超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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正しい挨拶

 

「つまり、別の世界から世界を食らう化物がこの世界に出現したので、ローランにも力を借りたいわけですわ」

 

「いいよ」

 

「皆様! 最強の助っ人ゲットですわよ!」

 

「もうちょっと説明をしたり、聞いた方がいいんじゃないの!?」」

 

 

 

 

 

 

 エスオルト邸のローランの書斎にフォンたちは招かれていた。

 書斎ながら、ちょっとした教室のような広さの部屋だ。

 ローテーブルを挟んだソファにローランとマリエル、フォンとナギサと分かれて座っている。

 ロックはフォンとナギサの側で、ソファの隣に空気椅子をしていた。

 中央には香りの良い紅茶がそれぞれの前に並んでいる。

 使用人の姿はなく、そのお茶はローラン自ら淹れてくれたものだった。

 領主というのに意外だとは思ったが、

 

「昔から体が弱くてね。自分でできることは自分でする癖がついているのさ」

 

 なんてことを言っていた。

 それはまぁいいのだが、

 

「なんかこう……もうちょっとあるんじゃないの?」

 

 マリエルの雑な説明をローランは即座に受け入れていたのは大丈夫なのだろうか。

 

「そうだねぇ」

 

 銀髪の青年はティーカップを無造作に片手で掴み、口元に運んでいく。

 アース111だとお茶会での作法にはティーカップの持ち方に関して細かいものがあったが、この世界ではないのだろうか。仕草からは品があるので、こういう細かい文化の違いもあるかもしれない。

 そんなことにまで意識が行っているあたり、自分も人種の文化に慣れたなぁと感慨を覚えつつ、フォンは続きの言葉を待った。

 彼は紅茶の香りをゆっくりと楽しんだ後、

 

「まず、別の世界に関しては、僕も理解しきれていないのだろう。マリエルが生まれる前の記憶を持っているというのは知っているけど、それもやはり、知っているだけだ」

 

「ほう、転生のことを知っているのであるか」

 

「あぁ。驚きはしたが―――むしろ、納得したかな。彼女の武威は、この世界では異端極まるからね」

 

 それは、フォンからしてもそうだ。

 アース111でもあり得ないレベルの格闘術。

 この世界の武術がどう発展しているのかは知らないが、それにしたって十代の少女がたどり着けるものではないだろう。

 フォンもまた、ウィルとアルマが転生したというのを知った時は似たようなことを思っていた。

 

「彼女の前世に関しては、そういうものだと僕はただ受け入れている」

 

「どうです皆様、ウィルさんにも負けず劣らずスパダリでしょう、この人……!」

 

 ローランの隣でマリエルが頬に手を当ててくねくねしていた。

 

「このお嬢様、メロついてるとこんな感じだったんかにゃー」

 

「ふむ……まぁマリエルも年頃の女子ではあるから、そういう面があってもおかしくはない……ナギサはどうであるか?」

 

「アイドルに恋バナするもんじゃないにゃ」

 

 ナギサがフォンを挟んでロックへと可愛いポーズをしているのを無視しつつ、

 

「じゃあ、≪D・E≫の方は?」

 

「正直―――ピンと来ないな」

 

 フォンは彼の言葉を聴く。

 

「別の世界からの侵略者、というのはもちろんそうだけどね。この世界には君たちに言う人類の敵対種というものがそもそも存在しない。人類の敵は人類であって、それ以外となれば天災くらいだ。僕には理解が及ばない」

 

 それはそうだろう。

 フォンだって、正直なところそうなのだ。

 

「だけど、我が愛しき婚約者の言うことからね。信じないという択はない」

 

「おぉう」

 

 真顔で言い切るローランに思わずのけぞってしまう。

 この人すっごい。

 

「信じるという前提があれば、理解はできずとも受け入れることはできるよ。僕らの日々の平穏を奪おうとする相手がいる。そう思えば簡単だ。国難を排除するのは≪特級≫の義務。それだけの話しというわけだね」

 

 彼は柔らかくはにかむ。

 

「納得できるかな、お嬢さん?」

 

「……うん。できるよ。特に、マリエルの言葉だからっていうあたり説得力がある」

 

「おや、それは嬉しいね」

 

「私も、あなたと同じようなものだから」

 

 この場で転生者ではないのはフォンとローランだけだ。

 フォンはウィルやアルマたちとの交流はあるが、しかしマルチバースというものをちゃんと理解はできていない。

 遠い場所から来た友人、という認識だ。

 だけど、それで十分だとも思っている。

 元々考えることが得意というわけでもない。

 去年の冬は無自覚な考え事のせいで今後の人生でこれ以上ないという辱めも受けた。

 ただ、はっきりしていることはある。

 

「よくわからないとしても――――よく知っている人のことなら信じられる」

 

 それで十分だ。

 だから、

 

「マリエルが信じるなら、あなたのことも信じられそうだよ。ローラン」

 

「その言葉に恥じない僕であると約束しよう。フォン」

 

 幸薄く、けれど確かな意思を感じさせる青年の笑みに、フォンもまた頷きを返した。

 

 

 

 

 

 

 その光景を見て、空気椅子を維持したままのロックは感慨深げに頷いた。

 

【暗殺王:ぬぅ……よい光景である。余もまた十二人いる嫁たちに、前世のことを打ち明けるべきだろうか? しかし結婚して約半世紀、いまさらというものであるし、そもそも余は戦神の生まれ変わりと言われているから真に受けてもらえないであるか……?】

 

【鳥ちゃん:ごめん、情報量多いんだけど?】

 

 

 

 

 

 

「しかし、一つ懸念があるね」

 

 ナギサはローランが右の指で、耳にかかった髪を掻き上げながら疑問を口にするのを見ていた。

 何気ない仕草だが、妙な色気があり、アイドルになったら儚い系で売れそうだなぁと思いつつ、彼の言葉を聴く。

 

「強大な敵がいる。それならば、急いでそれに向かって赴いた方がいいとも思うが、君たちからはそういった雰囲気はない。そのあたり、何かあるのかい? 僕ならいつだって出立できるが」

 

「前のめりだにゃー、このイケメン」

 

「基本的には待ちですわ、ローラン。あなたにとってはもどかしいかもしれませんが」

 

「へぇ? ……ふむ、そのシユウという相手がこちらから来てくれるということかな」

 

「ほう、慧眼であるな」

 

「我々が倒す相手、蚩尤はある特性……習性? を持っているようでして」

 

 それは、

 

「自らの訪れた世界の、強者を探し求め、彷徨い、そして戦うことを何よりとしているそうです――――良いでしょう?」

 

「いいね。とてもいいよ」

 

 ニッコリと笑うマリエルに対し、同じようにローランも微笑み返す。

 全然笑うようなことではないと思うのだが。

 絵面だけ見れば仲睦まじい美男美女だけど、ギャップがすごい。

 もしかしてこのイケメンってやばいんじゃないかにゃー、とナギサは思いつつ、

 

「こっちの世界の、どの地域にいるのかは探知ができるんだけど、この蚩尤に関しては詳細な位置まではわからないらしいんにゃよね」

 

 本来のアルマだったらそれも可能だっただろうが、魔法が使えなくなってしまったアルマでは不可能。

 ノーチラスの技術による世界観転移もある程度の座標指定はできるが、アルマほど自由自在ではないので制限も多い。

 そうでもなければわざわざ馬車で移動することもなかった。

 

「蚩尤の性質上、≪特級≫の下に来るであろうから、それに備えるというわけであるな」

 

「他の≪特級≫に行く可能性はないのか?」

 

「なくもにゃいけど、マリエルもローランで≪特級≫二人揃ってるし、蚩尤がバトルジャンキーなら向かってくる可能性高まるんじゃないかにゃーってのと」

 

「それに今回はラーヴァナの運命もあるので、私か、私と関係の深いローランへと向かってくる可能性が高いと思います」

 

 ローランに対しラーヴァナの権能について簡単に説明すると、彼は頷き、

 

「我が婚約者は随分と複雑な状況にいるらしい」

 

「私はまだマシなほうですわよ。フォンさんの方がよっぽどです」

 

「いやぁ、よくわかんない私っぽいのなんなんだろね……」

 

「ソシャゲでよく出てくる闇落ちみたいなのがほんとに出てくるからにゃー」

 

 ナギサも人のことを言えないのだが。

 通常、水着、過去の闇落ち兼素の自分と三種揃っている。 

 素の自分は永久に実装されるものではないのでもう一種類別衣装でほしいところ。

 

「ローラン、そういうわけですのでちょいとお願いがありまして……」

 

「君たちの滞在かな。もちろん構わないとも」

 

「さすが、話が早いですわ。ありがとうございます」

 

「ありがとうにゃー!」

 

「ありがとうございます」

 

「感謝する!」

 

 むぅん、と視界の端でロックが空気椅子のままポーズを決めていた。

 

 

 

 

 

 

「旦那様、お客様がいらしています」

 

 その後、ローランと共に≪D・E≫や≪カレイドスコープ≫に関して情報を共有していく中、部屋に入ってきた侍女がそう言った。

 

「客? 今日は誰も来訪予定がなかったはずだけど……誰かな?」

 

「旦那様とお嬢様のご友人にございます」

 

「私の? はて」

 

「誰だい?」

 

「はい―――では」

 

 侍女は、ローランの問いかけには答えず、部屋を横切り、

 

「失礼いたします」

 

 窓を開け、その横に控えた。

 どういう意図なのか、マリエルたちが首を傾けたところで、

 

「――――とうっ!」

 

 侍女が開けた窓から、影が飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 

「あぁ、なるほど」

 

 マリエルが呆れ気味の嘆息を漏らしたのをフォンが聞いた。

 ゆっくりと、立ち上がるために腰を浮かせたかと思えば、

 

「――」

 

 すでにマリエルはソファから立ち上がり、前に出ていた。

 

「ま、た」

 

 先程も見た動きだ。

 部分的な動作は緩慢なのに、全体の行動自体はフォンの目でも追いきれないほどに高速だった。

 窓からソファまでは元々数メートルしかない。

 侵入者とマリエルの距離は一瞬で詰まり、

 

「蛟龍蓋世式八極道!」

 

「蛟龍蓋世式八極道―――」

 

 互いに同じ流派の名を叫びながら、震脚。

 部屋全体が大きく揺れ、

 

「赤ッ龍ッ崩ッ拳ッッッ!」

 

「―――赤龍崩拳」

 

 中段からの縦拳を射出するという全く同じ動きにより、互いの拳が鏡合わせのようにかち合った。

 再度、激震。

 拳と拳が一瞬拮抗したのをフォンは目撃し、

 

「甘いですわね」

 

「―――!?」

 

 次の瞬間には、マリエルによる乱入者への投げ飛ばしが完了していた。

 乱入者は中空を三回転ほどし、

 

「うぎゃ!」

 

 床にそのまま大の字に叩きつけられた。

 

「全く……まだまだですわね、っと」

 

「うっ!?」

 

 マリエルが髪を書き上げながら、その背に腰を下ろしたのを見て、フォンは小さく手を上げ、

 

「あの、マリエル?」

 

「はい、なんでしょう」

 

「……それ、なに?」

 

「あぁ、そうですわね。ほら、自己紹介をしなさい」

 

 パンパン、と無造作にマリエルが乱入者の尻を叩く。

 

「うぅ……はい……」

 

 乱入者が顔を上げる。

 それは少女だった。

 目立ちはしないが大人しそうな、可愛らしい顔立ちだ。

 マリエルと同じ制服、黒のコート。

 栗髪のショートカットに、白のカチューシャ。

 

「ミシェル・オリヴィエ……マリエルお姉様の妹です……」

 

「同級生ですけどね」

 

「やぁミシェル、君だったのか。相変わらず元気そうだね。なるほど、侍女が窓を開けたのはそういうことか。君は僕を奇襲することに関しては顔パスだからね」

 

「シャッー! お姉様を誑かした男……! 今度こそ顔面に崩拳を決めようと思ったのに……!」

 

「ははは、いつでもどうぞ」

 

「そのためにはまだ功夫が足りませんねぇ」

 

 威嚇するミシェル、その上でため息を吐くマリエル、二人を見て微笑ましげに笑うローラン。

 そんな三人を見て、フォンは思った。

 

「……………………この世界って、出会い頭にバトル始めるのが挨拶なのかな?」

 

「嫌すぎる文化にゃー」

 

「ここは間を取って筋肉を見せ合うべきか……!」

 

 

 




ミシェル・オリヴィエ
言うなれば悪役令嬢転生ものの原作主人公
マリエル流儀インストール済み




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