超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
「よーぅ! ≪オーバードーズ≫! おもしろいことしてるらしいなぁ!」
トリウィアがクロイツと遭遇し、そのことをDMで知らせてくれたのと同時、景もまた別の人物と対峙していた。
灰褐色の長髪と全身の肌に走る機械化痕、二メートルの長身とそれと近いサイズの巨大な双義腕。
凶暴そうな顔つきを、さらに凶暴に歪めた女。
「≪メタルフィスト≫かヨ……!」
この街のギャング≪メタルアームズ≫の女ボス、ルチル・メルキ。
それも広い縄張りと強い勢力を持ち、
「ウチに入る気になったかおい!」
景とはそれなりに因縁があり、目をつけられている相手でもあった。
「ならねェよ。てめェ、どういうつもりダ? あのペンキ女の手下にでもなったカ? ≪メタルアームズ≫もつまなくなったナ」
「吹かすねぇ! 安心しな、うちは安くはねぇよ! けどなぁおい≪オーバードーズ≫! ヘクセンナハトだったか? 妙なミュータントがいるらしいじゃないか! だったら欲しいと思うのが人の心だろ!?」
「あー……はいはイ。理解シた」
ミュータントというのはこの世界における特異体質持ちのことだ。
ネオニウムの毒性に完全耐性を持つ景やネオニウムを生み出す雪もそれに当たる。
差別用語なので、景は普段から使いたくない言葉でもある。
スラングは好きだが、自分と妹に対するものを口にしたいとは思わない。
おそらく、この世界に来たクロイツは≪メタルフィスト≫と接触して、傭兵として雇う代わりにヘクセンナハトをミュータントとして教えた。
ミュータント自体は貴重だから、彼女たちとしても確保したいのだろう。
【ヤクザい師:お姫様と姐さんノ方、柄悪いのいっぱいいるカ?】
【病ん姫:えぇ、今まさに襲われています】
【元軍人公務員:まぁ雑魚なので数はいても敵ではないでありますな、ガハハ!】
【ヤクザい師:下っ端が行ったカ。先輩さんはどうだ?】
数秒待ったが、返事がなかった。
交戦の音は連続して聞こえている。
トリウィアならマルチタスクで会話できそうなものだがそれもしていないほど集中しているらしい。
「アー、くソ、めんどいなァ」
景は背の科装剣を引き抜き、柄のトリガーを握る。
それにより刀身が赤く染まり、高熱を宿した。
対して、ルチルが両腕を振れば、大義腕のシリンダー機構が稼働し、黄色と青に輝いた。
「今、お前らと遊んでル暇はねーんだよな。失セろよ、腕女」
「連れないこと言うなよ! 遊ぼうじゃないか、鳥男!」
●
工業機械に挟まれた狭い通路で巴は十数人の男たちを目にしていた。
全員が義手ないし義腕であり、暴力の気配を纏った連中だ。
このタイプの人間は、巴にとっては馴染み深い。
査定前の新発見ダンジョンというのは危険と同じくらい様々な発見の宝庫だった。
新技術、新素材、金になるものがいくらでもあり、巴の世界では査定前のダンジョンは進入禁止とされ、巴たちが探査し、危険度を測定するまでは解禁されない。
だが、それを無視してダンジョンの財宝を狙う無法者はいた。
巴の所属する部隊の仕事には、その対処も含まれており、幾度となく交戦していた。
「ま、景さんも似たようなものでありますが」
無法者というのならば景も同じだろう。
ウィルたちの前ではかなり猫を被ってはいるが、本質的に彼は法の外側にいて暴力を生業とする人間だった。
掲示板でやり取りをせずに出会っていれば警戒していたとも思う。
ただ、法の外側にいることにも理由がある人間がいる。
そこで生まれてしまった者、そこで生きざるを得なかったもの。
そういう輩は、敵であろうとも信頼できることを巴は知っていた。
実際、非公式に本来敵である人間と協力したこともある。
景はそのタイプだ。
そして、同じ推しを推している戦友だ。
ならば信用できるし、信頼している。
「ギャハハ! お姉ちゃん良いおっぱいしてんなぁ! 天然ものかぁ!?」
「いいねぇ! その体をバラせば高値で売れるぜ!」
「馬鹿野郎! 売るんじゃなくて遊ぼうぜ!」
「いいや! 俺はあの乳を俺にくっつけるぜ!」
「品がないでありますなぁ。良いおっぱいなのは自慢で……ん?」
なんか最後レベルの高そうなゴリゴリマッチョの変態がいた気がする。
まぁいいだろう。
こちらへ向かってくる荒くれ者たち。
彼らに向けて、巴は軽く右のつま先を上げ、
「
踏み鳴らした。
「≪
瞬間、男たちが天井に向けて落下する。
巴の固有能力による重力操作。
指定範囲における上下反転、さらに重力の三倍加重。
「なん、だァ……!?」
「ぎょえっ!?」
五メートルほど上へ落ち、男たちが天井にへばり付く。
数人それだけで義手義腕が自壊したが、それで戦闘不能になるわけではない。
彼らもまたネオニウムで強化されている。
だから、
「
両手の拳銃で、連続発砲。
超加重で圧縮した弾丸を重力加速させた高速弾。
それらを全員へと叩き込んでいく。
「強化された人間相手ならば、簡単には死ななくていいから楽でありますなぁ」
そして重力反転を解除し、男たちが叩きつけられればそれで無力化終了だった。
「さて、どこに向かうべきか――」
巴が身を翻し、
「―――!」
即座に再度振り返り、反転重力を発動する。
気配があった。
それも直前に無力化したチンピラたちとは格が違う暴力の気配が。
無宣言だったが能力は確実に行使され、
「―――」
重力圏が両断された。
通路に女がいる。
ゆっくりと歩みを進めてくる細身の背の高い女。
黒のサイバースーツ、口元を隠すメカニカルマスクに、半透明のサングラス型バイザー。
特徴的なのは二つ。
両手両足、四肢全てが機械化されている。
先ほどのチンピラたちよりもシルエットが人間に近く、この世界の特徴であるはずのネオニウムの光がない。
そして、両手に握る小太刀のような武器は科装のそれではなかった。
柄や峰は科装化されているのだが、完全の刃が違う。
骨だ。
巴からするとかつて見慣れていた人骨を加工して刃物としたもの。
それが巴の能力を切り裂いたのだ。
その現象は記憶にあった。
アルマに連れられて行ったアース412。
そこで交戦した精霊殺し。
だが、ここはアース412ではなく、あの時に景が語っていたドッペルゲンガー。
巴は覚えていた。
「≪ネオンキラー≫――――景さんの昔の女でありますか!」
叫びに、ネオンキラーが足を止めた。
バイザーの奥、翡翠色の目を細め、
「――――自分が今の女とでも?」
「え? いや、全くそんなことはないでありますが……」
「殺すわ」
全く話を聞いてくれなかった。
音もなく瞬発する彼女から、しかし特大の殺意が放たれ、
【元軍人公務員:景さんの昔の女が出てきて自己完結して殺しに来てるんですがー!?】
●
≪ネオンキラー≫、来栖真里は身を低くして疾走する。
床を踏みしめる足と小太刀を握る腕は、今現在では極めて珍しい純電気式の義肢。
ネオニウムを無効化する特異体質なため希少技術を使っているが性能は高い。
握る骨刀は、彼女自身の骨から削り出されたもの。
特殊加工より並の合金よりよほど強靭で切れ味も良い。
かつて、景・フォード・黒鉄に捨てられてから自分で手に入れたものだ。
電気機械の専門家というキワモノを見つけ、彼から教えられた護身術を戦闘術に進化させ、ネオニウムの無効化による体質を活かして自由傭兵として成り上がった。
『お前はダメだナ。俺とイても、俺モ、お前モ、良いことにハならねぇ』
彼に救われ、彼の情婦のような生活に真里は満足していたが、彼はそうではなかった。
真里は自分が弱いせいだと思った。
特異体質をまるで使えず、彼に守ってもらうだけだったから。
自分一人の力で生きていけるようになって、もう一度彼の下に戻りたいと願って、
『アー? アー……あァ! お前かァ』
再開した時の彼の言葉はそんなものだった。
殺してやろうかと思ったし、殺しに行ったが、殺せなかった。
その後は出会う度に死なない程度に半殺しにして自分のものにしようと思ったが全く上手く行かない。
あの手この手で逃げ出され、いつの間にか幼い女の子を引き取っていた。
ロリコンかよと思えば、手を出した様子もない。
どういうことなんだよと思えば、数ヶ月前、急に食事に誘われたりもした。
心境の変化があったのか知らないが、とにかく全身完璧に洗って、酒を飲み、食事をし、
『じゃあナ。マー、なンだ。また頼むワ』
それで終わった。
どうないなってんねん。
その後も、それまでと大して変わらない距離感で微妙な関係値が続いて、
「また新しい女……!」
緑髪の巨乳の女。
自分よりも乳はデカい。
しかし雪のことを考えると乳は問題ないかもしれない。
直前の戦闘を見るに、反重力システムらしき物を使っていた。
サイボーグ化やそれらしき装備は所持していないように見えるが、生身で使える技術ではないので何かしら仕込んでいるのだろう。
だが、既に一度重力場を断ち切った。
ならば関係ない。
巨乳は背からショットガンを引き抜き、
「失礼な、人妻であります……!」
「あれは逆に燃えるタイプでしょう……!」
引き金を引かれる前に、接近しきって銃を断ち切った。
さらに一歩踏み込み、がら空きになった胴体へ小太刀を打ち込む。
今回遭遇した相手を殺すのが真里の仕事だ。
つまり、これは私怨ではない。
自由傭兵としての任務。
なので、
「任務執行―――!」
斬撃が伸び、
「―――――あぁ?」
視界がひっくり返った。
一瞬の無重力感。
投げ飛ばされたと気づいた時、顔の前に拳があった。
反射的に首を捻り、拳が頬を掠める。
身の振りと共に体勢を整えながら着地しようとすれば、
「よっと」
「ッ――!?」
着地が完了するよりも早く、自分の腕を中心に体を振り回される。
巨乳が右腕を絡め取りながら、その足を真里の体にも伸ばし、再度投げ飛ばされたのだ。
今度は着地は出来なかった。
「がはっ――――っく!」
背から床に激突したが、それに構わず右腕に力を込める。
飛びつきの腕ひしぎ十字硬めだ。
肘の関節機構から嫌な音がしたが、破砕音ではない。
ギリギリのところで壊れなかったのだ。
「おや、砕いたと思ったのでありますが。良い義腕でありますなぁ」
真里の腕をその巨乳に挟み込んで、関節を壊しかけた女からのんきな声が届く。
だが、一連の動作はのんきさからかけ離れていた。
重力制御技術も大したものだが、
「あなた……サイバージュードーマスター!」
「何でもかんでもサイバーつけるのがこの世界のノリでありますか」
苦笑気味の言葉はしかし、動きと共にあった。
巨乳は体を横に回転させ、さらに足が組み変わる。
肩をねじ切る動きに対し真里の判断は即座だった。
「パージ!」
「おぉ?」
固められていた腕を肩口から分離させることで、関節技を回避。
そのまま距離を取りながら起き上がって、
「返すであります」
軽く投げられた右腕を受け取る。
「……舐めプかしら?」
「いやぁ、白兵戦するなら腕ない方が逆にやりにくいんでありますな」
そう言いながら巨乳が構えを取る。
右手を視線、左手は腰の高さにし、両足は前後に広げつつ、腰を落とす。
「固有スキルを封じられるなら、CQCと柔術でお相手するでありますよ」
「アレの仲間になるだけある―――殺すわ。私怨ではないわよ?」
「ははは。口に出すと嘘くさくなること、あるでありますな」
●
トリウィアは全方位から迫る色とりどりの拷問具を回避し続けていた。
肩を裂きに来た真紅ギロチンをステップで横に避ける。
頬に高熱の余韻を感じつつ、
「んっ――」
青の双鉄叉が地面から突き出され、トリウィアの足を貫こうとする。
直前で中空に足場を作り身を捻りながら跳躍。
天井に着地しようとすると、
「――しつこいですねぇ」
その先の地点に、開いた乙女棺がトリウィアを出待ちしていた。
内側に無数の鋭い針。
針は茶琥珀。
そのままいけば棺に取り込まれることになり、その針がトリウィアの全身を差し止めるだろう。
「≪
そうさせないために、トリウィアは二丁拳銃を変形。
双剣形態に移行し、
「―――
乙女棺ごと斬撃から発生した衝撃波で天井を破砕する。
反動で近くのプレス機に着地しようとする、
「≪ボロボロのビリジアングリーン≫!」
それより早く、深緑の塗料弾が命中し、プレス機が砂となって崩れ落ちた。
「ちっ―――」
そして、再度中空跳躍した先、今度は山吹色のギロチンが迫っていた。
避けるが今度は追尾性能があり、それを切り飛ばしつつ、
「臭うんですよね、あなたの塗料」
「ヘビースモーカーに言われたくなぁいねぇ!」
クロイツへと文句を飛ばした。
既に周囲のほとんどの工業機械は壊れ、空白地帯が生まれている。
彼女の方は殆ど動いてない。
必要がないからだ。
「厄介ですねぇ」
クロイツの使う≪夜の欠片≫。
ギロチンの『正義の斬柱』、妙な形のフォークの『異端の三叉』、棘が敷き詰められた棺の『鋼鉄の乙女』。
それらは同時に、あらゆるところに出現した上で、塗料による特殊効果を付与されていた。
七色にそれぞれ七の特性がある。
三つの拷問具と七色の色彩効果が組み合わされ、それらが全方位同時に迫ってくるのだ。
避けながら会話をするだけでもそれなりに大変である。
それでも問わずにはいられなかった。
「あなたは、アース111の人間なのでしょう?」
クロイツのサングラスの奥、トリウィアと同じ十字の瞳。
フロネシス家の≪外典系統≫。
それだけではなく、
「アース814の時は黒紫、群青、乳白。それに加えて、真紅、琥珀茶、山吹、深緑の七色」
その色が持つ力は、
「時間、沈静、封印、高熱、硬化、誘導、風化―――――アース111の系統魔法と同じものです」
時間加速による高速移動鎮静と封印による行動停止を一度目の交戦の時は受けた。
高熱の付与、強度の上昇、誘導による追尾、風化による自壊。
その全てがトリウィアのよく知るものであり、
「嫌味、ですか?」
全三十五系統中二十七系統を持つトリウィアが持ち得ていない七系統だ。
「嫌だなぁ。嫌味じゃなぁいよぅ。系統は生まれつきの素質でぇ自分じゃあ選べないでしょぅ? それに持ってない系統も他ので再現したりしてる人に言われたくなぁいなぁ」
「ですか」
間延びした口調はパールを思い出させる。
打ち出された赤と青のギロチンを蹴り飛ばしつつ、次に繋げた言葉は、
「ドッペルゲンガーってやつでしょうか?」
「――――えぇとぉ」
「私とウィルくんの子どもだったります?」
「あー……」
「どっちも違うみたいですね」
「なんでぇー!?」
間延びした声は後輩であるパール・トリシラを思い出すが、彼女ほど腹芸が得意ではないらしい。
並行同位体説と子ども説はアルマから否定されていたが、確かめずにはいられない。
それに違うと分かった上で、
「直系ではなくとも血縁ではあるのですね?」
自分とウィルの子どもであるか、という問いに対するクロイツの反応はなんと応えていいかわからない、というものだった。
違うが、全く外れではないという感触。
「えぇと――あー、ほらぁ。それは、分かってたぁよねぇ? 目が目ぇじゃん?」
「なるほど。なんらかの手段で≪外典系統≫を手に入れたわけではないと」
「うわちゃぁ」
血縁ではあるが、直系、つまり子供のような近い親等ではない。
そうなるといくつか予測できることはあるが、
「……こういう時、帝国の貴族はややこしいですね」
トリウィアの親戚は多い。
そもそもほとんどあっていない弟妹や義理の母がいるし、従兄妹や再従兄弟の類は両の手じゃ足りない。
トリウィアは七大貴族フロネシス家の長女だが、傍流の血を引くものは多く、≪外典系統≫に覚醒する可能性を持つ者はゼロではないのだ。
もう少し聞き出したいが、
「むぅー」
クロイツは口元を固く結び、頬を膨らませてもう余計なことを言わないという気概を全力で見せていた。
可愛らしいが、その間も拷問具の攻撃は止まっていないのだから手癖が悪い。
だが、不思議なことはもう一つある。
答えがないとしても、聞かずにはいられないのがトリウィアの性だった。
一連の攻防。
極めて高密度の拷問具による多種多様な攻撃。
息をつく暇無く、間断無く迫るはそれはしかし、
「攻撃に殺意がありませんね」
確実に急所は狙いから外している。
もちろん当たれば大怪我をするものだが、死ぬことはないものだ。
アース814でも殺さずに再起不能にするという姿勢だった。
ラーヴァナの権能に巻き込まれ、世界を超えてまで敵対しているというのに。
「来たるべき決戦とやらに向けて遊びですか?」
その時に殺し合うことになるから、今はそうしない。
それならばわからなくもない。
トリウィアたち自身、決戦までに死ぬ可能性は低いと思って出撃しているのだから。
「………………別にぃ殺したいわけじゃあないからぁねぇ」
クロイツは唇を尖らせ、
「目的は、言えなぁい。言ったら、その時点で私達の負けぇだから」
放たれた言葉には意思がある。
一瞬、時さえ止まったかと思うような悲痛さえ込められた意思が。
「ですか」
だったら、
「負かして聞き出すだけですね」
そして、トリウィアはその場で足を止めた。
●
「―――!」
停止したトリウィアに、クロイツは疑問に思うよりも先に≪夜の欠片≫による拷問器具を放った。
ギロチン、双鉄叉、乙女棺。
無数のそれらにさらに七色の系統を乗せた全方位同時攻撃。
正直、これまでも攻撃が一度も当たっていないのが信じられない。
三種七系統、全方位から出現する攻撃を避けろと言われるとクロイツは困る。
避け続けて会話もしろと言われたらキレるかもしれない。
解析の魔眼に武器の変形も含め、おそらく無宣言で身体能力強化の配分も随時変えているのだろう。
おそるべき判断力と対応速度。
そんな彼女が足を止めた。
理由はわからないが、
「ここでぇ!」
倒しきれるとは思わない。
せめて、手傷は負わせる。
手に入れたばかりの力だが、
『――――
だが、彼女が何をするつもりか、その詠唱を聞き、自分が間に合わないことに気づいた。
「っ……!」
反射的に右のグレネードランチャーから手を話し、スカートの黒紫に染まった部分に手をかけ、
「――――≪
「≪めちゃ巻きのヴァイオレットブラック≫!」
時間が、加速した。
クロイツの視界野中、殺到していた無数の拷問器具が限りなく低速になる。
どちらも同じ体感時間の加速魔法。
だが、それは本命ではない。
大事なのは、加速時間の中で得た間隙。
トリウィアが何をするのか察したクロイツは、彼女もまたそれに追いつこうとする。
眼鏡とサングラスの奥、二つのオッドアイの視線が交わり、
「≪
「≪
似て非なる、しかし力を持った言葉を二人は放ち、
「―――!?」
巨大な破砕の力が、二人の行使を中断させた。
●
「なにが――――!?」
ヴィーテフロアは、他と比べて手こずるような強者がおらず、数が他より多いだけのギャングたちを倒し終わったところだった。
どこに支援に行くか考えていたら、強烈な爆破が建物の壁面をふっとばしたのだ。
位置的に壁が近く工業機械やら壁の材質やらが吹き飛んできたが、それを≪
続けて響き渡ったのは轟音、暴風と光。
壁にできた風穴から巨大なヘリが姿を見せ、
『レディィィスェーンドジェェェントルメェェェン!』
スピーカー越しの大声が鼓膜を打撃した。
「なん、っ―――」
ヴィーテフロアは見た。
建物に対して並行に飛ぶヘリ。
その開いた扉にいたのは二人。
『いーや!? 別に紳士淑女でもなかったわなぁ! 下等市民のカスどもやんけ! ずいぶんと好き勝手やってくれとるなぁ!』
スーツ姿の女。
顔がのっぺりとしたフルフェイス型のマスクに覆われており、その表面が液晶となって顔文字を映し出している。
顔にあったのは嘲笑うような爆笑顔文字。
『この明光の街で、ウチらを無視して遊ぶたぁ通らんやろ! この明光ノノが≪夜の欠片≫総取りさせてもらうでぇ!』
そしてもう一人。
顔文字の女、明光ノノに抱えられ、意識を失った少女。
『―――もう、既に一人捕まえたでなぁ! 遊ぶのに夢中やったか、≪オーバードーズ≫ぅ!」
景の妹である雪の姿だった。