超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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マッスル・ソング

 

 

 

「―――――なるほど」

 

 空から降ってきた筋肉と猫耳を前に、真砂は一つ頷いた。

 

「表現の仕方が豊かなのね」

 

 その発言に対し、筋肉と猫耳はそれぞれのポーズで数秒固まった後、背後の御影へと振り向いた。

 

「あの御影殿によく似た娘、もしかして超真面目であるか?」

 

「一周回っておもろいかもだにゃー」

 

「あぁ、ずっと仏頂面なんだよな」

 

 御影は苦笑し、

 

「助かった、ありがとうロック殿、ナギサ。正直、かなり危なかった」

 

「気にすることないにゃー。アルマちゃんのおかげで助けにこれたにゃ」

 

「ふふん、流石だな」

 

「……ふむ」

 

 彼女たちの会話を聞き、真砂も納得した。

 筋肉と猫耳、ロックとナギサが助けに来たことはいい。

 肝要なのは、あらゆる科学的魔術的に隔絶されたはずの空間に入ってこれたということだ。

 それを可能とするとしたら、

 

「流石は……アルマ・スペイシアといったところかしらね」

 

「訳知りのようだな、真砂」

 

 ナギサの肩を借りつつ立ち上がった御影は、疲労の色を強く見せている。

 それでもその笑みに陰りはなかった。

 真砂にとって眩しいほどに。

 

「その姿、その力、私に似ていて……私が似てるのか? まぁいいが。アルマ殿のことも知っている。私のことも知っていたようだし。何者だ?」

 

「当然の疑問ね」

 

 今の自分は御影の知る鬼種に非常に近い。

 肌の色や炎の角以外はそのままとさえ言って良いだろう。

 彼女は愚かではないのだから、真砂との類似性に何かを感じ入って然るべきだ。

 

「だけど、その疑問を解消してあげるつもりはないわ」

 

 真砂は二刀を軽く振り、

 

「鵺、≪帳≫」

 

 周囲一体の砂浜に黒紫の炎が薄く広がった。

 物理的な熱を持つものではない。

 だが、効果はある。

 

「ぬっ……? 我が肌が減量末期のように輝きを失っている……?」

 

「王様、例えがニッチすぎるにゃー」

 

「余裕だな、二人共。だが……これは……」

 

 御影が自らの掌を何度か開くのと握るを繰り返した。

 

「……三貴子の呪い、それに近い広範囲の衰弱か」

 

「はーん、デバフフィールドってわけにゃ。確かに体、急にだるくなったにゃ」

 

「えぇ。察しが良いわね」

 

 鵺の黒炎は精神を焼く。

『帳』はそれを薄く広げることによって結果的に相手の弱体化をもたらすものだ。

 

「何人増えようと、やることは変わらない」

 

 そして、今度は二刀を強く振るう。

 放った黒炎は濃く、『帳』とは違い物理的な熱を宿し、つい先程御影を戦闘不能にしたものだ。

 ロックとナギサへと放たれ、二人はそれを避けることはなく。

 炎が弾け、

 

「―――――!?」

 

 音楽が、聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 真砂は自分の耳を疑った。

 炎撃を放ち、それが着弾し、爆発を引き起こした。

 その直後、突如として、どこからか音楽が流れ出したのだ。

 雄大なメロディと共に響くのは重低音の打楽器音。

 そして、

 

『――――漲る鋼鉄の肌、隆起する肉を見よ!』

 

 爆炎の中から、筋肉が歌と共に現れた。

 鼓動のような打音のリズムよりもさらに深く重い声。

 黒炎を振り払う筋肉は脈動し、その輝きに翳りはない。

 

「奇っ怪な……!」

 

 恐ろしいことにスローモーションのように見えるほどに、彼の動きは遅い。

 だが、確かに足を進め、

 

『我が筋肉こそ、神の化身たる証!』

 

 白い歯を輝かせる。

 

「――――!」

 

 真砂は二刀の炎を連続で振るった。 

 一撃で効かないならば、重ねるだけ。

 一息に数十の炎刃を放ち、

 

『十二の試練を乗り越え、天地に轟け我が名!』

 

 彼の動きは止まらない。

 

『あらゆる痛みも我が前に立つことは叶わぬとしれ!』

 

 筋肉が進軍する。

 時にその巌のような大きな拳で炎を砕き、巨体に見合わぬ軽やかな動きで炎刃の合間を跳ぶ。

 ダイナミックな動きとその完成された肉体美に、真砂の意思とは関係なく意識が引き止められる。

 

「なによ、あんたは……!」

 

 真砂が前に出て、炎を宿した刀を直接叩き込む。

 

『人々よ! 暗き世に嘆くというのなら!』

 

 だが、彼の歌と歩みは止まらない。

 炎の斬撃に対し、強く握りしめた拳を振りかぶり、

 

『我が名を叫べ! 我が名を呼べ!』

 

 激突。

 

「……!?」

 

 瞬間、世界の流れが遅くなる。

 筋肉の放った右の拳、それに繋がる右腕、その隆起する筋肉。

 力みによる膨張を、スローモーションの世界の中、真砂は確かに目撃し、

 

『おぉ! アルカイオス! アルカイオス!』

 

 衝撃が、真砂を突き飛ばした。

 

「くっ……!」

 

 純粋な力に押し負け、砂浜を何度かバウンドした真砂は、なんとか態勢を整えようとし、

 

『怪力乱神!』

 

 その先に待ち構えていた水着姿の猫耳、彼女の合いの手の叫びと共に蹴撃をまともに受けた。

 

「がっ……!」

 

 一撃のはずの蹴りは、瞬間五度炸裂する。

 激突音は未だ流れ続けるメロディに融け、さらに雄大なものとして盛り上げる。

 再度真砂の体が、数瞬前の逆再生のような軌道で飛び、

 

『おぉ! アルカイオス! アルカイオス!』

 

 筋肉のラリアットが、ぶち込まれる。

 巨大な腕は真砂の胴よりも太く、着弾の後に振り上げられた。

 高く、雄々しく、腕を振り上げた筋肉の姿を、真砂は確かに見た。

 

「――――」

 

 目を、奪われる。

 実用性を兼ね備えつつ、他人に魅せるために鍛え上げられたその筋肉に。

 一瞬、我を忘れ、動くことさえままならず、

 

『天下無敵!』

 

 歌は止まらない。

 

『おぉ! アルカイオス! アルカイオス!』

 

 自らの名を叫ぶ声が、旋律を盛り上げ、

 

『金剛無双!』 

 

 筋肉への賛美が、鼓動を刻む。

 

『天に叫べ我が咆哮! 地に奔れ我が鼓動!』

 

 歌が紡がれる度に真砂の体は冗談みたいに吹き飛び、逆らうことはできず、

 

『―――――我が名はアルカイオス!』

 

 筋肉への肯定が、世界ごと真砂を激震させた。

 

「っ…………ぁ……」

 

 ようやく歌が終わり、真砂は砂浜に埋もれ、自分の体が動かないことを自覚した。

 繰り返された筋肉の重撃と猫耳の連撃。

 黒炎や鵺の纏う衣などないかのようにダメージを真砂へと与えていた。

 

「―――」

 

 意識を失いそうになり、それでも真砂は手の中に小さな黒炎の刃を生み、

 

「――――ああああああああ!」

 

 自らに突き刺し、黒炎が真砂を包みこんだ。

 

 

 

 

 

 

「はっ! はっ、はっ……っくぅぅぅ……、や、厄介な……! 完全に! 呑まれたわよ!」

 

 息は荒く、消耗は激しく、口元から血を流しながらも真砂は正常な感覚を取り戻していた。

 明らかにおかしかった。

 真砂自身、反撃を禄に選択しなかったこと。

 ロックの筋肉がやたら目に付いたこと。

 さらには彼の動きがスローモーションにさえ見えたこと。

 

「あなたのせいね、ロック・アルカイオス……!」

 

 叫びに、ロックはニヤリと笑い、白い歯を見せつけてきた。

 かなりキモイ。

 あそこまで鍛えすぎた筋肉は真砂の趣味ではなかった。

 だが、確かに嵌まった彼の術中は、

 

「歌唱による演劇型の空間支配……!」

 

「そう! 全ては筋肉のパワーッッッッッ!」

 

 真砂は叫び、ロックはモストマスキュラーのポーズで吠えた。

 

「…………そう、筋肉の力なのね」

 

「にゃ!? 今ので飲み込んだのかにゃ!?」

 

「うーん、真面目にも程があるな。よく騙されたりしないか?」

 

「やかましい。会話が通じなさそうだから切り上げただけよ」

 

 真砂は考える。

 歌唱による演劇型の空間支配、と自分はいった。

 つまり、歌を歌うことによって自分にとって都合のいい場所を整え、舞台や劇の一部として相手を巻き込む。

 結果的に、ロックは強化された上で、彼の大立ち回りのやられ役である自分は抵抗もできずにやられてしまう。

 スローモーションに見えたのも、おそらく錯覚ではなくて実際に真砂自身の動きが遅くなっていたはずだ。

 おそらく、という状況判断の推測になってしまうがそういうもの。

 彼自身意識的に発動しているのか無意識でこうなっているかはわからないし、これが正解かもわからないがとにかくそう仮定する。

 その上で、

 

「……厄介ね」

 

 真砂は眉を顰めた。

 炎の角が揺らぐ。

 視線を移すのはロックの隣で小刻みに揺れているナギサだ。

 その揺れと共に彼女は小さく足を踏み鳴らしており、それが真砂の『帷』を散らしている。

 歌って戦うアイドルと歌って戦う筋肉の相性は良いらしい。

 先ほどもロックの歌に合いの手と参加しつつ、戦闘の効果音で音楽を補強したりもしていた。

 

「やれなくも……ない」

 

 だが、不利だ。

 天津院御影ならばともかく――――ロックとナギサの情報を真砂は持ち合わせていない。

 真砂はため息を吐き、刀を握った右手を耳元まで運ぶ。

 柄を親指で押さえつつ、残りの四指をゆるく開いて、

 

「クロイツ、クーフェイ、そっちはどう?」

 

『ちょーしんどいんだけど! メガネのおっぱいおっきい女には塗料を斥力? でなんか跳ね返されるし! 無口のクールな侍お兄さんは剣からビーム出すし!』

 

『お、同じく……! 口の悪いチンピラは目に痛い光で色々やってくるし、お、お嬢様の方はこっちのビームを素手で受け流すから、フォンを回収でき、ない……!』

 

「……了解、頑張って二人とも」

 

 念話の内容にため息をもう一度。

 そして、

 

「――――ごめん、()()()()()。失敗した」

 

『大丈夫だ、気にするなよ。適当に撤退してくれよな』

 

 耳に届く掠れた少年の声に真砂は笑みを溢す。

 

「えぇ、わかったわ。貴方も気をつけて――――愛してる」

 

『え? 何、今からいちゃいちゃタイム? 俺は全然構わないけど……』

 

「真面目にやってね」

 

『あ、ちょ、真面目にやるからもうちょっと続きを―――』

 

 念話を切り、通話相手の様子が可愛らしくて真砂は笑みを深めた。

 

「…………」

 

「何かしら」

 

 そして、奇妙な表情をした御影と目があう。

 

「うぅむ……今口にした名前とかかなり突っ込みたいんだが……男か?」

 

「性別という意味ならイエスよ。――――男女の仲なのか、という意味でなら」

 

 一度区切り、

 

「それもまた、イエス。()()()()()()()()()

 

 胸を張って、真砂は答えた。

 照れも迷いもない断言だ。

 

「ははぁ」

 

 それに対して、御影も頷きながら、自身の片角に触れる。

 

「たとえ、偽りの角だとしてもね。文句があるかしら?」

 

「いや? もちろんそんなものはない。むしろ、納得した」

 

「何を?」

 

「真砂、お前のことは全くわからんが――――お前も、ちゃんと鬼種なんだな」

 

「―――――――さぁね」

 

 

 

 

 

 飛空旅艦『地獄府』の船首は、目前の青空と眼下の大海が一望できる。

 転落防止のための目が細かい柵があり、その前に少年が佇んでいた。

 背は高いが、ひどく痩せた不健康そうな少年だった。

 ボロ切れにしか見えない真っ黒に汚れた布をフードローブのように纏い、その下は素肌の上から直接包帯を巻き付けていた。

 首元から胴、腕、ゆったりとしたズボンは履いているがその下半身も含め、彼の体に包帯の覆っていない場所は首から上だけだった。

 フードから溢れる髪は燻んだ白い。

 少年は、隈の濃い目でつまらなさそうに空と海を見つめていたが、ふと視線を上げる。

 その先に、アルマ・スペイシアが浮遊していた。

 

「君が僕の仲間を隔離した連中の襲撃班かな?」

 

 アルマはすでに赤いマントと青の胴着、胸元には金のブローチがあり、両手には魔法陣を展開している。

 声色と表情は冷たい。

 アース111で愛する人共に生きる少女ではない。

 千年マルチバースを守護し続けている、次元世界最高の魔術師としての顔。

 

「………………」

 

 少年は、すぐには答えなかった。

 フードの奥で目を細め、アルマの姿に視線を向けていた。

 

「ちょっと、無視かな?」

 

「…………いや」

 

 ゆっくりと、彼は首を振る。

 

「思ったより早く来て驚いていただけだよ。参ったな、そう簡単には介入できないようにしたんだけど」

 

「確かに、よく出来ていた」

 

 薄く笑いながらアルマは頷く。

 

「僕でも一度、完全に三人をロストしたし、見つけるのにも数分掛かって、身内を送り込むにもさらにもう数分。送り込むだけで手こずって、君のお仲間らしき連中の精査もまだ出来ていない。僕の家族にやたら似てるってのは気になったんだけど、その前に君を見つけちゃったし」

 

「サラッと言うなおい。とんでもない」

 

 怪しく輝く赤い目が細められる。

 魂までも見通す魔眼が少年を貫くが、

 

「中々の情報保護だ。君レベルの魔法使いはそうそう見ない」

 

「師匠が良くてさ」

 

 彼は笑う。

 少年は概念的な防御も展開していた。

 例え、≪天才≫でも片手間の観察では自分の情報を相手に与えないようだけの強度があるというものだ。

 

「そうかい。それで? 目的は何かな」

 

「あんたのお仲間とあんたの封印、かな」

 

「ふむ。封印か」

 

「そうそう。殺す気はないんだ。ただ、俺らはやらないといけないことがあって、あんたらがその邪魔になるから、先んじて止めておこうと思って」

 

「優しいね」

 

 にっこりと、アルマは笑い、少年も同じように笑う。

 

「では、君たちを無力化してから、ゆっくりと何をするつもりなのか聞くとしよう」

 

 アルマが、指を鳴らす。

 刹那、少年の周囲に無数の魔法陣が展開した。

 展開したことに少年が気づいた時には、魔法陣から鎖が射出される。

 少年から見ても引くほどの魔力量と概念強度、術式の精密さ。

 一つ巻き付かれただけでも彼が完全に動けなくなるもの、そんなものが十七つ。

 これだけの拘束魔法を使えるのも、マルチバースにおいて彼女くらいのものだろう。

 対し、少年は一つの動きを見せた。

 右腕に巻かれた包帯を解き、肌を露出し、

 

「―――――≪権能、再現。()()()()()()

 

 腕に刻まれていた、()()の入れ墨が輝いた。

 

 

 

 

 

 

「――――――は?」

 

 一瞬、アルマ・スペイシアは、彼女にしてはあるまじく、完全に我を忘れた。

 無数の拘束魔法を、少年へと放った。

 そのはずだった。

 なのに―――その十七の拘束魔法は、アルマを拘束していた。

 彼女の魔法が、彼女へと跳ね返ったのだ。

 だが、アルマの意識はそれには向けられなかった。

 アルマを驚愕させたのは、少年の言葉とその入れ墨。

 それは、

 

「≪ティールライダー≫……!?」

 

 千年前、アルマが倒した≪創生の四騎士≫が一人、秩序の騎士のものに他ならなかった。

 

「お前は……!」

 

「名乗るぜ、アルマ・スペイシア」

 

 少年が胸の前で腕を交差し、ゆっくりと左右に引いた。

 そこに出現したのは、

 

「俺はウィリアム――――」

 

 くすんだ金細工のブローチだった。

 それは、

 

「≪流れ出づる瞳(アイン・アツィルト)≫……!?」

 

 アース666の至宝、アルマ・スペイシアが持つ魔法具。

 彼女の胸にあるそれと全く同じものが、少年の胸にあった。

 驚愕するアルマに、少年は濃くしながら名乗りを続ける。

 

「――――ウィリアム・()()()()()()。この名前の意味を、あんたは知っているだろう?」

 

 




ロック
インド映画式領域展開

ナギサ
インド映画式に即興対応

真砂
クーデレ

アルマ
―――は?

ウィルアム・カディツルム
懐かしいかい?



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