既視感。

 この王都での戦いが始まった時、同じようにテュポーンの存在を感知した。

 だが、こ(・)れ(・)は(・)そ(・)れ(・)よ(・)り(・)も(・)ヤ(・)バ(・)い(・)、とアルマは直感する。

 

「―――――なんだ?」

 

 すぐに来た。

 未だ瘴気に覆われた空。

 その何もかもが―――――一瞬で砕け散る。

 

 

●

 

 

 それは、虹色の光だった。

 瘴気が七色に固まり、ガラスのように砕け散る。

 砕けた破片は大きな穴を作り、そこから飛び出す影がある。

 竜と少女だ。

 純白の鱗を持つ飛竜。

 その背に跨る少女。

 腰まで伸びる金紗のようなロングヘア。澄み渡る青空のような紺碧の瞳。

 男装にも見える軽鎧の少女騎士。服装は所々破れ、血の跡で汚れており、髪にさえ乾いた血がこびりついているが、少女自身に傷はなかった。

 手に握るのは、泥に塗れた長剣。

 空から落ちてきた少女は、眼下の瘴気に覆われている城を見て、

 

「ユーマ!」

 

 誰かの名を呼ぶ。

 

『分かっているよ、お姉ちゃん』

 

 それは、少女の背後、半透明の幽霊のような姿を浮かべた少年だった。

 黒いローブ、黒と白が入り混じった髪。右の瞳は黒く、左目は本来白目が黒く、瞳が白い反転瞳。

 少女は、剣を振りかぶった。

 瞬間、泥の剣に虹色の光と漆黒の泥が溢れ出す。

 

『救済の花! 堕落の泥! 聖なる虹色は地に落ちる!』

 

 少女は謳い、

 

『収束神気、拘泥。権能封印、拘束解除』

 

 少年は応え、二人は言葉を重ね、

 

『≪破壊特権≫、執行ッ―――≪ラーマダストラ≫ッッ!!』

 

 剣を、振り下ろした。

 虹と泥が溶け合い、巨大な光となって王都の空を染め上げる。

 斬撃による光波というよりも光の柱となったそれは、王城へと激突し、

 

「だ、っらあああああああああああああ―――!!」

 

 剣を振り抜いた少女の咆哮とともにゴーティアの羽化外装、その全てが激震した。

 その表面が虹と黒のステンドグラスのような幾何学模様に硬質化。

 

「―――!」

 

 直後、割砕音と共に全てが砕け散る。

 例外は無かった。

 王城に巣食っていたゴーティアの外装、その全てが一瞬で光の粒になって消滅する。

 それが≪D・E≫上位種、ゴーティアの討伐が完了した瞬間だった。

 

 

 

●

 

 

 少女は、≪天才≫たちの前に姿を表した。

 空から降ってきたとかではなく、文字通り唐突に何の前触れ無く出現したのだ。

 少女の持つ≪転生特権≫の一つ、視界内での転移能力だった。

 それにより≪天才≫やその仲間たちも驚き、警戒に見を固くするが、

 

「ストップストップ! 僕の知り合いだ!」

 

 ≪天才≫が右手で彼らを制しながら声を上げる。

 翡翠の姿から、見覚えのある容姿に戻った彼女は眉をひそめながら、少女に問いかけた。

 

「驚いたな、勇者。どうして、きみ、が――――」

 

 言葉の途中、≪天才≫の赤い瞳が丸く見開かれる。

 

「は? ……まさか、いや、そんな」

 

 彼女は、振り返って背後を見た。

 少女も、最初から≪天才≫の奥を見ていた。

 座り込んでいた黒髪の少年を。

 彼もまた、信じられないものを見たような表情で、少女を見つめ返している。

 

「―――あぁ」

 

 少女の瞳から涙が溢れた。

 彼の、彼らのことを少女は知っていた。

 掲示板を通して、彼らの冒険はずっと見ていたから。

 少女も、彼も、≪天才≫も、物事の本質を見る≪転生特権≫を持っている。

 だけど、彼のことを実際に目にしたのはこれが初めてだった。

 だから、彼のことを実際に目にして気づいてしまった。

 

「きみ、は」

 

 彼が、言葉を漏らした。

 少女が知っている声ではない。外見は全く違う。

 それでも、少女はそれが誰なのか分かってしまった。

 

「――――――――兄さん」

 

 前世において、彼は少女の兄だった。

 少女は、彼の妹だったのだ。

 

 

 

●

 

 

 

「何がどうなってるんだ」

 

「僕に聞かれても困る」

 

 魔法学園校舎、屋上へと通じる扉の前の踊り場でアルマはマキナの問いに応えた。

 戦いから数時間後、既に日は落ちて夜になった。

 脳髄Tシャツの男と制服の少女は、屋上への扉の前で共に胡座をかき、腕を組んで向かい合っていた。

 

「いや、事実だけを述べるなら、簡単だ」

 

 唸りながら、アルマは頭を整理する。

 

「あの勇者ちゃん……ロータス・ストラトスフィアはウィルの前世での妹だった。ゼウィスとの会話でウィルが兄かもしれないと気づいて、次元の壁と僕が張っていった次元封鎖結界を破壊して、このアースに来た。残っていたゴーティアの羽化外装を一撃で消し飛ばして、消滅させた」

 

「もうその時点で俺の脳髄もパンクしそうだぞ」

 

「まぁ……」

 

 アルマもマキナも苦々しげに息を漏らす。

 

「掲示板連中も疑問符で一杯だ。明確な点から聞くが。あの勇者ちゃん、もといロータスはなんなんだ? ちょっと意味わからんレベルの火力? 火力って言って良いのかあれは」

 

「彼女はマルチバース最高火力だ。破壊性能だけなら僕より高い」

 

「………………マジか?」

 

「大マジだ」

 

 到底信じられないというマキナに、アルマはため息を一つ。

 

「僕の≪森羅知覚≫はなんでも知ることができる。ウィルの≪万物掌握≫はなんでもできる。そして、ロータスの≪破壊特権≫は何でも壊せる。文字通り、なんでも。あれは破壊という概念を相手にぶつけるんだよ」

 

 彼女が放った虹色の極光。

 マルチバース最高火力、というのは偽りでも誇張もない。

 千年生きるアルマをして、あれ以上の単純破壊概念は存在しない。

 

「ついでにほとんど不死の回復能力、視界内におけるノータイム無制限の転移能力も持ってる。掲示板面子を全員集めて、百回戦って百回勝てない、それが彼女だ」

 

「それは……盛りすぎじゃないか?」

 

「だからこそ一年半くらい前かな。≪ネクサス≫に勧誘したんだ。それ以来、僕はウィルとのあれこれがあって会ってなかったんだけど」

 

 問題は、そこだった。

 

「………………まさか、ウィルの前世の妹だった、とはね」

 

 アルマは気が付かなかった。

 なんとなく、似ていると思った気がするが、あの頃はウィルに対しての恋心を自覚しておらず、なんなら押し殺そうとしていた時期だった。

 

「アルマはウィルの過去を?」

 

「フォンと出会った頃に本人から直接聞いた」

 

「はぁん? その時期に直接というのは思わず立ち上がりたくなるが……」

 

 彼は、横を見た。

 アルマもそれに続く。

 視線の先の屋上への扉。

 その先で、今、ウィルとロータスは二人で話している。

 

「………………どんな話をしていると思う?」

 

「俺に聞かれても困る。いや、ほんとにわからん。前世が前世の上で、どちらも転生者になっててここで再会とか、全くわからん」

 

「そうなんだよなぁ。ウィルの一番深いところでもあるし……ロータスについては僕もそこまで詳しくないし……おい、君」

 アルマが声をかけた先はマキナではなかった。

 二人から少し離れ、踊り場の奥。

 座り込んでいる小さな少年がいた。

 

「ユーマ、だったっけ。君はどう思う? ロータスの連れなんだろ? 連れというか……剣が君になってびっくりしたけど」

 

 彼はユーマと名乗った。

 アルマが知る限り、ロータスには仲間がおらず一人で彼女の世界の魔王を討伐したし、手にしていた聖剣も泥塗れで汚れてはいなかったが、

 

「連れというか」

 

 中性的な彼は、静かに口を開き、

 

「武器兼仲間以上恋人未満、かな」

 

「………………マジ?」

 

「大マジだよ」

 

「なんと……兄妹揃ってショタコンロリコンだったのか……」

 

「張り倒すぞ。………………君たちの話も気になるが、今はウィルとロータスのことだ。どう思う」

 

「どう、と言われてもね」

 

 オッドアイの少年は肩を竦める。

 

「正直、僕も驚いているよ。≪ネクサス≫の任務でそれこそ≪D・E≫上位種の討伐任務の最中だったんだ」

 

「は? どれだ?」

 

「ネフィリム」

 

「……なるほど。驚いた。いや、ロータスならいけるか」

 

「どんなやつなんだ?」

 

「デカい。全長一キロ近い巨人だな」

 

 テュポーンやル・ト、それに脳髄キングも大きかったが比較にならない大きさを誇る≪D・E≫上位種。

 何度かアルマも個人で討伐を試みた相手ではあるが、

 

「周囲数キロ規模でのエネルギードレインが常時起きてるんだよな。ゴーティアみたいに世界の敵対種として時間をかけて世界を殺すんじゃなくて、急に現れて動き回ってあらゆるリソースを喰らい尽くす。回収したエネルギーを攻撃に転用して、一兆度の光線とか出すし。二百年くらい前に僕個人で撃退はできたんだけど、逃げられて休眠してたはずなんだが……」

 

「それを艦長が見つけて≪ネクサス≫が討伐計画を立てたんだ。他のメンバーと段階的に連携して、最終的にお姉ちゃんが決める予定だったんだけど……」

 

 そこで、ユーマは肩をすくめ、

 

「待機中に掲示板を見たお姉ちゃんが全部すっ飛ばして倒しちゃった。すごかったよ」

 

「言っている意味が全くわからん。どういうことだアルマ」

 

「僕だって見てないんだから知らないよ。全部壊したんだろ、あの虹で」

 

 投げやりな言い方にマキナが半目を向けるが、アルマとしては肩を竦めるしかない。

 ≪D・E≫の上位種を≪ネクサス≫が討伐したのは喜ばしいが、今はそれどころではなかった。

 

「何話してるんだろうなぁ……大丈夫かな……喧嘩になる……とは思わないんだけど……あの再会時点ではお互い一杯一杯だったし、僕らも僕らで後始末が大量にあったというか今まさに後始末の最中だしな……」

 

「今、御影たちは何をしてるんだ?」

 

「御影とトリウィア、ヴィーテフロアは王族たちと今後の計画を立ててる。王城は戦闘のダメージとか瘴気汚染とかあるから使えなくて、生徒会室を使ってもらってる。フォンとカルメン、アレスは瓦礫の撤去とか逃げ遅れた人の捜索、パールは救護班を仕切っている」

 

 アルマは大きなため息を吐いた。

 

「当たり前だが、大きな戦いでは戦いよりもその後始末の方が大変だ。それも今回は王都で、各国首脳も集まっていたしね。死人もたくさん出たし、街として復興するには時間が掛かる。そっちの方も頭が痛い」

 

「ふむ……そのあたり、わからなくもないが。大丈夫なのか、王国は」

 

「国が解体、なんてことにはならないと思うけどね。今のアース111の明確な長所は、大戦からたった二十年しか経っていなくて各国家が対魔族という点では足並みを揃えている。大戦経験者も多いから、変に足を引っ張るということもないだろう。……それでも、色々大変だろうし、どこで歪みが出てもおかしくない」

 

 どうしたものかな、とアルマは思う。

 

「とにかく今は人々の感情だね。ゴーティア相手だったから仕方ないとはいえ、最少人数で終わらせたから民衆は何があったのか理解できていない。去年に引き続き、倒したと思われていた魔族がまた復活したんだ。気持ちとしては最悪だろう」

 

「士気……というには言葉がおかしいか。民衆感情、難しいな」

 

「こればっかりはね」

 

 これから三年生になり、この世界で生きようとしていたアルマには頭が痛い。

 復興には時間が必要だ。

 時間といえば、

 

「ウィル、大丈夫かな……。もう結構話してると思うけど……扉に耳とか当てたら聞こえてこないか……? ちょっとだけ扉を開けたりとか……」

 

「アルマ、落ち着け。身を乗り出すな」

 

 呆れた目で見られるが、それでもアルマは落ち着かなかった。

 妙な居心地の悪さには覚えがある。

 あれはそう、ウィルの実家で母であるベアトリスと向かい合った時のことだった。

 ちょっと違う気もするかもしれないが、似たようなものだ。

 恋人の身内に対する経験値というものが、アルマにはまったくない。

 そしてアルマは経験がないことに対しては、普通の人と然程変わりはなかった。

 

「やれやれ、見てられんな」

 

 マキナは何度か首を横に振り、

 

「ふむ。アルマとロータスに関しては見守るしかないだろうが。民衆感情というやつはどうにかできるかもしれんぞ?」

 

「あぁ? ほんとに言ってるかい? ……いや、まぁ君はそういうの詳しいか?」

 

「昔取った杵柄というやつだ」

 

 彼は苦笑し、

 

「俺の戦いは、士気を維持し続けなければ話にならなかったからな。振り返ればまともな勝利なんかなく、全滅しなかっただけというものばかりだが、それでもそれを勝利と言い聞かせて前に進まねばならなかった」

 

「へぇ、それで具体的には」

 

「うむ、まぁこれに関してはアース問わず決まっている。まずは酒と飯、だな」

 

「それは……確かに? 悪くはないと思う。既に学園を筆頭にあちこちで炊き出しとかしているよ。夕食時でもあるし。酒も出ているだろうさ」

 

「結構。ではこれが一番大事なところだ。そして、それに関して俺には当てがあり、アルマの協力もあれば王都全域に広げられるだろう」

 

 それは、

 

「―――歌だ」

 

 遠く、いつかの時を見つめながら彼は言う。

 

「失ったものを慈しみながら、それでも明日を信じられるような、そんな歌だよ」

 

 

 

●

 

 

 

「――ん?」

 

 避難所で炊き出しのスープを受け取っていた少年は、突然聞こえてきたノイズ音に夜空を見上げた。

 あまりにも多くのことがあった日だった。

 多くの人が死ぬのを直接目の当たりにした。 

 虫型魔族に襲われ男衆に助けられた少年は、しかし託された伝言を伝える彼らの家族を見つけることは出来なかった。

 もしかしたらその相手も死んでいるかもしれない。

 意気消沈した、そんな時だった。

 

『―――――――随分疲れた日々だった』

 

 どこからか、歌が流れてくる。

 

 

 

●

 

 

 

『雪、雨、ついでに熱い砂嵐とかもあったけ』

 

 街に響く歌を、ティルはアンゼロットと珊瑚と共に聞いた。

 『アルマファンクラブ』である彼女たちは、学校からウィルアルの波動を感じつつも今は正気に戻った三匹の龍たちの看病をしていたところだった。

 高く澄んだ声。

 その声を、三人は知っていた。

 

「トリウィア先輩?」

 

 

 

●

 

 

『ちょっと思い出してみてみよう』

 

 綺麗な歌声だなと、足の包帯を巻き直していた新人歌手の少女は思った。

 周りには同じように耳を澄ます劇団の仲間たちがいる。

 まだ数フレーズしか聞いていないが伴奏も歌も、結構な技術を感じる。

 感心しつつ、次の歌詞を聞いてみんなが反応をした。

 

「えぇ……?」

 

 

●

 

 

 

『転んだり、傷ついたり、ついでに泣いたことがあったけ』

 

 歌詞が暗いなぁ、と救護所で気功による治療をしながら学園教師のドニーは思った。

 いつの間にかナース服に着替え、怪我の治療をしているフランソワも同じことを思っていそうな顔をしている。

 急に街に響き出した歌、人々を元気づけるものだろうが曲のペースは遅い。

 だが、声がトリウィアであることに気づいていたドニーは笑っていた。

 

「前フリ、というやつアルな。初代国王がうるさかったアルよ」

 

 

 

●

 

 

 

『話せない時、嘘をついた時、誤解し合った時も』

 

 大丈夫かなぁと、アクシア魔法学園学園長、ティシウス・アクシオスは震えていた。

 学園を臨時避難所として市民に開放し、臨時指揮所として王族たちに貸している。

 既に色々なことが有りすぎて、その対処に痩せそうだったがこの歌だ。

 嫌なことを思い出してしまう。

 それは彼自身の過去であり、今日起きた惨劇の数々でもある。

 そんなティシウスを見て、秘書であるドロテア・エルクスレーベンは真顔で言った。

 

「生徒を信じなさい、豚。いえ、間違えました。ハゲ」

 

 

 

●

 

 

『ちょっと思い出しても、全く大した日々だった』

 

 まったくだ、とエレガントの化身クリスティーン・ウォールストーンは思った。

 今日一日をちょっと振り返っても大したものだった。

 なにせ、神を足止めなどした。

 同時に素晴らしいをものを見た。

 そして、クリスティーンのエレガンススカウターはこうも言っていた。

 

「エレガンスの兆し……!』

 

 

 

●

 

 

 

『でも、ねぇ、ついでにさ。ちょっと考えてみてみよう』

 

 ここだ、とドラムを叩くエスカ・リーリオは腹に力を入れた。

 学園の名所である時計塔広場。

 そこにエスカ、トリウィア、アイネ、アライグマと鬼種の亜人種で歌を歌い、楽器を演奏していた。

 理屈は良くわかっていないが、アルマがこの歌を街に届けてくれているらしい。

 人々を元気づけるために。

 だったら、やることは一つだ。

 

「アゲていくぜ……!」

 

 

 

●

 

 

 

『春、夏、秋、冬。長くも短い冒険譚』

 

 エスカが気合を入れているな、とアイネ・パラディウムはギターを弾きながら思った。

 彼女もまた、良く分かっていないがやるべきことは分かっている。

 だから、アイネ自身もこの一年を振り返った。

 そして、思うことは自分たちの演奏を眺めている姉、パラス・パラディウムについてだ。

 

「お姉ちゃんも、お疲れ様」

 

 

 

●

 

 

 

『―――あぁ、案外悪くない日々だった』

 

 その歌に、俯いていた誰かが顔を上げた。

 誰かは涙を流した。

 誰かは思わず立ち上がった。

 淀んでいたものが、小さなきっかけで溢れ出そうとしていく。

 積もり積もった悲しみ、怒り、苦しみの奥に隠れていたものを、その歌は引き上げようとする。

 そして、誰かが言った。

 

「そうだ、悪いものであったものか。俺達の日々は」

 

 

 

●

 

 

 

『君と出会って』

 

 誰かが、失った人と出会ったことを思い出して叫んだ。

 

『君と笑って』

 

 誰かが、共に生き残った友人と、その事実に小さくはにかんだ。

 

『君と泣いて』

 

 誰かが、愛する家族が生きていたことに涙を流した。

 

『君と過ごしたあの日々は 価値があるって信じたい』

 

 誰もが、そう信じたかった。

 

 

 

●

 

 

 

『ねぇ、結構楽しい日々だった』

 

 歌は続いていく。

 テンポを速め、音の数を増やし、明るく、人々を勇気づけるものに。

 

『私が待っていた』

 

 ザハク・アル・バルマクは純愛路線の少女を思い出しながら、一応罪人のはずの自分が救助指示をしていいのかと思った。

 だがそれを許したのはパールだったので責任はあの女にあるからいいかと思考を放棄した。

 

『私が教えていた』

 

 ディートハリス・アンドレイアは元婚約者の歌に対し、不敵な笑みを浮かべた。

 学園生徒会室で今後の計画を練っていた王たちも、今はこの歌に耳を傾けている。

 やはり、自分にはもったいない女だったなと彼は思った。

 

『私が連れて行った』

 

 不死鳥のシュークェは良くわからないがテンションのままに雄叫びを。

 それは周囲で食事をしていたものたちに伝播し、彼ら彼女らも歌に身を任せて叫び、体を揺らし、酒を流し込んでいた。

 わからないことだらけだが、今はそれでいいと思ったのだ。

 

『私と出会ったあの日々は 価値があるって信じてる』

 

 そうだなと、マキナは思った。

 どれだけ辛いことがあっても、失っても、苦しんでも。

 それでも何もかもが無価値になったわけではないのだから。

 

 

 

●

 

 

 

『ほら、ねぇ? 幸せな日々だった』

 

 パール・トリシラは怪我人の手当をしつつ、バルマクが余計なことを考えているんじゃないかとふと思った。

 だが、今はこの歌に免じて許しておくことにする。

 

「いつか、こんな風に思ったのも幸せって思えるのかなぁ」

 

 カルメン・イザベラは懸命にドラムを鳴らすエスカを見て、夜空に咆哮を上げた。

 彼が頑張っているのが嬉しかったからだ。

 

「良い音じゃのぅ、愛しき我が闘龍士(ミ・マタドール)』

 

 

 

●

 

 

 

『君が応えて』

 

 天津院御影は左手に酒瓶を持ち、右肩に担いだマクリア・エアルと共に笑っていた。

 その隣で童乃いばらが、マクリアが落ちないかと慌てながら見ている。

 

「わははは! 心配するな! 歌えるやつは歌え! 笑えるやつは笑え! 踊れるやつは踊れ! 今この瞬間はそれでいい! それが過去と未来に対する幸福の証明だ!」

 

 

 

●

 

 

『君が導いて』

 

 トリウィア・フロネシスはあらん限りの声を張り上げた。

 まさか卒業式用の歌をこういう形で歌うとは思っていなかった。

 世界に未知が満ちている。

 思わず胸の内を零したかったが、歌を続けた。

 

 

●

 

 

『君が掴んで』

 

 王都の至るところから、声が上がるのを上空のフォンは聞いた。

 誰もが全力で悲しみ、怒り、叫び、それでも前を向こうとしている。

 

「みんなの心が、風に乗って、広がっていく」

 

 

 

●

 

 

 

『君と出会ったあの日々は』

 

 アレスは自分の肩にもたれかかるヴィーテフロアの手を握った。

 ヴィーテフロアはそうしてやっと、数年ぶりに安らぐことができた。

 お互いが再会できたという事実を噛み締め、

 

「父さんに」

 

「……あのババアに」

 

 彼は静かに、彼女は唇を尖らせながら、自らが失わせた二人のことを思った。

 

 

 

●

 

 

 

『価値があるって信じているから』

 

 アルマはそっ、と扉を小さく開いた。

 屋上に、ウィルとロータスは並んで座っていた。

 そして、覗いているアルマに気づき、

 

「―――心配をおかけしました」

 

 兄と妹は笑いながら、同じ言葉を口にした。

 

「あぁ……よかったぁ」

 

 だからアルマは心から安堵する。

 なにもかも、戦いが終わって一件落着ではない。

 それでも、二人が一緒に笑ってくれているのなら、一緒に前を向けるなら、それで十分だ。

 

『――――君と出会うよ、何度でも』

 

 アルマは扉を開き、二人の下へと歩き出す。

 

 

●

 

 

 

超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方 

GRADE2 END 

 

 

 

●

 

 

 

 少女が扉を開けた先は、広い書斎だった。

 壁一面の分厚い本、部屋のあちこちにディスプレイされているのは歴史を感じさせる魔法具の数々。

 古い紙と不思議な御香の香りが鼻をくすぐる。

 その部屋の奥に、背の高い老人がいた。

 長身、禿頭。濃い青の胴着に赤いマントの男。

 彼は入ってきた少女に対し、面倒そうに口端をへの字に曲げる。

 

「何をしに来たのかね? 君に教えることはもうない。さっさと魔王の下へ行き給え―――ア(・)ル(・)マ(・)・ス(・)ペ(・)イ(・)シ(・)ア(・)」

 

 対し、少女――アルマ・スペイシアは言い返した。

 

「いいえ! まだ教えてもらいたいことがたくさんあります――師(・)匠(・)!」

 

 

 

GO BACK IN GRADE ー666

 

 

 

 




トリウィア・フロネシス
卒業式、ひいては王都全国民やら他の国の王たちに自分たちの恋愛を元にした卒業ソングを歌った女。このアースで一番自由な女。

GRADE2、完結です!
めちゃくちゃ長くなってしまいましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました!!

ウィルとロータスの会話はGRADE3に!

が、その前に! ついに天才ちゃんの過去編です!
いかにして、彼女はマルチバース最強の魔術師にして守護者になったのか。

バケつ3巻の執筆もあるので、少し時間を空くかもしれませんがお待ち下さい!




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