超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
「ぬぅん!! 漲るぞ筋肉! 弾けるぞ雷霆!」
空に向け、ロックが右手を掲げた。
咆哮と共に開いた五指に空から稲妻が降り注ぎ、
「オオオオオオオォォォッッ!」
突き出し、雷光が柱となって放出された。
それはただの物理現象ではない。
次元を越え届けられたアース299の神雷。
神々が実在するその世界における全能神にて天罰神。
邪悪なるものを滅ぼす神の雷霆。
『カッ―――!』
その稲妻を蚩尤は同じく片手で迎え撃った。
掌を叩きつけ、
『ぬぅ……!』
蚩尤が十数メートル押し込まれていく。
だが、鬼面の眼光は輝き、
『痒し!』
稲妻を握り潰した。
神雷が掌を焦がすが、それだけ。
周囲に青白の光が散り、
「フーーシャオッ!」
その間を縫うようにナギサが飛び出してきた。
姿勢は低く、獣のように。
五指は緩く曲げられ、指先には短いブレードが爪のように備わっている。
駆け抜け様に蚩尤の脇腹をひっかき、即座に反転。
足裏と太ももの裏に備え付けられた加速器から光が噴射し、速度が足された。
中空を何度も蹴りつけ、蚩尤の周囲を駆け巡り、爪撃を放つ。
数は数十であり、一瞬で重ねられた。
「フゥッ――!」
紅鎧を中心とし、全方位から押し込むような攻撃だっただった。
『こそばゆい……!』
全身から闘気を放出し、蚩尤はナギサの爪撃を弾き飛ばす。
それでも一瞬、動きが止まった。
そこを、赤毛の拳士が往く。
滑るように蚩尤の懐に入り、彼の胸に構えたのは双の掌。
「蛟龍蓋世式八極道」
静止状態から全身連動による衝撃を打ち込むまで、コンマ一秒もかからなかった。
「≪晴雲秋月・臥龍双掌≫ッッ!」
強烈な破砕が蚩尤に叩き込まれる。
その余波だけで大地に放射線状の亀裂が生じ、周囲の雷撃や爪撃の残滓も残らず吹き飛ぶほどだった。
『ゴ、ア……!』
蚩尤から苦悶の声が漏れ、
「ごふっ……!」
マリエルの口からも大量の血が溢れ出した。
彼女の腹部に、蚩尤の右拳が突き刺さっている。
双掌底の瞬間、蚩尤が反撃を通していたのだ。
「く、ぅっ……!」
一歩下がったマリエルの腹から、蚩尤の拳が外れるが、血が溢れ出していく。
腹に開いた風穴で苦悶に表情を歪める彼女に対し、蚩尤は既に態勢を立て直している。
この領域の武術において、態勢のアジャストは再攻撃の完了と同義だ。
『邪ッ!』
左手の手刀が振り下ろされる。
マリエルを頭上から両断せんと迫り、
「―――しろく」
『むっ!』
白い風を纏った蹴撃がその手刀を弾いた。
「はやく―――するどく!」
続く黒白の風が蚩尤を押し込む。
数メートル蚩尤の位置がズレ、
「ふぬあああああ!!」
「シャッ!」
左右から、稲妻を宿した拳と黒光を纏った貫手が叩き込まれる。
ロックとナギサだ。
『笑止!』
両手でそれを受け止め、握力任せ握り潰す。
ロックとナギサから苦悶の声が上がるよりも早く、追撃を放とうとし、
『!?』
それよりも速く、正面から断光剣が突き刺さり、斬撃力が発揮された。
「やぁ、まだ遊べるよ」
『何と―――?』
斬撃に押し込まれる中、蚩尤が見たのは自分たちから離れたところに立つローランだった。
蚩尤が致命傷を与えた青年は、口元や服は血で汚れているが健在だ。
なぜ、と蚩尤は思う。
先程、彼は戦闘不能にさせた。
治癒魔法の類が使えても不思議ではないが、簡単に治せるような傷でもなかったはずだ。
『面白し……!』
原理は不明だが、まずはそういうものだということにしておく。
ならば、また潰せばいいだけ。
そう思い、
『何―――』
「驚きましたか?」
自らの前に一歩踏み込んできたマリエルを、より正確に言えば先程風穴を開けたはずの腹を見て、蚩尤は驚愕した。
完全に治り、服の穴から美しく白い肌が覗いている。
マリエルに与えたのも負傷としては大きなものだった。
常人なら致命傷だし、もちろんそれで彼女が戦闘不能になるとは思っていなかったが、それにしても完全回復には驚かざるを得ない。
そもそも、蚩尤からしても動きが速すぎて思考が遅れたがフォンも戦線復帰しているのは妙だ。
ローランやマリエル以上のダメージを与えたはずなのに。
「たくさん戦うのがお望みでなんでしょう!」
「なんでマリエルも乗り気なのさ!」
マリエルとフォンの追撃に対し、蚩尤は反撃ではなく丁寧に捌き受け流しながら後退。
「マッッッッッスルっ!」
「おもしろ掛け声は――――ないっ!」
だが、すぐにロックとナギサも連携に加わる。
二人とも先程手を砕いたはずなのに、そちらも治っている。
もはや、単なる回復や治癒ではなく全員に対する即時修復だ。
蚩尤という≪D・E≫上位種の一柱の攻撃は、単なる打撃であっても概念的な重みを持つ。
特殊な能力はないが、蚩尤自身が一つの世界に等しいのだ。
ちょっとやそっとの治癒能力では、ここまでの速度で治し切ることは不可能。
そして、今ここで戦っている中で可能なものは見えない。
ならば、誰か。
五人の猛攻を受けつつ、周囲に視線を巡らせ、
「あ、ども」
茶髪の、地味な少女を見つけた。
●
マリエル・ドゥ・アルトーネは何故ミシェル・オリヴィエをこの場に残していたのか。
その場のノリというわけでも、興味がなかったわけでも、巻き込んで死んでも別にいいと思っていたわけではない。
マルチバースには関係がなく、特級でもない彼女を。
必要だから、マリエルはミシェルを留まらせたのだ。
彼女の使う魔法は単純だ。
他人の傷を癒やすこと。
単純だが、しかし特別だった。
ミシェルの治癒は個人・複数を対象に常時最善状態を維持し続けられる。
それは即死しない限り、肉体の欠損や致命傷だろうと問わずに回復するほどのものだった。
だからこそ、片田舎の少女は王都に招かれた。
或いは特級という兵器以上に利用価値のある、このアース785における最優の治癒能力者。
そんな力を持つ少女が王族の血を引いていたために、権謀術数に巻き込まれ、命を狙われた。
そしてマリエルに救われた。
田舎に生まれ、自分の血筋のことも知らず、広すぎる世の中に圧倒されていた少女は、背筋を伸ばし、胸を張り、拳を握る少女に憧れた。
彼女のように、胸を張りたいと思ったのだ。
結果武術を習い、今のところまだ目は出ていないとしても。
『譜宴清寓四令嬢凶』、『大清楚八嬢覇』、『王帝双嬢洛陽舞踏』。
人を癒やすことができるということは、しかし自分自身には何の恩恵もない。
だから様々な決闘では、いつも無力に打ちひしがれていた。
無力感や悔しさから涙を流したことがある。
そんな時、膝をつき、立ち止まった自分に彼女がかける言葉はいつも一緒だった。
『それで、どうしますの?』
甘さはない。
厳しく、突き放すようなもの。
だけど、
『次は、頑張ります!』
ミシェルがそう胸を張れば、
『そう、楽しみにしていますわ』
マリエルはいつだって笑って前を歩いてくれた。
だから、
「お姉様! どうですか!?」
「えぇ! 最高です!」
彼女がそう笑ってくれるのなら、ミシェルはそれでいい。
そのためなら、意味がわからないやたら強そうな鎧を前にしても、まぁ、命をかけられるのだ。
●
『面白からず……!』
ミシェルが全員に即時無限復活を施していると気付き、蚩尤は激昂した。
回復はいい。
復活もよしとする。
だが、それが即時であり、完全修復であるという点が蚩尤には気に入らなかった。
『命とは、限りあるから美しく! 武とは限りある命ゆえに輝くのであろう!』
「事実上の不死が言うことじゃないだろ!」
『厚顔痛み入る!』
「開き直んな!」
鳥の少女の鋭い言葉には返す言葉もない。
我ながら厚かましい性質だとは思うが、そういうものだから仕方ない。
正直、怪我した瞬間から治っていくというのが気に入らない。
『治癒に任せた自滅自傷前提の動きを吾は好まぬ! それを吾は武と認めん! 武とは敵を打ち砕く以上に、己が身を守るためのものである!』
「ちょっと! 後半は同意ですが、私がそんなことをすると思いますか!?」
「親戚の不死鳥みたいなムーブは嫌かなぁ!」
正面から拳を交わすマリエルと蚩尤の目でも捉えきれないほどの速度で翔ぶフォンの答えには満足。
だが、
「永遠に戦えるのはちょっと楽しそうじゃないかな?」
「筋肉は痛めつけた分だけ回復するのが道理である!」
「常時体力満タン、とか……ぶっ壊れサポ、最高……!」
残りの三人は笑顔でそう言い放ってきたのでよろしくない。
だからこそ、
『無粋なれば択は一つ……!』
五人の攻撃を受けるのも構わずに、蚩尤は跳んだ。
往く先は、
「あ、私ですかー?」
離れていたところにいたミシェルだった。
蚩尤が好む戦士ではない。
蚩尤が好まない支援者だ。
故に、潰す。
「そう来ると思ったよ」
故に、彼らもまた動いた。
「≪
蚩尤がミシェルに到達する寸前、空から巨大な断光剣が降り注いだ。
数は十。
強度はこれまでで最高だった。
それが五づつ並び、壁となって蚩尤を遮る。
『不足!』
一殴りで五枚、一蹴りでもう五枚。
砕けた先にいたのは、
「稲妻! 躍動! 筋肉! 波ァァァァァァァッッッ!!」
「AAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaa―――――――――――!!」
ミシェルはいない。
遥か後方、白い風を纏って座り込んでいた。
代わりにいたのは二人組。
突き出した両手から極大の雷撃を放つロック。
物理的な破壊力を宿した声を放出するナギサ。
『ぬうぅ……!』
こちらもまた、これまでで最大の威力。
雷撃と超音波が蚩尤の全身を等しく打撃する。
蚩尤が両腕を交差し、迎撃ではなく防御を選ばざる得ないもの。
この二人はずっとこうだ。
一貫して、蚩尤の動きを妨害する動きを取っている。
そうなれば次に来るのは明白だった。
真紅と黒白。
●
「迷いが消えましたか? フォンさん」
「いや、全然」
「あら?」
「でも、迷っていることに迷わないことにした。考え続けるよ、私の求めるものを」
「いいですわねぇ」
フォンは毅然と。
マリエルは笑って。
往く。
ミシェルによって行動を予測し、ローランが時間を稼ぎ、ロックとナギサが動きを止めた。
それでも生まれた蚩尤の隙は刹那に等しい。
最大火力を打ち込むのでは、先程のマリエルのように相打ちになる。
だから、二人は加速の白風に身を包む。
高速化された世界の中から十全に、威力を発揮するために。
「地に在りて広がり満ち溢れ――――」
マリエルの口から溢れた言葉自体には意味はない。
魔法の詠唱ではないし、神や精霊に対する祈りでもない。
自己暗示だ。
肉体の最高効率を発揮するために自らの武術における信条を唱えるのだ。
そして、次の言葉はマリエルではなく、
「――――天に在れば羽ばたき流れ溢れよ」
フォンが重ねた。
言葉だけではない。
マリエルの動きも可能な限りトレースしようとする。
失敗した。
全く持って力量が足りない。
無制動での衝撃伝達技術は再現不可能。
だが、フォンにはフォンのやり方がある。
マリエルの動きの模倣によって生まれたエネルギーはほんの僅か。
それを、黒と白の風を用い利用する。
これまでと違うのは―――その風を、体内で発生させたということだ。
単なる肉体駆動ではなく、筋繊維や骨、細胞の一変に至るまで加速と減速を宿し、それらを循環させることでエネルギーが増幅されていく。
思いつきだった。
だが、フォンにしかできないものだった。
「ハッ―――」
何かが、彼女の中で噛み合う。
一歩前に進むことができた。
そのまま行く。
「鳳仙絶招!」
「蛟龍蓋世式八極道・絶招!」
全ての衝撃が、二人の拳に収束し、
「≪
「≪天上天下≫ッッッ……!」
放たれた。
繰り返され続けた加速と減衰による神速の拳撃。
拳撃という理を突き詰めた結果、無拍子で放たれる究極の一。
今この瞬間、フォン・フィーユイとマリエル・ドゥ・アルトーネにできる最大の一撃。
蚩尤は今度こそ防御が間に合わず、
『見事……!』
違うこと無く、鎧姿の軍神へと到達した。
●
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
息を整えることができず、フォンは膝から崩れ落ちた。
「大丈夫ですの?」
「なんか……変……体中、痛かったり、痛くなかったりして、気持ち悪い……」
「ミシェルの治癒と体の負荷が拮抗してるんじゃないでしょうか? 常時死にかけていたのなら常時治癒かかるでしょうし」
「えぇ……こわ……思いつきでやったけど、そんな負担大きかった……? というかミシェルもほんとすごいな……」
全身、特に関節部に感じたことのない違和感が渦巻いている。
正名状態を解除したいが、
「……どうなった?」
「完全に通りましたが……どうでしょうねぇ」
深刻に問うフォンとは対象的に、マリエルはどこか楽しげだった。
武術家というのはよくわからない。
彼女が向けた視線の先、両膝をつく蚩尤がいる。
面の瞳に光はない。
「あれだめ、だったら……これ以上、どうする?」
「困ったところであるの」
「まだまだ楽しめるからいいじゃないか」
笑っているローランにマリエル以外が半目を向けた。
『―――』
「!」
ゆらりと、蚩尤が立ち上がる。
戦意は感じないが、それでもマリエルたちは身構え、
『繰り返そう。見事―――御見事』
蚩尤の鎧に音を立てて亀裂が入った。
『吾の鎧を、ここまで砕いたのは久方ぶりである。マリエル―――そして鳥の少女よ。名を聞こう』
「フォン。≪比翼≫のフォン。フォン・フィーユイ」
『得たり。吾にとってその風は好まぬものではあるが……吾の鎧を砕いたのは認めざるを得まい。彼の魔王の舞台なれば、余興も受け入れようぞ』
「よかったですわねフォンさん。ライバル認定されましたわよ」
「ノリで同時攻撃しなきゃよかったと思い始めた」
『否、良い一撃であった。研鑽に励むといい。だが―――』
蚩尤が空を見上げ、
『此度は、ここまでだ』
『―――――そ、そういうことです……』
飛来する影があった。
「!!」
白亜と金の色を持つ科装の大鳥。
それを目にし、フォンは叫んだ。
「クーフェイか!」
『ど、どうも……ひどい格好ですね……笑えます……』
「こ、こいつ……!」
蚩尤の隣でクーフェイは滞空し、地面に足は付けない。
「か、帰りましょう、蚩尤さん……。きゃ、脚本とは、不思議ですね……。も、もう一人、この街に特級ぽいのが向かってるようですよ……」
『面白からず。ご領主殿のようなものが二人以上いては戦いにくいことこの上ない』
「もう一人? 俺とマリエル以外に誰が?」
『し、知りませんが……。な、なんか胸がでっかくて、金髪縦ロールで、気の強そうなお貴族様という感じでしたが……。そ、空から探知してたら、やたら大きな魔力反応がありましたから……』
「あー……彼女か」
「これは、面倒ですわね……」
「誰であるか?」
「ローランの婚約者候補だった女性で、特級で、ローランにマジ惚れしてまだ引きずってるので婚約者になった私には当たりが強かったりする氷結魔法系の人です。本人自体は誇り高くて高飛車だけど弱っている人を見捨てられなくて損をするという人ですわ」
「マリエル? なんか……急におもしろ人間が、生えてくるの、やめない?」
「あなたに言われたくないですわよナギサさん? その口調とか強化モードどか」
「追加エピソード公開に……期待……!」
『ま、まぁそういうことで……ど、どうせわかっていたでしょう? ら、ラーヴァナの脚本においては、ここで決着はつかないと……。こ、今回は、ただの顔合わせです……』
蚩尤がクーフェイの足に手を掛け、
『研鑽せよ。我らが決戦の時まで』
『こ、このままじゃ相手になりませんからね……』
二人は空の彼方へと一瞬で飛び去っていった。
●
「おや、これで終わりかい? もっと戦いたかったんだけどな」
「はー、みなさん大変そうですね」
蚩尤とクーフェイが去り、ローランとミシェルはそんなのんきな声を上げた。
ナギサとロックは元の姿に戻り、その場に座り込む。
「にゃー……しんどかったにゃ。こんなのがあと何体もいると思うと気が重いにゃ」
「皆で共に力を合わせ、頑張るしかなかろう」
そして、二人と同じように座り込み、正名状態を解除したフォンの隣にマリエルが並ぶ。
彼女は立ったままだ。
「タフだねぇ、マリエルは」
「さっきまでの戦いは、私にとっては本懐でしたから」
空を見上げ、彼女は笑う。
「楽しかったですわ。あぁいう、生と死の境目で武を競い合うことを望んでいましたからね。相手が≪D・E≫というのが問題ですけれど」
「タフというか武術オタクだったねそういえば……」
「武人とはそういうものですわ。ですが、次があります。クーフェイさんも次は混ざってくるのでしょうか」
「あいつ微妙にやる気を感じないからなぁ……いや、一回捕まったけどさ。何がしたいのやら」
ため息を吐いて、フォンは背中から地面に倒れ込んだ。
いつの間にかロックが集めた雷雲も消えている。
ついさっきまで命がけの戦いが行われていたのと対象的に、空は青い。
空の青さは、どの世界でも変わらない。
そんな色に向けてフォンは掌を掲げた。
「次は、もっと上手くやるよ」
「えぇ。次は、良い言葉です」
なぜなら、
「その言葉が、