超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
景とヴィーテフロアがビルの内部を進み、辿り着いた先。
三年前、景と雪が出会った場所で二人が見たのは、
「雪ィ……ぃ?」
「あ、今はちょぉっと待ってねぇ」
倒れたキノ、その腹に足を起き、胸から光を引き抜くクロイツの姿だった。
「…………あの顔文字さん、なんか凄い登場の仕方だったのにあれですか?」
「まァ、そういうこともあるだロ。知らんケど……」
クロイツはどのタイミングで現れても不思議ではなかったが先手を取られていた。
正直なところ、この世界の人間の、研究職がちょっと固有スキルを手に入れたところでトリウィアと同等に戦えるクロイツと戦えるわけもないので順当といえば順当な結果だった。
景からすると九割敵なのでそこは良い。
良くないのは、
「雪!」
ノノとクロイツのさらに奥。
椅子に拘束され、ぐったりと意識を失っている妹だ。
かなりの量の汗をかいているが、ゴーグルのHUDに生命反応が表示されている。
景が飛び出そうとするが、
「おぉっと。はい、ダメだよぅ」
ノノから≪夜の欠片≫を引き終えたクロイツが立ちふさがる。
彼女は一度首を傾け、
「んー、トリウィアさんはぁ来なかった感じぃ? 嬉しいよぉな悲しいよぉな」
「悪かったナぁ!」
吠えつつ、景は前に出た。
ウィングを展開し、バーニアを吹かす。
研究室は広く、天井も高い。
ビル内の中心、三階層分の高さを使った大空間だ。
三年前は様々な機材が置かれていたが、大半が撤去されたのか伽藍としている。
故に、飛翔には問題なく、ウィングが大気を切り裂き、
「あぁれ、新調ぉしたのかな?」
クロイツの反応は速かった。
手を振ればグレネードランチャーが現れ、塗料弾が景の翼へと発砲。
ぽんっ、という小気味の良い音に反して弾速は音速近い。
「ッ――!」
景は体を横にしながらウィングを格納し、さらに縦に回る。
側宙だ。
景の両脇を塗料弾が通り過ぎ、
「ギブソン!」
『最大加速』
ウィングを再展開。
真横に広げるのではなく、背後に流すように広げ、バーニアを全開で吹かすことで超加速を実現。
クロイツへと突っ込んだ。
但し、攻撃動作は取らずに、だ。
「んん!?」
無防備すぎる突進にクロイツは驚き、しかし流石というべきか迎撃を行おうとした。
グレネードランチャーで直接景を叩き落とすカウンターを狙おうとし、
「姫サん!」
「≪
「!?」
光と闇が、景とクロイツを包みこんだ。
●
「なにをぉ―――」
黒紫と乳白は景とクロイツを中心とした球体として形成された。
それは攻撃ではない。
だからこそクロイツは戸惑い動きが遅れ、
「ドライブと行こウぜぇ!」
「うきゃっ」
景に腰をホールドされ、加速に乗せられた。
「ちょ―――」
一瞬、強烈な重圧がクロイツの意識を飛ばしかけた。
意識を逸らされたところで、急に音速近い速度で動いたせいでブラックアウト寸前だったのだ。
それでも意識を繋ぎつつ、クロイツは来るであろう衝撃に身構えた。
広い空間だったとはいえ、景の速度なら激突は一瞬だ。
「っ―――?」
だが、衝撃が来ない。
球体から連続する重低音が響いたがそれだけ。
景の加速は続いているのだから動いていないわけではない。
疑問に思い、自分たちを包んでいる球体が何なのか、記憶の中から該当するものを導き出し、
「まずっ―――」
「おセぇよ」
気づいた時には、景の言葉とおりだった。
翼の青年は静止し、球体も解けて消える。
そして、クロイツは摩天楼の間に放り出されていた。
味わうのは浮遊感。
加えて、既視感だった。
その原因の相手は頭上、翼を広げ滞空しつつ、中指を立てていた。
「結構怖いダろ? ―――眺めてる分にはおもろいンだけどな」
「このっ、セクハラヤンキーィ……!」
そして、クロイツは夜を落ちていった。
●
アース814、ネオサイバー歌舞伎街の戦闘においては、一つ鉄板とも言える戦術がある。
即ち、敵を落下させるというものだ。
基本的に戦闘が発生する場所が高層ビルということになる都合、ビルから落としてしまえばそれだけで区切りが発生する。
もちろん、この世界で戦う以上は落下対策をしているが、大半はアンカー付きのワイヤーで、ビルから落下しても地面に激突しないようにするというものであり、仮に戦闘不能は出来ずとも戦線離脱が可能だ。
飛行機械に関しては概ねヘリや空中バイクが基本。
景のようなウィングパック、また反重力装置やパワードスーツでも飛行可能ではあるのだが、それらを個人携行可能にするには技術的な問題が高い。
さらには、そういった高度の科装の運用には大量のネオニウムの消費、飛行のG等に耐えるための高純度ネオニウムの投与が必要となりハードルがさらに高まる。
景の場合、明光の科学者だったジル・トワイライトから仕込まれたメカニックとしてのスキル、ネオニウムを生み出すことのできる雪の存在、さらには景自身のネオニウムに対する耐性によってクリアしていた。
だからこそ、基本的に相手を落とせば勝ちとなる。
逆に言えば落としてもすぐにリカバリーできるのがこの世界における強者の条件と言って良いかもしれない。
「――っと」
景はビルに開いたきれいな円形の穴に降り立ちながら、ウィングを仕舞う。
【ヤクザい師:上手く言っタぜ、オ姫様】
【病ん姫:お見事です。こちらも雪さんを起こして、≪夜の欠片≫を取り除きますね】
その落下のためにヴィーテフロアの力が必要だった。
前提として、ノノの研究室はビルの中心部にあり、相手をビルから落とすことは難しい。
研究用の壁材となると、通常の建造物よりも頑丈なものも多く、破壊するのも一苦労だ。
だが、そこでヴィーテフロアの≪究極魔法:
光と闇の対消滅、それに伴う空間破壊。
その特徴は単なる攻撃ではなく、様々な形状に展開可能だということだ。
景が相手と密着した状態で、二人を中心に対消滅を球体展開。
その状態で景の加速任せに直進すれば、間の壁を消滅させて突っ切ることができる。
ビルの外に出てから、球体を解除し、景が話せば相手は落下するというわけだ。
元々相手がノノでもクロイツでも、雪を戦闘に巻き込まないためにこの方法を打ち合わせていた。
魔法解除は口に出さなくても、DMを使えば相手に気取られることなく伝達できる。
【ヤクザい師:頼んダ。俺も今すぐそっチに――――】
向かう、と伝えかけて景は足を止め、振り返った。
視線の先、向かいのビルの光を背にしたシルエットがあった。
「あぁー、びっくりしたよぅ」
クロイツだ。
中空に立つ彼女の足元、極彩色の塗料が足場のように広がり、さらにそれは下へと途切れ途切れに伸びていた。
「…………そンなこともできんのかそれ」
「この世界に来て、空中移動の手段がないとぉやってけないよねぇ」
クロイツは靴のつま先で足元の塗料場を何度か叩き、
「狙いは妹さんなんだぁけど、まずはお兄ちゃんから倒さないとたどり着けなぁいかなぁ」
「ハッ! 当たり前だロ、うちの妹は渡しませんヨ!」
景もまた、夜の空に身を投げだした。
●
鋼鉄の翼が、闇夜に起立するビル群の合間を飛翔する。
姿勢制御と翼の展開及び再展開を駆使し、時には数メートルしかないようなビルの隙間を、景は自在に飛翔する。
小型化によって小回りは格段に強化されているので、ビルの夜空を飛ぶことに不足は問題ない。
景の邪魔となるのは、
「攻められるのは性に合わねェんだけどな……!」
無数かつ色とりどりの拷問具だ。
トリウィアから聞いていたギロチン、双鉄鋏、処女棺に加え、ノノから回収したのであろう鞭。
それらが中空に出現し、景の行き先を潰していく。
「っ……!」
眼前、十メートル程度のビル同士の隙間に鞭が網のように広がる。
その隙間に鋏やギロチンが編み込まれており、即席の壁となった。
両翼を大きく広げ急制動。減速した状態で翼を格納し、前宙。
体を真上に向けて翼を展開し、加速。
拷問の網を前に急上昇した。
ビルの側面に沿うように飛べば、今度は壁面から双鉄鋏が出現し、翼を貫こうとしてくる。
さらに加速を重ね、鋏が生じるようりも速く飛び、屋上に至った段階で翼を畳み、着地。
自前の足で走り、反対側から宙へ身を投げ出す。
数秒自由落下した後、翼を広げ、何本かのビルを迂回。
その間、クロイツからの攻撃はなかった。
ぐるりと円を描き、
「撃テ……!」
『発射』
空中を滑るクロイツの背後を取り、背の科装砲から光弾をぶっ放した。
黄色のそれは高電圧の雷撃弾。
「っとぉ!」
向けられた光弾に気づいたクロイツは空を滑って回避する。
動きの仕組みは、彼女の靴だ。
科装なのか魔法なのかはわからないが、少なくともこの世界のものではない。
靴の裏から塗料が流れ出し続け、それが空中で細い道を形成していた。
彼女がその上をアイススケートのように滑って、空中機動を実現させていたのだ。
「もうちょっとぉ、正面から来てよぉ!」
中空でドリフトしつつ、クロイツが反転。
その最中、拷問具による攻撃が再開する。
「馬鹿でモ、正直でモないんでなぁ!」
≪夜の欠片≫による拷問具の召喚は、ほぼ無制限であるが、基本的に視界内のみに限るらしい。
これはヴィーテフロアに確認した。
つまり、彼女の視認を超える速度で動けば、回避は可能だ。
故に必要なのはヒット&アウェイ。
倒し切るのには時間がかかるだろうが、応援を待てば良い。
【ヤクザい師:姐サん方、そっち終わったカ!?】
【悪魔先輩:いえ。それが大半倒し終えたと思ったら妙に強い人形が出てきまして、少々手こずってます】
【元軍人公務員:メカ侍とメカ侍なんでありますが、なんですかこれ。なんか動きが達人でありますが。ロボだけど服来てるでありますし】
【ヤクザい師:まじカよ。そいつらはサイバーマスターニンジャとサイバーマスターサムライつっテ、明光の戦闘ロボで最高グレードのワンオフものだワ。何回も殺されかケて、一人じゃ一回も勝ったことねェ】
【元軍人公務員:なんでありますか? SMニンジャとSMサムライでありますか。コンプライアンスとかどうなってるんでありますか】
景自身もこの世界では上澄みであるという自認はあるが、それでも天井ではない。
今、トリウィアと巴が戦っているのがその天井。
マスターシリーズと呼ばれるそれは、例えば景と同等の『薬座』がもう数人必要だし、動かすだけでも膨大な金額が必要になる。
滅多に出張る相手ではないのだが、木瀬ノノが引っ張り出していたらしい。
腹の立つ顔文字のヘルメットが脳裏に過ぎったが、
【悪魔先輩:五分ほどで終わらせますので、そっちはそっちで頑張ってください】
【元軍人公務員:現役の時を思い出してちょっとテンション上がるでありますなぁ】
「頼りになルなほんと……!」
苦笑と感嘆混じりの叫びを上げながらも、拷問具を掻い潜って再びクロイツの視線から外れていく。
【病ん姫:こっちは≪夜の欠片≫を回収し終えました。雪さんも意識を取り戻してます。少し消耗してますけど、問題なさそうですねぇ。ただ、私、今の景さんの速度域での空戦技能ないので、現状だと援護しにくいです】
【ヤクザい師:ビルの間を飛び移れたりはするだロ? 近くのビルに誘導するから援護頼ムわ。やっこさんもあんま空は得意ってわケじゃなさそうだ】
空中の移動という意味では過不足なさそうだが、速度に関しては地上を走る自動車程度しか出ていない。
景の推測だが、あくまでこの世界の戦闘に対する外付けの対応策であり、普段遣いしているものではない。
本来は塗料弾と塗料による強化弱体化を扱うスタイルのはずだ。
【病ん姫:了解です。では景さん、頑張ってくださいね】
「もう頑張ってルつーの!」
思わず笑ってしまいながらも、景は背の科装銃を引き抜き、剣形態へと変形。
位置はクロイツの頭上。
まだ彼女に気づかれない。
「ギブソン、オーバードーズ……!」
『了承』
スーツ内部に仕込まれた注入機構とマスク内の吸引機構がネオニウムによって景の体を強化する。
常人が同じ量を取り込めばそれだけで中毒死するレベルものだが、景の『転生特権』によって肉体への負荷は一切無い。
ゴーグル奥の瞳が、真紅に輝き、
「流レを、持っていク……!」
ウィングを最大加速させ、クロイツへと突っ込んだ。
短い時間の空中線だったが、速度ゆえに研究所ビルからは距離が生まれており、それを取り戻す必要がある。
故に、行った。
「おぉっ!?」
接敵は一瞬。
赤熱した科装剣は大気を焦がしながらも真っ直ぐに振るわれ、クロイツはグレネードランチャーを交差させ受け止める。
鉄程度ならば容易く断ち切れる温度と膂力だったが、流石にそれは無理だった。
それでも背のバーニアを最大加速させ、剣ごと体を押し付ける。
「これだケ近かったら、拷問器具も出せネぇだろ……!?」
「成人男性に体を押し付けられぇてるよぅ……!」
「痴漢冤罪はこの世界じゃ大体通らねぇヨ!」
そのまま空を突っ走った。
元の地点まで戻る中、加速による強烈な重圧の中、
「――――あぁ、やぁっぱり、このままじゃだめかぁ」
クロイツは自嘲気味に呟き、
「必死だよねぇ、景さん」
「あァ――っ?」
「家族のためにぃ。分かるよぅ」
彼女の力が抜けていく。
加速に逆らわずなすがままとなり、しかしサングラスの奥の瞳だけが静かに景を見据えていた。
「私も、そうだからねぇ」
「何を今更言っテ―――」
「悪かったと思ってるよぅ」
だって、
「景さんにとって、
「――――」
景の世界が、止まった。
その言葉は、それが意味することはこれまで誰にも話したことがないものだったから。
この世界における友人、知人、戦友はもちろん、≪カレイドスコープ≫を含めて語ることはなく、雪にさえ直接言っていない景だけの心象。
景・フォード・黒鉄の生きる意味。
「なん、デ、お前ガ、そレを―――」
「ごめんねぇ。あなたの内側にをぉ土足で荒らしてぇ」
脱力により、防御に使っていたグレネードランチャーが押し込まれ、赤熱する刃が彼女の体に届く。
その直前、
「でも、だからこそぉ、私も負けられないんだぁ」
ズレたサングラスの奥。
青の右目、その瞳に十字が浮かび輝いた。
「―――――≪
●
気づいた時、全てが静止していた。
景は見る。
クロイツから、色が消えていることを。
ツインテールの髪は頭頂部を中心に白と黒に分かれ、ところどころに陰影が灰色を乗せている。
サイバーパンク然として服装は、軍服に変わっており、そちらも白、黒、灰のモノクロ調。
トリウィアの『≪
しかし、トリウィアの頭上に輝く天輪の代わりに頭頂部からは一纏まりの髪が二つ、ねじりながら起立している。
まるで、悪魔の角のように。
青と黒のオッドアイもまた、青の色が消え、灰と黒に。
「――――『≪
喪色の悪魔は静かにその姿の名を口にし、
「ごふっ」
景の口から赤い色が溢れ、彼女の顔に飛び散った。
クロイツの右手、鋭く伸びた爪が景の腹に突き刺さっていた。
「このくらいならぁ、死なないってことは知ってるよぉ?」
塗料の道を使うこと無く、クロイツは当然のように空に立っている。
ツインテールが翼のように広がり、浮遊しているのだ。
彼女が腕を振り、景の体を空に放り投げる。
放物線を描いた先は、最初に景とクロイツが飛び出してきたビルの風穴。
「だからぁ、もう大人しくしててねぇ、ヤクザい師さん」
クロイツ
モノクロ、軍服、悪魔の角と翼。
サイバーマスターニンジャ
サイバーマスターサムライ
出会ったら逃走必須のイベントボス枠
その昔、景はこれに殺されかけたがウィルアルてぇてぇパワーで生き延びたことがある。
景
救われたのは、誰だったのか
感想評価よろしくお願いします!!!!