超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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番外編です


【勇者配信】聖剣に選ばれたので世界を救います9【多分最終回】

 

 それは闇を切り裂く光だった。

 

 漆黒の城、魔族領域の最奥に構える魔王城。その王座の間。

 そこに至るまでの魔族の手下も悪魔の兵士も四天王も全て蒸発し、1人の少女が今まさに魔王へと光の剣を振り上げていた。

 それは薄い水色の水晶でできた剣だった。

 ただの水晶ではない。その世界における最も魔力・魔法伝導率に長け、それ自体が膨大な量の魔力を蓄える特別な鉱物でできており、それを精霊の民と呼ばれる長命種のみが魔法で加工できる剣の形をした魔法具。

 おおよそ、数百年前からその世界に伝わる≪聖剣≫だ。

 それを握るのは金髪碧眼の少女だった。

 腰まで伸びる金紗のようなロングヘア。

澄み渡る青空のような紺碧の瞳。

 鎧は胸当てや腰、腕や脛といった最低限。しかし決して粗末ではなく、細やかな装飾はきらびやかに。道で通り過ぎる誰もが思わず振り返ってしまうような美貌の少女の魅力を引き出している。

 一国の姫君、高貴な貴族のお嬢様、そう言われても誰も疑わない。

 そして彼女は、輝く聖剣を握りしめ、

 

「超・絶!!」

 

 振り下ろす。

 

「スーパーハイパーミラクルアルティメットロイヤルスーパーファイナルメガトンホーリーシットダークネスオリジンスラァァァァァァッシュッッッ!!!!」

 

  草

  小学生ネームなんよ

  スーパー二回なかった?

  ファイナルなのかオリジンなのか。

  ホーリーとダークネスも被っとる

  そしてホーリーシットも言うてたで

  うーんこの恵まれた顔と声と武器と防具から生み出されるくそださネーム

 

「うっるっさいわねぇぇぇぇるぅぅおおおらあああああああああああああ!!」

 

 視界の端の表示されるコメント欄に反応を返しつつ、裂帛の気合いで振りぬき切って。

 

「■■■■■■■■――――――!?」

 

 3メートルはある魔王が、文字通りちりも残さず蒸発し、部屋の天井ごとぶち抜いた。

 その日、天へと上る光の柱を見たとその世界の多くのものが口にしたという。

 

「はぁ……はぁっ……」

 

 そして彼女は、荒い息を何度も繰り返し、息を整えて、誰もいない空間へピースを突き出した。

 

「みんなあああああああ!! 世界、救ったよ! 応援ありがとう!!」

 

  おめ!! 

  ついにやった!!

  おめー!

  おめ!!

  くそださネーミングさえなければ完璧な配信だった!

  3か月で世界救っちゃったよこの勇者。

  強すぎる

  転生世界見ても上位ちゃうか

 

「ありがとうみんな! この聖剣に選ばれた時はどうしようかなと思ったけど、リスナーのみんなのおかげでこうして世界を救えた! 勇者として、ちゃんとできたんじゃないでしょーかっ!」

 

  あぁ! RTA並みのスムーズさだった

  ソロプレイでここまでできるとは正直思ってなかったよ

  ちょうど旅始めた時に新しくなった配信機能がよかったなぁ

  普通に才能が凄いし、学習能力も高いわ、チートもめちゃ強い

  正直羨ましい

 

「あはは……いや、まぁ前世のあれこれからこうなったと思うと複雑だけどね」

 

 嘆息しつつ、聖剣を鞘に納める。 

 周囲は巨大な穴が開いた魔王の間。

 いかにもというか悪趣味な広い部屋だったが、玉座と天井は勇者が吹っ飛ばしたので見る影もない。

 聖剣の残滓の光と月明かりが淡く照らすだけ。

 

「ふぅ―――」

 

 改めて、長く息を吐く。

 これからどうしようかなと思案しながら、一度目をつむり、

 

 

 

「――――お見事。世界を救ったようだね」

 

 

 

「!!」

 

 いつの間にか、月を背にして城の穴に誰かが立っていた。

 赤いローブの小柄な人物だった。

 月明かりの逆光でフードの中は見えない。だが、微かに肩あたりまでの銀髪と形のいい小さな唇や顎から少女なのがうかがえた。

 人差し指にだけかけられたアームカバーに包まれた指は細く、左手の人差し指と中指には二つ、逆の右手には五指に指輪が。

 ローブの下、深い紺色の胴着のような服はこの三か月、この世界を駆け抜けた勇者にも見たことのない意匠の服だ。

 ゆったりとした動きで少女は手を叩き、

 

「何者?」

 

「……おや」

 

 次の瞬間、勇者は少女の背後に出現し、聖剣を首筋に突きつけていた。

 

「これはあれかな。我を倒しても第二、第三の魔王が……とかそういうあれ?」

 

「私が魔王に見える? ……瞬間移動、素晴らしい。良い特権だ。ノーモーション、無音、転移先指定は視線かな?」

 

「なっ……どうして私のグレートスペシャルテレポーテーションゴッドジャンプの詳細を……?」

 

「……………………」

 

 数秒、無言。

 嘆息し、少女は緩い動きで右手を掲げた。

 

「動かないでください」

 

「言っておくが」

 

 言葉のまま、右手首をくるりと返し、

 

「!?」

 

 次の瞬間、懐から少女が消え、さっきまで勇者のいた場所に立っていた。

 

「なっ……まさか私と同じグレートスペシャルテレポーテーションゴッドジャンプの使い手……?」

 

「違う…………よく噛まずに言えるな」

 

 再び息を吐き、

 

「私は敵じゃあない。まぁ確かに聊か風情がある登場をし過ぎたのは否めないが、私は敵ではないんだ。君の使っている転生掲示板……というか配信、あるだろう」

 

「え? どうしてそれを」

 

「あれを作ったのは私だ」

 

「えっ!?」

 

 肩をすくめた動きと逆光加減の変化から、目元までが見えた。

 人形のように整った顔つきに、暗い、深淵の様な黒紅の瞳。

 

「尤も、いきなり言っても信じられはしないだろうが……」

 

「ごめんなさい! 勘違いでした!」

 

「……」

 

 勢いよく勇者が頭を下げ、少女の言葉が止まった。

 背筋を伸ばした彼女は直角に腰を曲げた後、聖剣を鞘に納める。

 そして、まるっきり警戒を解いた様子で、

 

「いやー、ちょっと流石に魔王倒した後におかわりはよくあるやつと思っていたので! ちょっと警戒しすぎてました! まさかこの世界で掲示板使ってる人と出会えるなんて! リスナーのみんな、見てる? ……って、あれ。コメントが流れてない? オフにした覚えはないんだけど」

 

「私がオフにしたよ」

 

「あ、なるほど! 作った人ですもんね、それくらい簡単ってわけですか! 凄い!」

 

「………………やりにくいな」

 

「?」

 

 手を叩き素直に賞賛する勇者に、呆れたように少女は首を振る。

 ()()()()()()()()()()、何かを思い出したかのように片手で少女は手を覆っていた。

 

「はぁ、まぁいい。それよりも君に用事があって態々次元を超えて来たんだ」

 

「あ! そうなんですか!? この世界の人ではなく」

 

「そうだ。私はこの世界の人間ではない。掲示板で発言している連中の数だけ世界はある。私はその一つから来たんだ」

 

「へぇ……凄い! そんなことできるんですか!?」

 

「できるからここにいるわけさ。―――無論、誰にでもできるわけじゃないがね?」

 

「おぉー」

 

 ぱちぱちと勇者が手を叩き、少女を褒めたたえる。

 それに気を良くしたのかふふんと、彼女は鼻を鳴らし、

 

「さて、本題に入ろう。―――私は、メンバーを集めている」

 

「メンバー? バンドでもやるんですか?」

 

「違う。……いやまぁ、ある意味サーカスみたいなものだが」

 

 苦笑しつつ、彼女は手を掲げた。

 

「―――世界は広い」

 

 少女は言う。

 幼いであろう外見からは想像もできない深みを伴って。

 

「私たちの生きる世界は無限に広がる平行宇宙。多くのものが生き、多くのものが死んでいく。掲示板が通っている世界ならば私はそれぞれの世界法則を理解し、読み解いているが、それでもその全て、というほどには程遠い」

 

 ま、掲示板を通じた世界は把握してるのだけどねと、彼女は笑う。

 そして、

 

「世界には―――()がいる」

 

「敵?」

 

「然り。それと戦うために、私はある領域を超えたものを各世界から集め、平行宇宙を守っている」

 

 ぱちんと、少女が指を鳴らした。

 二人の間に白の火花が散り、それが広がって光の奔流が生まれた。

 少女は勿論、勇者が通っても十分な大きさの門のような空間の渦。

 

「話の続きはこの先で。興味があるなら通るがいい。勿論、強制はしない。興味がなければ、王都なりなんなりに帰って凱旋パレードでもすることだ。まぁ、私はそういうのは――」

 

「貴方の言うそれは」

 

「うん?」

 

()()()()()()()()()()()()?」

 

「―――あぁ。勿論。君の領域まで至る転生者は少なく、それだけ強力な転生特権(チート)を持つものは少ない」

 

「ならば」

 

 澄んだ青い瞳が、暗く赤い瞳を真っすぐに見据え、胸を張り彼女は答える。

 

「行きましょう」

 

「いい返事だ」

 

 さぁと、少女は手を広げ、門へと促した。

 小さく頷き、勇者は足を進め、

 

「あ、その前に一つだけ聞きたいんですけど」

 

「何かな? 言っておくが、これから行く先におすすめのカフェはないよ」

 

「いえ、そうではなく……貴女のお名前は?」

 

「あぁ、そうだね」

 

 くすりと、少女は笑いながらフードを外した。

 現れるのは美しい銀髪と自信に満ちた笑み。

 

 

天才(ゲニウス)。今はそう呼ぶといい。本名を聞くには、()()()()()()が必要なのさ」

 

 

 

 

 

 

 

「うわすごい」

 

 ゲートの先、まさしくそこは世界が違った。

 勇者がいたのは絵にかいたような中世ファンタジー。

 だが、ここは、

 

「すごい、不思議……」

 

 それは勇者から見れば凡そ十数年ぶりに見る―――どころか、生前を含めてもアニメや映画の中でしかない未来的な廊下だった。

 正方形のブロックが縦に繋がっているのか、つなぎ目が光っている。突き当りには取っ手がなく、脇にコンソールのある扉らしきものが見えた。

 

「あぁ、だろうね。SFという概念でいえば把握している限り最先端……でもないか? 脳髄なんて訳の分からないものもいるし」

 

「?」

 

「こっちの話だ。進もう」

 

 歩みを進めれば、カツカツという高音が響く。

 石畳や大理石ではならない音だ。

 

「ここ、なんなんですか?」

 

「船だ。ま、詳しい説明はこの船の主から聞けばいい。言っておくがそいつは性格が悪いから気を付けるといい。君の様な素直な子ならね」

 

 扉の前で足を止めた彼女はローブの懐に手を突っ込み、

 

『認証、ゲニウス様。ロックをオープンします』

 

 取り出したスマートフォンをコンソールに当て、扉を開けた。

 

「……」

 

「なんだい? こんな格好をしてるから電子機器は使えないとでも?」

 

「正直違和感が……」

 

「言うなよ。私も此処にいる時しか使わない」

 

 肩をすくめながら、スマートフォンを懐に仕舞い、

 

「さぁ、()()()だ」

 

「わぁ……!」

 

 ゲートの先、それは絵にかいたようなSFの宇宙船の操縦室だった。

 正面、大きな液晶のようなパネルに漆黒の宇宙と星々が広がっている。その下や外周には同じく電子パネルと空中投影されたディスプレイ。席は幾つかあるがどれも無人。

 そして、中央には円卓型の大型コンソールがあり、

 

「やぁ、来たかい。ゲニウス、新人さん」

 

 そこに白い詰襟とアシンメトリーの銀髪、男にしては華奢な青年がいた。

 中性的で、右目元の泣き黒子が艶めかしい、美青年だ。

 軍帽を弄りながら二人を出迎えた彼は、

 

「誰の性格が悪いって?」

 

「……君しかいないだろう」

 

「おやおや」

 

 くすくすと口元に手を当てて笑う姿すら絵になる。

 それこそ前世でアイドルなり俳優なりになれば、世の女性を虜にしていただろう。

 

「こちらがこの船の『艦長』だ。繰り返すが性格が悪いから気を付けて」

 

「どうも初めまして新入りさん。ちなみにこちらの天才さんも性格が悪いから気を付けて」

 

「おい。私の個人情報掲示板でばらしたこと忘れてないからな。今から報復してやろうか」

 

「先にばらしてくれたのは君だろう。深宇宙に置いてけぼりにしてもすぐに帰ってくるから困るんだ」

 

「……仲がよろしいので?」

 

「まさか」

 

「どうだろうねぇ」

 

 ゲニウスは本当にごめんだというように吐き捨て、艦長は感情の読めない笑みで答えた。

 どうやらそれなりに長い付き合いらしい。

 

「―――ん」

 

 唐突に、ゲニウスが宙を見つめた。

 数秒それで止まり、

 

「急用だ。私の役目は集めること。後は君に任せる」

 

 踵を返し、手を掲げ、

 

「おっ、例の「()」かな」

 

「地獄に落ちろ」

 

 言い捨てて、一瞬勇者に視線を向けて、

 

「それじゃあね、勇者。また近いうちに会うだろう」

 

 手を振り下ろし―――光と共に消えた。

 一瞬の出来事に、思わず目を白黒させた勇者が艦長に目を向ければ、

 

「演出過剰だよね、彼女」

 

「はぁ……お忙しいんでしょうか」

 

「いやぁあれは推し活だよ」

 

「推し活」

 

「そっ、最近あの子お熱を上げてる転生者がいてね。いやぁTSロリババアだってのに、少女漫画見せられてる気分だ。ちなみにそのあたりからかうと滅茶苦茶キレるから気を付けてね」

 

「はぁ」

 

 良く分からないが、忠告には従っておくことにする。

 次に会った時は触れないようにしよう。

 

「さて、それじゃあ」

 

 艦長が入ってきた扉に向けて手を広げる。

 

「ここは僕の部屋でね。他のメンバーは別で集まっているからそちらに行こう。―――ノーチラス、操舵は任せたよ」

 

『畏まりました、艦長』

 

「わっ、凄い」

 

 電子音声に驚きながら部屋を出て、さっきまでの道を戻り、さらに別の通路へ。

 そして、いくつかの通路とゲートを潜り抜けた先は、ラウンジバーのようなところだった。

 内装はかつて前世の時代にもありそうな高級そうなカウンターバーといくつかのテーブル。

 そこに、数人の男女がいた。

 勇者と同じように鎧の者もいれば、和装の人も。特撮か何かのような機械のアーマーもいれば、パーカーにデニムというラフな現代スタイルの者もいる。

 彼らを背にし、艦長が手を広げ、

 

「さぁ、敵の話も大事だがまずは味方の話といこう。ようこそ、多元宇宙の守護者にして、世界を繋ぐもの――――≪ネクサス≫へ」

 

 絆、連結、繋がりを意味する言葉―――ネクサス。

 そして、

 

「まずは新入りの君から挨拶を」

 

「はい!!」

 

「わぁ素直」

 

 背筋を伸ばし、左手は聖剣の柄に添え、右手は程よく膨らんだ右胸に。

 

「何が何だか良く分かりませんが、()()()()()()()()()()()()()()()ついさっき自分の世界は救ってきたので、他の世界を救える力があるのならば、全力で振るいましょう!」

 

 それが、彼女の道の歩き方だから。

 

「座右の銘、モットーは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 かつて――――理不尽に全てを奪われたから。

 そして一度、()()()()()()()()()()()()()

 後悔だらけの前世だけど、奇跡のように掴んだもう一度の生。

 勇者に選ばれた。だから世界を救った。

 今度は≪ネクサス≫とやらに選ばれた。だったら宇宙を守ろう。

 それが今、彼女にできることだから。

 

「ロータス」

 

 それが今の己を示す名前。

 蓮華。

 救済の意味を持つ花。

 

「勇者、ロータス・ストラスフィア! 頑張れる限り頑張ります!」

 

 

 




ロータス・ストラスフィア
救済の意味の花の名と青空の瞳と性を持つ少女勇者。
17年間普通に村娘をしていたがある日聖剣に選ばれたので世界を救った。
純真、素直、純朴純粋。
小学生以下のネーミングセンスだがやたら活舌が良い
旅で出会った様々な職業、役割技術を一目見ただけで模倣する天才。
ソロプレイながら、旅立った時期に実装された配信機能とチート、地力の高さを駆使して爆速で魔王を倒した。

保有する特権は3つ。
与えられたものであり、あらゆるものを、特性や性質を無視して壊す≪破壊特権≫。
それに加え、自ら望んだ二つ。
唐突に降りかかる危険を回避し、誰かの危機にたどり着ける≪瞬間移動≫。
何があっても自分の足で立ち上がる為の≪回復能力≫。

フレンドリーさと素直さ、明るさで配信では人気であるが、どのように死んだのか、どんな前世だったのかは決して口にしない。


天才/ゲニウス
至高の魔術師、根源を識る者、真理の完遂者、摂理の織り手等々、様々な呼び方で知られる次元世界最高の魔術師。
最近推しにお熱らしいが、それに触れると滅茶苦茶キレる。
ネクサス創設者。
遥か昔から次元を渡り歩いて、メンバーを集めているらしい。
が、集めるだけ集めて、後はたまに指示を出すくらいだとか。

ちなみに「彼」の術式の名前は≪全ての鍵≫。
つまりそういうことだ

艦長
深宇宙潜航可能戦艦≪ノーチラス≫の館長。
銀髪泣き黒子の美青年。
掲示板で個人情報を天才にばらされたらしい。

ネクサスメンバー
ゲニウスに見いだされた超人たち。
モブ。


≪敵≫
ネクサス、ひいてはゲニウスの天敵。
それを打倒するためのみ、次元移動の禁が解かれるらしい。


一体なにものなんでしょうか勇者ちゃん。


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