超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
「正直特級たくさん集めた方がいいんじゃね? とか思ってたけど……」
対≪D・E≫上位種。
二年前、ナギサを含めた掲示板勢でその分体を倒し、一年前、ウィルたちアース111の上澄みが死力を上げて本体を打倒した。
あるいは、他の個体もまた≪ネクサス≫が綿密な作戦を立てて戦い、しかし倒しきれない相手でもある。
そんな化物を相手にするのなら、現地で強い協力者なんていればいるほどいいのではと内心思っていたナギサではあったが、
「こう見ると納得だにゃあ……」
眼の前で行われている絨毯斬撃を見れば、そう判断するしかない。
ただ大量の剣が降ってくるだけではない。
その切っ先から斬撃力が放出されるという二段構え。
ナギサも対≪FAN≫との戦いは戦争といってもいい生存競争ではあるが、ここまで足を踏み入れたくない戦闘は見たことなかった。
「うむ……特級を兵器と言っていたのも納得であるな。共闘できないというのは文字通り、だったというわけだ」
「でしょう? 特級は誰も彼もあぁいう感じですので」
「マリエルがめっちゃ異端ってこと?」
「違います! お姉様は特別! オンリーワンということです!」
「言葉って不思議だにゃあ……」
鼻息の荒いミシェルだが、眼の前の光景でそのノリとなるとむしろ尊敬する。
「それにしても……」
ナギサは、降り注ぐ断光剣とそれに釘付けにされている蚩尤を見た。
鎧姿は恐ろしいことに断光剣の雨とそこから発生する斬撃力に対し、徒手空拳で対応している。
それは膠着状態だが、
「……このままじゃ、まずいかにゃ」
「ですわね」
横のマリエルは笑って、
「では、失礼します」
一歩、踏み出した。
●
蚩尤は、一歩前に出た。
剣光を対処するための踏み込みや足さばきではない。
明確な前進だ。
「―――」
すぐに、さらにもう一歩。
その間も、当然断光剣は降り注ぐ。
それらをこれまでと同じように対処しながら、鎧姿は両の足で進んでいた。
『他愛なし、とは言わず』
拳も、足も止まらず、それは前に進む。
『されど、出来ぬとも言わず』
断光の瀑布を蚩尤は引き裂いていく。
「なるほど、これは―――」
断光剣の射出も斬撃力の放出も、全てが防がれているわけではない。
蚩尤が迎撃しきれない、ごく一部は鎧に命中し、その力を発揮している。
だが、そもそも断光剣は鎧を貫けず、斬撃力は表面を這うだけだ。
「―――もしや、命中しても意味ない?」
『否、吾とて無敵にあらず。具体的に、簡潔に言うのであれば、ちょっと痛い。無防備に受ければ、すごく痛いであろう』
「ちょっとかぁ」
ローランは苦笑し、
「では、無意味ではないということですね」
その横から、赤い影が通り抜けてきた。
「おや」
それを目にし、断光剣の動きも変わる。
赤の色が進む先を予測し、その場所にだけ断光剣が届かないようにする。
といっても、難しいことではなかった。
彼女は、蚩尤へと真っ直ぐに突き進んでいったのだから。
『お主は―――!』
剣の雨の中、彼女は優雅に蚩尤へとたどり着き、その瞬間に攻撃は発生していた。
「どれ」
それに合わせて、断光剣も舞う。
数が降り注ぐのではなく、彼女の動きに合わせ、蚩尤の動きを阻害することを狙った射出と斬撃放出。
『ぬぅ!』
明確に、蚩尤の挙動が遅れ、
≪蛟龍蓋世式八極道―――≫
赤い少女の拳が、鎧の胸へと着弾した。
≪――――赤龍崩拳・
衝撃が、炸裂する。
疾走の加速と蚩尤到達時に行われた震脚から生じたエネルギーは一切の淀みなく伝達された。
その上で、着弾の瞬間に捻られた拳によって貫通力を生み、鎧の一点を突き抜ける。
空間に威力が弾け、重低音を響かせ、
『……!』
蚩尤はそれまで進んだ数メートル、後退。
前進を始めた最初の位置に戻され、
『―――カ』
双眸が揺らめいた。
『カカカ! ご領主殿! そちらから来たのだ! 文句は言うまい!』
「そうなるねぇ。マリエル? 俺は楽しんでいたんだけど」
「そうも言わないでください。それにほら、この世界で、私とあなたが共闘できる相手なんて、そうはいないですわよ? それも、これほどの武術家など」
「…………確かに。うん、それはいいね」
「でしょう?」
『番なれば、手を取り合うと良い。吾は構わぬ、むしろ望むところよ』
「あら、まだ結婚はしていませんわ。ちょっと前に婚約が確定したところですわ」
『なんと』
蚩尤が戦闘態勢を解いた。
自身の左拳で右拳を包み胸の前に掲げる拱手をし、
『ご婚約おめでとうございます』
「あらまぁあらまぁ。ありがとうございます」
「やあやあやあありがとう」
マリエルも同じように拱手を返し、ローランも軽く手を掲げ、
『では、良き死合いを』
「楽しみましょう」
二人と一人は、嬉々として殺し合いを開始した。
●
空を覆っていた断光剣の幕は数を大きく減らした。
十数本程度がまばらに残り、その中央でマリエルと蚩尤が向かい合う。
彼我の距離、二十メートル。
互いに拳を構え、
「――」
『――』
二人は動かなかった。
ローランも見守り、断光剣は停止。
遠く、見守っているフォンたちも固唾を飲んでいた。
五秒経ち、十秒経ち、さらに三十秒、一分を越える。
あらゆるものが動きを止め続けていた。
風も吹かず。
音も鳴らず。
永遠にも思えるような静寂が下り、
「――すぅ」
マリエルが小さく息を吸い、
『むぅん――』
蚩尤が僅かに顎を下げ、
「―――――!!」
刹那、拳打が炸裂する。
マリエルと蚩尤は一瞬で互いの距離を詰め、拳をぶつけ合っていた。
『ぬぅん!』
身長差から打ち下ろし気味の一撃を放った蚩尤は、そのまま拳を押し込む。
マリエルはそれに逆らわなかった。
「っと」
ぶつけ合った縦拳、その手首が返り蚩尤の拳を受け流す。
彼女自身の体もそれに追従し、全身を低く沈み込ませ、踏み込む。
震脚により大地が揺れた。
生じたエネルギーを受け射出された肘頂は蚩尤の胸へ。
『――』
鎧姿は冷静に対処した。
一歩下がり、自身の右肘をマリエルの肘へとぶつけ、撃ち落とす。
軽い動きだったが、威力が乗り切った完璧にタイミングにマリエルは態勢を崩し、
「あらっ」
『好機』
「そうでもない」
『!』
そこに断光剣が飛来した。
短剣状の小型サイズ。
蚩尤の左肩へ命中し、
「≪
『!』
炸裂したのはそれまでの斬撃力ではなかった。
刃から離れた衝撃力。
切断力はそもそもなく、小型ゆえに強烈な威力もなかった。
だが、僅かに蚩尤の体を揺らし、動きを遅らせていた。
「お見事」
だから、マリエルは動く。
態勢のリカバリではなく、乱れたまま体を半回転。
肩から蚩尤の胸部に押し付け、
「ふっっ――――!」
身体制御により、地面との接触を維持した震脚により生んだエネルギーを蚩尤へと叩き込んだ。
『……!』
蚩尤の両足が地面を削りながら滑り、
『カッ!』
「ハッ!」
マリエルが追撃に放った拳を迎撃し、
「ぬぅん!」
直後に飛来した断光剣を体捌きで回避する。
『―――カッ! 見事な連携! 関係は良好と見える!』
「当然ですわ。貴方方を倒し、学校を卒業し、幸せな結婚生活を送りますのよ」
「愛と血と剣と拳に彩られた日々だ。最高だろう?」
『是非もなし。吾を屠り、蜜月を迎えるとよかろうッ!』
●
マリエル、ローランと蚩尤の戦いは極めて緻密かつ高速で続行された。
マリエルと蚩尤はほとんど互いに距離を離さない。
時たま互いの攻撃に押しのけられた時に数歩分の距離が開くが、即座にそれは詰められ、次の攻防に連結させた。
「フッ――!」
互いに鋭い呼気を放ち、拳を、肘を、肩を、膝を、足をぶつけ合う。
マリエルの身体操作は無制動で最大限のエネルギーを発生させた。
それによって時に強烈な一撃を放ち、時には蚩尤の攻撃を掌底と体捌きで受け流す。
『ぬぅ――!』
対し、蚩尤の動きはシンプルだ。
ただ、眼の前の相手を叩き潰すためだけの武威。
静動と剛柔入り混じったマリエルに対し、動と剛を以て破壊を叩きつけていく。
「いいねぇとてもいい」
そして、それらの攻防に、ローランの断光剣が差し込まれていく。
マリエルが劣勢になりそうな時、強烈な一撃を決めた時、彼女をフォローするように衝撃破を放つ断光剣が放たれる。
高密度、刹那の隙が命取りになるような戦闘に対する躊躇は一切ない。
ローランが数センチ、数ミリ断光剣の操作を誤れば、マリエルにも当たりかねないものだ。
それでも、ローランは断光剣を操作するし、マリエルもまたその援護を当然のものとしている。
「楽しいね、マリエル!」
「えぇ、全く!」
一歩間違えれば相手を殺すような状況でも二人は笑っていた。
この世界ではまず起こり得ない、特級二人のコンビネーションによる対徒手空拳が二人に歓喜を与えている。
お互いが互いを完璧にサポートし合う信頼というよりも、彼、彼女ならば上手くやってくれるだろうという無茶振り染みた、しかし結果的に完璧な連携だった。
『カカカカ! 良い! 良いぞ! より高みを吾は所望す!』
蚩尤もまた哄笑を上げ、拳を振るう。
自分たちに向かってくる二人が愛おしいと言わんばかりに、正面から迎え撃っていた。
マリエルとローランの連携は蚩尤の目から見ても称賛する他なく、だからこそ蚩尤は猛る。
一種均衡さえ取れた戦場に、乱入できる者は、
「――――よぅし、そろそろ目ぇ慣れた」
いた。
●
とんっ、と肩に何かが触れたのを感じたのは蚩尤だった。
『!!』
マリエルの拳でもローランの剣でもない。
その二つに熱中していたとはいえ、蚩尤さえ触れられてから気づいたものだった。
そして、風を感じた。
「よっと」
それは、金の瞳と全身の入れ墨、露出度の高い黒の旗袍姿の少女。
フォンだ。
粒子状の翼を展開した彼女は、背後から蚩尤の肩に触れ、飛び越していた。
『ぬぅ、無粋―――むっ!』
邪魔が入ったことに苛立ち、追撃の拳を放とうとして、蚩尤は自らの体に違和感を覚える。
重い。
否、遅い。
全身に黒い風が巻き付き、行動の低速化を招いている。
それにより、蚩尤の動きが遅れ、
「マリエル、ローラン、こっちで勝手に避けるから変わらずやってね」
「流石―――!」
「それならそういうことで」
「わー、躊躇ないなー」
彼女が苦笑した瞬間、マリエルは前に出て、ローランの断光剣も飛来する。
かと思った瞬間には、フォンの姿は掻き消えていた。
「押し込みます!」
マリエルの拳が、蚩尤の胸に突き刺さる。
停滞の黒風により、初めて蚩尤の対応が遅れ、
「はやく、するどく、しろく」
拳が威力を発揮する瞬間、白の風がマリエルの拳を包み、
『がッ―――!』
衝撃が加速し、蚩尤の胸を突き抜け、
「はげしく、つよく、ちかく」
追撃の断光剣の衝撃破もまた、白風による加速を受け、蚩尤の体を打つ。
さらに、
「おもく、くろく、おそく」
追加された減衰の黒風が蚩尤の反撃を遅らせる。
≪蛟龍蓋世式八極道―――≫
故に、拳士の連撃は十全に発揮された。
≪―――――水滴穿石四首連破!!≫
拳、掌底、貫手、肘頂の四種の打撃がほぼ同時に、蚩尤の胸部一点目掛けて叩き込まれ、
「≪
直後、マリエルの背後から飛来した断光剣三本がマリエルの攻撃の着弾地点に寸分違わず命中。
触れた瞬間には斬撃力をただ一点にのみ発揮し、
「≪凰仙勁・繋風捕風≫!」
その全てを減衰の黒風が受け止め、
『――――!!』
完全に同時に、全ての威力が統合された状態で蚩尤を打撃した。
●
「…………よくまぁ、突っ込んでこれましたわね」
必殺の一撃の重ね打ちに、ついに膝をついた蚩尤から目を離さずマリエルは言葉を漏らした。
自分で言うのもなんだが、自分とローランのような連携に首を突っ込むのは嫌だ。
だが、フォンは来た。
おそらく、単純な速度と動体視力だけで。
自分たちの動きを見てから避けて、サポートしてくれたのだ。
昨日から何やらフォンが自分の動きを見て首をひねっているのは気づいていたが、速度においてはやはり彼女の方がどうかしている。
「まー、なんとか目が追いついたからね。マリエルの動きもだいたい見えてきたし。にしても……」
「えぇ、これで終わってくれたら楽なんですけどね」
蚩尤の動きは止まっていた。
外見に変化はない。
だが、
『―――みご、と』
声が漏れ、ぴしりと音がなった。
蚩尤の胸からだ。
それは小さな罅。
生じた時は小さかったが、その亀裂はすぐに広がっていた。
狙い通りですわ、とマリエルは思う。
攻防の中、彼女はずっと胸部の一点を狙っていた。
ローランの断光剣でもまともに壊せない鎧だ。
一点に攻撃し続けなければならないと思ったからそうした。
その結果、
『なを、問いたい。強き、しょうじょ、よ』
「マリエル・ドゥ・アルトーネですわ」
『まり、える。まりえる。まりぃえる……マリ、エル。う、む』
亀裂は全身を回って、砕け落ち
『認めよう―――我が好敵手、マリエルよ』
闘気が質力を持ち、周囲に解き放たれた。
「…………!」
『汝、我が魂を満たすに値する。吾が套路、その果てとなるに相応しい強者よ』
砕け落ちた鎧、その下から現れたのはまた鎧だった。
だが、それまでのような汚れた汚いものではない。
真紅に煌めく明光鎧。
各所の装飾は細かく、揺らめく陽炎をまとっていた。
面の装飾はより鋭く、牛と鬼の意匠。
『嗚呼』
吐く言葉に、纏う空気にさえ、重圧がある。
ただ立つだけで周囲に覇気をばら撒く鋼の人形。
蚩尤―――アース・ゼロにおいて軍神として祀られる災厄。
『希う。マリエルよ。吾に、至高の死を与え給う』
●
「フォン、マリエル、ロック、ナギサ。出発する前に伝えておこう。君たちが戦う蚩尤――――やつは、不死だ。五百年前、僕が打倒し、あらゆる不死殺しを用い、しかし殺し切ることができなかった不死と武威の化身だよ」