超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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諸々解説の為に、過去一の長さです


ニュージェネレーション

 

「聞いたか、婿殿? 私、聖国の王族の血も引いてたんだな、はっはっは! いや知らなかった!」

 

 生徒会に御影の笑い声が響き渡る。

 けれど、ウィルは全く笑えなかったし絶句していた。

 アルマは口端を引きつらせ、トリウィアは煙草の灰を床に落とし、フォンでさえ小さな口をあんぐりと開けている。

 3年主席、龍人のカルメンは王族ということに興味がないのか無反応だったが。

 広い生徒会室、中央に大きな長方形の机、奥には生徒会長の机があり、右壁には大きな黒板が。

 今は大半が、黒板に向かってコの字型に着席していた。カルメンなどは席に着かず、アルマの横で膝立ち――それでも座っているアルマより背が高い――だ。

 

「はっはっは」

 

 とんでもない発言を聞いた天津皇国第六王女、皇位継承権第一位の天津院御影は一頻り笑って、

 

「面倒なことになりそうだな、()()()()()

 

 黒板の前に立つ、その事実を教えてくれた先輩の名を呼ぶ。

 三年次席パール・トリシラ。

 聖国出身らしい濃い褐色の肌。所々赤と青のメッシュカラーを入れた金髪のサイドテールに羽根飾り付きのシュシュ。

 生徒会室備え付けの黒板の前に立つ彼女はジャケットではなく複雑な刺繍に染色がされた薄い布聖国風の伝統衣装―――それをパーカー風にアレンジしたものを羽織っている。

 御影が聖国王族の血を引いているというのなら。

 彼女もまたそれに近い。

 

 『聖女』。

 

 それは宗教国家トリシラ聖国にとっては極めて重要な立場の名であり、国の名前を背負っていることからそれは伺える。

 そして彼女は、

 

「いやー、ほんとだよねミカちゃん。私も聞いた時マジびっくりしてさぁー。え、これどーすんのって感じ。あはは」

 

 けらけらと破顔して笑っていた。

 ウィルは思った。

 現在、掲示板は開いてないけれど、もしもリアルタイムで実況していたのなら掲示板の人たちはこう言うだろう。

 

『――――――く、黒ギャル……!』

 

 胸元は第二ボタンまであけられて、膝上までしかないミニスカートとか、カラフルな付け爪とか。ついでにかばんにやたらキーホルダーが多い所とか。

 ウィルからすれば、生前はほとんど関わりがないタイプの人種だったので初対面ではわりと面を食らった。

 誰に対しても分け隔てなく優しく、面倒見も良いタイプのギャルなので問題はなかったが。

 最初アルマがちょっと嫌そうだったのが懐かしい。今ではお互いに上手くやっている。 

 パールはオタクにも優しいタイプのギャルなのだ。

 

 主席が人間と価値観が違い過ぎてアホであるカルメンと分け隔てなく優しくキャラ的にも成績的にもスクールカーストップであるパールが次席、というのが今代の三年生である。

 

「え、えっと……すみません。パール先輩。ちょっとびっくりしすぎてついていけてないんですけど」

 

「おっ、まー、そーだよねー。ウィルっち。改めてちゃんと説明すっかー!」

 

 垂れ気味なアメジストの瞳にウィンクを決めて彼女はチョークを手に取った。

 

「……むぅ」

 

 根本的に陽気なギャルというのが苦手なアルマだが、憮然とした顔をしつつもノートとペンを取り出してメモの準備をする。

 別にウィンクがおもしろくなかったとか、そんなせこい嫉妬深さを出しているわけではないのだ。

 

「さってと。1,2年生組は聖国は行ったことないらしいし、この時期だとまだ授業でも政治形式まではやってないだろうから最初から説明するねー」

 

 細い指を使い、黒板にチョークで『聖国』とパールはまず書き込む。

 左足に重心を傾けながら立つ彼女は、何かを思い出し、

 

「それじゃあパール副会長の聖国講座、はっじまるよ~! おーっ!」

 

「お、おっー!」

 

「おー!」

 

「おー!」

 

「おー」

 

「……おー」

 

「お?」

 

 上からウィル、御影、フォン、トリウィア、アルマ、カルメンである。

 カルメンは話に興味がないようで、アルマのノートをのぞき込んでいた。

 

「さーてと。まずはそれこそ王様の話っしょ」

 

 「聖国」と書かれた文字の下に「教皇=王」と書き込まれる。

 

「うちの国は、いわゆる王様がそのまんま教皇っていう立場なんだよね。これだけだと呼び方が違うだけなんだけど、宗教国家なあたりちょいと特殊な作りになってて」

 

 『教皇=王』の真横に『導師』が並ぶ。

 

「この『導師』ってのがいわゆる政治指導者だねー。内政とか国交とか、そういう国として必要な仕事はこの『導師』がやってるってわけ」

 

「ふぅん――それが()()だね?」

 

「あっはっは、アルちゃんさすが~」

 

 顎にペンを当てて指摘するアルマに、パールは破顔する。

 『教皇=王』と『導師』の間に『<』の不等号を書き、

 

「んー、いいや」

 

 『教皇=王』に大きく×を追加した。

 

「ぶっちゃけ、教皇はお飾り的な? 宗教的なトップだけどあくまで名目っていうかー、あはは」

 

「ここ、笑いどころなんですか?」

 

「笑わないとやってられない、的な? ウィルちはそういう時ある?」

 

「………………」

 

「もー、真面目に考え込まないでよー、ウィルちの真面目さーん―――アルちゃんはこういうとこ好きなの?」

 

「ごほぐぁ!?」

 

「あぁ! アルマ様! お顎におペンがお刺さっておるのじゃ!」

 

「いって……いや、おい、顎を触るな。よだれを付けようとするな」

 

「しかしワシのおよだれにはお傷をお癒すお効果ありますじゃ!」

 

「いらんいらん」

 

「てかカルちん、何でもかんでも頭におつければいいってわけじゃないっしょ」

 

「おマジ?」

 

「話を進めろ……あ、こら。ウィルに御影に……トリウィアもか? 何笑ってるんだ!?」

 

「ふふっ……いえ。すみません。パール先輩、続きをお願いします」

 

「ほいほーい」

 

 3年生2人にもみくちゃにされているアルマは、はたから見ると可愛いものだった。

 

「で、教皇がお飾りっていうのはまー、しゃーないっちゃしゃーないんだよね。ここからは歴史のお勉強だけど、昔はそんなことなかったんだよ。そもそも、いろんな民族がそれぞれ定住したり遊牧したりしてたし、なんなら今の聖都を奪い合ったり……ま、そんな昔の話は置いといて」

 

 やれやれと溜息を吐き、黒板に新たな文字を書き込んだ。

 『大戦』、と。

 それに対して口を開いたのはトリウィアだ。

 彼女は新しい煙草――先ほど落とした灰はちゃんと自分で回収した――に火をつけつつ、

 

「第一次魔族侵攻ですね。ただの魔族との戦闘ではなく、大戦と呼ばれるきっかけにもなった――聖国氏族への虐殺」

 

「そそ、流石トリっち先輩。昔の聖国は『双聖教』の繋がりはあったけど、言ったように各民族同士はわりとバチバチしてたんだよね。そんな中で魔族の侵攻が始まって当時14あった大部族の内、3つが壊滅したってわけ。そりゃあもう大変」

 

「確か……それをきっかけで、既に雛型ができていた王国や他の国との協定が結ばれたんですっけ」

 

「いーねーウィルっち、ちゃんと勉強してる」

 

「ここまではなんとか。テストにも出たばかりですしね」

 

 大戦関係の歴史は2年生に入って歴史の授業に組み込まれているようになった。

 今現在、この世界の世界情勢を決定づけたものであるため、時間をかけてしっかりと細部まで学ぶらしい。

 なので、逆に言うと授業で学んでいるのは初期までだ。

 

「ふーん。2年はこういうのやるんだ。亜人連合だとずっと≪七氏族祭≫やってるし、変な感じ」

 

「おー、わかるわかる。わかるぞフォンよ。ワシも未だにピンとこん」

 

「………………」

 

 笑うカルメンに、しかしフォンは珍しい半目を向けていた。

 こうはなりたくないと、顔が物語っている。

 

「それで、パール先輩?」

 

「ういうい。みんなで集まるとついつい脱線しちゃうねー」

 

 にへらとほほ笑み、パールは『大戦』と『導師』を丸で囲み線で繋ぐ。

 

「元々教皇は宗教的なトップで第一次侵攻の時は、宗教上の理由がどうこうで他の国とちゃんと足並み揃えてなかったんだよね。けど、大部族が3つも滅んだから慌てて残りの部族を集めて王国とかと協力するようになった。その時に実際にやり取りするようになったのが『導師』の始まりってわけ」

 

「ん……ということは、今の世界になって結果的に『導師』の地位が上がったのか?」

 

「だーいせーかぁーい。大戦で色々あったせいで各国は色んな協定を結んで協調路線に。その為にはそれぞれの部族の寄せ集めじゃなくてちゃんとした国になる必要があったわけねー。結果的、聖国にとって『導師』、つまり政治家が必要になったわけだ」

 

 ただ、とパールは『導師』をもう一つ丸で囲む。

 

「それから二十年、トリシラ聖国は国としてちゃんと成長していった。そーなると政治や国交ってのは重要度が上がるってわけで。どんどん権力ってのが『導師』に移っていったってワケ。はい、ここまでが『導師』とはなんぞやでしたー」

 

 ウィルは頭の中でパールの話を整理する。

 彼女の説明は解りやすかった。

 

 極端な言い方をすれば、元々それぞれの部族には同じ宗教という繋がりしかなかった。

 だが大戦により、それでは足りなくなったために国家として指導者を置いたのだ。

 それが『導師』であり、実際上手くいったのだろう。

 だから国家として『導師』の権力が強まるのは当然とも言える。

 

「ふむふむ……本で読んでいたが、『聖女』本人から聞けるのは説得力があるな」

 

 アルマのメモの筆も進んでいる。

 一度聞けば忘れないだろうに―――これはウィルもそうだが―――細かいことも記録を取り残しているのはもはや見慣れた光景だ。

 

「……ん、どうしたウィル?」

 

「……いえ、なにも」

 

 顎を軽く上げたアルマに、首を軽く傾げて微笑み返す。

 ウィルはアルマがメモを取る姿が好きだった。

 

「それじゃさっきの話に戻るけど、お飾りっていうのはそういうことね。笑えないっていうのはまー、仕方ないというか、時代の流れっていうか? 私としてもただの宗教家が国を動かすって言われたら困っちゃうしねぇー」

 

「ふむふむ、政教分離というわけか。ちゃんとしてるな」

 

「政教分離、流石よく知っていますのぅアルマ様」

 

「僕は君がその概念を知ってることに今驚愕してるんだが……!?」

 

 ルビーのようなお目目がかっ開かれながら驚いた。

 カルメンはその視線を受け、大きな体で大きく胸を張り、

 

「ふふん。これでも3年主席故、当然のことですじゃ」

 

「補足しておきますが、政教分離は主に王国発足時、初代陛下が提案した概念ですね。厳密には帝国は元々そういう体制でしたが、王国では厳密化されました。≪七主教≫は王国地域に強く根付いていますが、国家運営に関しては原則乖離するべき、と宣言したわけですね」

 

 淀みなくトリウィアの解説が挟まる。

 

「概ね理由はパールさんの話と同じです。ただ、初代陛下は≪七主教≫の顔を立てる為に王家の子女を≪七主教≫のシスターとすることを代々契約しています。今のヴィーテフロア殿下がそれですね」

 

「…………主、主。理解しきれてる?」

 

「まぁ、一応」

 

 聖国に引き続き王国の歴史まで及んで、フォンは眉をしかめているが、ウィルにとって「政教分離」という概念はそれなりに馴染みがある。

 

 そして相変わらず初代陛下は初代陛下が過ぎる。

 

「失礼、脱線でしたね。パールさん続きをお願いします」

 

「はいはい。えーと、そうだね、次の話は……そろそろミカちゃんの話にしよっか」

 

 ニコニコと笑みを浮かべたパールは『教皇』の下に『聖女』と記し、それを線で繋ぐ。

 

「私みたいな聖女っていうのは教皇の候補なわけねー。各部族から保有系統とかで選ばれて、姓も≪トリシラ≫になっちゃうわけ。聖国の方はもう何人かいるんだよ。ちなみに、私が入学した時はその聖女の内、私が一番優秀だったからね! ドヤ!」

 

 パール・トリシラ。

 火・水系統網羅にさらにいくつかの各系統を加え21系統を保有し、≪究極魔法≫すら持つ彼女の才覚は言うまでもない。3年主席が龍人という生命として隔絶したカルメンであることを考えれば在学生の人種で最も強い者と言っても過言ではない。

 ウィルとしても、やはり正面から戦うと勝率は五分五分、ないし若干劣るかもしれない。

 加えて今代生徒会では唯一、回復・治癒も得意としている。

 

「ふむ。パール先輩が優秀であることに疑いは欠片もないが」

 

「おっ、ミカちゃんありがとー」

 

「いえいえ。それで――――私の母が、その聖女だったというわけか?」

 

「うん、そういうこと」

 

「……なるほど」

 

 肯定に対して御影は胸の下で腕を組んだ。

 少し考え、

 

「私の母が聖国出身であることは知っていた。肌の色がそもそも皇国あたりに住む人とは違うし、私もそれを受け継いでいるからな」

 

 彼女の浅い褐色は鬼族と聖国の人種のハーフの証である。

 別に聖国の人間が全員褐色なわけでもないが、褐色の肌を持つ人種は概ね聖国のみと言っても良い。皇国は鬼種の国であり、彼らは皆白い肌を持つ。

 力を以て自ら証明する前、その他者との差異故に民から排斥されたこともあった。

 けれど彼女にとって敬愛する母から受け継いだものであり、誇るべきものだ。

 

「今更、母が聖国の聖女だったと聞いても……その、なんだ。正直反応に困るな。王族は元々だし、このままいけば皇国の次の王は私だ。聖国の教皇の座に手を伸ばせると言われても伸ばす気はない。それを母上と父上が何も言わなかったということは頓着してないのだろう。私の両親はそういう類だしな」

 

 力強く言い切り、そして数秒の後に体が傾いて、隣のウィルの肩に乗り、

 

「………………多分? 存外忘れてるだけか、父上がそもそも知らなかったりするのか? ははは」

 

「いや、僕に言われても……」

 

「そういう所ですよ、鬼種」

 

 おおらかと言うか、大雑把というか。

 学園にいる皇国出身の鬼種はみな気の良い性格だが、大体そんな感じである。

 

「まぁいいだろう」

 

 御影はウィルの肩に頭を預けたまま――片角で耳にちょっかい掛けつつ――、笑みを濃くした。

 ウィルとしては距離が近いはくすぐったいわ良い匂いがして困るのだけれど。

 

「それで、()()は?」

 

 鬼種の姫が砂漠の聖女に問う。

 

「私の生まれに関して教えてくれるのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ご丁寧に聖国の予備知識まで仕込んでくれて。なぁ、パール先輩。そこの所まで教えてくれると、嬉しいな?」

 

 琥珀の瞳が真っすぐにアメジストの瞳を見据え、

 

「――――」

 

 パールはすぐに答えず、ただシュシュを外した。

 そしてラメ入りのリップが塗られた唇を開く。

 

 

「―――()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「貴方の言う通り、御影の出自はきっかけに過ぎない。けれど、決して前置きではなく、貴方にも関係があるというわけよ」

 

 それまでの間延びした柔らかな声とはまるで違う、鋭く明瞭な言葉。

 朗らかな優しい太陽のような雰囲気から一転、細められた瞳や真っすぐに伸びた姿勢はまるで冷たい夜のようだった。

 それに対し、御影は自ら姿勢を正す。

 ウィルの肩に頭を置いて擦りつけたり、角で耳を弄るのは楽しいがパールがこの状態になったのなら、真面目にやらないといけない。

 

 パール・トリシラは二重人格―――というわけではない。

 

 意識的にキャラクターを切り替えている、らしい。

 少なくとも本人はそう言っている。 

 ゆるふわお姉さんからクール系の美女になるので温度差にびっくりする。

 基本的に学園生活においては先ほどまでのギャルモードだが、聖国に関わる話はこちらのクールモードであり、戦闘の時は使用する系統によって切り替えているらしい。

 

 ≪双聖教≫は対極を重要視するというが、此処までするとは流石と言える。

 

「ふむ?」

 

「簡潔に言えば――――聖国でクーデターが起きようとしている」

 

「……!」

 

 ピシリと空気に緊張が走る。

 御影たちは言うまでもなく、この手の話題には興味が薄そうなカルメンでさえ眉をひそめていた。

 

「先ほど『導師』の話をしたけれど、こっちも候補生が数人いる。今代の『導師』は大戦から現役でありそろそろ老齢により世代交代なのだけれど……候補生の内、武力によってその座を奪おうという者がいるの」

 

 そして、

 

「そのために聖女の血を引き、皇国の王位継承権第一位の御影さんを利用するつもりとの情報が本国より届いた」

 

「政略結婚?」

 

 御影が何かアクションを淹れる前に間髪入れずの指摘はトリウィアだ。

 紫煙を吐き出しつつ、煙草を挟んだ指でこめかみに抑えながら微かに顔を歪めていた。

 

「……聖女の血族、次代の皇国女王。普通に考えれば一国の政治指導者の妻にするには位が高すぎますが、皇国となると話が違う。聖国の導師の妻と皇国の王が兼任できてしまう。そうですね、御影さん」

 

「んむ。まぁ、そうだな。少なくとも、うちの国はそういうの気にしないな。人種の政治とは根本的に責任の所在が異なるものだ。その私を使おうとしている何某かが私よりも強いと証明できるのなら、皇国からは何も言わんだろう」

 

「ですが、()()()()()()()

 

 なぜならばと、トリウィアは言葉を続ける。

 

「そもそも、≪アクシア魔法学園≫では在籍時の婚姻は不許可です。それに聖都と王都の物理的な距離を考えれば対面することすら難しい。確かに御影さんを手中に収めれば政治的には有利に立てるかもしれませんが、彼女を利用するのはそもそも実現が難しい」

 

 そして言葉は止まらず、

 

「物理的距離以外にしても、鬼の国を屈服させるだけの強度が下手人にあるとでも? 彼女の戦闘力は世界有数であり、強さを基準とする鬼種に対してその前提を覆せますか? 彼女を手に入れた後は? 聖国が実質属国になるということを帝国が認めるとは思えませんね。何かしらの干渉があってしかるべき―――」

 

「トリウィアさぁ」

 

「……なんですか、フォンさん」

 

「怒ってる?」

 

「…………………………えぇ、まぁ」

 

「先輩殿ー! ほんと可愛い所あるなぁー!」

 

「あっ、ちょ、まっ眼鏡折れ、煙草が……!」

 

 思わず抱きしめてしまう。

 珍しく――と言うほどでもないけれど――感情的に早口になったトリウィアの頭は御影に埋没していた。

 ちょっと、否、だいぶ嬉しかった。

 この先輩は常に冷静だけれど、こういう所があるのだ。

 しかしこの先輩、常時煙草を吸っているのに、抱きしめても全く煙草臭くない。細かい消臭魔法が完璧すぎる。むしろ爽やかないい匂いだ。あとでウィルと共有したい。

 たっぷり10秒ほど彼女を抱きしめ、その間苦笑やら半目やらを受けて、

 

「うむ、満足した。ありがとう先輩殿。私は嬉しいぞ」

 

「………………です、か」

 

 解放した彼女はほんの少し頬を赤らめつつ、乱れた髪を手櫛で治していた。

 

「それで」

 

 嘆息しつつ、アルマが空気を切り替える。

 顎を上げた彼女はどこか気だるげというか―――飽きた、という表情にも見える。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。にも拘わらずこんな話をするということは、その非現実的なことを現実にする傑物がいるのか、或いは現実を理解していない馬鹿がいるかのどちらかだ」

 

「後者よ」

 

 ですがと、パールは前置きし、

 

「その馬鹿は実力と野心だけは人一倍で、放っておくと禍根になりかねない類って感じね」

 

「………………あー、はいはい。そういうことね。ふぅん、なるほど」

 

「アルマ、どゆこと? 主、理解できた?」

 

「うーん……? クーデターの相手が性質が悪いことくらいしか」

 

「性質が悪いのは、この場合()()()だな」

 

 万年筆を指で回しながら彼女は唇を曲げる。

 ウィルは勿論、御影と話している時も浮かばない勘定だ。

 そして紅玉の瞳が、真っすぐに細い夜色の瞳を突き刺すように見据え、

 

「――――君、御影を餌にしてその馬鹿を潰す気だね?」

 

「えぇ。流石ね」

 

 そんなことを言う。

 

「!!」

 

「婿殿、落ち着け」

 

「ですが!」

 

 誰よりも早く立ち上がったウィルを御影が静止する。

 いつも微かなほほ笑みを浮かべている彼の顔には、はっきりとした憤りがあった。

 それが嬉しい。思わず頬が緩みそうになったが、ウィルの向こう側に座っていたアルマが半目を向けて来たので我慢する。

 

「まずは最後まで聞こうじゃあないか。らしくないぞ」

 

「……誰のせいだと思ってるんですか」

 

「…………」

 

 憮然と座る彼に、()()()と角が震えた。

 

「おい、興奮するな。そういう場合か」

 

「……アルマ殿はあれだな。私の興奮メーターをよく理解している。流石だ」

 

「過去一嬉しくない褒め言葉来たな……」

 

「それじゃあワシが褒めましょうかアルマ様!」

 

「パール! 続けてくれ!」

 

「えぇ」

 

 パールは眼の前の茶番に顔色一つ変えなかった。

 かなり真面目なクールモードだなと思う。

 いつもならこの状態でも冗談は言ってくれるのだが。

 

「アルマの言う通り、御影さんを利用する形になるわ。正直、今回彼女を巻き込まない方法は簡単。遠征先を聖国にしなければいい。それで解決だし、向こうも別に当てにしてないでしょう。遠征で来たらついでに使えるか……くらいのはず」

 

 ですが、と言う彼女の表情は変わらない。

 

「その導師候補――ザハル・アル・バルマクは自尊心に塗れた男だけど、有能ではある。クーデターを成功させてもおかしくないし、実際表沙汰にならないように上手く仕込みをしている。まぁ、()()()()の入れ知恵をされてる可能性もなくはないけれど。いずれにしても、私の行動理由は1つ」

 

 細められていた右目が、大きく開く。

 冷たい夜のような色には確固たる意志が。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ふむ」

 

 その言葉でパールの意図を理解する。

 なるほど、確かに御影も同じ立場だったらそうするかもしれない。

 

「…………それが、御影さんを危険な目に合わせるのに関係ありますか?」

 

 ウィルの言葉は棘々しい。

 可愛い。

 

「ある。むしろ、彼女だからこそ」

 

「何故……僕たちはまだ学生で、そんな大きな話なんて―――」

 

「あぁ、婿殿。そこは違うな」

 

 可愛いが、訂正は必要だ。

 眉を顰めるウィルにはあまりピンと来ないのだろう。

 忘れている、というよりもそもそも権力や地位とかけ離れた土地で過ごした故か。

 

「今パール先輩が言ったとおりだ。彼女はこれから聖国の教皇になるし、私も皇国の女王になる。何年か後だとしても。そうすれば、私にも彼女にもそのなんとかという指導者候補との関わりは避けられない」

 

「…………それは」

 

 

「ウィル。忘れないで、この学園は()()()()場所よ」

 

 

 パールは次代聖国教皇候補。

 御影は次代皇国女王。

 この2人にとって国の指導者の是非は、文字通り目前の問題なのだ。

 もっと言うなら、カルメンは存在自体が希少且強大な龍人族。トリウィアは帝国の大貴族の長女。

 加えて、

 

「貴方も去年既に連合で関わっているでしょう。忘れたの? 鳥人族は貴方の行動故に、今後10年、様々な優位性を得た。そうよね、フォンさん」

 

「………………難しいこと私に言わないで欲しいな」

 

 話に加わらずに聞いていただけのフォンも顔をしかめる。

 別に彼女も理解していないわけじゃないだろう。

 むしろ、ここで頷くということはウィルの憤りを否定するものだと理解しているのだ。

 彼女は小難しい話には意図的に黙って聞いているが、しかし意外とそれなりに理解しているのだ。

 いや、可愛い。

 

「仮に拒否するのなら、今から遠征先を聖国以外にするだけね。その場合は単身聖国に戻るわ。上手くいく確率は下がるけれど、全力を尽くしましょう。協力してくれるのなら、確かに危険はあるけどその見返りは」

 

「皇国と聖国の未来の関係値、というわけか」

 

「えぇ」

 

「ふむ―――――いいだろう、乗った」

 

「御影さん!? いいんですか!?」

 

「仕方あるまい。パール先輩がここまで嫌がるということはよっぽど嫌な男なんだろう」

 

「下品な権力主義の象徴のような男ね」

 

「最悪だな。嫌だぞ、そんな男と貿易だとか条約だとか結ぶことになるの。想像すると急に自分事になってきたな。母上の国でもあるし……うん、考えると私的に拒否する理由がない」

 

「………………はぁ、分りました」

 

「諦めろウィル。このお姫様はこういうタイプのキャラだよ」

 

 軽く頭を抱えるウィルの肩を叩くアルマであった。

 彼は少し眉をひそめたまま目を閉じ、数秒後に開き、言う。

 

「手伝います」

 

 力強く、その名の通り真っすぐと。

 

「パール先輩と御影さんの価値観というには僕はまだ理解しきれていませんが、それでも御影さんが聖国の勢力争いで巻き込まれるのは()()()だと僕は思ってしまいます。だから、御影さんが行くなら僕も行きますし、パール先輩のことも手伝いましょう」

 

「婿殿ぉー!」

 

「うわっ!?」

 

 辛抱たまらず抱きしめた。

 制服のブラウスに包まれた大きな膨らみに、押し付ける。布越しとはいえ柔らかさには自信がある。髪をわしゃわしゃと撫で、ついでに背中をさすり、どさくさに紛れて尻を撫で、

 

「――――ありがとう」

 

 耳元に囁く。

 真っ赤になった耳がびくんと跳ねる。

 去年末、アルマを知ってからスキンシップは控えていたが、しかし我慢ができなかった。

 滅茶苦茶嬉しい。

 角がふやける。

 もう食べちゃってもいいんじゃないか?

 ダメか。

 あと1年半我慢すれば、もっと美味しく頂ける。

 

「…………おい」

 

「おっ。すまんすまん。つい」

 

 声をかけて来たアルマの目から光が失っていた。

 仕方ないだろう。

 彼女と自分の胸部は絶壁と山脈だ。

 こればっかりはどうしようもない。

 彼女の成長を祈ろう。

 

「ふふふ、婿殿もたまにはこってり脂を感じてもいいだろう、許してくれ」

 

「………………君、自分への比喩がそれでいいのか……? ……ウィル?」

 

「は、はい! すみません!」

 

「謝るなよ、そういうお姫様だしな…………まぁいい。ウィルがやるなら僕も手伝おう。トリウィア、フォン。君たちは?」

 

「……政略結婚は嫌いです。そうでなくても手伝わない理由はないです」

 

「主がやるなら当然私も!」

 

「アルマ様アルマ様! ワシには聞いてくださらないんですか!? あと乳ならワシが分けましょうか?」

 

「グロいこと言うな。……あー、君は?」

 

「パールとアルマ様、2人がやるなら手伝いましょうぞ! いや、2人が喧嘩しなくてよかったよかった!」

 

「……僕が言うのもなんだけど、主体性の欠片もないなこのメンツ」

 

 国の未来がどうこうという話なのに、半分が「○○が行くなら」だ。

 まぁそういうのも良いと、御影は思う。

 学生っぽい。

 

「……ありがとう、皆」

 

 和らいだ空気にパールは息を吐く。

 彼女も緊張していたのだろう。

 そのまま、彼女は片手で器用にシュシュでサイドテールを結び、

 

「いやー! ほんとみんなありがとーっ! 正直迷惑かなって思ってはいたんだけど、みんなが力貸してくれるとマジ助かるっていうかー! ほんとマジ、皆優しくてマジ上がる! ウィルちも、ごめんね、ちょっと嫌なこと言っちゃって……ほんとごめん!」

 

「あっ、いえ……はい。パールさんにも立場ありますしね……」

 

 ウィルがちょっとたじろぐ豹変ぶりだった。

 何はともあれ、方針は決まった。

 あとは詳細の確認と遠征における細部の仕事の割り振り。

 やることは山ほどある。

 時間は限られている故にすぐに始めないと――――

 

 

「………………あの、すみません。結局何故僕が?」

 

 

 上がった声に、皆の視線が行く。

 声の主は赤髪の少年―――アレス・オリンフォス。

 話の最初から生徒会室にて、しかし部屋の隅で会話に加わらず無言で立っていたのだ。

 そして彼を呼んだのは、

 

「アレっち、王女様と幼馴染で、お父様が前学園長っしょ? こういう大人の事情詳しいかなーって。色々助言欲しいかなーって呼んだんだよね!」

 

「………………」

 

 露骨に嫌そうな顔をしていた。

 そして何故かアルマが深々と頷いていた。

 謎の共感を行っているらしい。

 

「アレス君」

 

「……なんでしょう」

 

「えっと、込み入った話なので無理に関わらなくても大丈夫です。こういう話ですし。話を聞いてからだとなんですけど……」

 

「………………」

 

 十数秒、彼は答えなかった。

 腰の刀の柄に手を当てながら呼吸を繰り返し、

 

「……ここまで聞いて忘れる方が難しいでしょう。聖国の指導者がそんな下劣な人間になられても困ります。聖国産の紅茶と香辛料は質がいい」

 

「わぁー! ありがとアレっち! 今度一杯用意して送るね!」

 

「……どうも」

 

「ありがとうございます、アレス君」

 

「………………いえ」

 

 言葉は少なく、ウィルに対しては目礼のみ。

 いまいち、ウィルとアレス、正確に言えばアレスからウィルへは妙な壁のようなものを感じるが、それも仕方ないだろう。

 何はともあれ、

 

「さて諸君――――私たちで、次の世代を作るとしようか?」

 

 

 

 




ウィル
相変わらずの真っすぐさ

アルマ
乳が小さいことは別にいいけど、
それはそれとしてその乳は反則だろ

トリウィア
政略結婚は嫌いな後輩想い

フォン
何も考えてないわけではない

カルメン
成績はむしろ非常に良い。
アホなだけで

アレス
茶葉と香辛料の為に参戦決定

御影
わりと驚愕な出生やら自分がリスクを負おうとしているのだが気にしてなさすぎる
モノローグの欲望の漏れ具合が凄い
ASMRに余念がない女
無敵か?

パール・トリシラ
オタクにも優しいギャルとクールお姉さんのダブルパンチ
どっちが本性とかではなく、切り替えているだけらしい。
今日はちょっと嫌な言い方しちゃったかなと思うが、それなりに切羽詰まっていた故に。
巨乳

聖国編は生徒会面子メイン。
最近ご無沙汰なバトルも色々やりたいところ
アンケートの別のアースはそのあとくらいに。

諸々真面目な話とかで長くなったのはともかく、
文化掘り下げはやりすぎかな……?と思うんですが、ついつい楽しくなって色々書いてしまう。

まぁ次回は気分転換な話にしたですね。
>1天のアラビアンデートとか。

後書きも長いな今回。

感想評価くれるとものすごい喜びます。パワーッ!になります
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