超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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貴族の流儀

 

 街道が穏やかな草原をまっすぐに続いている。

 青い空を雲が彩り、太陽が全てを優しく包んでいた。

 丁寧に舗装された石造りの道を進むのは四頭立ての豪華な馬車。

 

「私の世界、このアース785は基本的な平和なものですわ」

 

 その馬車の中で、フォンは正面に座るマリエルの言葉に耳を傾けていた。

 右隣にはナギサが、斜め向かいにはロックが座っている。

 馬車の室内は大柄なロックも余裕を持って収まっている。 

 クッションもフカフカで、良い造りなのか馬車全体の揺れも少ない。

 フォンは馬車に乗る経験は少なかったが、悪くないと思いつつ、

 

「基本的にってことは、例外的には悪いこともあるの?」

 

「ですわね」

 

 マリエルは腕を組みつつ、右手の人差し指を中指を立てる。

 

「この世界、というか大陸は二つの大国で二分されています。西のファルコルム王国、東のルドィーク帝国ですわ。他にもいくつか小国はありますが、どちらかの属国です。私達がいるのはシャルニーユ王国の方」

 

「ふむ……フランスとドイツのようなものであるか?」

 

「そのような認識で構いません」

 

「ふら……なんて?」

 

「アースゼロの国名だにゃー。アース111でいえば、まんま王国と帝国みたいな感じかにゃ」

 

「なるほど?」

 

 そう言われるとわかりやすい気もする。

 

「ま、今回はあまり気にしなくていいでしょう。それどころの話ではないですし。一応の前提知識ですわね」

 

「ならば、重要な知識を聞こうではないか」

 

「えぇ」

 

 ロックの言葉に、マリエルは一つ頷き、言葉を続けた。

 

「この世界には魔法が存在します。ただし、アース111のような魔族、人類の敵対種や魔法を使う危険な野生動物である魔物も存在しません。迷宮や神秘に満ちた聖域も。魔法は人間だけが持ちうる特権なんですわね。フォンさんのような亜人も、いません」

 

「ふぅん」

 

 フォンが別のアースに訪れたのは、これが三度目だ。

 一度目はナギサの世界、二度目は数日前に訪れたバンブーワールド、そしてこのマリエルの世界。

 一度目は助っ人だけで、二回目は休暇。その世界に関して深くは知ろうとは思っていなかった。

 だが、これからこの世界で活動するに当たって最低限の知識は必要だ。

 その上で、

 

「変な感じだねぇ」

 

 亜人、鳥人族だけではなくそれ以外の人種もいないというのは言語化しがたい感覚だった。

 実感が湧かない、というべきだろうか。

 

「確かににゃー。わっかるにゃー。それをいったら≪FAN≫がいなくて平和で、人類半壊していないって世界が私からしたらびっくりにゃ」

 

「いや、それと同じにされると気まずいんだけど……」

 

「こほん。それでなのですが、私が言いたいのは魔法は生活のためか、人間同士の戦いのために使われます」

 

「あれ、最初に平和って言ってなかった?」

 

「えぇ。何十年も戦争は起こっていません。国家間で問題があった場合、基本的には交渉で。それでも決まらない場合―――代表者による決闘によって決議を取るのです」

 

「穏便といえば、穏便であるか?」

 

「死人が出にくい、といえばそうかもしれません」

 

 ただ、とマリエルが口端を歪める。

 

「この世界の魔法使いは原則五級から一級までの格付けがされています。これはよくあるようなランク制度ですが―――—代表者に選ばれる()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()、文字通りの規格外です。一級の魔法使いが百人いても特級に敵わない、そういう次元なんですよね」

 

「………………それはまた、格差が酷い話であるな」

 

「もうちょっとランク付け細かくしてもいいんじゃないかにゃー?」

 

 ロックが苦笑し、ナギサは呆れ、

 

「えーと、つまり特級ってのは戦争の結果を一人で左右しかねないってこと?」

 

 フォンは頭をひねった。

 戦略、という言葉は聞き馴染みがない。

 アース111で戦争といえば二十年前の大戦だがフォンは知らない世代だし、それ以前に起きた人類同士の戦争は文字通り歴史の話だ。

 対多数戦においても魔族や魔物を想定した訓練はしたが、大規模な人間同士の戦いというのはフォンには理解が及ばない。

 

「そういう認識で構いませんわ。この世界における国家間のパワーバランスはそのまま≪特級≫を何人抱えているかという話であり、正直、それ以外の常備軍は治安維持という側面が強いですわね。私の通っている学校でも魔法は教わりますが、大体が生活に役立つものばかりですし」

 

「ある意味平和なわけ……あぁ、だから基本的には?」

 

 マリエルの最初の言葉を思い出す。

 戦争は起こらないし、魔族のような敵もいない。

 魔物の繁殖期により生息域の拡大もないのなら、確かに基本的には平和だろう。

 

「はい。例外、というのはこの現状に納得のいかない反政府組織……テロリストのような輩ですね。国同士の争いとなると≪特級≫の出番ですが、国内の政治戦となると≪特級≫でも手が出しにくい場合があります」

 

「なるほどねぇ」

 

「≪特級≫によってバランスが齎された世界、というわけか」

 

「えぇ。現状、そのバランスは保たれています」

 

 ですが、とマリエルは深く息を吐いた。

 

「このような世界ですので――――対蚩尤において、現地人における援軍や助っ人は期待できないですわ」

 

 

 

 

 

 

『もしも、マリエル、景、ソウジ……マキナはともかく。君たち三人に、信頼できて、死ぬ危険性があるような戦いに巻き込めるような深い相手、ウィルにとっての御影やトリィ、フォンのような人がいるのなら、助っ人を頼んでもいいかもしれない』

 

 それは、それぞれの世界に出撃する前のアルマの言葉だった。

 

『ラーヴァナの性質上、死ぬ危険性は低いとしても間違いなく死闘にはなるだろう。それぞれの世界に大きな影響をもたらすことにもなるはずだ。となると、各世界の現地人だって黙っていられないこともある。関係性が深いのなら、ラーヴァナの脚本の一員として認められるかもしれない』

 

 そして、彼女は続けてこう言った。

 

『こればっかりは各世界の状況によるだろう。可能な限り僕達だけの話で終わらせたいが―――』

 

「そうもいかないでしょうね、自分の世界にとんでもない怪物が現れるのならば。少なくとも、私だったら黙っていられません」

 

 マリエルは笑っている。

 微笑んでいるとか、苦笑とかではない。

 頬を釣り上がらせ、戦意を滾らせて笑っていたのだ。

 

「………………こわぁ」

 

 そんな彼女を見て、フォンは素直に思った。

 御影もその気があったが、戦闘狂の笑みだ。

 味方ならば頼りになるが、それはそれとして空気がピリピリするので勘弁してほしい。

 

「……こほん。失礼。はしゃぐのはまたの機会にしますわ」

 

「そうしてほしいにゃ―。んでも、その特級の人たちの力を借りるってのは難しいってわけかにゃ」

 

「えぇ。国中のあちこちに散らばっていますし、そもそも私とはそれほど交流が深いわけでもないですからね。あと、特級って基本的に広範囲を消し飛ばす魔法の使い手なので、複数人で共闘するっていう思考がないんですよ。ぶっちゃけ仲間にしても背中から撃たれるので危ないです」

 

「ふむ……我が筋肉ならば問題なかろうが、我以外では困るところであるな……」

 

「…………あ、ギャグじゃなくてロックの場合本当なのか」

 

「にゃー。爆撃しても爆炎の中からポーズ決めて現れそうにゃ」

 

「ふっ……時が来れば見せよう……!」

 

 腕を組んだまま、ロックの筋肉が膨張してシルエットが一回り大きくなった。

 

「ちょっとロックさん。新品な上に、ロックさんに合うサイズ限られてるんですから気をつけてくださいまし」

 

「ぬぅ……悪い……」

 

「私達は制服借りられてよかったにゃー」

 

「ね。うちの学園の制服にも似たような着心地だし」

 

 フォンとナギサは、マリエルと同じ、彼女の学園の制服を身に包んでいた。

 白いジャケットとロングスカートに、外出用という黒いコート。

 アクシオス魔法学園の制服よりは少し動きにくさはあるが、一見して高価だというのがわかるものだった。

 この世界に来て、マリエルは学園に休学届けを出し、フォンやナギサ、ロックの分の服を調達し、今こうして馬車に乗って移動していた。

 

「うちの学校は、言ってみればお嬢様学校ですからね。白いのも服を汚さないようにということですし。……話が逸れました。とにかく、助っ人はあまり期待できません。単純に私達と共に戦える人数が少なく、自由が制限されていますから」

 

「ま、あまり頼りすぎるのもどうかという話ではあるしな」

 

「でもさ」

 

 小さくフォンは手を上げた。

 

「確認だけど、マリエルはその等級だと、どうなるの?」

 

「あぁ、そうですね。まずはそれを言うべきでしたわ」

 

 くすり、と赤毛の貴族は上品に微笑む。

 告げた言葉は、

 

「例外的に、という前書きはありますが――――このマリエル・デュ・アルトーネ、特級の名を頂いていますわ」

 

 それから一拍おき、一言付け足した。

 

「あと、今から会おうとしているのが私が唯一力を借りることのできる特級の人です」

 

 

 

 

 

 

 その夜、四人と御者――マリエルの家の執事――の五人で野宿をし、次の日の昼過ぎ、馬車は大きな街へとたどり着いた。

 

「エスオルトという街ですわ。エスオルト領の中心、ファルコルム王国内でも有数の大都市ですわ」

 

 マリエルの説明通り、巨大な城壁に囲まれた活気のある街だった。

 数十万には暮らしているという大都市は、どこかアース111のアクシオスに雰囲気が似ているとフォンは思った。

 住人が人種しかいないので、様々な種族に対応した建物や店の類がないくらいだろうか。

 

「似てるけど、ちょっと違ってるって感じだなぁ」

 

「いかにも中世ファンタジーって感じの街だにゃ」

 

「我が国ともそこそこ似ておるかな。いささか筋肉が足りんが」

 

 思い思いの感想を口にしつつ、馬車は街の中心部へ。

 大きな建物が並ぶ中、一際豪華な屋敷へとたどり着く。

 

「ここですわ」

 

「はえー。ここは私の世界とは全然違うなぁ」

 

 フォンは眼の前に広がった光景に思わず感嘆の声を上げる。

 広く、美しい庭園だ。

 屋敷を中心に、生垣や木々、花畑、噴水が幾何学的に配置されている。

 どの装飾も背が低く、遠い視界の中、城壁と青空も合わさって一つの絵画のようだった。

 

「すごい、綺麗だ」

 

「この世界では、こういう庭園の美しさは一種のステータスでしてよ」

 

「ライブとかやれたら楽しそうだにゃあ」

 

「ランニングをしても気持ちいいであろう」

 

 マリエルに先導されながら庭園の道を進んでいくと、正面には屋敷を背にした一際大きな噴水がある。

 

「ん」

 

 二十メートルほど先、その噴水の縁に、一人の青年が腰掛けていた。

 シンプルなシャツと黒のズボン、その上からは赤の豪奢なマントを羽織っている。

 薄い金の長髪を一括りにし、胸の前に垂らしていた。

 

「あれは―――」

 

 青年が軽く腕を振るう。

 その手には細い杖のようなものを手にしている。

 振られた腕の動きに従い、杖も宙に軽い動きで弧を描き、

 

「!」

 

 光の剣が出現し、フォンたちへと射出された。

 

 

 

 

 

 

 それは長さ三メートル、幅一メートルはある長剣だった。

 ウィルの扱う光の文様が剣の形となっているものではなく、剣の形の光だ。

 

「っ―――」

 

 飛来物に対して、フォン、ロック、ナギサは驚きつつも身構え、

 

「―――失礼」

 

 誰よりも早く、マリエルが前に出た。

 

「……?」

 

 そして、フォンはその動作に疑問を覚えた。

 前に出るマリエルの足運びは緩やかに見える。

 遅いとさえ言っていい。

 体の力みもなく、散歩のような気軽ささえあった。

 だが、その前進はフォンが目を瞠るほどに速くまたたく間に光剣との距離を詰めいく。

 

「なにそれ―――」

 

 遅いのに速いという矛盾を有したマリエルの動きに、自分でも理由がわからず気を取られ、

 

「噴ッ!」

 

 気づいたときには、マリエルは長大な光剣を拳の側面で叩き落としていた。

 衝撃が剣全体に波及し、一瞬で砕け散る。

 そのまま彼女は青年へと距離を詰め踏み込みと共に拳を打ち出し、

 

「――――」

 

 青年の胸の前で、ピタリと静止する。

 通常の長剣サイズの光剣もまた、マリエルの拳と交差するように、彼女の喉元に突きつけられていた。

 

「ふむ? これは……」

 

 ロックがダブルバイセップスのポーズをし、筋肉を膨張させつつ、眉をひそめる。

 そして、

 

「――――流石だね、マリエル」

 

「あなたこそ、惚れ惚れする切れ味でしたわ」

 

 構えを解き、光剣が消え―――――互いを抱き合いながら、キスをした。

 

「ええー!?」

 

「にゃっ!」

 

「ほう」

 

 突然始まったラブシーンに驚き、困惑しつつも、二人は腕を組みながら三人の下へ来て、

 

「紹介しますわ。こちら、エスオルト領の領主、ローラン・ド・エスオルトですわ」

 

「はじめまして、マリエルの友人ならば僕の友人でもある。歓迎しよう」

 

 爽やかに微笑む青年は、つい先程、急に攻撃してきた様子はない。

 痩せていて、どこか幸薄そうな雰囲気の美青年だ。

 銀色の瞳、その右側にある泣き黒子が印象的だった。

 

「そして、私の婚約者でもあります」

 

「婚約者だ。よろしく」

 

「…………婚約者!?」

 

 そういえば、砂浜で訓練した時、婚約者がいるという話をしていたのをフォンは思い出した。

 だが、

 

「良い関係って言ってなかった? 出会い頭に殺し合ってたけど」

 

「良い関係でしょう?」

 

「あぁ、彼女とは良好な関係を作らせてもらっているよ。最初は政略的な婚約だったが、今は彼女に心を奪われているよ」

 

「まぁ、照れますわね」

 

「あー、殺し愛タイプかにゃー。ちょっとわからなくもにゃいけど」

 

「余の妻も全員暗殺しに来た者なので理解できよう」

 

「御影タイプかー、そっかー。全員そうなんだー」

 

 急な疎外感をフォンは感じた。

 ウィルと殺し合って楽しいとは思えない。

 だが、それはそれとして、

 

「………………婚約者といちゃつきに来たってわけじゃないんだよね」

 

「えぇ、もちろん」

 

 マリエルは頷き、左手で彼を指し示した。

 

「彼こそが私の頼れる唯一の≪特級≫、≪断光剣(デュランダーナ)≫のローランですわ」

 

 




ローラン
死にそうな人妻系殺し愛貴族
全裸ではない



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