超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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アズ・ユー・ライク

 

 斜面に作られた集落がある。

 広がる家屋は石造りではあるが、不思議なことにブロック状の切り石を組み合わせたものではない。まるで巨大な粘土で作った家を固めたように家の繋ぎ目がないのだ。

 それらは地龍の魔法によって地面から作り出された建物だ。

 ≪龍の都≫の建造物はどれもが古の魔法によるものであり、人種やドワーフのような技術で物を作るのではなく自然の一つとして生み出すのだ。

 壁面は赤く塗られ、鉢植えが吊り下げられ色を加えている。

 それらの集落の奥、斜面の先はむき出しになった土の広場になっていた。

 この≪龍の都≫にいくつかあり、その中でも体術の為の稽古場だ。

 

「なるほど。カルメンさんもそうでしたけど、龍人種の体術は人種と根本的に違うんですね」

 

 ウィルはその場所にて数人の龍人に囲まれていた。

 彼を含めその場の全員が上半身は裸であり、息が白くなる気温ながらも汗をかいている。

 手には刀代わりの木の棒が。

 龍人たちはそれぞれ外見は人のものではあるが、やはり体のどこかに鱗があり、頭部には様々な形の角が生えていた。

 

「んだんだ。龍つーは人種とは膂力が違うでなぁ。ぶっちゃけ体術は要らねぇちゅうのもわりといるんだべ」

 

「肯定。我等龍人生命強靭故」

 

「でーですのでー、私たちのよーうにーそーれを鍛えるのは珍しいのーです」

 

「はぁ」

 

「んだべ体の使い方ちゅうもん学ぶのはおもろいかんな」

 

「龍人故龍人限定体術可能」

 

「カールメンもーそーのあたり学んでいーるはずー」

 

「種族適正は僕でも真似するのは大変なんですけど……あの、一つ聞いていいですか?」

 

「んだ」

 

 ウィルは苦笑気味に首を傾け、小一時間ほど稽古をつけてくれた相手に質問をした。

 

「その……何故そんな特徴的な言葉遣いなんですか?

 

「あぁ、それだべかぁ」

 

 身長二メートル近い、濃い茶色の鱗を持つ龍人は頷き、

 

「おらたちが共通語を学ぶんは、たんまーに外から来る本だったり人伝手だったりするかんな。どしてもそのあたり癖が出るんだべさ」

 

「左様。実際我等是為口調好感保有」

 

「龍神様に教えーてもらう者も多いけーどねー。そーいつらは普通に話すーさ」

 

「なるほど……」

 

 そういえばカルメンも人から聞いてあの口調だったことを思い出す。

 それから少し会話をし、広場の隅に足を向ける。

 肌寒いが、しかし運動の後ではその冷気が心地良い。

 足を進めた先、同じようにズボンだけで休憩している少年がいる。

 

「やぁ、アレス君。お疲れ様」

 

「……先輩も、お疲れ様です」

 

 

 

 

 

 

「どうぞ」

 

「あぁ、ありがとうございますアレス君」

 

 革の水筒をウィルへとアレスは手渡した。

 隣に座り水分補給をする先輩の肉体の造りに少しだけ驚く。

 初めて会った時からまた数センチ伸びた背だが、普段は制服と肩幕のせいで見えなかったものが見えた。

 予想以上に練り上げられた肉体だ。

 黄金律ほど完璧ではないが、全身にバランスよく筋肉を纏っている。剛性と柔軟性、瞬発力と持久力を保持した体だ。

 薄く割れた腹筋や血管が浮いた腕は同性であっても惚れ惚れする。

 普通に闇雲に鍛えただけではこうはならない。

 

「……」

 

 対照的に元々痩せ型である自分は、彼と比べてしまうとどこか貧相に感じてくる。

 別にアレスも鍛えていないわけではない。

 針金を束ねたような痩身だ。

 ただ彼は抜刀術に極振りしているタイプだ。

 近づいて抜刀し、斬る。

 基本的にはこれが全て。

 そのために肉体の鍛錬もそれに合わせて必要最低限の筋力と体重、それから瞬発力に長けた筋肉を作り出している。

 一切の無駄をそぎ落としている故に密度はあっても外見的な筋肉量は左程でもない。

 ウィルに比べるとどうしてもみすぼらしさが否めない気がする。

 

「ん、どうかしましたか?」

 

「……いいえ、なんでも」

 

 勝手に比較して勝手に落ち込むのはあまりにも馬鹿らしい。

 下らない思考を振り払いながらも、彼と同じように水分を補給した。

 

「ストレッチしますか。押しますよアレス君」

 

「いえ、僕が先に押しましょう」

 

「いえいえ」

 

「先輩ですし……」

 

「いや先輩ですから……」

 

 何度か似たようなことを繰り返し、結局アレスが根負けした。

 シャツを着て、アレスが両足を広げればウィルが背中を押す。

 

「いっちにーさんしーごーろぉくしちはーち」

 

「……」

 

 間延びしたウィルのカウントに合わせて左足からゆっくりと熱を持つ体をほぐして行った。

 そんな先輩を見てアレスは口を開いた。

 

「先輩は」

 

「にぃーにぃー……はい?」

 

「思ったよりも平気そうですね」

 

「…………そう見えますか?」

 

「えぇ」

 

 問いに頷き、

 

「…………失礼でしたか?」

 

「いえ」

 

 ウィルは苦笑で返した。

 アレスは右足に柔軟を切り替え、ウィルも背中を押す。

 

「そうですね。確かに思い詰めているというほどではありません。思う所はありますけど。今僕があれこれ悩んでもとも思います」

 

「はぁ。……彼女に何か言わないんですか?」

 

「言ってしまえば、きっとフォンは僕の言った通りにするから」

 

「―――」

 

 アレスは言葉に詰まった。

 それは聞こえ方によって傲慢であり、自分勝手なものだ。

 けれどウィルの言葉にそんな色は無かったし、そんなことを思う人だともアレスは思っていなかった。

 だからだろう、ウィルも背を押しつつ続けた。

 

「僕はですね、もう一度フォンの人生を変えちゃったんですよ」

 

 知っている。

 まだアレスが入学する前、≪共和国≫にいた頃だ。

 当時≪亜人連合≫の勢力図を決める≪七大氏祭≫にて鳥人族代表だったフォンが負傷し、ウィルが代理で出場した。

 その代理を通す為にフォンはウィルの奴隷ということになったのだ。

 正直最初フォンからウィルの奴隷だと名乗られた時は、この男は一体どんな鬼畜野郎なのかとドン引きしたものだが。

 

 年下の活発な少女の体に入れ墨を入れて露出度の高い服を着せて奴隷にしているハーレム野郎とかちょっととんでもない。

 

 実情はフォンの押し付けのようなものだし、服装や刺青は種族由来のものだったが。

 合っていたのはハーレム野郎ということだけ。

 それにしたってウィルが御影やトリウィア、アルマと同じくらいフォンを大事にしていることをアレスは知っている。

 春からこの冬までずっと見て来た。

 

「フォンは随分と変わったんですよ。1年までは冬でも可能な限り薄着だったり、長袖とか着なかったり。勉強……は僕に隠れて入学の準備をしていたり。空に生きるはずの鳥人族が、飛ばない日を作ったり。彼女が本来辿るはずだった人生とは全く違うものになってしまった」

 

 訥々彼は語る。

 そこにあるのは苦悩でも歓喜でもない。

 ちょっとした気恥ずかしさのように感じた。

 それを聞きながらアレスは体を正面に伸ばす。

 すぐに背への後押し。

 

「こんなことを自分で言うのもなんですけど。フォンは僕がこうしてほしいって言えばその通りにしちゃうんですよ。それは……なんというか」

 

「彼女には自分の意思で選んで欲しい?」

 

「えぇ、まぁ。一言で言えばそうなります」

 

 なぜなら、

 

「僕はフォンと飛ぶのが好きなんですよ」

 

「……」

 

 フォンが、ではなく。

 フォンと。

 その違いはなんとなく大きい気がする。

 少なくともアレスはこの1年彼女と同級生をしていて、ウィル以外誰かの翼になっているところは知らない。

 例外はいつか、王城から『彼女』の助けに行った時か。フォンがウィルたち4人を引っ張っていたのを見た記憶がある。

 

「―――」

 

 少し、記憶が疼いた。

 感傷だ。

 今は関係ない。

 

「だからフォンの翼を失うのは悲しい。でも……フォンが翼を失ってまで僕と生きることを選んでくれるのも嬉しい。酷いですよね」

 

「そんなこと……ないと思います」

 

 自分の愛しい人が。

 生まれ持った全てを投げ出してでも自分と歩んでくれるのなら。

 それは。

 或いはかけがえのないものではないだろうか。

 また少し不要なものが疼いた。

 

「ありがとうございます。……まぁ、御影の時は憤って、トリィの時は翻弄されて。こういうのも三度目ですから。ただ彼女の選択を受け入れたいなと」

 

「受け入れる――」

 

「えぇ。彼女が何を選び、何を捨てても。それを受け入れるのが僕の責任だと思うんです」

 

「…………責任」

 

 重い言葉を使うなと、アレスは思った。

 少なくとも今の自分にはあまり縁がない概念だ。

 

「彼女が選択をしたら。僕がやることは、彼女の選択が間違っていなかったと、そう思わせることなのかなって思うんですよね」

 

「…………」

 

 何気ない彼の言葉は真っすぐな優しさに溢れていた。

 多分それは、愛と呼ぶものかもしれない。

 同時にアレスに胸に何かが生まれる。

 それを何と呼ぶかは、分からなかった。

 

「………………変わります、先輩」

 

「あぁ、はい。お願いします」

 

 柔軟の立場を入れ替えた。

 ウィルが足を広げ、アレスが背中を押す。

 

「いっちにーさんしー」

 

「……5、6、7、8」

 

 彼の掛け声に合わせ、少しだけリズムは合わない。

 左に揺れる背中に体重を掛けながらアレスは言葉を零した。

 

「先輩は優しいですね」

 

「………………」

 

「……先輩?」

 

「えと……いいえ。そんなこと言われるとは意外でした。僕はアレス君には嫌われてると思っていたので」

 

「なんでまた……」

 

「色々巻き込んでますから」

 

「自覚があったんですか……!」

 

「ははは」

 

 思わず呻いたが、先輩から帰ってきたのは苦笑だった。

 続けて文句を言ってやろうと思ったけれど、

 

「僕にとってアレス君は可愛い後輩ですからね」

 

「……」

 

 そんなことを言われたら何も言えなくなる。

 ウィルは右の足に体重を移す。

 

「僕のことは嫌いでも、生徒会のことは嫌いではないでしょう?」

 

「……別に先輩のことも嫌いではないですよ」

 

「おぉ!」

 

「……ちょっと苦手かもですけども」

 

「………………ですかぁ」

 

 押し込む力が少し弱まった。

 だからちょっとだけ何を言うか迷って、

 

「優しいなと思ったことも、嫌いではないのも、本当です」

 

 だって、

 

「僕は、責任とか選択とかそういうものとは無縁の人生で……流されてばかりでしたから」

 

「…………………………エウリディーチェ様の」

 

「あれは忘れてください」

 

 早口で返した後、ウィルを正面から押す。

 それから思うことはこれまでの人生だ。

 

「父に拾われ、≪王国≫で育ちました。いくつか普通なら体験できないこともしましたし、上流階級のマナーとかも学びましたけど5……いえ、もう6年前ですね。≪共和国≫に引っ越して、当然のように学園への入学を目指して」

 

 それから父のあんなことがあって。

 それでも他にやることがなくて学園に来た。

 白い目で見られるだろうと思っていたのに。

 思ったよりも悪くない学生生活だったけど。

 

「それでまぁ今こうして≪龍の都≫で先輩の背中を押しているわけです」

 

「……波乱万丈ですね」

 

「学園に来てから僕が頭を抱えたのは半分以上先輩のせいですよ……っと」

 

「うおっ」

 

 最後に強めに押して、自分はその反動で立ち上がる。

 

「……いや、何も言えませんね」

 

 彼は申し訳なさそうに苦笑していた。

 別にそんなことも無いのにと勝手に思う。

 生徒会に入り浸るようになったのは御影の手腕と自分の趣味によるものだ。

 そういう所が。

 

「……」

 

 なんだろうか。

 ウィルが立ち上がろうとし、アレスは手を伸ばさなかった。

 

「流されてばかり、か」

 

「?」

 

 体を伸ばしながらウィルは呟いた。

 

「そんなことないと思うんですけどね」

 

「……自分で言うのもなんですが、流されている自覚しかありません」

 

「あはは」

 

「……」

 

 ウィルは笑い、アレスは半目で睨み付けることで無言の抗議を敢行した。

 けれど彼は首を傾けて微笑んだので意味をなさなかったらしい。

 

「気づいていないだけで、アレス君は自分で選択していることがあると思いますよ。そうに決まってます」

 

「勝手なことを言いますね」

 

 押し付けというよりも信頼とか信用とかそういうものだった。

 自己評価よりもウィルのアレスに対する評価の方が高いのだ。

 それは気まずくて、どう反応していいか困ってしまう。

 自分で選択したこと。

 そんなことが、あっただろうか。

 

 ――――また、記憶が疼いた。

 

 綺麗な中庭。

 ささやかな花壇。

 目の前で座り込んで泣いている誰か。

 彼女に幼き日の自分は手を伸ばして。

 

「……」

 

 脳裏に過る遠い残滓を振り払う。

 それはきっと、もう意味のない思い出だ。

 手垢のついた子供しか喜ばないような小さなおもちゃ。

 だからそのおもちゃを心の奥にしまって鍵を掛ける。

 溜息を一つ。

 真っすぐにこちらを見ているウィルを、真っすぐに見返すことはできずアレスは空を見上げて息を吐いた。

 

「―――――先輩は勝手ですよ」

 

 




アクシア魔法学園1年シャコ系魚人種絵画専攻一般生徒
┌(┌^o^)┐……

ウィルの筋肉は暗殺王監修

お久しぶりです。
脇で書いていたこっちが完結したので、更新を再開したいと思います。
https://syosetu.org/novel/304768/
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