超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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アンプレディクト

 

 景・フォード・黒鉄の人生のターニングポイントにはいつも女がいた。

 

 景が転生したネオサイバー歌舞伎街の治安は酷いもので、生まれた時には父親は死んでいた。

 母子家庭で育った景は、転生者故に早熟でたった一人の家族である母親を支える幼少期を過ごしていた。

 その母は、明光グループとギャングの抗争による自由傭兵の流れ弾で死んでしまった。

 この街ではさして珍しくもない話だ。

 人は死ぬ。

 そもそも前世で一回死んでいるのだ。

 悲しみはあったが、この世界においては悲しんで泣いている暇はない。

 どうにかして生きなければならなかった。

 ギャングの末端の末端、という立場に収まり、数カ月泥をすすった。

 幸いにも景の『転生特権』である『薬物耐性』により、生ゴミだろうと糞尿だろうとなんだろうと食べても体に害はない。

 味とか栄養とかは忘れれば、とりあえず腹は満たせる。

 そして、ある日、景はある自由傭兵と出会った。

 

『面白い体質だねぇ、アンタ』

 

 名の売れた『薬座』の女だった。

『カオスウィング』のジル・トワイライト

 フライトジャケットに身を包み、ウィングパックで偽物の空を駆け、どこの組織にも属さず、雇われず、渾沌の街において渾沌を体現したような女。

 彼女は抗争で死にかけていた景に、おもしろ半分に謎の薬を打ち込み、それで復活した景に興味を持った。

 正確には『薬物耐性』の体に。

 彼女に引き取られたのが一つ目のターニングポイント。

 ネオニウムを使い人体に対する強化剤や病の治療薬を研究者でもあった彼女は、景の肉体で様々な効能を試したがったのだ。

 つまりは人体実験。

 それでも景は構わなかった。

 ジルは強く、強い人間の下に付くのもまた生き残る方法だ。

 人体実験にしても『薬物耐性』を持つ故に苦にならなかった。

 それに彼女は、景に多くのものを与えてくれた。

 世渡りの仕方、戦い方、薬の生成方法。

 加えて機械のいじり方。

 彼女は科装の扱いも上手く、それも教えてくれた。

 或いは、人生の楽しみ方もだ。

 酒にタバコ、ギャンブル。

 それに、女も。

 当時、景は十五、ジルの方は三十後半と年離れていたが、ジルの外見は二十代前半くらいにしか見えなかった。

 ネオニウムの摂取や義体化等で実年齢と外見年齢が釣り合わないのはこの街では珍しくない。

 景にとって、ジルは母であり、姉であり、恋人だった。

 

『自由に生きな、景』

 

 彼女はいつも、景にそう言っていた。

 

『どうせ人間は死ぬ。あっさりと、無意味に、あっけなく。私の家族もそうだったし、アンタの家族もそうだっただろ? だからあたしは好きなように生きるんだ』

 

 実際、彼女はそういう風に生きていた。

 欲望を秘めない。

 助けたい相手を助け、殺したい相手を殺し、受けたい仕事を受け、受けたくない仕事を生きる。

 自由と渾沌が服を着て、翼を背負っている女だ。

 誰かにとってはヒーローだし、誰かにとっては極悪人。

 灰色の女だった。

 正確に言えば黒髪をまばらに白に染めるという変なスタイル。

 この世界の髪色はバリエーションに富んでいるが、概ね派手な色合いだ。

 モノクロは珍しい。

 だから目立つだろ? と彼女は笑っていた。

 

『景。アンタは特別だ』

 

 それが景の体質を指していたのか、或いは転生者であることを示していたのかはわからない。

 少なくとも転生については言ったことがなかった。

 それでも彼女はそう言ったし、こうも続けた。

 

『だけど、特別でもない。誰かにとっての宝石は、誰かにとっての石ころだからね。それを忘れちゃいけないよ』

 

 そして、彼女は景が二十の時に死んだ。

 明光の元技術者が、企業に恨みを持っていて、大規模なテロを起こそうとしたのだ。

 その元技術者はジルのかつての親友で。

 そのテロはネオサイバー歌舞伎街をまるごと吹っ飛ばすようなものだった。

 ジルは、そのテロを止めて、景を庇って、命を落とした。

 

『どうだい、良い終わり方だろ?』

 

 最後に、彼女はそう笑っていた。

 今から死ぬのに、自慢気に。

 彼女は好きに生きて、好きに死んだ。

 それから景は一人で生きることになった。

 幸い、それ自体は困らなかったが、好きに生きるということがよくわからなかった。

 とりあえずその日暮らしをしてみた。

 

 結果、一年ほど後にある少女を助けた。

 それが二度目のターニングポイント。

 来栖真里(くるすまり)

 ネオンライトの力を無効化するという特異体質の少女。

 気まぐれで景は彼女を助け、面倒を見た。

 かつて、ジルがしてくれたのと同じように。

 この街で生きる術を教え、色恋ほど甘くはないが体の関係もあった。

 だけど、上手く行かなかった。

 景は好きに生きることにしたのだ。

 だから、良いことも悪いこともした。

 その悪いことに、真里は難色を示した。

 

『どうして? あなたはそれだけの力があるのに、救えるはずの人を救おうとしないの?』

 

 有り体に言えば、真里は景にヒーローであることを求めたのだ。

 それも、コミックみたいな誰もを救う善性の塊みたいなヒーローを。

 そんなものは景ではなかった。

 この頃、景の願いは一つだけだった。

 ジルのように、笑って死ぬことだ。

 彼女のように満足して命を終えたかった。

 だから彼女の真似をした。

 だが、景にとって真里の期待は重荷でしかなかった。

 景が欲しいのは自由であって、正義ではない。

 ゆえに、景は彼女と袂を分かった。

 捨てた、と言っても良い。

 我ながら酷いことしたな、と後になって思うというか色々面倒なことになってしまうのでちょっと後悔したが。

 俺のことなんて忘れろ、と言ったら、

 

『――――絶対に、忘れない』

 

 背筋が寒くなるような声でそんなことを言っていた。

 よくあるセリフだが、その後数年に渡りストーカーされると思うと恐ろしい。

 真里との出会いで学んだのは、自分がヒーローには向いていないということだった。

 つまり、失敗したのだ。

 ジルのようになろうとしたけれど、できなかった。

 景・フォード・黒鉄はジル・トワイライトにはなれない。

 彼女の言っていた自由も理解しきれなかったし。

 その日暮らしと何が違うのか。

 真里は救えなかった。

 ジルのようにもなれなかった。

 そして、数年後。

 三度目のターニングポイントとなる少女と出会ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 景の家は三十階建てのビルのうち、三フロアを使っている。

 ビル中層十二階の一角に表向きである『黒鉄製薬事務所』。

 屋上は丸ごと買い取っており、その直下の一フロアも景所有のものだ。

 半分は普通の住居スペース。

 残りの半分は、

 

「いかにも秘密基地って感じでありますなぁ」

 

 壁に設置された大量のモニターを前にランチボックスを突く巴の言葉を、景は聞いていた。

 広いが、雑多な部屋だ。

 部屋の正面にはモニターやパソコン。

 右手にはウィングパックやフライトジャケットを掛けるマネキンや銃や科装剣のような武器類のラックに、それら作業用スペース。

 左手には精製したネオニウムの薬剤やカートリッジの調合スペース。

 大きく分ければ三つだ。

 巴はモニター前の椅子に座りながら、テーブルに組んだ足を乗せ、腹にランチボックスを置きつつ、ビールを飲むという行儀の悪さを発揮していた。

 彼女の視線はモニターに移るこの街の地図だ。

 

「これ、街全体を監視してるでありますか」

 

「アー、そうと言えバそうだし、そうでないとも言えるナぁ」

 

「は?」

 

「怖ェよ」

 

「おほん、失礼。昔の血が。マップを前に曖昧な答えを言われたらぶちのめすという習慣があってでありましてなぁ」

 

「怖ェよ……」

 

 どんな習慣だよ、と思ったが巴の世界では迷宮が出現し、彼女はその迷宮の探査が仕事だったという。

 それも迷宮の危険度を計測するために未知数の場に行く、いわば炭鉱のカナリアだ。

 マッピングガチ勢なのも無理はないのだろう。

 

「一応全域マッピングしてるガ、起きてる事件全部把握してルわけじゃねぇよ。一々拾ってたらキリがねェしな。インフラとか重要施設とか、カタギの人間から警察に通報ありゃアそれは拾うようニしてっけど」

 

「はーん。ヒーローしてるんでありますナ」

 

「ヒーローじゃなくてダークヒーローな」

 

「どう違うんでありますか」

 

「正義の味方は誰かを守るダろ?」

 

 『カレイドスコープ』でいえばロータスがまさにそうだろう。

 御影もそれに近いかもしれない。

 ウィルは、どうだろう。

 彼は善性の塊ではあるが、正義とはまた違う気もする。

 

「ダークヒーローは悪の敵ダ。悪人をぶっ殺すのが仕事ってわけダな」

 

「言葉遊びでありますな」

 

 聞いておいて巴は興味が無さそうだった。

 ランチボックスを置きつつ、ビールを片手にしながらもキーボードを叩き、モニターに表示られる情報を眺めている。

 現代世界出身で、普段は事務仕事をしているらしいから機械類の扱いも問題ないのだろう。

 景は今、戦闘に使うネオニウムカートリッジを作っていた。

 精製された様々なネオニウムをウィングパックや科装剣、自分の体内に注入する等の目的ごとに準備していく。

 慣れた作業なので手は勝手に動いている。

 

「トリウィアさんとヴィーテさんの位置とかわかるんでありますか?」

 

「渡したデバイスに発信機あルから、探せば見つけられるゼ? 必要カ?」

 

「んー、いや、色々いじりたかっただけであります」

 

「壊さないでくれヨ。なんか調べたかったらギブソンに頼めバいい」

 

『いつでもお申し付けください』

 

 備え付けのスピーカーから人工音声が鳴る。

 普段は

 

「スマートスピーカーまであるのは便利でありますなぁ」

 

「いや、一応人工知能だから……スマートスピーカー? なんダそりゃ」

 

「自分の時代じゃあAI入った喋るスピーカーが色々してくれるんでありますよ」

 

「マジかヨ」

 

 景の前世にはそんなものはなかった。

 ちょいちょい聞くスマホというのも存在せず、携帯電話といえば折り畳みのやつだ。

 ギブソンは、景の師匠であるジル・トワイライトが作った戦闘補助用AIだ。

 普段は単純な応答しかしないが、こっちの世界で活動するにあたってトリウィアやヴィーテとも意思疎通がしやすいように言語モジュールをアップデートしていた。

 

「今度からスマートスピーカー名乗るカ? ギブソン」

 

『不要です』

 

「んなもんカ」

 

 感情モジュールは大した設定をしていないので応答が事務的なのは相変わらず。

 トリウィアとヴィーテは昼食の買い出しついでに街の視察、もとい観光に出かけていた。

 好奇心旺盛なトリウィアはもちろん、ヴィーテもこの世界に興味を持っていたので、この世界では一般的な通信端末を渡して送り出した。

 地図情報も入っているし、二人なら身の安全の心配もない。

 

「昨日の戦いどう思ったであります?」

 

 モニターに街の様々な情報を移しつつ、ビールを飲む彼女はふとそんなことを聞いてきた。

 

「ア? まー、オカルトかぁって感じダな」

 

 この世界ではまず見ることのない、ネオニウムをリソースとしてない力だ。

 掲示板でアース111の戦いを見ていなければ、対応が遅れただろうが、

 

「マぁ、あのくらいならどうとでもなりそうだったナ。この世界って見れば、そこそこ上澄みだったガ。この世界、ウィルたちんとこほどインフレしてねーンだよなぁ」

 

「で、ありますな。≪D・E≫上位種というから結構身構えたものでありますが、正直拍子抜けだったであります」

 

 んー、と彼女が伸びをする。

 水着姿の胸が揺れた。

 眼福だ。

 

「不満カ?」

 

「まさか。ずっとこの調子で行けばいいと思うんでありますが」

 

「ありまスが?」

 

「中々そうも行かなかったのが自分の人生でありましてなぁ」

 

 彼女は頭の後ろで手を組んで苦笑する。

 

「俺も似たようなもンだ」

 

 確証があるわけでもない。

 ≪夜の母≫一人分の戦闘力は、はっきり大したものではなかった。

 複数人の欠片を集まったとしても、どうしようもないというほどでもないだろう。

 だから、今回の任務が楽に終わるのか、と問われれば否と景は思っている。

 巴もそうなのだろう。

 あとはいつも通りトリウィアが無双し、ヘクセンナハトの顕現を阻止して任務完了。

 魔王ラーヴァナの脚本がそんなにつまらないわけがない。

 そういうメタ的な考察もできるし、巴と景の経験則でもある。

 

「迷宮を進んでいると、よくあったんでありますな。あー、この迷宮は探索完了だ。大体Cランクだな。そろそろ調査終わるか……と思ったら下層への転移トラップとか門が見つかって、その下は全然Aランクだったとか」

 

「分かるワー。簡単な仕事だと思ってさくっと終わらせたら帰りがけの第一級犯罪者と遭遇したりみたいな」

 

 こんな簡単に終わるはずがない、という予感だった。

 だから景はネオニウムのカートリッジを準備してるのだ。

 

「精々トリウィアさんの足手まといにならないように頑張るでありますかぁ」

 

「アンタの場合は問題なさそうだがナぁ……」

 

 思わず景は苦笑する。

 戦闘力という意味では巴も頭抜けている、というより底が見えないのが正直なところだ。

 重力操作と銃火器と合わせた応用は以前見たが、あれだけではないだろう。

 ウィングパックを使う景としてはまともに相手したくないと言える。

 

「どんなのが出てくるか楽しみでありますなぁ……」

 

 不敵に笑う彼女に対し、景は肩をすくめる。

 

「あんた、存外好戦的だナぁ……」

 

 そう言ったタイミングで、部屋の外が騒がしくなった。

 トリウィアとヴィーテフロアが帰ってきたのだろうか。

 出迎えでもするかと立ち上がったところで、部屋の扉が勢いよく開き、

 

「また女を連れ込んでんじゃないわよー!」

 

 制服姿の十代半の少女。

 蛍光グリーンに蛍光ブルーが混じった髪をツインテールにしている。

 そんな彼女が飛び込んできた。

 ドロップキックで。

 ついでにそのキックには回転もかかっていた。

 コークスクリュードロップキックは高く、景の顔面に叩き込まれる。

 

「ぶッ―――――」

 

 潰れた蛙のような声が、景から盛れた。

 景はその場でひっくり返り、少女は綺麗に着地。

 そのままマウントポジションへとスムーズに移行し、

 

「このクソ兄貴! アンタは! コリもせず! 女を! 連れ込んで! 止めろと! あれだけ! 言ったでしょうが!」

 

 容赦のない拳の振り下ろしが連続する。

 

「ウげ! ぶホっ! マ! 待テ! 雪……! これハ! 違ウ! そうジゃ! ない!」

 

「アァ!?」

 

 雪と呼ばれた少女は可愛らしい表情を怒りで歪め、景の胸ぐらを掴み、

 

「―――どう違うわけ?」

 

 巴の存在に気づく。 

 問われた巴は、ゆっくりと頷き、左手を掲げた。

 その薬指にある指輪も。

 

「安心してください――――人妻であります」

 

「なるほど。外の眼鏡は婚約者がいて、金髪は将来を固く誓いあった運命の相手がいるんだったわね」

 

 少女は頷き、

 

「人の女に手を出すなら妹に手ぇ出すのが人ってもんでしょうがとあれほど――――!」

 

「ぐェ、チょ、そレは、おかしイ――――」

 

 殴打が再開した。

 体重の乗ったいいパンチを景が浴びせられる中、ドアからトリウィアとヴィーテフロアが覗き込み、巴は肩をすくめてしみじみと言う。

 

「うーん、思ったよりおもろいのが来たでありますなぁ」

 

 

 

 





実際戦闘力的には『カレイドスコープ』だと最下位級


子持ち人妻がレギンスとビキニでランチボックス突付きながら酒飲んでるのだいぶ興奮しますね


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