超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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ヒスイ地方にて
親分エルレイドにイッチと名付け
親分サーナイトにてんさいさまと名付ける。
これがポケモンの遊び方よ。

アンケが天才ちゃんが過半数ぶっちぎってて強すぎて笑っちゃいますね


アルテマ・マジック

 空間の輪をくぐる。

 光の輪が空間同士を繋ぎ、指を振るだけであれば知っている場所に行けるし、準備をすれば次元間移動も可能とするアルマが最も得意かつ使用頻度の高い魔術だ。

 使ってきた回数なんて言葉通りに数えきれない。

 単純な移動は勿論、手のひらサイズだけの空間窓を空けて遠くのものをちょっと取る、なんてこともできるし、先ほどの隕石にしても宇宙空間からの転移によるものだ。

 何度も何度も繰り返してきた。

 

 だけど、この一瞬はいつもと違う。

 

 横目で彼を―――ウィルに視線を送りかけて、止めてしまう。

 だって、頬が緩んでしまうから。

 その黒い瞳に真っすぐ見つめられると吸い込まれそうで。思わず目を離してしまいそうになるけれど、ずっと見ていたいとも思う。

 そんなこと、あっていいはずがないのだけれど。

 苦笑しながら、門を通って大地を踏みしめる。

 土煙が立ち上る隕石の墜落により生まれたクレーター、その中央部。

 

「煙い」

 

 腕を軽く振って土煙を吹き飛ばせば、正面に人型へと戻ったゴーティアがいる。

 これまでの攻撃でこの世界における構成存在の9割以上を消滅させた。ゴーティアへの準備は十分。

 術式そのものも完成している。

 ただし、

 

「例の術式発動の空間準備に約1分―――」

 

 両手の拳を握りしめ、腕を交差。拳と腕の周りに魔法陣。腕を広げて両手を広げながら突き出せば新たな魔法陣が多重構造式に構成される。

 通常指を鳴らしたり、腕を振るだけで魔法の発動を行うアルマにしては極めて珍しい工程と時間を踏んだ魔術行使。

 無論、その間は完全に無防備になる。

 

「――――だから、頼むよウィル」

 

「はい!」

 

 即答で帰ってきた返事は小気味よく、快活に。

 黒髪の背中と揃いの衣装がアルマの前に立つ。

 赤いマントを靡かせ、

 

「――――()()()!」

 

「頑張りますっ! ――アルマさんも頑張って!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「≪センター・パラタス≫―――≪クィ・ベネ・シェリフ・ベネ・メーテ≫」

 

 激励の言葉に背中を押され、周囲に黄金の軌跡が術式を中空に描くのを見ながらウィルは進む。

 拳を握り発動する身体強化と武器形成。

 掌から光の糸が伸び、武器の形を生んでいく。

 

「っっ――――小僧ォ!」

 

 全身から瘴気を滲ませ、前学園長も面影は微か。

 追い詰められていることを彼は分かっている。

 アルマが何をしているかも分かっている。

 故に彼女の言う1分以内にウィルを殺す必要がある。 

 例え、構成因子を9割以上断たれたとしても、それも最後の本体は前学園長、即ちアース111最強の男に他ならない。

 彼をベースにし≪D・E≫としての力を発揮すれば、ウィルを殺すのは不可能ではない。

 だから実行する。

 

「ヌゥンッ!」

 

 腕の振りと共に二メートル近い瘴気の刃が放たれた。

 音速超過で空間を切り裂き進むそれを―――――()()()がぶった切った。

 

「―――それは」

 

「御影さん―――力を借ります!」

 

 光の糸で編まれた大戦斧。鬼族の王が、鬼族の姫に贈った皇国の大業物。

 灼熱と紫電を纏う天津院御影の相棒。

 ウィルの武器形成は形を選ばない。

 家にあったのが剣だったから剣を使い、剣を使うから武器形成はもう一振りの剣程度の理由で剣が多いが、それ以外にも何だって使える。

 そして、学園には多くの武器の使い手がいて、彼らを学年主席としてその武技を目に焼き付けた。

 一度見れば、ウィル・ストレイトはその原理を理解し、模倣する。

 それが――――この学園で最もともに時間を過ごした御影ならば猶更だ。

 

「鬼炎万丈……!」

 

 次いで飛んできた瘴気刃の群れを、大戦斧で叩き落す。

 巨大な斧はしかし重量はなく、むしろ遠心力と膂力任せに軽快に、しかし強烈に振るう。

 

 彼女がいなかったら、きっと自分は一人の殻に閉じこもっていただろう。

 自分を御影は引っ張って、その世界に連れ出してくれた。

 一々至近距離で囁いて来たり、体を寄せてくるのには困ったけれど。

 強く、優しく、美しく。

 姫という概念を体現したような人。

 アルマとは違った意味で、ウィルに前を向かせてくれたのだ。

 

「味な真似をするのぅ……!」

 

 ゴーティアの動きが変わる。

 瘴気を飛ばすだけでは足りず、彼我の距離も近づいたから。

 全身に纏わせた瘴気を、両手両足に収束させることで格闘戦へ適応。

 攻撃がヒットすれば瘴気が相手を侵食し、命を削る。

 大戦斧は重量を感じさせないとはいえ、武器としての大きさ故に大振りになる。故に、瘴気刃の影に隠れ接近し、コンパクトにしかし高速で拳を打ち込み、

 

「!」

 

 大戦斧が産んだ遠心力を乗せた―――蹴りが、ゴーティアの()を撃ち落とした。

 

「トリウィア先輩―――技と知識を借ります」

 

 刃にしたり眷属を生んでた瘴気を体の部位に収束させるなんて、どう考えたって危ないって分かる。

 だから、それがどんなものか考えるのだ。

 威力の強化か何かしらの付与効果か。

 良く分からないので瘴気で覆われていない肘を撃ち落とす。

 「知りたい」というのはただの欲望ではない。

 現実で直面する問題への対処方法。

 武器形成を応用させ、即席の脚甲としながらゴーティアの拳や足先には触れず、肩や肘、膝のような関節部位に狙いを澄まして蹴り足を射出する。

 

 彼女がいなかったら、実際主席の責務をやり続けることなんてできなかっただろう。

 自分は学も碌にないのに彼女はいつだって嫌な顔をせずに教えてくれた。

 仲良くなればなるほど、私生活が自堕落で放っておけなくて。

 案外、可愛いとこがあるものだなと思った。

 いつだったか、シガーキスを最初にした時は心臓がうるさくて聞こえやしないか焦ったものだ。

 知識に呪われたと嘯くけれど。

 彼女の知識はウィルにとって祝福だ。

 アルマとは違った意味で、道の歩き方を教えてくれた。

 

「鬱陶――――」

 

「!」

 

「――――しぃ!!」

 

 爆発は、文字通り一瞬だった。

 両手両足が、文字通りに爆散したのだ。

 肉体は憑依であり、本体が瘴気である故の末端部位の自爆。手足を失ったとしても瘴気で賄うことが可能な選択だ。

 末端の部位故に範囲は決して広くはない。それでも至近距離の格闘戦を行っていたウィル相手ならば十分で、

 

「がっ!?」

 

 残った背中に――――衝撃が突き刺さった。

 

「なっ……?!」

 

 吹き飛びながら驚愕する。

 一瞬だった。ほんの一瞬だった。

 その一瞬で、ウィルは移動し背後に回り攻撃を行っていた。

 そして見る。拳を振りぬいた黒髪の少年を。拳にリングを、背に同じものを六つ―――翼のように引き連れたウィルを。

 見た瞬間に、彼の姿が消えた。

 

「っ―――ぐおっ!」

 

 消えたと思った瞬間には、腹に踵が落ちた。地面に叩きつけられたと思えば、全く違う方向からリングの衝撃。吹き飛んだ先でさらに拳。

 スーパーボールのように攻撃を受けながら、ウィル本人も攻撃の度に加速する。

 その動きは、言うまでもなく。

 

「フォン―――翼を借りるよ」

 

 アース111における最速の種族である鳥人族の最速であるフォン。

 その動きを完全に模倣した連続超加速機動連撃。

 ≪メンス・サーナ・イン・コルポレ・サーノ≫の移動補助と体裁きが実現した翼を持たぬ身での飛翔。

 かつて亜人の祭典で行ったそれよりもさらに高い完成度で、神速を以てゴーティアを打撃し続ける。

 

 彼女がいなかったら自分は未来も過去も向き合うことができなかったかもしれない。

 自分のどうしようもない過去へのトラウマと折り合いをつけるきっかけをくれた。

 理不尽に未来を奪われた自分が、彼女の未来を守ることができた。

 それは、自分にとって確かな救いだったのだ。

 まさかそんな自己満足の結果に奴隷になるなんて思わなったけれど。

 いつも快活で明るく、元気のいい彼女はそこにいるだけで場が明るくなる。

 自分にはもったいない子だ。

 自分なんかの為に、彼女は羽搏いてくれる。

 彼女がウィルの翼だからと。

 アルマとは違った意味で、未来を示してくれたのだ。

 

「≪キティウス・アルティウス――――フォルティウス≫ッッ!!」

 

「■■■■――――!」

 

 最大加速を乗せた一撃がゴーティアの顔面に直撃した。

 七つのリングが輝き、七色のソニックブームが翼となってウィルの背後で弾けるほどに。

 ひと際勢いよくゴーティアの体が大地を削りながら吹き飛ぶ。

 アルマが来る前に圧倒された時とはまるで逆の光景だ。

 それはゴーティアに余裕がなくなり、眷属がいなくなり、出力も落ちた故の真っ向勝負であるからであり、そして、それ以上に何よりも―――

 

「―――よし、()()

 

「…………へ?」

 

「なっ!?」

 

 吹き飛んだ先に、光の魔法陣がゴーティアを拘束した。

 ゴーティアもウィルでさえも驚き、周囲、自分たちを取り囲むようにドーム状に展開されきった魔法陣を見る。

 半径十数メートルの大規模半円。極細の文様が大小数えきれない歯車を構成し噛み合いながら回転している。

 完了したと、彼女はいった。

 だが、

 

「……あの、一分どころか30秒くらいなんですけど」

 

「うん」

 

 アルマを見る。

 彼女は軽く顎を上げてから頷いた。

 癖だろうか。

 可愛い。

 

「ほら―――()()()()()()()()()()()()()? ()()()()()()()

 

「―――――ははっ」

 

 思わず笑ってしまう。

 そう、頑張れって言ってくれたから。

 だから自分は頑張った。

 だから彼女も頑張った。

 ただ、それだけの話。

 

「ウィル、手を」

 

「はい」

 

 彼女の下に戻り、指し伸ばされた手を取る。

 小さい手と細い指。

 華奢で少女らしい手に思わずウィルの胸が高鳴った。

 そういえば、出会った時に手を差し伸べてくれたけど握り返すことができなかったなと、今更気づく。

 苦笑しつつ、しっかりと彼女の手を握った。

 

「ん」

 

 当然のように五指を絡めた。

 心臓が高鳴るどころかちょっと暴れかけた。

 アルマの顔が見れなくて、真っすぐに魔法陣に捕らえられたゴーティアを見た。

 アルマもアルマですまし顔だが内心にやけ面を抑えていたのでどっちもどっちだ。

 

「……何をしとるか貴様ら」

 

 円球状に展開された魔法陣に捕らえられたゴーティアは思わず吐き捨てる。

 展開されている術式が複雑すぎて読み取れないが、しかし焦りはない。

 なにしろアース111において本体ともいえるゴーティアは、しかしマルチバースにおいては端末に過ぎないのだ。

 故に、此処で倒されたとしても、倒された瞬間に全ての記憶と経験は別のアースの自分に転写される。

 この場における敗北は、決して敗北ではない。

 対応策を増やし、アルマもまたそれに対応して魔術の幅を広げて来た。

 だからこそ、アルマとのイタチごっこがずっと続いているのだから。

 

 

「―――彼の転生特権(チート)、この世界における全系統適正。それ故に君は彼を学園に引き寄せたんだったか」

 

「む……? それが、なんだ」

 

「彼の特権は、全系統適正じゃあない」

 

「――――なに?」

 

 ウィルの右腕とアルマの左腕。繋いだ手からリング状魔法陣が生まれ連なる。

 ゴーティアは目を見開き、アルマは笑みを深めた。

 

「正確に言えば全系統適正自体が間違っているわけじゃあない。転生特権によってそれがあるのは間違いじゃあない。僕も最初は気づかなかったくらいだしね。結論から言えば―――元々持っている特権の結果、全系統適正を得ているだけ」

 

 それは些細な違いではあるものの。

 しかし根底を覆す気づきだった。

 

「彼の転生特権――――それは、()()()()()()()()だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。例えば、別の魔法法則の世界に生まれればその世界における最大限の才能補正を得ただろう。例えば職人、クロノの世界、精霊が統べる世界では精霊との親和性を。暗殺王、ロック。精神と肉体が直結している世界ならば彼の肉体はあらゆる目的に反映し成長するようになるだろう」

 

 そう、それはまさしく特権だ。

 無限に等しいマルチバース。それぞれの世界にそれぞれの物差しがある。

 ウィルは、それらに対して常に最大に適応する特権を持っているのだ。

 オーソドックスな属性魔法世界なら分かりやすいだろう。彼はあらゆる属性魔法が使える。

 ソウジのようなステータス・クラス制の世界でも良い。彼はあらゆるクラスになれる。

 或いはナギサのように役割が明確に差別化されている世界でも全ての役割を熟せるのだ。

 

 分かりにくいのはマキナのような魔法が存在しない世界やアース・ゼロのような世界だがおそらくその場合にしても結局あらゆる行為への適正を持つだろう。

 適正とはすなわち才能だ。

 言ってしまえばあまりにも陳腐だけれど。

 彼は、彼がやりたいことをいくらでもできるような性質を持っている。

 

「肝要なのは――――魔法・魔術系統が世界の根幹法則を担っている場合。世界法則への最大適性―――即ちそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、つまり。

 

「名づけるのならば―――≪万象掌握≫。文字通り森羅万象の法則に掛かる鍵を開け、世界そのものを書き換えられる」

 

 まさしく転生特権。

 秘めた才能を完全に発揮できれば、彼は神にもなりうる可能性を秘めているのだから。

 

「っていやいやいやいや!! アルマさん! これ! この術式! ちょっと複雑すぎて僕には意味が分からないんですが!?」

 

「ん、まぁそれはそうだ」

 

 隣で、二人の腕、周囲に広がり続ける魔法陣を見てウィルは悲鳴を上げた。

 アルマが術式を用意してくれているのは知っていた。だが、ここまでの術式の複雑さとは聞いていない。

 これまで35系統からピックアップして使っていたのに対し、これは35系統を35系統でそれぞれ乗算して掛けているようなもの。

 ウィルも別に頭が悪いわけではないが、普通の頭でそれこそスパコン並みの処理を求められてはどうしようもない。

 

 そう、それがウィルの転生特権の弱点だ。

 彼はあらゆる可能性に対する才能を持っている。

 突き詰めれば神にも等しい。

 

 だが、それはあくまで可能性だ。

 当然ながら難易度は極めて高く、ウィルにとってはそれ自体は不可能と言ってもいい。

 なんでもできる可能性はあるけれど、だからといって実際なんでもできるわけではないのだ。

 転生特権の副次効果として、一目見れば大半の動きを模倣できるだけでも十分。

 

「確かに、君だけじゃあ無理だろう! はははは! ――――だけど!」

 

 だけどと、アルマは笑う。

 そんなことは分かっているのだ。

 

「君が全てを開ける()なら! その()()は僕が用意しよう! 僕の特権は―――≪森羅知覚≫! 僕は世界のあらゆる法則を読み取り、解析し、知ることができる! まぁ、それをどう扱うかは人力でそのせいで死ぬほど魔術を勉強しなければならなかったんだが! 些細な問題だね!」

 

 いうなれば世界における全網羅攻略本だ。

 彼女はあらゆる法則を知ることができる。知ることができるだけで、実際に身に着けたり、実行するのは彼女自身の努力だが研鑽は1000年にも及んだ。

 だから、次元世界最高の魔術師になった。

  

 ウィルは鍵で、アルマは錠前なのだ。

 ウィルはあらゆる扉の鍵を開けられる。ただし、錠前がどこにあるのか、それを見つけなければならないし、見つかる保証もない。

 アルマはあらゆる扉の錠前になれる。ただし、その鍵を開けられるかどうか努力次第で、それができるようになるまでに数百年かかった。

 片方だけでは完璧とは言えない。

 可能性を秘めているが万能ではない。

 或いは、なんでもできるのになにもできない、ということになりかねない。

 

 ――――――だけど、二人なら?

 全ての鍵と全ての錠前が揃っているのなら?

 

 意思と魂が希望を真っすぐに進めば―――不可能はない。

 

「うぁおおお……?」

 

 例えばそう、アルマが作り出した魔法はあまりの複雑さにウィルは理解しきれない。

 膨大すぎる情報を彼は処理しきる才能と可能性はある。だけどそれはあくまで可能性と才能に過ぎず、今の彼では現実問題不可能だ。

 魔法の発動を行う右腕が暴れ、震える。

 彼だけでは絶対に発動できない。

 だけど、

 

「ん」

 

 アルマが軽く顎を上げてほほ笑み、繋いだ手に力を込めた。

 赤い瞳が黒い瞳に語り掛ける。

 大丈夫。

 僕がいるよ、と。

 

「―――」

 

 眼を奪われる。

 その二つの紅玉、魂が吸い込まれた錯覚に陥る。

 音も震えも消え去って、世界が揺れる白銀と輝く真紅だけに。

 それだけで、いい。

 それだけで十分だった。

 少女は少年に、前を向かせてくれた。

 彼女は彼に、道の歩き方を教えてくれた。 

 紅い瞳は黒い瞳に未来を示してくれた。

 

 アルマ・スぺイシアはウィル・ストレイトに希望をくれたのだ。

 

 だから、大丈夫。

 震えが止まり、心も落ち着く。

 今発動した魔法は9割意味が分からないが、それでいい。

 彼女を信じているのだから。

 

「大丈夫、大丈夫だ、ウィル。これは確かに常人が術式を見ればまぁ脳みそ弾けるくらいの情報密度だが! 君の特権があれば問題はない! まぁ理解できないのは仕方ない! 僕に比べれば全人類馬鹿だしね! だとしても!!」

 

 さらっととんでもないことを言ったが、まぁそれでも信じよう。

 赤い目が輝く。

 

 

「この超天才様(ボク)監修――――馬鹿でもわかる究極魔法だ!」

 

 

 光が軌跡を描く。

 赤、青、緑、黄、茶、白、黒。この世界を構成する七属性。

 それ五つのグラデーション。一つの色が溶け合い、混じり輝く虹色に。

 二人の繋ぎ組んだ腕から周囲を覆っていたアルマの魔法陣へ。

 世界が、虹色に包まれる。

 歯車と時計盤を模した魔法陣らが回転し、加速し、さらなる光を生み溢れ出す。

 それはまるで一つの宇宙のように。

 否、事実、ウィルとアルマはそれぞれ持つ特権を以て、この単一宇宙における法則に干渉しているのだ。

 

「きさ、まら、これは―――!」

 

 ドーム状魔法陣から溢れる光は、ゴーティアを捕らえてた魔法陣に注がれていく。

 ゴーティアでさえ、数多のマルチバースに偏在するそれでさえも効果を読み取れない。

 だが、今この場で、この状況で、先ほどのアルマの言葉通りだとしたら。

 

「そう! これは世界法則への干渉――――貴様という偏在存在における他次元への接続を断つ! 根本的に! 貴様だけを世界から切り離して消滅させる!」

 

 つまり、

 

「お前は、記憶も経験も別のお前に転写できない! はっはははは! いやぁ気分がいい! 死に覚えするせいでアホみたいな攻撃手段覚えさせられたんだからなァ!」

 

「き、貴様アアアアアアアアアアア!」

 

 ゴーティアの恐ろしいのはほぼ無限に増えるということ。

 マルチバースに偏在し、一体倒しても解決ではない。

 そして倒せば、その世界で学んだ情報、憑依した依り代等々を蓄積することで本体に還元していく。

 無論アルマもまたそれを防ごうとしたもののうまくいかなかった。

 アルマ・スぺイシア1人では不可能だった。

 だけど――――今、彼女はウィル・ストレイトと共にいる。 

 

「―――ウィル!」

 

「はい、アルマさん!」

 

 繋いだ手を掲げた。

 光の奔流を纏い、風が2人の外套を巻き上げ、髪を揺らす。

 新生の輝きの中、2人は共に手を振り下ろし、

 

『――――≪究極魔法(アルテマ・マジック)≫』 

 

 共に、言葉を紡いだ。

 

 

『―――――≪ドゥム・スピーロー・スペーロー≫』

 

 

 一瞬、静寂が訪れた。

 時間が止まったかのように、何もかもが色を失ったかのように。

 だが、直後何もかもが動き出す。

 高く澄んだ音が鳴り渡り、全ての魔法陣が、歯車が、時計板が、光となって弾け飛ぶ。

 濁流の光がゴーティアを中心に収束し、圧縮し――――そして何もかもが消え去った。

 

 後にはただ、七色の光の粒が雪の様に漂い残るだけ。

 世界を食らうものの痕跡はどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 

「……終わった、んですか」

 

「あぁ、完全消滅だ。こうなるとあっけないものだね」

 

 掌に光の粒を落としながらウィルは息を吐く。

 隣のアルマは肩を竦め、苦笑しつつ頷いた。

 顎を上げて、光の残滓を見つめながら息を吐く。

 

「……長かったな。これができるまで」

 

 400年越しの成果、端末とはいえ完全消滅。

 文字通り、革新的だった。

 

「や……やった……!」

 

「お、おいおい」

 

 ウィルが、彼にしては珍しく声を大きく上げる。

 繋がったままの手をぶんぶんと振る。 

 勢いと体格差故に、小さな少女が軽く転びそうになるほどに。

 

「やりましたよ! いやほんとに……なんて言うべきか……ありがとうございます! アルマさんがいなければ、どうなっていたか……!」

 

「……いや、うん。いいさ、僕も助かった」

 

 喜ぶウィルにアルマは小さく微笑み、空を眺めて。

 

「ウィル」

 

「はい?」

 

「―――――ここまでに、しようか」

 

 するりと、手を離した。

 

 

 

 

 

 




ドゥム・スピーロー・スペーロー
生きているかぎり私は希望をいだく
プリキュアマーブルスクリュー……ではなくて。
ウィル・ストレイトとアルマ・スぺイシアの究極魔法。
二つのチートの合わせ技による世界改変。

ゴーティアの次元規模での接続を断ち消滅させる。
あくまで対ゴーティア用の発動ゆえに事前準備さえ行えば他のあらゆる行為・結果を導き出す文字通り神の一手。
それぞれの世界に応じた術式構築と魔法陣展開にアルマでさえ膨大な時間を有するものの、それに見合うだけのもの。

タイトル回収


ウィル
全ての鍵

アルマ
全ての錠前
これで終わり

感想評価いただけると幸いです。
次回多分一先ず最終話

好きなキャラは?

  • ウィル
  • アルマ
  • 御影
  • トリウィア
  • フォン
  • マキナ
  • クロノ&アルカ
  • ロック
  • ソウジ
  • マリエル
  • ナギサ

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