超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
雪・T・黒鉄は体内で液体状のネオニウムを精製する特異体質である。
骨髄が特殊な性質を持ち、作られた血液と反応させてネオニウムを生み出す。
つまり、雪の血液がネオニウムということになる。
ただしそれがそのまま、この世界で用いられるネオニウムと同じ様に使うことはできない。
だとしたら、ジル・トワイライトやその親友、木瀬ノノも苦労はしなかっただろう。
人体で直接するネオニウムの純度をコントロールできず、その特性を持ったクローン体を無数に死なせていた。
精製されるネオニウムは純度が高すぎたのだ。
雪のそれを用いる場合、採血をし、他の溶媒で希釈することで通常のネオニウムとして運用できる。
無論、その段階でも肉体に直接投与すれば、場合によっては肉体に深刻なダメージが残る。
前提として、雪の血液はそのままの純度ではネオニウムとして使われることを想定していないのだ。
だが、
「初めて直接ぶち込んでみたけど、派手になったわね」
ビルの横穴から、派手に発光しながら飛翔する景を見て、雪はそんな感想をこぼした。
雪の血液の直接投与は、景の薬物耐性を鑑みても初めてのことだ。
薬物というより即死の劇毒というべきであり、雪としてはそこまでしようと思えなかったから。
それでも、あの兄が、あそこまで言うならばと、口渡しで彼に血を与えた。
結果的に、彼は復活し、再び空を舞っている。
全身不規則なレインボーに発光していて、目に痛いが
「悪くない」
腕を組んだ雪は口端を歪める。
舌をぺろりと舐めて感じるのは血の味。
「私のファーストキスよ? 負けたら承知しないんだから」
●
景は口の中に広がる血の味と共に、空を駆ける。
「ヒ、ハ……!」
全身を巡る過剰純度ネオニウムは景に全能感と高揚を与え、マスクの下で吊り上がった頬に現れていた。
景の血液程度では希釈などできるはずもなく、その全てが高純度ネオニウムへと変質。
本来、ネオニウムを注入するスーツ内注射口から血液が逆流し、ウィングや科装剣に逆流することで、それらの装備もまた強化してくれている。
蛍光の軌跡を夜空に残しながら空を突っ走り、剣を振るえば、
「ゲーミングカラーはぁ、ノットフォーミーかなぁ!」
クロイツの振るう喪色の爪と激突する。
一瞬の交差。
反転し、再度向き合えば、彼女の右爪が蛍光グリーンに輝いている。
「しっかり使ってンじゃねぇーの!」
「こういぅ能力なんだよぉ!」
ぶつかり合うたびに、景の剣の色は変わり、クロイツの爪もそれに応じて変化していく。
炎熱、雷撃、氷結、旋風、衝撃、閃光、荷重。
色を放ち、色を奪い、色がぶつかり合う。
先刻の景とクロイツとの戦いとは違う。
景は逃げることはなく正面からつっこみ、クロイツは拷問具を用いることなく自らの爪で迎え撃っていた。
交差し、弾かれ合い、再度空を駆け、
「ヒャハ……!」
「おぉう……!」
摩天楼に、七色が軌跡を描き始めた。
●
「舐めてたなぁ……!」
空を駆けながら、クロイツは内心を言葉にし、苦笑する。
クロイツはおおまかにだが、≪カレイドスコープ≫の面々の能力を把握している。
その上で、景に関しては正直問題視していなかった。
掲示板面子は様々な特性や経験を持つが、景に関しては世界観的な上限が低く、真っ向勝負でいえば危険度が低いという認識をしていた。
だが現状、過剰強化状態の景は≪幻想到達≫状態のクロイツと正面から空中戦を成立させている。
「まったくもぉ!」
嘆息しつつ、それでもクロイツは笑みを浮かべていた。
「――――ウィリアム」
家族であり、愛しい少年の名前を呼ぶ。
それぞれ別の世界に散らばって、≪D・E上位種≫と接触しているため、通信は繋げないが、
「君ならぁ、喜ぶかなぁ?」
多分、そうだろう。
「トリウィアさんなら……まぁ、ウキウキか」
続けて、考え、すぐに答えを出し、苦笑した。
知識の悪魔は、未知に歓喜するだろう。
そういう人だ。
だったら、
「私も楽しもーかなぁ!」
叫び、景の斬撃を受け止め、空を舞う。
爪に宿った色は赤。
性格にいえばネオンレッドとでもいうべき白味を帯びた明るい赤色だ。
そのまま振るえば高熱の性質として振るわれる。
「色相転写……!」
だから、クロイツは叫ぶ。
距離を取った状態で腕を振りかぶり、
「とぉぅ!」
振るう。
爪から色が抜けると共に、その軌道が炎の斬撃となって景へと飛ぶ。
「あァ!?」
唐突な遠距離攻撃に、景は驚きつつも対応した。
右翼を自分の正面に展開して盾として受け止める。
ウィングを破壊はしなかったが、宙を跳ね、近くのビルの壁面に着地。
「ちィッ!」
翼を広げ、飛び立とうとしたところで、
「もーらい」
「!」
頭上のクロイツがその両翼に触れていた。
色が変わり続けるウィングは、その時はネオンイエロー。
彼女の両手の爪もその色に染まった。
「痴漢はどうかと思うゼぇ!」
ウィングが砕かれるより先に景は、格納。
振り返りつつ科装剣を銃に変形し、落下しながら引き金を引く。
ネオンパープルの重力弾。
「人の腰に抱きついたのぉ、私は忘れてないからねぇ」
笑って、蛍光黄の右爪を広げ、
「色相反転―――ヴァイオレットブラック」
その黄色が、黒紫に変化した。
「!?」
変色に伴い、クロイツの視界が停滞する。
自己時間の加速。
その状態で重力弾を避けつつ、壁面を駆け下り、
「色相純化……!」
左爪のネオンイエローは色をより濃く輝く。
ネオニウムの黄色は、電気を発生させる。
ゆえに、色の強化と共に電撃もまたより強まり、
「痴漢撃退スタンネイル……!」
景へと振り抜いた。
●
「だッ……!」
高電圧の雷撃爪を受け、景は一気に落下した。
電撃が胸を裂き、神経を焼くが、過剰ネオニウムがすぐに修復する。
高速治癒により引きつるような痛みと痒さがあるが、それよりも、
「なんかめんどくセぇな……!」
単なるコピー能力ではない。
取り込んだ色を出力し攻撃手段とするのと、補色に変化させて用いる、色を強めて強度を上げる。
色の転写、反転と純化。
分かりやすいが、しかし応用範囲が広いので対応が難しく、クロイツがどこまでできるのかも不明。
対し、こっちは基礎能力は向上したが、新しく何かできるようになったわけではない。
【ヤクザい師:つーカお姫様? 助けてくんネーのか?】
【病ん姫:助けたいですけど! 移動しすぎです! 私は飛べないとあれほど言いましたよね!?】
【ヤクザい師:ご、ごめんテ】
【病ん姫:いったん雪さんのところに戻って護衛してるので! 手助け必要だったら誘導を!】
めっちゃキレられた。
だが、助かるし、正しい。
脳みそとテンションがハイになり、速度が上がりすぎたので、ヴィーテフロアからも距離を取りすぎてしまった。
【病ん姫:とにかくもう少し頑張ってください!】
「今やってルつーの!」
叫び返し、ウィングを広げ飛翔を再開した。
その場から飛び退き、
「なんの話ぃ!?」
直後、爪撃と共にクロイツが降ってきた。
中指を立てた右手で返事をしつつ、上昇し、科装剣を背にマウントし直し、
「ギブソン! ぶっちらセ!」
『銃形態変形、砲撃します』
変形した砲口からネオニウムの砲撃が連続で射出された。
色は、無数となった。
一発一発ごと、景の肉体と同じように変色し、当然効果も変わってくれば、形状も変わる。
砲弾、熱線、放射状と連続し、
「っと、ほ、そぉい!」
クロイツは空中で回転とスライドを組み合わせて回避しつつ、
「いただきぃ」
それらの色を爪に宿していく。
「色相転写……!」
両手を広げ、爪から色が抜ける。
空中に現れたのは、色とりどりの十字剣。
射出された。
「ギャルっぽくねぇなぁ……!」
「ネイルで戦ってるんだからいいでしょぉ!?」
言われてみればその通りだと思いつつ、景は加速した。
摩天楼の合間を縫い、上昇と下降を繰り返しながら、
「だ、らあああアあぁぁ!」
一際強烈な勢いで、七色が喪色へ科装剣を叩き込んだ。
爪で受けた喪色はしかし、受け止めきれず、重なりながら空をスライドし、
「……!」
背後のビルへと突っ込んだ。
そのまま速度は止まらず、ビル内の壁を何度か突破、さらにはもう一つ隣のビルへ突入。
転がり込んだ二人はそれぞれ体勢を整えながら向き合った。
景とクロイツが立つのは、
「あ」
綺羅びやかな魚の模型。
部屋全体を一周するレーン。
それに乗って回る皿と小さな米の上に乗った刺身。
大きな包丁を持つ料理人とレーンの前に座る数十人のニンジャたち。
回転寿司屋だった。
景とクロイツはレーンの中央の大きな調理台の上に立っていた。
二人の足元には巨大な赤い塊の刺身。
「……………………」
料理人とニンジャの視線が二人に集中する。
「………………どーモ?」
「………………こんにちはぁ?」
引きつった愛想笑いを二人が浮かべた瞬間、全方位からサイバー手裏剣が飛来した。
●
「だああああああアあああ! スシニンジャマフィアじゃねぇカ! めんどくせぇナあ!」
「なんかあのマグロ、おぃしくなぁい!」
「人工培養のパチモンだからナ!」
本物のマグロは海産物を養殖しているブロックからの輸出品で、貴重なものだ。
大半の魚類は食用3Dプリンターで再現した模造品。
あれはあれで慣れれば悪くないのだが。
体のあちこちに手裏剣が突き刺さったまま、景はクロイツと並んで、再び壁の穴から空へと飛び降りる。
勢いで手裏剣は抜きつつ、傷はネオニウムが修復していった。
空に戻り、
「色相転写――――!」
景が目撃したのは、鮮やかな赤色の線で描かれたマグロだった。
「そんなノもありかぁ!?」
「ダメな理由がないんだよねぇ!」
景は文字通り空を泳いで突進してきたマグロを切り払い、
「ふゥ……! やっとカ……!?」
更にビルの合間を駆け、最初のビルへと戻ってきた。
大穴のすぐ横の壁に着地し、声をかけたのは、
「……そこで何してンだ?」
「兄貴がサボってないか監視してるのよ」
腕を組み、仁王立ちしていた雪。
妹ながらなんか男前になったなと感慨深さを覚えつつ、
「負けたら怒るわよ、兄貴」
「わぁーテるよ。お兄ちゃんに任セな、考えはあるんだヨ。今ノ俺は」
「とっくに全部任せてる」
「……誰に似たンだが」
苦笑し、
「いってクる」
「いってらっしゃい」
妹の言葉を背にし、景は翼を広げた。
●
「そろそロ、決着と行くかァお嬢ちゃん!」
「上ぉ等ぅ!」
クロイツは髪翼を広げ、景と正面から向かい合った。
「ギブソン、ありっタけ吸い上げろ!」
『体内ネオニウム吸引、科装剣に充填します』
彼の握る剣の光が増す。
色の切り替わり速度が早まり、夜闇と摩天楼を照らしていく。
人が生み出したまがい物の極虹。
「いいだロ? なんチゃってビフレストだ。どーセ、ウィルの刀も知ってルだろ?」
「知ってるよぅ。……羨ましいねぇ、そういうのぉ」
対して、クロイツは両手の爪を揃えるだけ。
思わず自嘲する。
色を吸い、操る爪は、しかし自ら色を生み出す力は持ち合わせていない。
「……ま、いいけどねぇ」
小さく自嘲し、
「それじゃー、ハイカラを見せてねぇ?」
「あァ、ありったけだ」
瞬間、二人は速度に身を委ねた。
蛍光の虹と無彩の色。
斬撃と爪撃。
激突した。
「だらあぁぁアあああ!」
「せぇぇぇぇええええ!」
ネオンライトが迸り、その輝きを喪色が奪い、
「ギブソン! もっトだ!」
『オーバーブースト!』
「色相純化……!」
より色を増した虹と虹が拮抗した。
大気が振るえ、甲高い音が鳴り響く。
「……!」
景のスーツや剣に亀裂が入り、クロイツもまた指先や腕が裂けていった。
そして、
「―――――時間カ」
景の体から、光が消え去った。
過剰純度のネオニウムは景を強化したが、しかし永続ではない。
強化された分だけネオニウムの総量は減り、代謝によって消えていく。
その瞬間が、今だった。
「……お疲れさまぁ」
力を失い、落下し始めた景をクロイツは見下ろし、
「ありがとナぁ」
景が笑うのを見た。
「だガ、お前はまだ大変だゼ?」
「―――!」
クロイツの視界を、黒紫乳白の鎖が覆い尽くした。
●
「やっぱ来たかぁ……!」
ヴィーテフロアの究極魔法と≪夜の欠片≫の拷問器具だ。
それをクロイツを中心として球体状に展開している。
だが、クロイツは驚かない。
わざわざ最初のビルに戻ってきたのだ。
どこかのタイミングで来ると思っていたし、それが今だった。
「だけどぉ、これくらいなら―――!」
両手の爪を振り抜いた。
接触の瞬間、色を奪い、その力を使って鎖を切り裂く。
重低音と共に視界が晴れ、
「……あっれ?」
ヴィーテフロアの姿がない。
景はまだ落下している。
いるはずの相手を警戒し、
「お待たせしました」
「派手にやってたでありますなぁ」
いてほしくない相手の声を聞いた。
●
トリウィアと巴は、既にクロイツを挟んで空に立っている。
トリウィアは既に≪
巴は手持ちの装備やタクティカルパーカーも失っていたが、受けている傷は浅い。
そして、既に二人は攻撃準備を終えていた。
双刃銃を構えたトリウィアと両手を重ねて前へと突き出した巴。
「≪
「
銃口には青黒が。
指先には漆黒が。
「――――≪
「
解き放たれた。
全概念統合の消滅砲撃。
無限連鎖の空間圧縮によって形成された超重力子球。
その二つがクロイツへと放たれ、
「ヘクセンナハトッ………………!」
彼女はその両方に両手を掲げ、その先に出現可能な拷問具をありったけ生み出した。
拷問具は砲撃と重力球に振れた端から消滅するが、それを確認せず拷問具を追加し続けていく。
同時に二種の破壊の余波から色を回収し、自らの爪に宿して発動。
同色の力を相殺し続ける。
挟み込みは数秒続いたが、クロイツにとってその数秒は永遠にも感じ、
「はぁっ……はぁっ……っ!」
それでも彼女は凌ぎきった。
軍服の両袖は消し飛び、全身の肌は裂け、十本の爪も折れるか砕けるかしていた。
満身創痍となり、
「まだ終わってないからぁ……!」
それでも彼女の目から光は消えていなかった。
髪角が蠢き、捻りを生みながら、白と黒が胎動し、
「――――いいヤ、これで仕舞いだぜ」
背後から首筋に何かが突き刺さった。
「―――」
クロイツは首の動きだけで振り返る。
景だ。
彼は、砕けたスーツから引き抜いたであろうチューブとその先の注射機構を握っていた。
本来であればネオニウムを彼の体に注入し、さっきまでは過剰強化のネオニウムを逆流させていたもの。
「これってぇ」
「一回やると止められなくなるんダよな、こレが」
口端を歪めた景はその注射機構を押し付けて。
ネオニウムがクロイツの体に流れ込んだ。
「―――――!?」
体内から、体を焼かれたような感覚。
雪の過剰純度ネオニウムそのままではないとはいえ、通常のネオニウムよりも純度は高い。
モノトーンの体の血管がネオンカラーに輝き、その光は彼女の肉体に対する直接的な攻撃となった。
「がふっ!」
血の塊が口から溢れ、それすらも妙に光っていた。
「ぁ……っ……!」
クロイツから力が抜けていく。
トリウィアと巴の攻撃の直後に、内部からの負荷は流石に限界だった。
「く、そぉ……」
飛ぶ力を失い、喪色の姿も解けながら最後に見たのは景の歪んだ口端だった。
「悪いネ、チームの勝利だゼ」
●
渾身のドヤ顔をした景は、落下していくクロイツを回収しようとした。
スーツもウィングも大破しているが、単純な飛行は可能だった。
拾いに行こうとし、
「ン!?」
クロイツの姿が消滅した。
落ちていく彼女の軌道の先、白い光の転移門が生じ、彼女を受け止めた。
一瞬で、転移門が消え去る。
その光景に驚き、姿勢を崩したと思ったら背のウィングが小さな爆発を起こした。
「ア、チょ……うオっ!? ギブソン!?」
『装備大破、飛行不可能です』
「ヤっべ……!」
ぷすん、という音を立てながら弾むように落下し、最後に完全にエンジンが停止し、
「なぁにやってるんでありますか」
急に静止し、宙に浮かんだ。
呆れ気味に近づいてきたのは巴だった。
「オぉ……姐サん。助かったゼ」
「随分頑張ったでありますな、景さん。逃げられましたが、まあ……引き分けと言ったところでありますか」
その隣にトリウィアも、足場に魔法陣を作って降り立った。
軍服姿からサイバースーツ姿になった彼女は煙草を吸いつつ、周囲を見回す。
「結局≪夜の欠片≫はクロイツとヴィーテさんで半々ですね。ヘクセンナハトを顕現自体は制止したので良しとしましょう。次元転移されたら追いかけようがありませんしね」
「あァ。……とにカく、すげー疲れたワ」
「こっちもこっちで結構大変だったでありますよ。ロボも馬鹿にできないでありますなぁ」
「興味深かったですけどね。壊したパーツ、回収できないでしょうか」
この世界の最高峰と戦ってまだ余裕がある二人に引きつつ、景は体から力を抜いた。
全員は重く、気だるい。
まだアドレナリンとネオニウムの余韻で痛みは甘いが、すぐに酷いことになるだろう。
多分、何日か寝込むことになる。
「……けド、まあ」
視線を上げた。
その先、こちらに手を振るヴィーテフロアと雪がいる。
妹は、腕を組んだままこちらに向けて微笑みながらゆっくりと頷いた。
よくやった、と言わんばかりに。
景は、破顔した。
「ちょっとはいいトこ、見せられタかね」
アース984編完!
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