超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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背負う理由

 

 様々な次元を渡り歩く『ノーチラス』の館内は独自のタイムテーブルで昼夜が再現している。

 十九時を過ぎれば一部の消灯がオフになり、二十四時以降は個室や非常灯以外も消え、館内のほとんどが夜間状態に。

 朝六時になるとまた点灯するという流れだ。

 深夜となったラウンジもまた暗く、

 

「――――」

 

 一人ロータスはソファに腰掛けていた。

 天井を見上げる彼女の表情に色はなく、なんとなくぼんやりしているだけのように見えた。

 膝には鞘に収まった剣が置かれ、それに手を添えている。

 どれだけそうしていたのだろうか、ふと視線をラウンジの入口に動かせば、

 

「兄さん」

 

「……やっ」

 

 首を傾けたウィルが控えめに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

「眠れなかったの? ここのベッド、寝心地はすごい良いけど」

 

「いやぁ、あのなんだっけ。ちょっと固いのに柔らかいの……」

 

「低反発?」

 

「そうそう、それ。僕の世界にはないし、前世でも使ってなかったから感動しちゃったよ。それでまぁ寝ようとしたんだけど……気になって、さ」

 

 ウィルは頬をかきつつ苦笑し、ロータスも同じ笑みをこぼした。

 

「ごめんね、兄さん。心配かけて」

 

「いいよ。いっぱいかけて欲しい。兄妹だからね。…………大丈夫?」

 

「……」

 

 ほう、と彼女は息を吐いた。

 眼の前のローテーブルにははちみつ入りのホットミルクが置かれている。

 といっても、艦内で作られた合成乳なので、本来のものとは味が少し違う。

 ラウンジの備え付けのドリンクバーで淹れたものだ。

 大体の食べ物は同じように食品3Dプリンターだかで味を再現したものなので、快適な生活を送れる艦内生活の唯一の欠点だった。

 酒の類だけは本物なのに。

 ただ、それでもミルクの暖かさに偽りはない。

 アース814の旅館で、アルマがくれたように。

 夜に話す、というシチュエーションで、二人が同じものを用意してくれるのがなんだか可笑しかった。

 

「このはちみつミルク、アルマさんがよく淹れてくれたりするの?」

 

「え? あぁ、うん。学園の勉強とか、夜遅くまでみんなで集まったりしてると魔法で出してくれるんだ」

 

「へぇ。そういうとこまではあんまり掲示板でも見たことなかったな」

 

「別に四六時中使ってるわけでもなかったし……というか、今までのあれこれ全部見られてるの、今更だけど恥ずかしいね」

 

「そう? 私は楽しかったなぁ」

 

 マグカップを両の手のひらで包み、ロータスは微笑んだ。

 

「私の、最初の旅は、あんまり楽しくなかったから」

 

 

 

 

 

 

 ロータスは思う。

 ウィルが一年生、御影やトリウィア、フォンと出会い絆を深めていたあの一年。

 彼女の勇者としての旅は、同じ時期に始まって、しかしたったの三ヶ月で終わっていた。

 

「私はそこそこの田舎に生まれて、普通に育って、ある日、空から急に剣が降ってきて、勇者に選ばれた」

 

「…………剣が降ってきた?」

 

「そうそう。朝起きたら私の枕元に刺さってたの。超びっくりした」

 

 兄が反応に困っているが、実際そうだったのだから仕方ない。

 それから村が大騒ぎになって、王都に呼ばれて王様に勇者に任命されて、剣術を三日で覚えて。

 

「魔王を倒す旅に出る時、仲間を紹介されたんだけど、一人で行くことになってさ」

 

「なんでまた」

 

「んー、魔法使いはもうお爺ちゃんすぎて、盗賊のおじさんはアルコール依存症で肝臓壊してたら病院叩き込んで、戦士さんはお姫様と結婚直前だったからそのまま新婚生活を送ってもらって、大司祭さんは実際に手を出すタイプのロリコンだったから監獄に叩き込んだ」

 

「…………………………」

 

 またもや微妙な顔をされた。

 ユーマと初めて会った時も似たような顔をされたの懐かしい。

 ウィルが右隣に座って、左においた剣が微かに揺れる。

 

「なんというか……最後以外は、仕方ない、のかな? でも、じゃあ一人は大変じゃなかった? ユーマくんとは、もっと後に出会ったんだよね」

 

「そうそう。でも、どうかな。あんまり大変じゃあなかった。四天王も、魔王も、私の特権を使えば倒すのは難しくなかったから」

 

 あらゆるものを破棄する極虹。

 視界の範囲内ならばどこにでも行ける瞬間移動。

 どんな怪我でも一瞬で治る超再生。

 その三つによって、あまり苦戦することもなかった。

 

「大変だったのは旅の移動そのものくらいかな。それも瞬間移動でだいぶ楽できたけど」

 

 そう、楽だった。

 敵を倒すのは一瞬で。

 その虹色は一切尽くを破壊したのだから。

 

「それで、魔王を斃して……アルマさんに、≪ネクサス≫にスカウトされたんだけど。……私の勇者物語は、お話にしたらつまらないものだったよ」

 

 敵のところに行って、必殺技を使って、それで終わりだ。

 ≪ネクサス≫に参加した直後は飼いドラゴンである白竜シュリとの出会いもあったが、大半の時間は、それこそウィルの掲示板を見て過ごしていた。

 有り体に言ってやることがなかった。

 

「それで、魔王軍の残党の十二天将ってのが残ってて、今度はそれを倒す旅に出たんだよね」

 

「……また、一人で?」

 

「シュリもいたよ。すぐにユーリと出会って、他にも二人、仲間ができたりした。四人と一匹になったから、瞬間移動で飛び回ることはできなくて、やっと、初めて普通の旅をした」

 

 ノンデリで明るく朗らかな戦闘狂の戦士といつもの表情を変えない不吉なシスター。

 自分とユーマとシュリ、その四人と一匹で、初めてロータスは旅をしたのだ。

 そして、ロータスは多くのことを知った。

 

「私はさ。頼まれたら何でもやらないといけないって思ってた。私が必要とされたのなら、どこかに理不尽があるならそれを壊さないといけないって」

 

 だって、

 

「私は、私自身が一度理不尽となって、兄さんを傷つけたから」

 

「ロータス」

 

「うん、わかってるよ」

 

 悲しそうな、けれど少しだけ怒りをにじませた兄に、ロータスは小さく微笑む。

 その話は、三ヶ月前にもう話したこと。

 一杯泣いて、一杯怒られた。

 

「ただほら、その時は兄さんとは会ってなかったから、自分で思い込んでいたんだ。私は、誰かを助けるのが当然で、誰かの理不尽を許しちゃいけないって。それが、私にできる唯一の贖罪だった」

 

 転生してしまった以上、そんなことをしたって意味なんてないはずだったけれど。

 ロータスは、そうせざるを得なかった。

 

「だからさ。私が魔王を助けたり、誰かを助けるのは自分の為だったんだ。許されたいわけでもないし、許されることでもない。それでも、誰かを助けないといけないって思ってた。私には、それができる強さがあったんだから」

 

「……」

 

 ウィルは悲しげに眉を潜めていた。

 無理もないだろう。

 自分で思い返しても、あんまり良い精神状態ではなかったと思う。

 魔王を倒せと言われたから魔王を斃した。

 助けてと言われたから助けた。

 それではただの舞台装置。

 ロータス・ストラトスフィアという勇者はそういう存在だった。

 

「でもね、兄さん。安心して、もう違うから」

 

 笑って、彼女は立ち上がった。

 長剣を手に取り、胸に抱きしめる。

 

「普通に旅をして、人助けをした。助けた色んな人が、私に『ありがとう』って笑ってくれた。私はさ、それが結構嬉しかったんだ。それだけで凄い満たされてたんだ。ユーマにそのことを教えてもらったんだ」

 

 前世からの強迫観念だけではなく、今を生きる自分はそういう人間だった。

 ありがとう、ただその一言だけで自分は頑張れる。

 嬉しそうに笑ってくれるだけで自分は頑張れる。

 誰かの求めに応えることに生きがいを感じる。

 誰かの声に呼応する者。

 それがロータス・ストラトスフィアだ。

 

「……そっか」

 

 ウィルは笑みと共に頷いた。

 

「うん、そう。だから、大丈夫」

 

 ロータスもまた、頷いた。

 彼が心配してくれるのも当然だ。

 今の、これからの自分はラーヴァナとの戦いで中心に立つ。

 多くの世界の命運が、自分に懸かっている。

 でも、だとしても。

 

「私が頑張って、その結果誰かの笑顔があるのなら。誰かが一言ありがとうって言ってくれたのなら、私はいくらでも頑張れる」

 

 現金な話だなと、自分でも思う。

 無謬無垢に咲く蓮華はもういない。

 見返りを求めながら泥に塗れて咲くのが今のロータスだから。

 だけど、それでいいのだ。

 

「それが私だから。だから私は戦うよ。相手がラーヴァナでも、他の上位種でも。私が頑張ればたくさんの人の笑顔が守れるから。お礼を言われるかはわからないけど……まぁ、ほら。ユーマに言ってもらうことにするし」

 

「僕も言うよ」

 

「うん、それならもう満足」

 

 それだけで、十分なのだ。

 

「安心してよ、兄さん。私は兄さんの妹だけど、世界を救うってことに関しては先輩なんだよ?」

 

「……そうだった。頼りにするよ、ロータス」

 

 首を傾けながらウィルは微笑み、立ち上がる。

 

「僕も戦う、ロータスを手伝うし……僕も、戦わないといけないから」

 

 彼の黒い瞳には強い意志があった。

 その理由をロータスも察している。

 

「アルマさんのために?」

 

「うん。アルマさんは、あんまり≪D・E≫の話をしたがらなかったけど……それでも、あの人と生きていくのなら避けられない問題だと思うから」

 

「そっか、そうだね。私もそうだと思う」

 

 ロータスはウィルに右手を差し出した。

 

「頑張ろう、兄さん。兄さんの未来の……」

 

 そこで彼女は一度言葉を止めて、笑みを濃くし、

 

「兄さんの希望のために」

 

「うん、一緒に」

 

 彼もロータスの手を力強く握り返してくれた。

 嬉しいが、それはそれとして、

 

「おぉ……全く照れずに……さすが兄さん……凄い……」

 

 我が兄ながら大物だ……と、改めて思いつつロータスは

 

「そうかな? アルマさんのことが好きなのはみんな知ってるわけだし、隠すようなことでもないし」

 

「いやぁ、中々ないことだと思うよ」

 

 自分だったらちょっと恥ずかしい。

 そう思い、

 

「ね、ユーマもそう思うのでしょ?」

 

『このタイミングで話しかけられるとちょっと気まずいんだけど?』

 

「うわっ」

 

 ロータスの握る剣から発せられた声に、ウィルが驚いて声を上げる。

 

「……あ、そっか。ユーマ君はなんだっけ、剣の精霊? みたいなのだったか」

 

『そんなところだよお兄さん。隠れているつもりはなかったけど、兄妹水入らずの話に僕が割り込むのもどうかと思ってね』

 

「あぁ、うん。別に大丈夫ですけど……」

 

「兄さんったら、ユーマにまで敬語じゃなくてもいいじゃんか」

 

「なんか癖で……じゃあ、ユーマ君。妹のことをよろしくね」

 

『任せてよお兄さん。お姉ちゃんとはいつも一緒だ。こうして死んでもそうなんだから、どうあっても離れる気はないよ』

 

「………………あんまり深堀りしてなかったけど、どういう経緯でそうなったんだっけ?」

 

「そんな、兄さん、恥ずかしいよ……。ただ、ちょっとユーマが身を挺して私の歪みを指摘してくれて――――結果、私が殺しちゃったんだけど」

 

「うん?」

 

「それでユーマは転生して私の最愛剣になっただけで……」

 

『はしょりすてお姉ちゃんが僕を殺して剣にしたとんでもない大悪人みたいに聞こえるから、そこは僕が誘導したとだけ訂正しておくよ』

 

「なるほど……」

 

 ウィルは剣を抱きしめたままくねくねし始めた妹を見て、

 

「そういうこともあるよね!」

 

 次元間遠距離恋愛の果てにマルチバース最高の魔術師と恋人になった彼は、大体のことを受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 ウィルとロータスが話し合っていた頃、アルマはブリッジにいた。

 正面、大きな液晶のようなパネル、その下や外周には同じく電子パネルと空中投影されたディスプレイ。

 そして、中央には円卓型の大型コンソールがあり、その上にも大きなホロウィンドウがあった。

 

「アルマ、アップデートを完了したぞ」

 

 彼女の隣、コンソールに触れていたマキナが手を離す。

 

「ようし、試してみようか」

 

 アルマがホロウィンドウを操作すると、ウィンドウ内の様々な数字やメーターが目まぐるしく変わっていく。

 特に中央に投影された球体が、同じ形、だが色とナンバリングが違うものが高速でスライドしていった。

 それは五分ほど続き、

 

「おっ」

 

 ホロウィンドウに『NO DATA』という大きな文字が映った。

 

「いいね、素晴らしい。アース1から100だけの簡易探査だったけれど、めちゃくちゃ早いな。普通にやったら倍以上の時間が掛かっていたよ」

 

「うまく行って何よりだ」

 

 アルマがマキナに頼んだのは、『ノーチラス』内の各次元探査センサーのアップデートだった。

 超科学技術に魔法技術も織り込まれたシステムを持つ『ノーチラス』は全マルチバースにおける≪D・E≫の活動を監視しているが、範囲は膨大がすぎるために監視速度にも限界がある。

 本来であればアルマが個人で常時≪D・E≫の反応を見ているため、それでも問題ないのだが、今の彼女は魔法が使えない。

 だから探査機能の強化は急務であり、この手の機械関連といえば何よりだ。

 

「どうだい、ギデオン。君の方からもおかしくないかい?」

 

 艦内制御AIに声をかければ、

 

『問題ありません、≪天才(ゲニウス)≫様。予想外の機能拡張に私も望外の喜びを覚えています。マキナ様も、ありがとうございました』

 

 人工的な女性音声の返事が返ってくる。

 

「構わないさ、レディ。君がよりよくなる手伝いをできたのなら幸いだ」

 

『まぁ。ふふふ、お上手ですね』

 

「ちょっと、君。人の元同僚をナンパするのやめてくれないか」

 

「この程度ナンパには入らないぞ。これでも肉体があった頃はモテモテだったんだぞ、俺は」

 

「知らないが……」

 

「ナンパの前に、主人に断りなく改造するのもやめてほしいんだけどね」

 

 アルマとマキナが視線を向けた先、声の主であるネモがいた。

 ナイトキャップにパジャマ姿の彼は欠伸をしつつ、大型コンソールの元でふらふらと近づいてきた。

 

「というか君、大したものだね。この船、色んなアースの技術突っ込みまくってキメラ化してるせいで、中々新しい技術盛り込むの難しいんだけど。なんでさらっと触れただけでアップデートしてるのかな。≪ネクサス≫入らない?」

 

「悪いが俺はウィルを推してアルマのパパをするので忙しい」

 

「誰がパパだ。まぁ、艦長の気持ちもわかるけどね、マキナと……そうだな、トリィなんかは昔だったら勧誘してもよかったかも」

 

「フォンとか御影はいいのか?」

 

「あくまで≪ネクサス≫としての視点だけどね。今から艦長が君やトリィをスカウトしてもあげないよ。これで御影やフォンを蔑ろにされた暴れちゃうよ」

 

「君たちのお仲間が大したものなのは認めるけどさ。ねぇ、≪天才≫」

 

 何気なくまた欠伸をしながらネモは言葉を投げかけた。

 

「君たちの仲間、死ぬんじゃない?」

 

 当たり前のように、言う。

 

「有能なのは認める。人間性は≪ネクサス≫のメンツよりずっと良い。でも、だからこそ。上位種との戦いをまともにやったら、それこそ君とロータスと、先輩さん、脳髄君……あとはウィル君しか生き残れないんじゃない? 特に、今の君だとさ」

 

「わかってるさ」

 

 アルマは否定をしなかった。

 ネモと同じくらい当然の事実のように認識しているのだ。

 アルマとその仲間たちでは、≪D・E≫上位種、その一体相手だろうと勝負にならない。

 それだけの実力差がある。

 そうでなければ、とっくにアルマや≪ネクサス≫が斃しているのだから。

 

「だけど、ラーヴァナに目を付けられたのはある意味不幸中の幸いと言って良いのかもしれない。あいつが全ての脚本を組むというのなら、昔と違ってこっちにはその脚本を壊せるジョーカーがいる」

 

 ロータス・ストラトスフィアの≪破壊特権≫。

 来たるべき最後の戦いの時、その力があれば倒せる可能性は大きくなる。

 なにより、

 

「あれとも長い付き合いだ。どういう脚本を組むのかは想像できる」

 

 言った瞬間、ブリッジ内に警告音が響き渡った。

 同時に、六つのウィンドウが表示された。

 別々のアースと警告の表示。

 

「ほら、こう来ると思った」

 

 そのうち、四つのアースをアルマはよく知っていたし、

 

「はーん? なるほどな」

 

 マキナもまた、その一つを注視する。

 

「≪天才≫、どうするつもりだい?」

 

「まずはやつの筋書きに乗ってやる。ウィリアムの動向も気になるし」

 

 ラーヴァナの権能からは逃れられない。

 ウィリアムたちもおそらく彼らなりの思惑があって、魔王の部下として動くだろう。

 どうやっても戦うことになる。

 だったら、

 

「力が足りないのなら、レベリングをさせてもらおう。誰も死なせず、誰もが強くなって――――みんなで、魔王を倒すさ」

 

 




ロータス
色々あって、誰かが応援してくれたら頑張れるようになった
そこら辺はいつかスピンオフのほうで

ウィル
そういうこともあるよね!

マキナ
パパというかアルマの右腕化が止まらない

ネモ
これが……寝取られ……?

アルマ
みんなで戦うことを選べるようになった







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