超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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エクイヴァレント・イクスチェンジ

「僕の使う魔法は、君たちの使う魔法とも他の世界の魔法とも根本的に術理が異なる」

 

 学園校舎のある図書館の一室。

 世界最高峰の学舎として、そこには多くの学術書・魔導書の原本、写し本等々が納められている。まだ新学期が始まって一週間、もう少し時が経てば日々の課題や自身の研究に励む生徒で溢れかえるだろう。少なくとも新生活が始まって一週間で図書館に足を運ぶ者は相当なもの好きだ。

 当然、書架の中机を挟んで向かい合うアルマとトリウィアも物好きに入るのだろう。

 

「この世界の系統魔法も含め、大概の世界の魔法は物理現象の再現だ」

 

 机の上、広げた小さな右手の平の上に小さな水球が生まれる。

 拳よりも少し小さいくらいのサイズのそれは落ちることなく浮き続ける。

 煙草を蒸かすトリウィアは眼鏡を抑えながら黙って聞いていた。

 ただ何も見逃さぬように、聞き逃さぬように、アルマの掌を凝視ししていた。

 

「体内、或いは周囲にある力、魔力とか呪力とか精神力とか、とにかく呼び方は千差万別だけど何かしらのエネルギーリソースを消費して、術式や個人が先天的に持つルールに乗せて魔法を発現するわけだ」

 

 水球を左指で軽く触れると、それが一瞬で氷の玉になった。

 それを掌で握るとすぐに蒸気が上がり、何も残らなくなる。

 

「…………お見事」

 

 ただ、トリウィアの眼鏡が曇って真っ白にはなったが。

 

「おっと失礼」

 

「いえ、よくあることですし」

 

 曇った眼鏡のフレームを何度か叩けば、視界のクリアさが戻ってくる。

 

「君にも見事と言っておこう。実にスムーズだ」

 

「これくらいは日常使用の範囲ですしね。この2か月で完全に系統魔法を把握しているアルマさんにはとても」

 

「うむ。その賞賛受け取っておこう。学習と修練は得意分野だ」

 

 アルマは口端を吊り上げながら顎を上げ、トリウィアは肩を竦めながら形の良い唇から煙を長く吐き出した。

 

「話を戻そう。世界によって差異はあるにしても現象の再現、あるいはそこからの改変ということは共通している。ある世界にはない現象だとしてもどこかの世界にはあるからね」

 

「ふむ……私たちの魔法系統も確かに物理現象に存在します。ただ『封印』や『時間』、『浄化』というものは?」

 

「『封印』は『鎮静』とかで代用できるだろう。要は活性状態から非活性状態への移行だ。『浄化』も毒素や害の排出だし。観念としてまとめられているだけだ。『時間』にしてもそうだね。普通に生きていたら物理的には触れられないとしても確かに存在しているのだから」

 

「……ふむ。確かに私たちは1つの結果をそれぞれが持つ系統で独自に再現するものですしね」

 

 小さく頷く。それはトリウィアにとっては前提であり、常識のようなもの。

 ウィルとアルマを除けばこの世界で最も多くの系統保有者であり、この世界で有数の魔法研究者にとっては今更過ぎる話だ。

 

 それでも彼女はその話を遮らない。

 これが前置きであることを分かっているから。

 

「では、僕が得意とするものは何かというと」

 

 アルマは机の上に重ねられていた本を取る。

 何てことのない本だ。重なったそれはこの世界の地図や風土、宗教、文化のもの。アルマがこの世界を学ぶためにトリウィアが選んだ参考書だ。

 「王国の歴史入門」という本だ。

 

 それを手にしながら、逆の手で指を鳴らし、

 

「こういうこと」

 

 本だったはずのものがマグカップになっていた。

 二人の間に漂う珈琲は紛れもなく本物だ。

 

「…………うぅむ」

 

 眼は離していなかった。

 なのに、いつの間にか本がマグカップに変わっていたのだ。

 

「ほら、どうぞ」

 

「どうも…………ぐあっ」

 

 貰った珈琲に口をつけたらあまりの濃さにトリウィアは仰け反った。

 またしてもいつの間にか同じものを取り出したアルマは当然のように喉に流し込んでいるが。

 

「……………………濃すぎます。よく飲めますね」

 

「僕にはこれくらいがちょうどいいんだ」

 

 肩を竦めながらマグカップを置き、

 

「僕が使う魔法は言ってしまえば()()()()()だ」

 

 両手の間に小さな白い光が生まれる。

 手を広げればそれは線になり、複雑な文字とも模様とも言える図形にゆっくりと変化していく。

 

「≪アカシック・ライト≫、と僕は呼んでいる。これを媒介として世界法則そのものに干渉・改変するというわけだ。今はだいぶゆっくり出したけど、さっきみたいに小物を出したりするくらいならもう必要なくなった。昔は予備動作色々必要だったけどね」

 

「……うーむ」

 

 青と黒のオッドアイが細まり、≪アカシック・ライト≫を凝視するが、

 

「私にはどうにも理解しきれませんね。何か特別な力がある……というのだけはなんとなく解りますが、それにしてもどういう原理なのか全く謎です」

 

 嘆息しながら煙を吐く。

 

「そりゃそうだ。僕だってこいつを出せるようになるのに10年くらいかかったんだぜ?」

 

「……そんなに?」

 

「僕にもそういう時期はあった。そっから術として確立させるのにも随分かかったしね。今みたいにあれこれ自由にできるのは……えぇと、700年くらい前かな」

 

「……つまり、完全に習得するのに300年は掛かると」

 

「まぁね。もっとも、僕の場合はかなり効率は悪かっただろうが」

 

 思わず苦笑してしまう。

 アルマの特権≪森羅知覚≫は得られる情報量そのものは文字通り世界全てだが、かつての彼女にはそれを正しく処理することができなかった。

 

 まさしく出会った頃のウィルと同じと言える。

 できることが多すぎて、逆にできない。

  

 眼の前にあらゆる知識があるけれど、それ通りに実践するのは簡単なことではなかったのだ。

 

「これは単一世界だけではなく、マルチバースの根底に通じる力だ。難易度は当然高い」

 

「……後輩君が、あの魔族を倒したのもその力ですか」

 

「そうだね。ただあれは僕がサポートした上だ。ウィルもウィルで特別だからできる可能性はわりと高いけどそれでも一朝一夕……いや、うーん。彼は次元門は開いてたしな、模倣くらいならいけるか。無理をすると脳が弾けそうだから基本やらないようにとは忠告したけど」

 

「なるほど」

 

 頷き、煙草の灰を灰皿に落とす。

 咥え直して煙を深く吸い込んでから吐き出して、

 

「――――私は、可能ですか?」

 

「可能だ」

 

 聞いたのは即答だった。

 

「マルチバースを理解すれば使えるんだから使えるのが当然だ。難易度が死ぬほど高いだけでね。その点君は僕から見ても実に優秀だ。総合力という点で見ればクリスマス……建国祭で集まった人間でも最高級だろう。故にできる」

 

 紅玉の瞳を輝かせ、掌に魔法陣を浮かべた彼女は笑う。

 

「時間は掛かるだろうけどね」

 

「けれど不可能ではない。知ることができる」

 

 ならばと、トリウィアの唇が薄く歪む。

 酷薄、とさえ言っていい。

 普段無表情な彼女だが知識に、知ることに呪われたと自らを嘯く彼女は、目前に広がる途方もない未知に歓喜しないはずがない。

 或いはそれが途方もないものだとしても。

 ただの未知ではない。

 本来この世界に生きていれば知ることができるはずのない叡智。

 人生を懸けても満足することはないのかもしれない。

 自分には身の丈にも合わないものかもしれない。

 

 けれど――――「知りたい」という気持ちを抑えることができないのがトリウィア・フロネシスという女だ。

 

「……けれど」

 

 短くなった煙草の灰皿で火を笑みと共に消しながら彼女はアルマに問う。

 

「よかったのでしょうか、私に教えても」

 

「流石に誰にでも教えるわけでもないし、相手を選ぶけどね。君なら問題ないだろ」

 

 それに、と。アルマは周りに積まれている本を手に取る。

 

「ここ2ヶ月、君には色々教えてもらってばかりだったしね。おかげでまぁ、この世界の一般常識は体験できた。情報としてではなく、経験として。それの感謝でもある」

 

「私としてはまるで価値が釣り合っていませんけれど」

 

 新しい煙草に火をつけた彼女は肩を竦めた。

 吸い込んだ煙を、唇を突き出しながら少し上に長く吐き、

 

「私からすればただの常識、それこそ誰でも教えられることです。アルマさんの知識とはまるで価値が釣り合いそうもない」

 

「価値なんてものは人それぞれさ。僕にとっては価値があるものだった、非常にね。それに僕の知識は逆に難易度が高すぎるから、むしろ逆に釣り合いが取れているかもしれない。教えても一朝一夕で身につけられるものじゃないからね」

 

「んん……ま、教えてもらえるのならばありがたく」

 

 そういうものか? とは思ったが一先ず受け入れておく。

 知りたいことに関しては微に入り細を穿つが、そのための手段に関してはわりと細かいことを気にしないのがトリウィアである。

 

「それで何から始めますか?」

 

「さて、そうだな」

 

 アルマは顎を上げ、少し思案気な表情を浮かべ、

 

「――――今日は難しそうだな」

 

 嘆息と共に、突然パチンと指を鳴らした。

 彼女の小さな頭の背後、大きな魔法陣が浮かび上がり、

 

「ぶべっ!?!?」

 

 赤い髪の大きな女が激突した。

 

 

 

 

 

 

 

「な、何故そんなことをするのじゃ!? アルマ様!!!!!」

 

 爬虫類のように縦に割れた瞳孔の金色の瞳。白い肌の頬や首筋に浮かぶ赤い鱗。

 鱗と同じ色の真紅の髪は無造作にポニーテールにされて、その両側頭部は赤黒の角が突き出している。

 学園指定の制服は通常通りだが、しかし本人も含めてサイズ感が狂っている。

 身長約2メートルに近く、それに伴い何もかもが大きい。

 3年主席―――即ち、現在の学園における生徒のトップ。

 生徒会会長、龍族の女、カルメン・アルカラ。

 

 涙目で膝をつく―――それでも座ったアルマと視線の位置はあまり変わらない―――彼女にアルマは振り返りながら呆れつつ、

 

「君のその巨体で飛びかかられたらどう考えても潰れるだろう」

 

「そんな! アルマ様ならばなんとかするじゃろうと思うて……!」

 

「なんとかして防いだじゃないか」

 

「なるほど!」

 

「……」

 

 発達した犬歯――どころか鋭くギザギザした歯を見せながら笑うカルメンに思わず半目になるアルマだった。

 正面に向き直した視線の意味は「こんなのが主席でいいのか?」というものだった。

 しかしトリウィアは無言で肩を竦めるだけ。

 

「カルメンさん、アルマさんが困っていますよ」

 

「むっ、トリウィアかえ」

 

 自身の先輩の存在に今更気づいた彼女が立ち上がれば、猶更大きい。

 アルマもトリウィアも首が痛くなるなぁと内心思う。

 

「全くお主ともあろうものが分かってないのぅ! なにせ、アルマ様は!」

 

「アルマさんは?」

 

「アルマ様じゃからな! がっはっはっは!」

 

「………………がっはっはー」

 

「おいこら乗るな。顔が笑ってないぞ」

 

 巨大な背と胸をそらして拳を腰に当てて笑うカルメンに、無表情で煙草を咥えたまま声だけで笑い声を出すトリウィアに、顔を引きつらせて突っ込むアルマという空間の完成だった。

 

 カルメン・アルカラ。 

 300歳という龍としては成人一歩手前故に、人種との友好の為に大陸極西ある龍の里より訪れた火龍。

 入学当時、彼女に戦力的に勝てた生徒はトリウィアのみであり、教師でもごく一部という実力者でもある。

 

「がーはっは!」

 

 しかし、見ての通りアホだった。

 身体はデカいがノリと頭が軽かった。

 飛ぶことにしか頭がない鳥人族のフォンとは違い、長命で存在そのものが強大であるが故に大概のことに頓着する様子がない。

 ノリが軽い故にいつだったか、トリウィアによりサバトじみた祭りが発生したことがあったがそれに対して憤ることもない。

 

 どうせ100年もしたら死ぬ相手に怒っていられない、というのが彼女の言である。

 

「……君、デカい身体でさらに胸を張って高笑いするな。首が痛いよ」

 

「おぉ……! アルマ様に心配していただけるとは光栄なのじゃ!」

 

「それ止めろ。君の方が先輩なんだし、君がそういう態度を入学式で取ったせいでクラスメイトとかに微妙に引かれてるんだぞ僕」

 

「そんな……うちの里の大長老の爺と同じくらいの魂を持つアルマ様に失礼な態度は取れないですのじゃ!」

 

「止めろ止めろ。大体なんだその口調。似合ってないぞ」

 

「人間は100歳近くなるとこういう話し方になると聞いた故に。三倍年齢のワシもそうするべきと思ったのですじゃ」

 

「いや、まぁ、それはそうなんだが……いいのか?」

 

「本人が納得してるからいいんじゃないですか?」

 

「ですじゃ!」

 

 その理論で行くと10倍年齢のアルマはどんな口調で話すべきなのか。

 考えるだけで頭が痛くなる。

 

「後輩君は、今のアルマさんの喋り方は好きそうですが」

 

「おっっっほん!」

 

 唐突なキラーパスに咳ばらいを一つ。

 どういう感情で言ってるんだと思ったが、例によって完全に無表情だった。

 

 無駄に魔法で眼鏡を光らせて目も隠している当たり、トリウィアも大概アホかもしれない。

 

「全く……というかカルメン。ただちょっかい掛けに来ただけか? 何の用かな」

 

「おぉ、そうでありもうした」

 

「口調マジで変だぞ」

 

「へへっ」

 

「褒めてないんだが?」

 

「話が進みそうにないので進めてください、カルメンさん」

 

「うんむ。というかアルマ様とトリウィアのこと……ついでにウィル、御影、フォンもなのじゃが」

 

「ん……その5人? 僕たちだけじゃなくて」

 

「学園長が探しておったぞ。なんだったか……ユリウス、なんとかちゅー人間がアルマ様に会うとかなんとか……」

 

「曖昧すぎだろ。トリウィア、知っている人かな」

 

「…………えぇ、まぁ」

 

 わずかに眉をひそめ、青と黒の眼を細めた彼女は煙草の火を消し、

 

「ユリウス・()()()()()

 

「………………ん?」

 

「―――――このアクシオス王国の、現王です」

 

「……把握してなかった僕が言うのもなんだけど、よく忘れられるな自分がいる国の王の名前を」

 

「へへっ」

 




アルマ
王様の名前まであまり興味がなかった……というか身分自体への興味が薄い。何でも知りたいトリウィアと違って、必要なことだけ知りたいという塩梅。
何でも知ることができる故に、経験重視派。
折角ウィルと一緒に生きるんだから自分で直接学ばないとね♡

後で口調の話をウィルにしたら、やはり今が一番良いと言われて撃沈した。


トリウィア
別世界の法則を学ぶことができてテンション激やば。
ここしばらく、アルマにアース111の文化を直接教えたのが彼女である。
二年生時、カルメンに低温と消火と加重やらで火龍としての能力をメタりまくったことあり。

カルメン
のじゃデカドラゴン娘
ノリが軽いアホ……であるが、そもそも大半の人種と寿命も基礎スペックも違うので一々気にしない。見下してるわけではないので、結果弄られがちの愛されキャラ。
生徒会面子はまっとうに認めている。

次回、王様謁見準備&クリスマスで流れたアレについて


それでは最後にこちらをご覧ください

【挿絵表示】


HITSUJIさんにskeb依頼をして「僕が君の希望だよ」こと雌オチ三段活用シーンを挿絵にしていただきました。
僕が君がずっと求めてた希望だよ♡
僕がこの状況の希望だよ♡
僕がクリスマスプレゼントだよ♡
最高。
あまりにも最高。
ハイライト入った真紅の瞳が美しすぎますね。
ありがとうございます!!!
自キャラのイラスト最高過ぎて心の栄養になりますね。

該当シーンに挿絵追加するのでよければごらんください


感想評価、イラストへのコメントあるとモチベになります。

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