超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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あけましておめでとうございます

フォン編の開始です


モーニングワーク

 

 ――――太陽の眩さに思わずフォンは目を細めた。

 

「――――っは」

 

 吐いた息は白く、青い空は澄んでいる。

 広げた翼が冷たく薄い空気を掴み、体を押し出していく。

 遥か眼下には王都アクシオスが広がっていた。

 

 王都は十二角形の城壁に囲まれた街だ。

 

 城壁都市というのは人種の街では珍しくもない、というよりもある程度の大きな街ではあって当然だという。

 王国、帝国、聖国ではこれが基本だと学園の授業で習った。

 獰猛な獣、危険な魔獣、天敵たる魔族、或いは人間同士から人という群れを守るための防壁。

 内と外の境界線。

 十二という数には少し違和感があったが、なんでも王国ができるごとに纏めた国やら大きな領土やらを合わせた数だとか、時間と揃えたとか色々理由があるとか。

 これも授業で教えてもらったこと。

 

「ほっ」

 

 翼を広げ、くるりと体を回して加速する。

 毎朝王都の空を飛ぶのはフォンの日課だった。

 朝起きて朝食の前に街をぐるりと。

 普通に歩いたり走ったりすれば一日どころではない時間がかかるがフォンならばその気になれば文字通り一瞬だ。

 尤も全力で飛ぶには()()()()()()()()のだが。

 だからこれはある意味人種のジョギングのようなものだ。

 

「おっ、やっほー!」

 

「おー、フォーン!」

 

 途中、彼女の下あたりで街の外へ向かっていく鳥人族とすれ違う。

 軽い挨拶だけを交わして去って行く背中の大きなカバンは郵便物か何かだろう。

 王都に来て知ったことだが、この街にも数は少ないが鳥人族は住んでいて、主に伝達や郵便物の仕事をしている。

 どんな種族よりも早く移動し、地形条件を無視する鳥人族の有用さは半年前の聖国の一件で証明した。

 もっともアレ自体は鳥人族でもよっぽどなのだが。

 

 そういう風に人種の文化に慣れた同族がいることは正直最初は意外だった。

 人のことを言えないけれど。

 冬になり当然のように長袖の上着やズボンを着るようになってもう1年。

 かつて鳥人族の里にいた頃からは考えられない。

 変わったなぁと思う。

 空を飛ぶことを愛しているのは変わらないけれど。

 

 いつの間にか年は明けていた。 

 人の都に来て一年を超えて、半年ほど。

 新年の祭りを終えたばかりだ。

 冬休みの始まりと同時の建国祭から一週間くらいずっとお祭り騒ぎ。

 ウィルを中心にみんなでダンスをしたり美味しいごはんを食べたり。

 雪遊びをしてみたらちょっとした雪合戦大会になり、三年対一二年連合で学園全部を使った言葉通りの雪合戦になった。

 結局それはどこで調達したのか魔法無しの雪玉ガトリングとかいうのを持ち込んだトリウィアとそれのサポートをする――無理やり付き合わされていたっぽい――アルマとでまとめで無双していた。

 あれはちょっとずるい。

 最初に突っ込んでいったカルメンが一瞬で雪に埋もれたのはちょっとした恐怖だった。

 年明けはみんなでお餅とかいう変わったものを食べた。

 皇国ではポピュラーらしく御影が主導になってみんな餅つきもした。

 ウィルやアルマが妙に喜んでいたのが印象的だった。

 あの二人は結構皇国の文化が好きなようである。

 

『――――フォン、まだ空飛んでるのか』

 

「おっ、アルマ?」

 

 突然、頭の中に声が響いた。

 アルマの魔法による念話だ。

 たまに彼女はこうして語り掛けてくる。

 空を掴み、中空にホバリング。

 

「どーしたの?」

 

『どうしたのじゃないよ。朝の予定忘れたかい?』

 

「え? えーと……朝って…………あっ」

 

『あっ、じゃないよまったく。君が昨日宿題手伝ってくれって言うから手伝ったのに調子悪そうだったからすぐに寝て、朝起きたらなんて言うから部屋に朝食持ち込んで準備してたのに全く来ないじゃないか。冬休みは来週まであるけど僕と君は宿題以外にも生徒会の仕事もあるんだから』

 

「うっわ! ごめん、すぐ戻る!」

 

『そうしたまえ。お茶が冷めるよ』

 

「ありがと!」

 

 背の二枚翼が広がり、閉じるとともに落下した。

 叩きつける風は無意識化で発動する魔法によって緩和され心地よさを齎すが、今はそんな暇はなかった。

 どんどんと眼下の景色は流れて行き、羽を広げる度に加速し真っすぐに学園に向かった。

 いつの間にか学園の反対側にいたので真っすぐに、しかし王城だけは避けて。

 早朝だが街には既に沢山の人が動き出し始めている。

 いくつかの通りで朝市が始まり、街に血が通い出しているのだ。

 移動式のテントを張って遊牧生活を送る鳥人族の里ではまず見られない光景。

 それを見るのもフォンは好きだった。

 だが今はそんな余裕はない。

 

 すぐにやたら広い上に闘技場や校舎が沢山ある学園の上空に辿りつき、寮の自室の窓に飛び込む。

 翼は光を放てばすぐに消えた。

 

「えぇと要るもの……教科書とノートに筆記用具っ。服は、このままでいいかっ」

 

 フォンの部屋は特待生用の一人部屋だった。

 仮にも今年の1年次席だ。

 1人部屋にしては少し広めの寝室、備え付けのシャワーとトイレ。これが成績優秀者用の部屋の特権。普通は二人一部屋でトイレは共用、風呂も同じく共用の大浴場がある。大浴場の方はフォンも良く使うけれど。

 大体御影の乳に挟まれるのが最近は面倒くさい。

 ベッドに勉強机、いくつかの収納棚やクローゼット。このあたりは備え付けであり、ありがたく使わせてもらっている。

 

 個人的に改造する人もいるらしく、御影なんかは大半のものを撤去して畳を敷いていたので驚いた。体のサイズが大きいカルメンは家具一式特注だったし、トリウィアは態々帝国産の高級家具に取り換えたとか何とか言いつつ、ほとんど使っていないようだ。

 

 フォンの場合、床にものが散らばっていることとベッドの隅に抜けた羽根を貯める籠がある以外あまり特別なことはない。

 最近抜け毛ならぬ抜け羽根が多いのはちょっとした悩み。

 

「よしっと……!」

 

 冬休みの寮の中なので制服の着用義務はない。

 運動用の黒いジャージのまま部屋を飛び出した。

 そしてすぐに隣の部屋に。

 アルマ・スぺイシアとはお隣さんなのだ。

 

「ごめーん、アルマ!」

 

「ノックくらいしなよ」

 

 出迎えは苦笑気味のお小言だった。

 フォンと同じ造りの部屋。

 違いはしっかりと整頓されているところと壁際には本棚が並び、びっしりと分厚そうな本で埋められていること、部屋の真ん中に大きめの丸机があること。

 机の上には教科書と紅茶のポットとカップ、加えて籠に入ったサンドイッチ。

 アルマは丸机の奥に座り、細い足を組んでいる。

 人形みたいな容姿の彼女がやると妙に絵になった。

 窓から差し込む朝日のせいだろうか。

 紅茶を手にした彼女は肩を竦め、

 

「おはよう、フォン」

 

「へへへへ……おはよう、アルマ」

 

 頭を掻きつつ、フォンは居心地が悪そうに笑った。

 実際、あんまり良いとは言えなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず宿題ちゃんとやりなよ。数学と歴史、苦手だからってまだ終わってないだろう? 基礎魔法もちゃんとやること。君は系統限られてるからって言って、学科知識は必要なんだから」

 

「はい……」

 

「亜人向け科目はあんまり僕が手伝えないわけだけど、そっちもちゃんとやってたよね。後は……家庭科の実習レポートもあったな。あっちは終わってる? まだ? ならまぁそれ御影に頼んだほうがいいかな。古代語は? 幸い今の範囲は亜人連合の古語だし君にはなじみ深いんじゃないのかい?」

 

「まぁ……って言っても古代ドワーフ語とか聞いたことないし……」

 

「そりゃ古代語なんだからそうだろ。魔導生物学は? あれなら君は嫌いじゃないだろ。それこそ君の故郷には色々いたんじゃないの」

 

「あ、うん! それならもう書いた!」

 

「じゃあとりあえず数学からやろうか」

 

「うん……」

 

 フォンに対するアルマは、わりと手厳しいことが多い――というと、少し語弊があるかもしれない。

 前提としてフォンは座学が苦手だ。

 鳥人族からすれば当たり前のことで机に向かってペンを動かすというのがそもそも奇跡に近い。

 それでも彼女は去年から努力をし、周りに教えてもらってなんとか座学の成績をキープしている。

 大体上の中くらい。

 これは奇跡の二乗分だとフォンは豪語している。

 苦手な数学の問題を解きつつ、そんなことを漏らしてみれば、

 

「まぁ確かに頑張ってはいるね」

 

 軽く顎を上げながら彼女は同意してくれた。

 恐ろしいことにアルマは宿題を終えたようで、フォンがつまった時にアドバイスをしてくれるだけ。

 

「実際数人だけいる鳥人族の1年生の座学は成績落第ギリギリで、実技でなんとかって感じらしいし、そう思えば君はよくやっているよ」

 

「へへへ……そう?」

 

「うん、それは認めよう」

 

「わぁい」

 

「でも、課題終わり切らなかったら元も子もないね」

 

「はい……」

 

 ぐさりと、彼女の正論が突き刺さる。

 がっくりと肩を落としたフォンを眺めながら、アルマは形の良い唇を少しだけ曲げた。

 

「しんどいならもう少し優しくしようか?」

 

「…………いや、しんどくないと嘘になるけど! 頑張らないわけにはいかないよっ! ()()()()()()()()!」

 

「そうかい」

 

 くすりと、彼女は笑った。

 フォンも問題に向き直る。

 

 勉強に関して、厳しくしてほしいとアルマに頼んだのは他ならぬフォンだった。

 自分が勉強が苦手なことを、フォンは入学前から分かっていた。

 だから入学して最初のテストの時に彼女に頼んだのだ。 

 勉強を手伝って欲しいということ。

 そしてなるべく厳しくしてほしいということ。

 

「びっくりしたけどね、最初は」

 

「でも、受け入れてくれたじゃん」

 

「そりゃあね、必死に頼まれたし」

 

「むぅ……今思い出すとちょっと恥ずかしい」

 

「それに」

 

「それに?」

 

「ウィルに心配かけたくないっていう理由は気に入ったからね」

 

「そりゃあ……私は主の奴隷だからね。主に勉強を教えてもらうのは楽しいけど、なるべく迷惑を掛けたくないよ」

 

「僕なら良いのかい?」

 

「うっ……」

 

「ははは、冗談だよ。ほら、頑張るのもいいけどサンドイッチも食べなよ。片手で食べられるようにしたんだから」

 

「ん……ありがと」

 

「どういたしまして」

 

 言われた通りにサンドイッチを齧る。

 チーズと卵、野菜に香辛料を効かせたものを軽く焼いたもの。

 フォンの好きな味だ。

 

「……流石まるちばーす? 最高の魔術師」

 

「生憎これは観察眼。僕じゃなくても君の好みくらい知ってるさ。君だってそうだろう?」

 

「…………アルマの好みはよく分んないけどね。味が薄くて香りが強いものか、やたらめったらに味が濃いかじゃん」

 

「――――ふふん、いや全くだね」

 

 軽く顎を上げ、目を細めた彼女はしっとりとほほ笑んだ。

 あまり見ない笑顔の理由はよく分らない。

 フォンにとってアルマ・スぺイシアという少女は主の恋人だけれど、それだけではない。

 頼んだから厳しくて、けれどフォンが音を上げそうになった時少しだけ優しくしてくれて、だからこそフォンは頑張れる。

 何気に、学園生活で彼女と一緒にいる時間が長いのは自分なんじゃないだろうか。

 クラスも同じだから授業も受けているし、同じ宿題が出るから自然と二人でやることも多い。

 ウィルと一緒だとフォンの集中が若干乱れることもあるけれど。

 フォンが頑張って勉強をして、その合間に嘆息と苦笑交じりに小言を言ってくれたり、微笑んだり励ましてくれたり。

 いつも世話を焼いてくれる頼れるクラスメイト。

 それがフォンにとってのアルマ・スぺイシアという少女だ。

 マルチバースというのは未だによく分らないけれど、そういうもの。

 

 それから小一時間ほどフォンの宿題は続いた。

 なるべく自力で解いて、どうしてもわからなかったらアルマに教えてもらう。

 彼女は教え方が上手いから、彼女の説明を聞くのはフォンは結構好きだった。

 

「ふぅぅぅぅ……あー、とりあえず一区切りだぁ」

 

「お疲れ様。……ふむ、結構進んだね。これならまぁ、一応間に合いそうだ。次の春休みはもっと計画的に進めるといい」

 

「ぐぅ……ほら、お祭りとか忙しかったし」

 

「ならいいけどね。昨日は祭りで色々手伝ったりはしゃいだりして疲れてるからかと思ったけど、午後も頑張るように」

 

「はーいお母さん」

 

「誰がお母さんだ。これ以上家族関係をややこしくしないでくれ」

 

「?」

 

「……こほん。気にしないように」

 

 軽い咳払いで何かを誤魔化していたが、気にしないと言われたので気にしない。

 勿論まだ終わっていないので午後も午後で進めないとなぁと思いながら、外の空気を吸おうと閉じていた窓を開ける。

 

「ふぅ」

 

 頬を撫でる冬の冷たい空気。

 三階から道に視線を落とし、その先に、

 

「あれ、主?」

 

「ん。御影とトリウィアもいるな」

 

 寮から出て行ったのだろうか。

 3人の背中が見える。

 トリウィアが寮にいたというの珍しいが、そういえば昨日は寮の食堂で5人一緒にご飯を食べた。

 

「どこ行くんだろ?」

 

「あの3人というと、春休みの入学試験についてじゃないかい? ほら、毎年新3年生が入学試験の主催するって話だろ? つまりウィルと御影だ。試験内容も2人が決めるわけだしね。色々お祭り終わったらやらないととか言ってたし」

 

「あぁ……確かに」

 

 遠く、3人の背中を見る。

 何か話しながら歩いている様子。

 当然といえば当然だが、距離が近い。

 元々そうだったけれど、御影は半年前から、トリウィアは秋から日々の距離感は近づいて、そしてもうそれが自然に見えるようになった。

 ぼんやりとその背を眺めて、

 

「僕らも行くかい?」

 

「え? でも宿題あるよ?」

 

「うん?」

 

 僅かにアルマは赤い目をぱちくりと瞬きをして、肩を竦めた。

 

「まぁ僕らも関係ない話ではないしね。聞いててもいいんじゃない? 君だってちょっとは外の空気吸ったほうが効率が上がるだろ。勿論、時間の様子は見て切り上げたほうが良いと思うけど」

 

「……アルマは、僕の使い方が上手いね」

 

「君は分かりやすいからね」

 

「むぅ、何も言えないな」

 

 その言葉には嫌な感じはなくて、ちょっと嬉しいくらいだった。

 けれど、アルマに良いと言われれば全く問題ない気もする。

 そうなると疲れも吹っ飛ぶという話。

 

「ようし、それじゃあ主たちを追いかけよう! アルマ、一緒に飛ぶかい?」

 

「あぁ? いや、僕にはマントがあるし」

 

「よし、捕まっててね!」

 

「うわ、ちょ、腕を掴むな! マント! おいマント! 早く来い! これほんとに飛ぶ奴だ!」

 

 慌てるアルマの手を強引に取り、窓枠に足を掛ける。

 服の内側の刺青が光って翼を広げ、

 

「行くよぉ!」

 

「自分の意思じゃない飛行はちょっと嫌なんだけど!」

 

 飛び出して。

 

 ―――――――()()()

 

「あれ?」

 

「―――――フォン!?」

 

 そのままフォンは地面へと落下した。

 羽ばたいたはずの翼は、空を掴むことなく落ちる。

 多分、生まれて初めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――フハッ」

 

 王都アクシオスの城壁。

 それを見つめる一人の男がいた。

 端を紐で絞って開閉するタイプの筒形の革袋――ボクサーバックと呼ばれる―――を肩に引っ掛けている。

 背中が開いた変わった衣装の服。

 その背には――――()()()()()()()()()()()()()()()

 彼は城壁を、その先の街を見据えて笑った。

 

「来たぞ――――待たせたな、フォン!!」

 

 

 




フォン
初めて落ちた翼の少女

アルマ
普段は主導権握ってるけどたまに強引に巻き込まれるな……という感じ

謎の男
間男三銃士最後の一人


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