超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
≪
山奥に聳える大きな寺院は、酷く古く、数百年、もしくはそれ以上の歴史を持つ。
大陸中に散らばる≪アイルトメギ教団≫の総本山はスーセフィエ王国とは対魔王軍の目的で協力をし合っていたが、寺院を包む炎は、その協力が破壊された証だった。
「…………遅かった」
その光景を見て、ナナヨは血が滲むほどに拳を握りしめた。
「………………」
アルマもまた、呆然と燃える寺院を瞳に映し呆けている。
遠くから聞こえる悲鳴や怒号は蹂躙の証。
王城と同じようにスーセフィエの騎士達が≪糸絡み≫の呪いを使うことで可能としているのだ。
数百年も独立を貫いていた教団がついに滅んだ、ではない。
魔王という存在が、教団の存在を数百年許していただけだ。
「……行きましょう、アルマさん。ここから離れないと」
アルマとナナヨがいるのは、寺院から離れた森の中だった。
人の目を外れ、獣道を進んできたら燃えている寺院を発見したところだった。
王城から逃げ延び、追ってくる王国の騎士たちとは何度か交戦し、退けたが、追っ手が尽きたわけでもない。
安全な場所へ逃げなければ。
それがどこか、という話だけれど。
「…………」
「アルマさん?」
「……なんでだよ」
ぽつりと彼女は言葉を漏らし、
「なんでだよ!?」
感情が炸裂した。
「なんでっ……おかしいだろ! 助けてくれって言うから助けたのに! 救えっていうから救ったのに! 魔王を斃せって言われたから斃したのに! なんで……なんでこうなるんだ!? 師匠も、他の教団の人たちもっ! なんで殺されなくちゃならないんだ……!」
涙を流し、アルマはナナヨへと縋り付く。
それは怒りであり、悲しみであり、戸惑いであり、不理解でもあった。
「なんで、こんなことに……僕は……僕はただ……」
「…………すみません」
どうしてこうなってしまったんだろう、と。
アルマは嗚咽混じりに繰り返し、ナナヨは何も言えずその感情を黙って受け止めるだけだった。
ナナヨもまた命じられてアルマの付き人になり、スーセフィエの教団潰しに巻き込まれた。
それでも、この世界の人間としてアルマの嘆きを受け止めなければならないと思った。
自分しか、いないのだから。
「僕は……僕は、どうしたら……教えてくれよ……」
「……」
その答えを、ナナヨは持っていない。
彼女自身だってどうしていいのか分からないのだから。
「誰でもいいから……頼むから……教えて―――――」
「……アルマ、さん?」
嗚咽が、急に止まった。
●
アルマはずっと自らに問いかけていた。
何故、どうしてこうなってしまったのか。
言ってしまえばこの世界の勢力の問題ということは、頭では分かっている。
ただそれだけのこと。
それだけのことで、アルマの師匠が死に、目の前で寺院が焼かれている。
何が悪かったのだろうか。
自分は、もっと何かをできたのではないだろうか。
だが、当然答えは出ない。
前世を含め二十年も生きておらず、人の悪意に触れもせず、利害目的ならば倫理も道理も無視できる人種がいることも理解できないのだから。
頭が良い悪いという話ではなく、絶対的な経験値の差であり、育ちの良さが故の不理解。
しかしこの場に彼女の問いに答えをくれる人はいなかった。
彼女は自らに堂々巡りの問いを突きつけ続けている。
そして、半ば無意識に自らのチートを使っていた。
それは、癖のようなものだった。
アルマは問題にぶつかった時、常にチートを使っていた。
単純に新しい魔法を学ぶ時や生活に不便を感じた時から、四騎士のような相手をする時にも。
できないこと、困ったこと、わからないことがあれば、それに対応した魔法を教えてくれる。
だから、彼女は願ったのだ。
この状況を理解できる魔法を教えてほしいと。
だが、その通りにはならなかった。
アルマ・スペイシアのチート―――後に≪森羅知覚≫と名付けられた≪転生特権≫はこの時、初めて真価を発揮する。
「―――――――――――――――――――――――――――――――――あ」
瞬間、アルマに流れ出す膨大な情報。
単一の事実は見方を変えれば万華鏡のように在り方を変え、転生によって得た特権はその全てを教えてくれる。
無限に広がるマルチバース。全ての根源たるアース・ゼロ。それより転生する転生者たち。それを繋ぐ多次元干渉ネットワーク。マルチバースの数だけ存在するドッペルゲンガー。
世界を食らう≪ディメンション・イーター≫。その上位十三種。
その頂点たる≪黙示龍≫。
これまで曖昧ながらも知っていたことも、全く知り得なかったことも全て。
このアース666を起点した情報が、一瞬でアルマの脳内に蓄積される。
「っ……ぁ……!」
「あ、アルマさん!?」
強烈な頭痛に体から力が抜け、膝から崩れ落ちる。
痛みはすぐに収まり、
「……………………」
「だ、大丈夫ですか? 鼻血が出てますけど、何が……」
「ナナヨ」
アルマは立ち上がり、告げた。
「――――僕は、行かないと」
●
ナナヨは理解が追いつかなかった。
アルマの雰囲気がまるで別人のようになってしまっていたから。
「あるま、さん?」
立ち上がった彼女は、俯きながらナナヨから距離を取る。
一瞬前まで、不理解と戸惑いに涙を流していた少女ではない。
異様までの落ち着いた気配。
別人になってしまったかのように豹変し、
「――――っ」
顔を上げたアルマの瞳を見て、ナナヨは息を呑む。
紅く煌めく輝きは失われてしまっていたから。
ナナヨの知るアルマの目は磨き上がれた宝石のように美しかった。
けれど、今のその瞳は何十年も何百年も放置され風化してしまった石塊のようだった。
「行かないとって、どこに? いえ、ここから逃げないと行けないのはそうですけど、当てはあるんですか?」
「逃げるんじゃない。やらないといけないことが分かったから、それをしに行く」
それに、とアルマはナナヨに背を向けた。
「僕は一人で行く、君は来なくていい」
「それは、……っ……!」
アルマの言葉に、ナナヨは異議を唱えることはできない。
元より、異世界の少女に迷惑をかけてばかりなのだ。
そもそも戦力的に言えば、魔法さえ封じられていなかったらこの世界に、アルマの敵になる存在はいない。
暗黒領域を一人で駆け抜けた彼女ならば逃げるのだって容易いだろう。
それでも。
「何があったんですか……?」
アルマの変貌は見過ごせなかった。
ただ、自分といることが嫌になったのならいい。
それでも、それ以外に何かあるのなら。
自暴自棄になって滅茶苦茶なことをしているのなら。
命に賭けても止めなければならない。
ナナヨはそう思った。
自分はアルマの足下に及ばない、蟻如き存在だとしても。
そうするべきだと、彼女は信じたのだ。
「…………ありがとう、ナナヨ。心配してくれて」
そんな彼女の思いを察してか、アルマは力なく微笑む。
だが、
「ごめんね」
ふわり、とマントがはためき、アルマの体が宙に浮かぶ。
「この二ヶ月、僕のことを気にかけてくれて。今日、僕を助けてくれて、ありがとう。本当に感謝している。でも、僕のことは忘れておくれ」
「そん、なのっ……!」
狂おしいほどの感情に、ナナヨは胸を掻きむしりそうになった。
忘れろだなんて。
「そんなのっ……そんなの忘れるわけないじゃないですかっ!」
溢れ出す激情は涙となって頬を伝う。
それは己の無力に対する嘆きだった。
ナナヨは、アルマが何をしようとしているのかわからないし、それを手伝うこともできない。
瞳の輝きを失ってしまった少女にとって足手まといでしかない。
でも、それでも。
「私は、忘れません!」
空に浮かび上がっていく背中を叫び、見つめる。
真っ直ぐに。
自分にできるたった一つだけのことを叫ぶ。
「絶対に忘れません! 何かあれば、絶対に助けます! あなたがこの世界を救ってくれたことを、人々に伝え続けます! あなたがどこにいても、何をしても! いつか、あなたの下に届くまで! 私の子にも、孫にも、その先の子にも!」
優しい少女が、世界を救ってくれた。
今、この国はその事実を握りつぶそうとしている。
そんなこと許さない。
「約束します、ナナヨ・ボアネルゲスの名の下に! あなたが救ってくれたこの世界に、あなたを忘れさせません!」
周りに流されていた少女は、自らの運命をそう定めた。
そして。
「―――――」
その真っ直ぐな思いに、アルマは応えることはなく。
転移門を開き、ナナヨと決別した。
●
「マルチバースには敵がいる」
ほんの数日前まで、魔王がいた書架にアルマはいた。
彼の玉座の前で、自分の頭の言葉を言語化し、確かめるように呟く。
「ずっと昔から、それは潜んでいた。転生者たちは気づいていない。でも、やつらは宇宙に潜み、世界を、次元を食らっている」
ナナヨと別れ、アルマはまずスーセフィエの王城に向かい、≪魔縫師≫への虐殺を止めさせた。
手っ取り早く脅迫したので、国王直々に魔王だなんだと糾弾されたりもした。
今後、新たな魔王としてアルマはこの世界に君臨するだろうが、そんなことはどうでもいい。
「そもそも、このアース666において魔王と救世主は同義だ」
魔王のことを思い出す。
「≪D・E≫最上位種、≪黙示龍≫はずっと昔にこの世界に休眠状態で降り立った。だから、当時このアースの人々はそれを封印し続けるために人柱を用意した。世界を守る救世主として」
だが、
「封印から漏れ出した≪黙示龍≫の穢れが魔物を生み、それが一つの生態系になってしまった。その穢れを引き受けた救世主の眷属は≪創世記の四騎士≫となり、封印をより強固にした。だが、生態系として確立された魔物を駆逐することはできず、大地は汚染され、暗黒領域となり――――長い時を経て、救世主はいつしか魔王と呼ばれるようになった」
長い、長い時間を掛けた物語。
今のこの世界の人々は忘れてしまったお伽噺。
それでも、人柱たる救世主は忘れなかった。
魔王を倒す勇者が現れる度に、その役目は受け継がれ、新たな救世主が生まれていった。
頭の中で響いてた喇叭の音は、その代替わりのカウントダウン。
元より、世界を救うのが勇者の目的だ。
だから、歴代の勇者はみんなの為に魔王になった。
あの青年も、そうだった。
「そして、次は僕の番ってわけだ」
アルマは笑みを溢し、
「―――あぁ、本当に嫌になる」
心の底から、悪態を吐き捨てた。
人柱なんてなりたいわけではない。
この世界に愛着なんてない。
嫌な思い出しかない。
守る義務さえもない。
スーセフィエの国王の顔を思い出しただけでも腹立たしい。
だけど。
「この世界に生きている人全てが、みんな悪いわけじゃない」
馬車の中から見た、王都の人々のことを思い出す。
そこに、特別なものがあったわけではない。
ごく普通の、当たり前の日常があっただけ。
アルマの知らない人たちが、アルマの知らない生活をして、アルマの知らない物語があった。
そしてそれは、この世界だけではなく。
無限に等しいマルチバースにおいても同じ。
≪黙示龍≫の封印を解けば、全ての宇宙は喰われて消えてしまうだろう。
「やりたくない、やりたくないけど……僕にしか、できない」
アルマのチート、≪森羅知覚≫がそれを教えてくれた。
≪黙示龍≫を封印できるのは、今はアルマしかいない。
それどころか、アルマだったら歴代魔王の誰よりも強固な封印ができるだろう。
自分が人柱になれば、それでいい話。
「だったら……やってやるさ」
力には責任は伴わない、とカディツルムは言ってくれた。
「そうもいかないみたいですよ、師匠」
あなたのことは忘れない、とナナヨは誓ってくれた。
「無理だよ、ナナヨ。君が死んでも、僕の使命は終わらない」
やるしかないのだ。
全マルチバースの運命が、今、アルマの双肩にかかっているのだから。
「悪いね、マント。君だけには付き合ってもらうよ」
自我を持つというマントに話しかければ、袖がアルマの頬を撫でた。
「…………はっ」
そこで初めて、自分が泣いていることに気づく。
涙の意味は、自分でも分からなかった。
これから先に対する恐怖か。こんなことになった怒りか。自分がやらなければならないという悲嘆か。
或いは、その全てか。
「――――やるしかない、やらないと、いけないんだ」
胸のブローチの前に手を掲げれば、翡翠の光を放つ。
そして。
アルマ・スペイシアは≪黙示龍≫と相まみえた。
●
意識が、沈んでいく。
深く、重く、苦しく。
深海の中で、アルマは漂っていた。
≪黙示龍≫は絶対に斃せない。
直接対峙し、それを悟ってしまった。
≪森羅知覚≫が、封印という術を教えてくれたのがその証。
アルマのチートはあらゆる問題を前に、あらゆるアースからあらゆる答えを引き出してくれはするけれど。
今この宇宙が次元喰らいの龍を斃す術を持ち合わせていないのなら、解決は決してできない。
≪森羅知覚≫は全ての問題に錠前を用意してくれるけれど、鍵を開けるのはアルマ自身。
そんなものは、ないけれど。
「―――――あぁ」
アルマは、自らの魂の深い、深いところへ潜っていく。
涙は止まってくれない。
≪黙示龍≫を知り、その存在の大きさに恐怖し、心が折れそうになってしまった。
だから、彼女は自分の心に、自ら鍵を掛けるのだ。
「自分のために、この力を使わない」
アルマはマルチバースの全てを知ることができる。
だが、世界の都合を考えず、自分勝手をしてしまえば今回と同じこと。
自分の力が強大だからこそ。
大きすぎる力には相応の責任を持たなければならない。
戒めは鍵となり、アルマの心を縛る。
それは、自らに対する行動強制の契約魔法。
「≪黙示龍≫の封印を解かない」
アルマと≪黙示龍≫は今、魂が繋がっている。
彼女自身が、≪黙示龍≫を縛る鎖でもあるのだ。
言ってしまえば、アルマ自身が封印を放棄すれば、それは解かれてしまう。
魂の同期により、アルマの時間は止まってしまっている。
今後、成長することはなく、精神が壊れない限り、少しづつ、少しづつ摩耗しながらもこの封印を維持し続けるだろう。
まもとな手段では死ぬことさえできない。
だから、何があっても自分の使命を放棄しないように戒め、心を縛る。
一つ目の封印よりも、深く、重く、硬く、何があっても絶対に開かないように鍵を掛ける。
「―――――」
心が凪いでいく。
恐怖も不安も和らぎ、薄れていった。
自らの精神を魔法で介入した為に、使命を全うすること疑問は持たない。
「やることは、いくらでもある」
マルチバースへの理解を深めること。
いつか≪黙示龍≫を殺すための修練。
≪D・E≫上位種の検索と討伐方法の模索。
次の人柱を産まないように、このアースにおける魔物の生態系を根絶し、魔王の書架を空間から隔離すること。
どれだけ時間がかかるのかは分からない。
先代の魔王は、千年頑張った。
だったら、自分も最低では千年頑張ろう。
何もかも受け入れて。
何もかも諦めて。
何千も先を見つめて。
たまたま全てを知る特権を手に入れたが故に、全てを背負う。
「僕は、これでいいんだ」
だって。
「――――――希望なんて、いらない」
1:名無し転生者:xxx
助けてパーリーピーポー
96:超天才魔法転生者様:xxx
中々面白そうなスキルがあるじゃないか。
そして中々に愚かな疑問が生まれている。
――――いいだろう。この私が愚かな転生者に学びを与えよう。