G1 7連覇を果たしたキングヘイローの陰で 雪辱に燃えたウマ娘の話(育成で生まれたストーリー)   作:郷悟

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 熱量があれば続きます、なければここで途切れます。
 


第一話 日本ダービー

 

『────さぁ、各ウマ娘もつれあって第四コーナーに向かう! これは直線勝負になるか!?』

 日本ダービー、というレースがある。

 最も『強い運を持つウマ娘が勝つ』と言われる、クラシック級のウマ娘だけが出場できる最高峰のレースの1つ。実力伯仲の同期たちが鎬を削る激戦の中、遂に集団から1つの影が飛び出した。

『────キングヘイロー! ここで抜け出した、ハナを進む!』

 緑の勝負服のウマ娘、キングヘイロー。

 皐月賞を制した彼女がぐんぐんと後続との距離を離して行く。その視線が注がれるのはゴールのみ、どこに残していたのか恐ろしいほどの加速を後続に見せつける。

 その背中を隙間から捉えて、この日1番人気に推されていたウマ娘が悔しげに顔を歪めた。

「……ッ! まだ、まだぁ……ッ!!」

『────スペシャルウィークはまだ抑えたままだ! 先頭は3バ身のリード、これは間に合うのか……!?』

 まだだ、まだ間に合う! スペシャルウィークの心は、まだ折れていない。

 この日の為に、皐月賞で敗れた後はそれまで以上に練習を重ねてきたのだ。

 自慢の末脚で追い縋る。最後の直線勝負なら、自分は絶対負けない……!

(……スパートは向こうが先、行ける……!)

 力強く地面を踏みしめ、加速する。

 譲らない、譲るわけにはいかない。日本一のウマ娘になると決めた、その夢のために日本ダービーを勝って見せると自分とトレーナーに約束したのだから。

『だりゃぁぁぁあああああああ……ッ!!!!』

 スペシャルウィークが上がってくる!

 ラストスパート、その迫力に歓声は最高潮の盛り上がりを見せた。

 

 だが、しかし、

 

『───強さを見せつけ、キングヘイローがゴールイン! ダービーを制し二冠達成! クラシック三冠なるのか、伝説は秋の京都へと続いていきます……!!』

 

 キングヘイローは落ちなかった。

 底知れないスタミナで最高速を維持し、リードを維持したまま駆け抜けていった。

 その差、3バ身。言い訳のしようのない実力差が、そこに存在していた。

 

 

 

 レースが終わり、控え室に戻った後もスペシャルウィークの涙が止まることはなかった。

「……ッ、……ひぐッ……」

 彼女のダービーは終わった。

 結果は4位、2位からここまではほとんど同時だったが結果は結果だ、受け止めるしかない。

 それに、この後はすぐウィニングライブがある。メインの舞台にこそ立てないが、4位以下のウマ娘にもバックダンサーとして会場を盛り上げる立派な役割が存在する。

 本当はすぐにでも準備をしなければならないだろう。今日のメインイベントの進行を、1人のウマ娘の都合で止めてしまう訳にはいかないのだから。

 だが、私は待つことにした。

 それは、彼女がとてもライブができる状態じゃないという客観的な判断によるものだが、同時に私情も多分に含まれていただろう。

 だが、どうしても急かすことはできなかった。

「…………トレーナー、さん……、……わたし、負けちゃいました……」

「……そうですね」

 ポツリと零れた言葉をきっかけに、大粒の涙がボロボロと勝負服を濡らしていく。

 そこからは堰を切ったように、彼女の悔しさが溢れ出した。

「絶対、勝つつもりで走ったのに、練習よりも上手く走れたのに……! このダービーで、勝つところをお母ちゃんに見せてあげたかったのに……ッ!! 悔しい……わたし悔しいです、トレーナーさん……ッ」

 彼女の気持ちは、痛いほどに伝わってきた。

 私はスペシャルウィークのトレーナーだ。

 彼女の努力を、日本ダービーに賭ける想いを、誰よりも近くで知ることができた。皐月賞の悔しさを乗り越え、万全とも思える調整をしてこの大一番に臨んだのだ。

 だが、勝負は非情だ。

 勝ったのはスペシャルウィークではなく、皐月賞を制したキングヘイロー。今のクラシック級において、おそらく一番力を持っていると噂されるウマ娘だった。

 打ち砕かれた自信、そして見せつけられた今の実力差。

 夢敗れた今、トレーナーである私は一体彼女にどんな言葉をかけてやればいいのか。

 ……我ながらみっともないほど逡巡した結果、出て来たのは励ましではなかった。

「…………スペさん、あなたの夢は──『日本一のウマ娘になる』という夢は、まだ変わっていませんか?」

 俯いていたスペシャルウィークの視線が上がる。

 自信なさげに、小さく頷いたことを確認して、私は万が一の為にと立てていたプランを説明する。

「ならば、菊花賞です。『最強のウマ娘が勝つ』と言われるあのレースで、キングヘイローより速く走って優勝する。それを、新しい目標にしましょう」

 ──勝算はあった。

 スペシャルウィークは中・長距離を得意とするウマ娘。3000メートルの菊花賞の舞台でも、十分に活躍できるはずだ。

 対して、キングヘイローは長距離を苦手にしていると聞いている。本来は短距離から中距離が得意範囲なのだとか。

 二冠を取った今、菊花賞出走を辞退する可能性は限りなく低い。適性がなくとも三冠を目指して出てくるだろう。

 そこで彼女に勝てば、スペシャルウィークは同期最強のウマ娘になる。

 既に、この世代の話題はキングヘイローの独壇場になりつつある。偉大な母親、強烈なキャラクター、そして確かな実績。

 彼女との対決を避けていては、日本一の称号は限りなく遠くになってしまう。三冠が終わればしばらく休養に入り、次に会うのはシニア級に上がった後────クラシック級で競い合える機会は、もはや菊花賞しかない……!

「勝ちましょう、次のレース。そこで勝って日本一のウマ娘になるんだと、あなたの力を示すんだ」

「トレーナーさん……、……はい! わたし、次こそは絶対に負けません! 一緒によろしくお願いします!」

 

 グッと、硬く手を握りあう。

 決戦は秋、その前の夏でウマ娘は大きく化ける。数多のダービーウマ娘が菊花賞で敗れて来たのも、夏で実力を大きく増した同期に遅れを期したからだ。

 この夏が勝負だ。必ず、あのキングヘイローを越えさせる。

 そう、静かに胸に誓いを立てた。

 

 その後、ギリギリながらスペシャルウィークはライブに間に合い、しっかりとバックダンサーの役を務め切った。

 そして、長いようで短い、大事な夏が始まる。

 

 

 




 
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