超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
朝六時ちょうどに真砂の目は覚めた。
いついかなる時、例え昨日次元世界最高の魔術師に喧嘩を売り、≪D・E≫の上位種の傘下に入ったとしてもそれは変わらない。
ベッドから出て、寝間着から普段着である黒のセーラー服に着替える。
部屋は洋風の作りだった。
私物は少ない。
真砂の趣味は鍛錬と勉強、料理なので、部屋は学術書くらいしかなかった。
部屋を出た廊下の空気は朝ゆえに澄み、静かだった。
人の気配はない。
真砂は中庭まで行き、二刀を用いた鍛錬を一時間ほど行う。
セーラー服のままなのは戦闘時も基本的にそれを着ているので、実戦に近い感覚を得るためだった。
鍛錬を終え、シャワーを浴び、また別の、しかし同じデザインのセーラー服に着替え直す。
それから厨房に向かい、エプロンをつけ、朝食の準備を始めた。
電気の類はないが、魔法を用いた道具によって加熱や冷蔵は難しくない。
今朝のメニューはご飯、卵焼き、焼き魚、汁物、葉物野菜の和物。
西洋風の世界には適さないし、ご飯は真砂の地元のものとは違い、細長く水分量の少ないものなので、違和感はあるが、米は米だ。
葉物野菜はほうれん草っぽいが、それよりも少し筋が固いし、本来ならば醤油を使ってお浸しにでもしたいが、この世界では醤油は手に入らなかったので、香辛料によるソースで和えたもの。汁物にしても、味噌汁が良かったが、やはり味噌がないので薄めのスープカレーもどきだったりする。
彼女は手早く調理を行い、
「ふう」
ひとしきり終え、そろそろ同居人たちを起こしに行こうかなと思ってエプロンを外した。
そんな彼女に、
「おはよう、良い香りがするな」
「!」
台所に足を踏み入れてきたラーヴァナが声を掛けた。
●
「ふむ、和食……ではないか。この地の食材で再現したという感じか。インドの香りがして我にはよく馴染む」
金髪褐色の美丈夫は出来上がった料理を覗き込み、満足げに笑う。
簡素なチュニックとズボンという、この世界では一般的な服装も彼が纏うと妙に様になっていた。
だが、昨日現れた時の威圧感を、今は漂わせていなかった。
「っ……閣下、おはよう、御座います」
当然のように現れた彼に、真砂の思考は一瞬停止したが、すぐに我を取り戻し、膝をつきかけ、
「良い。そうかしこまるな」
ラーヴァナが軽く手を降って制止する。
「お前たちとはもう話し合い、目的を分かち合った。ならば、我らは戦友だ。普通にしろ普通に」
「……はぁ」
昨日、アース814にてラーヴァナを召喚した後のことだ。
真砂たちは彼と共にこの屋敷に転移し、多くの話をした。
自分たちがどういう存在なのか、どういう目的なのか。
洗いざらい全て、というわけではないが、それでも大体のことは彼に打ち明けた。
その上でラーヴァナの臣下になることを申し出て、彼はそれを受け入れたのだ。
真砂からすると、ラーヴァナは味方、というには遠く、敵というには付き合わざるを得ない存在だ。
だからこそ、最低限の警戒は必要だと思っていたが、ラーヴァナ自身が妙に気楽なので違和感が凄い。
「ふむ。真砂、今、お前はこう思っただろう。おや? この魔王様、登場時の圧倒的オーラと比べるとなんか気安すぎない? とな」
「……………………概ね、間違ってはいません」
「キハハ。だが、我はこういうものよ。我が運命は動き出した。ならば、戦友と地道に戦果を積み上げねばならんからな。始めたての友たちとは気楽に過ごすとも。でなければ肩が凝るしな」
「はぁ……そういうものですか」
「うむ、そうだ。故、お前も肩の力を抜くといい」
「………………」
今まさにカレースープに指を突っ込んで味見をしている男は、次元を食らう化け物の上位種の一体なのだが。
「美味いな。もう少し辛いほうが好みだが、後で取り分ける時、我だけ唐辛子的なものを別で貰えるか?」
「…………えぇ、構いません」
どうにもやりにくいなと、真砂は思った。
●
リビングに移動したラーヴァナは、テーブルにつき、どっしりと座って腕を組んだ。
待ちの姿勢である。
先に食事を出そうと真砂は思ったが、
「よい。同じ釜を飯を食うのが、戦友という言葉を実のあるものとする」
などとそれっぽいことを言っていたので、待ってもらうことにした。
それでもさほど待たずに同居人たちにリビングに来る。
寝ぼけ眼を擦るクロイツ、クーフェイの車椅子を押すルクレツィア。
三人とも普通に椅子に座って待っているラーヴァナに驚きつつ、反応はそれぞれだ。
「えー、じゃあよろしくぅー」
クロイツは一瞬で砕け、
「そ、そんなこと言われても困ります……」
クーフェイは警戒を隠さず、
「―――」
ルクレツィアは、微笑みながら彼から一番遠い席に腰掛けた。
そんな彼女たちにラーヴァナは不敵に微笑み、
「ふっ……」
特に何も言わなかった。
なんなのだろうか。
内心首をひねりつつ、真砂は料理を皿に持っていき、手伝ってくれたルクレツィアと共に配膳していく。
「――」
とんとん、とルクレツィアがテーブルを指で軽く叩いた。
「えぇ。ウィリアムはやっぱり私が呼んでくるわ」
「――」
ルクレツィアがにっこりと微笑んだ。
「……クロイツよ。気になっていたがルクレツィアは」
「そーだねぇ、基本的に話せないんだよぉ。大体、何かを二回叩いた音で私達とはコミュニケーションしてるねぇ」
「それで通じるのか?」
「わ、わからないと私達の戦友というのは、無理ですね……」
「クーフェイ、お主。卑屈そうで言いたいことは言うタイプだな?」
「――」
「あはは、ルーちゃんは鋭いね」
「へ、へへ……照れちゃいますね」
「キハハ! なぁに、すぐに理解してやろう!」
なんか爆速で打ち解けている身内と魔王という光景に、違和感をさらに強めつつ、真砂はウィリアムの私室へと向かった。
●
ウィリアムの部屋は、二階の書斎だった。
元々この屋敷は裕福な商人だかものだったらしく、売りに出されたものを、この世界に来たウィリアムが購入し、自宅として使っている。
住み着いて数週間。
真砂が元々暮らしていた文化とは大きく違うこの世界や屋敷にもようやく慣れてきた。
そんな日々の朝、ウィリアムを呼びに行くのは概ね真砂の仕事だった。
彼がいつも寝坊するから、ではない。
「入るわよ」
ノックをするも返事はなかった。
構わずに部屋に入る。
ドア以外、本棚で埋め尽くされた書斎の中央で、彼はあぐらを掻いて目を閉じていた。
眠っているわけではない。
中空に浮いているのだ。
床には何本もの蝋燭が、彼を中心にして円を描き、周囲には空中投影されたディスプレイと魔法陣が何枚も表示され、数字や図形が動きを見せている。
「ウィリアム」
呼び掛けると、彼はゆっくりと瞼を開けた。
「ん。……真砂、もうそんな時間か」
「えぇ。また、一度も休憩していなかったの?」
「流石に、昨日の今日だとな」
苦笑する彼の目には濃い隈が浮かんでいる。
そんな彼に真砂は大きくため息を吐いた。
「眠らなくて良いのはわかっているけれど、それでも精神的な休息は必要でしょう。無理をしないで」
「わかってるわかってる。一先ず大仕事は終えたからな、今日からはしばらく休むとするさ。ほら、見ろよ」
彼が床に立ちながら手を振り、魔法陣が真砂の顔の前に表示される。
それはいくつかの世界のある反応を示したものだ。
「……ふぅん。手が早いのね、さすが魔王と言ったところかしら」
「あいつもノリノリってわけさ。魔王様はどうしてる?」
「食堂であなたが来るのを待ちながら、クロイツたちとお喋りしつつ、ルクレツィアの意図を読めるように努力してるわ」
「……………………」
なんとも言えない顔でウィリアムが頭を掻いた。
「なんつーか、気ぃ抜けるなぁ。まぁ、でもそういうやつか」
「慣れるしかなさそうよ。あっちの三人はうまくやれそうだしね」
「ならいいかぁ」
笑い、ウィリアムが指を鳴らせば、周囲のロウソクの火が消え、魔法陣も消滅した。
「うし。飯に行くか、この体でも腹は減るんだよな。眠らなくてもいいのは便利だけど」
「あら。だったらもう一緒にベッドに入らなくて良いかしら」
「ぜひお願いしまーす!」
調子の良い彼に微笑み、
「――――ねぇ、ウィリアム、
「今日のことは報告した。今は眠ってる、起きているのはやっぱりしんどいみたいだけど、喜んでたよ」
「そう。……やりとげないとね」
「そのために、俺達はいる」
●
「作戦を説明する」
『ノーチラス』のブリッジに、アルマは仲間たち全員を集めていた。
やることは明白だった。
なぜならば、
「昨夜遅く、いくつかの世界で≪D・E≫上位種の出現反応があった。ラーヴァナの権能によるものだろう」
ざわりと、みんなに驚きと緊張が走る。
なにせ、昨日の今日だ。
アルマとしても、思ったより早かったと思う。
可能であれば、ある程度の鍛錬期間を設けたかったが、こうなるとそうもいかない。
「向こうもやる気というわけだ。その証拠に反応は六つ、やっぱり、ラーヴァナ以外のすべての上位種がそれぞれの世界に出現している」
それらの世界は、
「アース349、785、984、1203。それぞれソウジ、景、マリエル、マキナの世界だね」
名前を呼ばれたマキナ以外の三人は表情を歪める。マキナだけは無表情のままだ。
三人の気持ちは当然だろう、自分たちの世界に世界の敵対種が出現したのだから。
それを理解しつつ、アルマは話を進めた。
「凶報だが、同時に不幸中の幸いでもある。やはり、あの場にいた僕達はラーヴァナの権能の対象となった。やつの戦争は最終的な決戦に繋がるんだから、今回の出現は前哨戦だ。上位種という格を考えれば、その最終決戦まで倒すことは難しい。そして、権能対象であり、勇者と魔王の物語の僕達もまた、最終決戦にまで至ることになる」
つまり、
「おそらく、今回僕達は死なない。魔王の権能がそれを許さない。だったら逆に―――それを利用して、君たちには強くなってもらう」
ラーヴァナの権能を利用した、強制的なレベリング。
勇者と魔王の最終決戦は総力戦と同義だ。
彼がそういうものを好むことをアルマが知っていたからこそ、取れる選択肢。
「悪いが、選択肢はない。対象となっていない世界に帰ったとしても、戦火が広まるだけだろう。だから、ここにいるメンツで、四つのアースに向かってもらう。残り二つは≪ネクサス≫で対応する」
「なんだか押し付けちゃって悪いねぇ」
全く悪びれそうに言うネモだが、強化を考えるとそうしてもらった方が助かるというのがアルマの目論見だった。
彼女は、一度みんなを見回し、小さく俯いた。
「もちろん、死ぬ可能性がないわけじゃない。誰かを犠牲にして脚本を加速させることもあるだろう」
「ハッ! 変なことを言うな、アルマ」
声を上げたのは御影だった。
彼女はいつも通り、凛と胸を張っていた。
「戦いに向かえば、死ぬ可能性があるのは当然だ。それが怖いのなら、ここに集まっていないだろう? なぁ?」
鬼の姫の呼びかけに、みんなも頷いたり、肩をすくめたりする。
当然のように、彼らは自分たちが戦うことを受け入れていた。
アルマにとっては、それが辛く、だけど嬉しい。
自分が、一人じゃないから。
「―――ありがとう、御影」
「ふふん、当然だ」
御影の言葉に、アルマは顔を上げ、
「伝えよう」
腕を振る。
背後の円卓型コンソールにホロウィンドウが四つ展開された。
「アース349、≪大蛇狩り≫素戔嗚にソウジ、御影、クロノ、アルカが」
巨大な竜巻の写真と四人の顔が並び、
「アース785、≪五兵制覇≫蚩尤にマリエル、フォン、ロック、ナギサが」
鎧武者の写真と四人の顔が並び、
「アース984、≪夜の卵≫ヘクセンナハトに景、トリィ、巴、ヴィーテが」
夜の街の写真と四人の顔が並び、
「アース1203、≪トリックスター≫ロキにマキナ、ウィル、ロータス、アレス」
小柄な人影のシルエットと四人の顔が並び、
「各上位種との相性やみんなの能力を鑑みて分配させてもらった。僕は魔法が使えないから、ノーチラスに戻って四つの世界フォローするナビゲーターをさせてもらう」
最後に、枠外にノーチラスとアルマの写真が表示された。
「もう一つ、最後に」
彼女が指を鳴らす。
四セットのウィンドウが移動し、中央にもう一つ大きなウィンドウが展開された。
それは、七色の七芒星だった。
「あれ、これって……」
反応したのはウィルだ。
彼には見覚えがある七芒星。
その下にはある文字が。
「そう、ウィルの≪外典系統≫のエンブレム、勝手に使わせてもらったんだけど」
そこで初めて、アルマは笑みを浮かべた。
「僕達の付き合いも長い。いつまで経ってもオタクの集まりじゃ格好付かないからね。だから、こっちで決めさせてもらった――――
おぉ、とみんなの声が上がり、
「これより―――僕達は≪カレイドスコープ≫。まだ名前とエンブレムしかないけど、みんなが出撃している間に、揃いのものとか作っておく」
意味するのは万華鏡。
≪ネクサス≫のように、世界を守るために結束するのではない。
それがそれぞれの世界で輝いて、お互いを照らす虹の光。
さぁ、と彼女は続けた。
「気楽に行こう、≪カレイドスコープ≫諸君。なぁに、ちょっと世界最悪のラスボスたちを便利に使って、レベリングするだけさ」
真砂
家事完璧な良妻賢母
ラーヴァナ
飯はみんなで食うもの!!!!!
ウィリアム
睡眠不要
アルマ
良い感じにチーム名をつけるけど、
もろウィルモチーフなあたり相変わらずですね
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