超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
「ごふっ……!」
『蘇生用ネオニウムを注入します』
「――――っ」
床をもがく景の耳、ギブソンの音声が届く。
スーツ内蔵されたネオニウムが肉体に注がれ、腹の傷の止血と鎮痛を促す。
だがそれは重傷時でも無理矢理体を動かさせるか、致命傷を受けた際の応急措置として用いられる。
今回は後者だった。
「くソっ……ンだよ、面と向かっテ、ハンドルネームで呼ぶんじゃネぇ、ヨ……!」
四つん這いになり、血の塊を吐き出しながら睨みつけた先。
床に静かに降り立ったクロイツの姿がある。
「あぁ、ごめんねぇ」
相変わらず間延びした言葉遣いだが、容姿は随分と変わってしまった。
彼女だけモノクロのフィルターを掛けたような喪色姿。
どんな能力だか知らないが直前に景の体にかかっていた身体強化が失っている。
「ツーか、なんでお前が知ってンだよ……!」
ヤクザい師という名前は転生者掲示板、それも≪カレイドスコープ≫の面々の前でしかほとんど使わないものだ。
ウィルの掲示板は転生者ならば誰でも見れるものだったならば、
「お前ラも、転生者カ……!?」
それならマルチバースに精通していることも納得ができる。
「んぅー、あー、そこら辺はぁ、ほらぁ、ねぇ? 内緒ってことでぇ」
ごまかすように笑いながら、クロイツは景の横に立った。
「あなたなら死なないだろうけどぉ、動けないよねぇ? ゆっくーり寝ててねぇ。雪ちゃんも、殺しはしないからぁ」
「…………はッ、それでお前ラは……ヘクセンナハトを呼び出すって、わケか?」
「それもぉ、いつかの決戦に時のためにってことでぇ」
「そー……カよ。ネタバレは……厳禁、カ」
「そぉゆぅことぁ」
「っ……なラ、俺も二秒後のネタバレは控える、ぜ」
「へぇあ?」
次の瞬間、斬撃の形をした光闇の対消滅がクロイツへ叩き込まれた。
●
「ハ、ハ……ッ! じゃっく、ごほっ」
「無理しないでください、景さん。ほんとに死にますよ」
【ヤクザい師:ジャックポット! お見事だゼ、オ姫様!】
「……まぁDMならで連絡してくれたのは助かりますけど」
吐血しながら笑っている景の隣に、ヴィーテフロアは並んだ。
既に≪偽神兵装≫を展開した軽科装状態。
この世界の服装もよかったが、全力で戦うならこの姿でなければならない。
両手には科装の細剣を一振づつ握ってる。
傷を追った景は、その時点でヴィーテフロアに状況を伝え、ヴィーテフロアはそれを見て急いで駆けつけて奇襲したのだ。
「雪さんはさっきの部屋に残しています。クロイツの方は?」
【ヤクザい師:よクわからんが、先輩さンの2Pカラーみたいなのに変身した。能力も一瞬すぎテ謎い。多分だガ、無効化とかそうイう感じの力だな。ネオニウムの強化が剥がされて死にソう】
「みたいですねぇ」
普段から軽口の多い彼だが、荒い呼吸で血を流している。
ネオニウムはヴィーテフロアの身体強化は別の技術だが、その強化は魔法によるものに決して劣らない。
その彼が、瀕死ぎりぎり。
治癒魔法の類は不得手ながら治療をしてあげたいところだが、
「次はぁ、聖女様ぁ?」
宙に立つ悪魔の如き姿のクロイツの前では、それも難しい。
「えぇ。私では不満でしょうか」
「いぃやー。実はわりと光栄だぁったりするんだけどねぇ」
へにゃり、と彼女が笑い、掲げた右の五指。
その爪が伸びていた。
五十センチほどの爪は、
「……?」
見覚えのある黒紫と乳白のマーブル模様になっていた。
「いぃでしょぉ、ネイルぅ」
「パールが凝ってましたねぇ。付け爪とかしたり。染料を塗るのはともかく、付けるのは私はしてませんけど」
王族、聖女という立場であるため必要な化粧の類はする。
王国では祖父がもたらした文化のうち、女性向けのもので人工の付け爪をするのが若い女子の間では流行っていたりするが、王族や身分の高い者は飾るより、綺麗に磨くことを良しとする者が多い。
パール・トリシラとは元々それぞれの国教の聖女と聖女ということもあり、元々面識もあったがオクタヴィア事変の後、街の復興で関わりが増えた。
忙しい日々の合間、アレスの話を聞いたり、そのさらに隙間に流行のオシャレも教えてもらったりもした。
「――――ふぅん」
何故かクロイツがそわそわし始めた。
「おや。王国の化粧に興味がおありですか? してないと言った手前、詳しくはないですが、私は我が騎士を通して年頃の少年少女の青春の日々をつぶさに監……もとい、鑑賞していた身。色々詳しいですよ?」
「それはぁ……気になるけどぉ、色々アウトじゃあぁないかなぁ?」
「愛ゆえだったので問題はありません」
ヴィーテフロアは言い切った。
「……そっかぁ」
愛想笑いで返された。
「オシャレは気になるぅけどぉ―――そういうわけにもいかないんだよねぇ」
「ま、そうなりますか」
できれば、トリウィアと巴がサイバーマスターニンジャだかサムライだかを倒すまで時間稼ぎしたかったが、そうも言ってられない。
科装の細剣を握り直し、
「それでは白と黒には、光と闇にてお相手しましょう」
「う、ぅん」
また愛想笑いされたが、気にせずに行った。
●
「ふっ、くっ……」
震える手で景はマスクの右頬、耳の下にあるボタンを押した。
するとマスクが各部分ごとに分割されながら、顎の下や頬の格納されている。
「ぺっぺっ! ……あァー……しンど……」
口の中に溜まっていた血を吐き出しつつ、仰向けに倒れ込んだ。
腹に開いた傷は貫通はしておらず、蘇生用のネオニウムで止血されつつある。
痛みも鎮痛作用が効いているが、鈍い痛みと不快感、全身の脱力感は強く残っていた。
もう少し時間があれば動けるようになるだろうが、空中戦は難しい。
事実上、景は戦闘から離脱している。
「ギブ、ソン。鎮痛ト止血を、もっと流セ……スーツのアジャスターも締め上ゲ、て、止血もシろ……」
『戦闘復帰した場合、生命維持に危険が生じますが』
「ヤ、れ」
『了承』
実行は即座だった。
「グッ、ォ……」
体の各所にネオニウムを注入されるのとスーツが体を締め上げる感覚に思わずうめき声を上げる。
「ッ……フぅ……ふゥ……っ、ウィングの、状態ハ?」
『スラスター回路の一部が破損し、システム不全を起こしています』
「リルートしテ、復旧させロ」
『了承』
背中から機械音が響いた。
腹に傷を受けたが貫通せず、背中のウィングパックが全損を免れたのは幸運だった。
「スぅ―――はァ―――」
息を深く吸い、吐く。
気合を入れて起き上がろうとして、
「思ったよりマシな顔してるのね」
「………………」
頭上に、妹が立っていた。
●
「私から欠片を引っこ抜いたヴィーテフロアさんが慌ててたから、どうなったかと思ったけど」
雪は、顔色は悪いが怪我をした様子もなかった。
景の頭の上で、両手を腰に当て仁王立ちしている。
「…………おイ。パンツ丸見エ、だゾ」
「元気出るんじゃないの?」
「…………………………妹のだトなぁ」
「なんでよ。元気出しなさい。生存本能の発揮時よ」
急に元気が無くなってきた。
それでもどうにか気合をひねり出して、体を起こそうとして、
「兄貴」
「いデっ」
雪の足が、景の肩を踏みつけて動きを抑え込んだ。
「……なニ、すンだよ」
「どうして?」
景の質問に、雪は別の問いで返した。
「兄貴がそこまで死にかけてるのは久々に見た。でも、そこまで死にかけてまだ戦おうとするのは初めて見たわ」
「アー、そうだったカ?」
「そうよ。だから、どうして?」
周囲に明かりはなく、蛍光グリーンと蛍光ブルーが淡く光り、金色の瞳はより強く輝きを発していた。
その光が、景へと注がれる。
ふざけた様子はなく、景の何かを試すような真剣な問いに、
「……なんツーかよぉ」
景は息を吐き、
「――――友達、でキたんだよなぁ、俺」
そんなことを、言う。
「チーム、つーカ、マー、そノ、なんトいうか……」
「何言い淀んでるのよきしょいわね、はっきり言いなさい」
「推シ、的ナ」
「へぇ」
雪の反応は意外そうに眉を上げるだけだったので、景は気恥ずかしさを覚えた。
息を整えつつ、
「俺ぁヨぉ、マー、わりと屑側の人間なンだよな」
最近女周りが特にどうこう言われている気もするが、そこも否定しない。
一夜限りの相手はいくらでもいるし、真里には酷いことをしたと思っている。
思っているだけだ。
関係を修復したいと思わなくもないのだが、結局のところ彼女の望む人間にはなれない。
景・フォード・黒鉄は、結局のところ何かを成し遂げることができない人間だった。
へらへらと笑い、斜に構え、冗談を言って茶化し、良いところを狙っていく。
周囲からは能力は評価されるが、人格には眉を顰められる。
裏社会に生きて、暴力を生業とするような人間だった。
ろくでもない底辺の人間であるという自覚はあったが、この街の『薬座』は大体そんなものなので、開き直ってもいた。
「でもヨぉ、あいツは……ウィルは、ちげーンだよなぁ」
意志の名を持つ少年のことを思う。
彼を掲示板で見たのは、いつだっただろう。
二日酔いで、暇つぶしで掲示板を覗いていた時だったろうか。
彼は愚直で、純朴で、素直で、まっすぐだった。
やたら態度のデカいアルマに関しては、最初の方は正直反感を持っていたが、すぐに酒のツマミには感じるようになった。
きっかけは、フォンとの一件。
ウィルはその意志と仲間の力を借りて、フォンのことを救った。
そのわがままが一人の少女の命と尊厳を助けたのだ。
「ウィルは俺にはできなかったこトをしてた。俺には出来ない生き方をしてタ。だカら……それが眩しくテなぁ」
オクタヴィア事変におけるアレスがウィルに対してぶつけていた感情を、景は理解できる。
光と栄光と愛を一身に受ける少年と自分を比べてしまえばあまりにも惨めだ。
ウィルとアルマの関係性を楽しめていたなかったら、景もまた違う見方をしていたかもしれない。
なにはともあれ一言で言うなら尊い、だ。
てぇてぇ、ということを掲示板で知った。
「ほんとハ、眺めてるだけのつもりだっタが、気づいたラ遠くまで来て、近くにいちまってル」
近づいてはいけないタイプの人間だったが、ウィルはまっすぐに感謝してくれて、アルマは自分も呼びつけてくれた。
巴たちはチームと呼んでくれた。
きっと、ウィルやアルマも同じことを言ってくれるだろう。
「そレで今は、あいつラ色々大変なンだよ」
ウィルは妹が魔王の運命に飲み込まれ、アルマは力を奪われてしまった。
だから、
「俺ハ、アイツラを手伝いたイ。大した力にゃなれネーだろうけど、それデも、できることをしテーんだ」
景はまだ、諦めない。
負傷したとはいえ、ヴィーテフロアのサポートをし、トリウィアと巴が来てくれるまでの時間稼ぎくらいはできるはず。
今の状態でネオニウムの身体強化をすると寿命が縮むのは確実だが、安いものだ。
「俺ァ、何も為せてなイろくでなしだが、それくらいできルはずだ。だかラ……」
足を退けろ、と景は言いかけ、
「兄貴がそんなこと言うなんて、よっぽど人間出来てるのね。そいつらは」
雪は得心がいったように何度か頷きつつ、肩を踏む足の力を強めた。
地味に痛い。
「ま、兄貴がそこまで言うなら頑張ればいいんじゃない?」
「……なラ、その足退けてくんねーカ?」
「その前に、一つだけ訂正よ」
「あァ?」
「なにも為せてない、ってのは嘘でしょ。兄貴がいなかったら、私はさっきの研究室か、別のどっかで管に繋がれてネオニウムのタンクになっていたはずだから」
●
息を呑んだ兄に、雪は口端を持ち上げた。
景・フォード・黒鉄は本質的に自己評価が低い人間だった。
この街でも特別な功績、特殊な体質があるのにも関わらず。
≪ネオンキラー≫の期待に答えられなかったことやジル・トワイライトの意志を継げなかったと思い込んでいるのだ。
その二つがどういう意味を持つのか、雪には良く理解できない。
だが、雪から言わせれば来栖真里は面倒なだけの女、ジルは聞く限り好き勝手やって死んだ。
それでも景は内心で色々考えすぎ、自己評価の低さも相まって雁字搦めになっている。
ただまぁ、
「兄貴が悩んでるのは、まぁいいわよ。好きにしてなさい」
だけど、
「私は、兄貴に救われたのよ?」
出会った時のことを思い出す。
あの時、彼は自分を見て、安堵していた。
当時は何も思わなかったが、その後彼と過ごし、彼を知って理解した。
「私が兄貴を救う必要なんてないの」
「―――」
景は、雪に救いを求めたのだ。
自分が何もできなかったから、今度こそ自分の価値を証明できるような相手として。
歪な感情だろう。
非難する人もいるかもしれない。
でも、雪からすればどうでいい。
自分は、彼に救われたのだから。
三年前、木瀬ノノに道具として使われていた雪を解放して。
妹として育て、守って、今夜も助けに来てくれた。
景の過去は人聞きだし、その推しとやらも今知ったばかりではあるけれど。
それでも。
「兄貴は、誰かを助けることができる人間だから」
雪は景の肩から足を退け、一歩下がる。
膝をつき、両手を彼の頬に添えた。
「それを、忘れないでね。お兄ちゃん」
そして雪は歯で自らの唇を噛み切って、
「―――」
唇を重ねた。
●
「ふぅっ……!」
鋭い呼気と共に、ヴィーテフロアは空を駆けていた。
纏う≪偽神兵装≫は装甲の各部位が展開され、クリアパーツが露出し、黒紫と乳白の粒子が溢れている。
≪
粒子放出を加速として用い、足元に魔法陣や≪夜の欠片≫による拷問具を配置することで空中跳躍を行っている。
飛行ではなく跳躍だが、空中戦ができないこともないが、
「しんどいですね……!」
≪フルリリース≫形態を実戦で使ったのはヘラとの戦いの時、一瞬。
それもアルマから魔力のバックアップがあった状況だったが、それがないとこの形態は魔力消費が非常に激しい。
空中戦は出来なくはないが、やはり苦手だ。
何よりも、
「その爪……!」
「おぉー、どぉかなぁー?」
クロイツの爪が、やはりというべきだが厄介だ。
幸いというべきか、能力は単純だ。
「ハッ……!」
「そぉーい!」
ヴィーテフロアの科装剣、そして彼女の右爪は同じ色をしている。
二色のマーブル模様。
その二つがぶつかり、
「!」
重低音を響かせた。
聞き覚えのある音だ。
ヘラの影魔法とぶつかりあった時に似ている。
同系統の消滅魔法をぶつけ合うと空間が歪んでこういう音がなる。
「けっこー、便利だねぇその魔法ぉ」
「それはどうも……!」
双細剣と左右五爪がぶつかり合う度に同じ音を発しつつ、
「爪の色ですね……!」
激突の瞬間、爪から色が消え、離れた時にはまたマーブル模様を取り戻している。
彼女の能力は塗料ごとに特性を持たせたものだった。
だが、今は
「振れたものの性質吸収! 失わせた色を、他人から補っているのですか……!」
「せぇーかい!」
足場が必要という制限のあるヴィーテフロアに対し、クロイツは髪を翼のように広げて自在に空を舞い、
「私はねぇ、才能っていうのがなくてねぇ。訓練してもしてもぉ、ぜーぜんだめだったんだよねぇ。だからぁ考えたんだぁ。―――足りないのならぁ、他から補えばいいってぇ」
ヴィーテフロアから奪った色を振るう。
「色は力だよぉ、お姫様」
同種の力、しかし機動力は圧倒的にヴィーテフロアが劣り、さらにいえば膂力も彼女が上。
「っ……!」
追い詰められている、という事実をヴィーテフロアは認識していた。
「性質、特性、個性、属性。そぉいうのは、色が一番分かりやすいよねぇ? だからぁ、私には色はなぁい。でもぉ、色ならぁ他所から付け足せるでしょぉ?」
≪偽神兵装≫の装甲が、少しづつ削られていく。
深手にはならないが、無視はできないように嬲られていた。
「色を重ねて、盛って、派手に強く―――分かりやすいでしょ?」
その問いに、ヴィーテフロアは答えられなかった。
脳裏に、言葉が届いていたから。
【ヤクザい師:待たせタ、お姫様。おもっきり後ろに跳んでくレ】
即座に、ヴィーテフロアはその通りにし、
「!?」
直前まで彼女がいた空間を、極彩色が駆け抜けた。
●
「なん、です、とぉ―――!?」
視界を埋める色と強烈な風圧に、一種クロイツは体勢を崩した。
すぐにリカバリーし、頭上を見上げた。
そこに、強烈な色があった。
「――――よォ」
景だ。
彼のネオニウムの強化を計算して、ギリギリ死なないが動けない程度の傷を与えたはずだった。
だが、スーツの破れから覗く肌は傷が完全に塞がっている上に、
「なんかぁ……様子違うくなぁい?」
文字通り、光っている。
血管が光っているのかスーツの下から光が透過しているし、ゴーグルの下の目、髪もまた様々なネオンカラーに強く発光していた。
さらにいえば、それまでは一部だけだったはずのウィングも全体が輝き、光の翼のようになっていた。
「目が痛いですね」
背後のヴィーテフロアが呆れたようにぼやいたが、クロイツも同感だった。
「好き勝手言っテくれるじゃねぇか」
景は笑い、眼光を妖しく光らせた。
「色が好きなンだろ? 第二ラウンドだ―――ハイカラで行こうゼ」
雪
私は救われてんのよ
景
義理の妹からのキッスで強化形態になる男。事案
ゲーミング超サイヤ人みたいな状態
掲示板勢で一番掘り下げしてなかった人なので、やっとやれたという感じ。
ずっと応援していたし、これからも応援したいよね。
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