超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
「じゃーやるでありますよ。三でいきます。三」
「頼むからそっとダ。ソっと――」
「二ぃ!」
「ぐあァ!?」
ゴキリ、という音が景の右肩から鳴り響いた。
「ぬぅゥ……――三って言ったヨなぁ!? 三、二、一! でやるもんだろ!」
「こういうのでスリーカウント通りにしたことないでありますな自分。カウント通りにやると逆に体に力が入って危ないでありますよ」
「くソっ、正論……!」
唸りながら、景は自分の右肩を擦る。
ビルの風穴から大ジャンプをした際、翼をパージして跳んだことによって脱臼していたのだ。
あの後、落下する景をトリウィアと巴が回収してくれたが、その間にクロイツたちはまとめて撤退していた。
景たちも一度、景の部屋に戻ってきたわけだが、
「やたら引き際が良かったのが気になりますね」
「……明光が出張ってきたからな。ギャングも自由傭兵も、連中とはことを荒立てなくネぇ。……イや、喧嘩する時はあルが、あの嬢ちゃんがそこまで金積んでなかったってことだロ」
「ふむ。うちの親戚の線も薄くなりましたかね」
どういう感想だと突っ込みたかったが、景は我慢した。
納得していたトリウィアは景の背中に回り、右肩に右手を添えると、その手から僅かに青い光が放たれる。
「オ? おォ……やっぱ便利だなァ、魔法って」
「治癒魔法はわりと難易度が高い部類ですよ、一応」
「へェ」
景はヴィーテフロアの方を見ると、彼女は肩をすくめた。
「実際私は苦手ですねぇ。光と闇の二重特化なので」
「そっカ……」
真面目な話のはずなのだが、どうも聖女なんて呼ばれていた彼女が言うとシュールだ。
「それで、どーするであります?」
ビール缶のプルタブを開けながら、巴が問いかけてくる。
「雪さんが捉えられました。その雪さんが一つ、クロイツさんが三つ、顔文字の女が一つ、ヴィーテさんが二つ、ということは≪夜の欠片≫の保有者は把握できました」
「クロイツは、夜の欠片を集めている。となると至るところは同じですか」
「雪さんを取り戻して、クロイツさんと木瀬ノノさんからも欠片を回収する。これでいいですよね、景さん」
「あァ」
女性陣の言葉に頷き、景は足を動かした。
向かう先は戦闘用のスーツを保管するキャビネット。
壁際に裸状態のマネキンが置かれている。
普段使っている景のウィングは片翼はメチルに握りつぶされ、もう片方も百数十メートル落下して壊れてしまった。
だから、
「ギブソン、マークセブンを出セ」
『塗装と副機能の実装が終わっていませんが?』
「良いかラ」
『了承』
電子音と共にマネキンが下に収納され、代わりに新しいマネキンがせり上がってきた。
それまでの景のウィングスーツはマスクとフライトジャケットにウィングバックパックのセットだった。
ウィングは大型であり、格納状態でもかさばるものだ。
だが、新しいものは違う。
スーツとバックパック、ウィングが一体化し小型化されていた。
ガスマスクも口、鼻、目を覆うだけのものに変わっている。
ギブソンの言葉通り、全体的に黒が基調とされつつ四割ほどが無塗装で金属色のままだった。
「今までのがマークシックスだったのか、という疑問は置いておいて、新スーツでありますか?」
「あァ。裏でマキナやクロノに設計やらデザインやら頼んでたんだよナ」
「はーん? ――――そんなのあるなら、最初から出しておけ、というツッコミは無粋でありますか」
「言ってただロ? 塗装が終わってネーのと、脳髄ニキ考案のおもしろギミックが未実装なンよな。けどマ、戦う分には問題ねェ」
「そのギミックとやら気になりますねぇ。前から思ってたんですが、科装に魔法使ったらおもしろいことになると思います」
「私の『偽神兵装』もまさにそれですし、良さそうではありますが……今は時間が無さそうですねぇ」
「あァ。雪を助けに行ク」
「場所は分かってるであります?」
「当然。雪にゃこういう時のために発信機仕込んでるからな」
「……」
女性陣が数歩下がって、顔を突き合わせた。
「プライバシーという概念がないんでありますか……?」
「中々のシスコンのようですね……」
「気持ちはわかりますが、私もまだしてないことを……いえ、アース111では技術的に不可能なだけの話ですが……」
「おーイ。一応言っておくけド、普段はオフにしてるからナ?」
ヴィーテフロアに引かれるのは納得がいかない。
まぁ、いいとして、
「――――――汚名返上と行くゼ」
●
明光の本社はネオサイバー歌舞伎街の中央にあるが、同時に街のあちこちにビルを持っている。
それは商業ビルもあれば、教育機関もあり、研究所でもある。
一箇所に纏っていないのは、それらのビルが明光グループ内の派閥、技術競争によるものだ。
明光の名は強く、同時に数が多い。
それぞれの分家がそれぞれのビルを持っている。
そのビルもまた、その一つだった。
三年前の抗争により、研究所としての機能は停止した高層ビルだ。
雪の身柄を巡って、様々な勢力同士の抗争が勃発し、結果的に景が勝利して彼女を勝ち取った。
高さ二百メートル、五十五階建て。
研究所として使われていたのは三十から四十階まで。
それを景たちは隣のビルから見下ろしていた。
「ふーむ、≪夜の欠片≫の反応があそこから二つ。クロイツの分がないですが、あっちは気配隠しくらいいくらでもできるでしょうし。ま、そのうち来るでしょう」
トリウィアが手の平の魔法陣を眺めながら言う。
「人の気配はなさそうですけど……護衛とかいますかね?」
「いるでありますな」
ヴィーテフロアの疑問に、巴は間髪入れず即答した。
「その心は?」
「んー、勘? 雰囲気? なんとなくあるものなんでありますよ、裏社会の人間特有の暴力の気配ってやつが」
「一応お姫様で聖女だった私には程遠いですねぇ。裏は裏でも裏工作タイプでしたし」
「笑えないジョークでありますなぁ」
「余裕そうだネぇ、姐さんらは」
景は苦笑し、それから一度口をつぐんだ。
髪をくしゃくしゃと掻き、彼女たちとは目を合わせずに、
「アー、なンだ、迷惑掛けたナ」
口早く、気まずそうに言った。
「雪とはニアミスで欠片持っちまうシ、さっきん時も俺が突っ込まなかったラ状況違っただろうし……それに、任務にしても雪の救出なんて余分もできちまったし……」
「わはは、なーにしょーもないこと言ってるでありますか、らしくない!」
「いで! ちょ! 姐さん!?」
爆笑しながら巴に背中を何度も平手打ちされた。
「景さんはあれですか。実は童貞でありますか?」
「はァ? いヤ、全然――」
「処女なのは私ですねぇ」
「いえ、女ではなくチームということでありますよ」
「……」
ヴィーテフロアは無視をするとして。
問いの答えを考える。
チームアップが初めてか。
初めてではない、と思う。
駆け出しの頃は師匠であるジルと一緒だった。
彼女を失ってからも、仕事で自由傭兵やギャング、明光の人間とさえ組むこともあった。
『薬座』という人種は、敵も味方も曖昧だ。
基本的に不文律は報酬であり、それに応じて敵にも味方にもなる。
だから、共闘をしたことはある。
だが、巴が言っているのはそういうことではないのだろう。
「いいでありますか、青少年。人妻のオネーサンからアドバイスをするでありましょう。チームというのは助け合うものであります。誰かがミスったら、誰かが補う。戦闘の話ではないでありますよ? ある意味、人生においても適応されるのであります。チームとは、家族でありますから」
家族。
景にとってはいつも、一人しかいないものだ。
ジルは全てを担ってくれた。真里は守るべき相手だった。
雪は妹だ。
そして、チームというのなら。
『カレイドスコープ』がある。
「だから、迷惑かけて御免は不要でありましょう。そもそも、雪さんが≪夜の欠片≫を持っている時点で、我々の任務とはズレていないでありますし、チームの家族を助けるのは当然であります」
「助け合う、という意味でしたら」
巴の言葉を、トリウィアが引き継いだ。
「私はあまり自覚していなかったですけど、景さんたちはウィルくんをずっとサポートしてくれていたんでしょう? だったら、私からしたら恩返しですね」
「となるとアレスはそのウィルさんに助けられたわけですし、私も恩を返さないとですねぇ」
「いヤぁ、ウィルの場合は、あいつ自身の頑張りであっテよ……」
「意外とめんどいでありますな。そういうとこチーム童貞なんでありますよ」
「何度も言うの止めてくンね?」
苦笑、それから景はもう一度髪を掻いて、
「さんきゅナ、みンな」
微笑んだ。
巴は満足げに頷き、もう二回景の背中を叩いた。
トリウィアもヴィーテフロアも微笑んでくれている。
「ったク、変な感ジだねぇ。暇つぶしニ掲示板の田舎者眺めていタのが懐かしいゼ」
「遠くに来たものでありますな。自分も似たようなものでありました」
自分の人生も色々あったと思うがウィルとアルマのことを知ってからは、それとは別の意味で濃かった。
推しという概念に出会えると思っていなかったし。
「うシ。ジゃあ、行きまスか!」
腹から声を出し、
「―――」
景はそのままビルから飛び降りた。
無数に連なるネオンライトの摩天楼が、一瞬で流れ落ちていく。
「
頭上、巴がビルの縁を蹴り、しかし落ちること無くゆっくりと宙を移動し始めた。
指定した地点に重力の方向を変えることで、そこに向けて落ちているらしい。
重力操作能力は応用性が高くて羨ましい。
トリウィアは普通に足元に魔法陣を作り、空中歩行をしていた。
ヴィーテフロアはビルの縁と向かう先のビルの間に数本繋げ、即席の橋にして渡っていた。
≪夜の欠片≫による能力を上手く使いこなしている。
便利な特殊能力や魔法使いが羨ましい。
「はッ、手札で勝負しネぇとな」
そして、景はウィングを展開した。
過去の最大展開すると五メートル。トラス機構のフレームが翼の形を作り、その隙間にネオニウムの力場を展開させることで飛行を可能にしていた。ネオニウムの格納庫や様々な動力系統が集合した鋼鉄の塊だった。
新たな翼は全長三メートルほど。
薄い金属製の羽根にラインがあり、そこにネオニウムが流れ、発光している。
翼とバックパック以外のパーツはほとんどがオミットされ、軽量化が為されていた。
アース781にもあるが、それよりもさらに小型した反重力装置。
強靭だが軽量の性質を持つ、アース111の鳥人族の骨格を参考にしたハニカム構造の特殊合金。
航空力学に適したデザインされた薄く鋭いウィング。
この世界にあるもので構成したとはいえ、この世界ではオーバーテクノロジーとでも言える科装だ。
広げた翼が空気を受け止め、ネオニウムの翼脈が輝き、
「行くゾ、ギブソン」
顔にマスクが展開。
『
加速が発生した。
一瞬で景の体が上昇し、落下した距離を取り戻す。
移動中のトリウィアたちを一度通り過ぎ、ウィングを格納。
中空で体を回し、ウィングを再展開。
旧研究所階層に頭を向け、
「お邪魔しっマーす」
右肩にマウントされていた科装剣が稼働する。
刀身にネオニウムのエネルギーが充填され、砲弾として発射。
壁をふっとばした。
粉塵が巻き起こる中、景が翼を格納しながら侵入し、トリウィアたちも後に続いた。
「かっこいい翼ですね」
「異世界の技術最高だナ!」
「全く持って同感です」
景の隣、トリウィアがアカシックライトで煙草に火を着けると同時に、強烈なビル風が吹いて粉塵を散らした。
そして、見えたのは、
「わぁ。本当ですね巴さん。暴力って感じです」
「で、ありましょう」
完全武装の傭兵と人型の機械兵数十人だった。
広い倉庫のような空間に、荷物代わりに兵士たちが大勢詰め込まれている。
「明光とは、『薬座』の人たちは関わりたがらないんじゃなかったですっけ?」
「アー、ほラ、下っ端として雇われる分には報酬良いンだよなぁ」
「仕事が有り余ってそうで何よりであります」
巴が笑い、
「撃てぇー!」
傭兵たちのリーダーらしき人物が号令。
一斉に実弾光弾問わず、膨大量の弾丸が叩き込まれた。
「―――
ダンッ、と巴が足を踏み鳴らし、四人の前方の重力場が壁状に展開。
力場に侵入した弾丸が上下左右に逸らされ、落下していく。
「景さん!」
両手に握る拳銃のリボルバーをぶつけ合いながら、トリウィアが叫んだ。
「有象無象は私と巴さんで散らします! 雪さんと欠片は景さんとヴィーテさんに任せます!」
「了解! オ姫様!」
「えぇ」
「姐さん!」
「スリーカウントで解除するであります。三、ニ、一―――」
「≪
「―――ゼロ!」
「―――≪
重力場が解除されたのと同時、トリウィアの二丁拳銃から青黒の砲撃がぶっ放された。
中央の傭兵たちを直線に薙ぎ払い、道が開く。
そこを景とヴィーテフロアが一息に駆け抜けた。
後には、トリウィアと巴が二人残り、
「いつかのお祭り騒ぎの時と同じでありますな」
「今思うと、巴さんからいろんな圧掛けられてましたよね」
「その今が幸せなら、オーケーでありましょう」
残った傭兵や機械人形たちに対し、銃口を向けた。