可哀想なのは抜けないので転生したら、俺が忌子だった。   作:胡椒こしょこしょ

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今回はとある少女の視点です。


逃避行

「日が暮れるまでに、辿り着かないと.....。」

 

山沿いの道。

私のような下賤の者では名前も分からぬような鳥の音が空高くから響いている。

凸凹とした山道をしっかりと踏みしめて歩く。

 

偶に修験者や行商人と擦れ違う。

人に良く利用されている道ならば、歩きやすいものだと思っていたが当てが外れてしまった。

距離は短いらしいが、歩きにくい。

こんな道をまさか日輪様に歩かせるなんて、私はなんてことを....。

後ろを振り返り、私が誰よりも気に掛けるべき人の様子を見る。

 

「はぁ...はぁ....ど、どうしたのかしら水代?」

 

日輪様は私と目が合うと、尊き身でありながらも親しみを込めた表情で私に笑いかけなさる。

その笑顔に和みながらも、日輪様の様子に目を配った。

額に滲む汗、荒い呼吸に上下する肩。

笑顔を見せてはいるものの、体力的に限界が来ていることは直ぐにわかった。

 

当たり前だ、伊勢からここまで何日も掛かっている。

途中で宿などに止まって休んだとしても、日輪様は本来は朝廷の血を引く巫女として出雲にある野太刀照天神宮で祈りを捧げるという神事を執り行っているお方。

本来は外に出ると言っても神宮の庭に出るくらい。

このような旅は初めてで心身的に疲労していらっしゃるだろう。

それなのに私を気遣って笑顔まで見せるくださるだなんて......っ!

 

「日輪様...、このような悪路を渡ることになってしまい申し訳ありません。もし、よろしければ失礼ながら、不肖この私めの背中に乗ってくださいませ....。」

 

「え...?そんなの、悪いわ。だって水代だってここまで歩いて来てるじゃない。それにわたし大丈夫よ、これでもわたし巫女だもの!自然の中に居ると自然と力が溢れてくるっていう...あわっ!?」

 

「日輪様!!」

 

日輪様が私に元気な姿を見せようと、周りの木々を見回しながら跳ねるように歩くも木の根に躓いてしまう。

転んで怪我をする前になんとか滑り込むように日輪様を抱きかかえると、日輪様はこちらへと笑顔を向ける。

 

「わっ、...ありがとう水代。いつもごめんね...わたし、どんくさいから.....。」

 

「いえ、そんなことありません。貴女様の十全を保つことこそが私の使命でございますから。寧ろ、どのような些末事であっても貴女様をお守りすることをお許しください....さっ、私の背中へ。」

 

「水代....ふふっ、分かったわ。よろしくお願いね。」

 

朗らかに笑う日輪様。

私などのことで顔を曇らせることなんかあっていいはずがない。

私の言葉一つでこの御方の笑顔を見ることが出来るのならば、それ以上に嬉しいことはない。

 

日輪様の重みを感じる。

対して苦でもない、寧ろ尊き身であるこの御方の重みと考えれば少し不安になってしまう程の軽さだ。

でも、それは私などとは違って可憐で気品あるやんごとなき身故の儚さだと思えば納得だ。

この重みこそが、私が守らないといけない重みなのだ。

 

「承知。...安心してくださいませ、坂崎の屋敷はここから行けば程近い。日輪様には畏れ多いながらもこんな端女の背で揺れながらもこの森の自然でもお楽しみなさいませ。」

 

「なんか、心苦しいけれど....でもそうさせてもらうわね。こうした方が水代も助かるでしょうし....。」

 

背負った日輪様にそう告げる。

私の足だけでなら、今日中に辿り着くことは可能なはず。

私の家と同じく最後まで朝廷に付き従ってきた忠臣、坂崎家。

今や私の家も、朝廷すらも幕府によって滅ぼされてしまっている。

私達自身...いや、日輪様も今や神宮に居ては危うい身だ。

だからこそ、何かあった時には坂崎家に行けと私も日輪様も言われていた。

そこに辿り着けさえすれば、ひとまずは安心なはず。

日輪様のお言葉を聞きながらも、そう思った矢先。

 

「大変そうだねぇ、綺麗な御両人。」

 

鳥の音が聞こえていた森の木の上。

そこから私と日輪様の会話に割り込むようにに言葉が割り込む。

軽薄そうな男の声。

足を止めて、警戒する。

そして、声の方向へと目を向けた。

 

「さぶ....ではないよな。派手だし、二人とも顔も良くって華がある。やっぱめいんきゃらの一人って線が濃厚かぁ....。」

 

こちらを見て、訳の分からない言葉を呟く男が一人。

着ている着物は緑がかった染め物に他の着物の素材でも繋げたのか雑多な印象を受ける柄の着物。

そんな男がまるで猿のように木の上に足を引っ掛けて宙づりになりながらもこちらを見ている。

そして目が合うと、目を細めると引っ掛けた足を軸に後転するとそのまま空中へと躍り出て、見事に私たちの目の前に着地する。

 

まるで人としての重みを感じられない所作。

ただの通行人...というわけではなさそうだ。

 

「ねぇ!何かしらあの御方!とても凄い身のこなしだわ!!水代、やっぱりこの道を使う人はみんなああいうことが出来るのかしらっ?やっぱり足腰が鍛えられるのかしらねっ!!?」

 

日輪様は目の前の男の身のこなしに目を輝かせて声を上げている。

....まぁ、しょうがない。

日輪様は今まで朝廷や家での用事以外は基本的に本宅にも帰ることが許されずに神宮に居た御方。

外の知識も時折話す親族の情報や絵巻、本の情報でしか触れることのできない。

目の前であのような尋常ではない身のこなしをされれば目を輝かせるのは仕方ない話だ。

 

とても純粋な反応で、畏れ多くもいじらしさを感じさせる御方である。

だからこそ、私がその分警戒しなくては。

 

「...申し訳ありません、日輪様。背から降りて私の背後から出ないでくださいませ。」

 

「わ、...わかったわ水代。気を付けてね....。」

 

私が頼むと、日輪様はたじろぎながらも背中からゆっくりと降りる。

あぁ....あんなにも楽しそうにしていた日輪様が沈まれてしまった。

本当だったら、私も楽しそうにしている日輪様と膝付き合わせて話して愉快そうに振舞う日輪様の表情を目に焼き付けたいものである。

 

だが日輪様は最後に残された朝廷の生き残りにして神宮の巫女にして、私の主人。

私の身を犠牲にしてでも守り切らなければならない。

私だけでも目の前の未知相手に気を引き締めなければ。

それが、最後まで朝廷を守ろうとした私の、湖口家としての誇りだから。

 

「そんな警戒すんなよ、びっくりしちゃった?悪かったって~俺こうやって木にぶら下がって見た方が楽だからさぁ~癖になってんだよ。俺別にアンタらに敵意があるわけじゃないからさぁ~。寧ろその逆っていうか?」

 

ヘラヘラとこちらの機嫌を取るかのように愛想笑いを浮かべている。

...だからといって、気を緩めるつもりはないが。

 

「えーと、じゃ...じゃあ、貴方は一体どういう....」

 

「日輪様。」

 

「え、えっ!?わ、私...何かまずいことしちゃったかしら...こういうこと初めてだから....水代、な、なんだか分からないけど謝っておくわね?ご、ごめんなさい....。」

 

日輪様が目の前の些末な男さえも気になさるほどの心の広い御人であるが故に私の背後から少し顔を出す。

稚児のような清廉な純粋さを感じはするものの、軽率ではあるので諫めるとおどおどとした様子でこちらに謝ってきた。

日輪様に謝らせたなんて恐縮であるし、もっと言えばそんな日輪様も出来ればもっと安全な...それこそ目的地である坂崎家でじっくりと眼に収めたかった。

現実では、こんな男に目を光らせなきゃいけないわけだが。

 

「いや、俺としては話が切り出しやすくなって助かるよお嬢ちゃん。」

 

男は変わらず飄々とした振舞い。

お嬢ちゃん......?

いくら、日輪様が貴様よりも幼いとはいえ日輪様は朝廷の直系。

貴様などとは格が違う。

そのように気安く呼ぶなど....本来許されて良いわけがない....!

 

....もし、賊であるというのならここで斬る捨てる。

そう決めて睨みつけるも、奴は気にもせずに話を続ける。

 

「俺が今ここに居るのは、ただ単に見ていられなかったからさ。そこのお姉さんは帯刀をしているな。とはいえこんな山道を女二人で行くっていうのは、少し...危ないだろ?だからさ、俺が護衛...というか用心棒?をやってやろうってわけ。報酬としては金かその日の食事と寝床。どうだ?後者の方はこすぱが.....いや、支出を抑えられるし、良い条件だと思うけどね。」

 

...なるほど、自分を護衛か用心棒という戦力として雇えということか。

馬鹿馬鹿しい。

護衛というのはその人物が信頼に足る人物であるということが最重要条件である。

それに用心棒であってもそこには信頼が付き物である。

だとすればこんなどこぞの馬の骨のような男を信頼できるはずがない。

乞食か...もしくは護衛という名目を手に入れて私達を後ろから刺そうとしているのか。

なんにせよ、答えは決まっている。

 

「却下だ。...私達の目的地はとある大名の家。そしてここからそれは近い。そもそも最早護衛は必要ない。そして第一....名前も分からないようなどこぞの馬の骨を雇うわけがないだろう。」

 

「へぇ~、じゃあ名前を言えば良いってわけか?困るな~俺、今の名前と前の名前で二つ名前があるんだよ。どちらを言えば良いのか迷ってしまうよ。」

 

こちらの意図を察することが出来ないのか、呑気に自己紹介しようとする。

名前を言ったところで雇うわけがないだろう、間抜けが。

これ以上、話すのであれば時間の無駄だ。

流石に日輪様の目の前で流血沙汰を起こしたくはないので、奴が名前を言った瞬間に気絶させるか?

奴の様子を見ながら、この後のことを考える。

 

そんな私の考えなど分かるはずもなく、男は笑みを浮かべながら口を開く。

 

「俺の名前は庭先雑草。庭先衆がひと...違うな。『元』庭先衆の端くれの端くれのそのまた端くれの端材のささくれみたいな者だ。」

 

奴の名前を聞いた瞬間、時が止まる。

庭先...雑草...?

つまりは、今目の前に立っているのはあの人格破綻者ばかりの殺人集団...庭先衆の人間ということか。

金さえ払えば前の主人であっても惨殺するような忠義の文字すら知らない獣ども。

幕府の命を受けて、我ら朝廷に歯向かって最終的に私や日輪様の血縁を族滅させた一族。

つまりは....朝敵。

 

仇が、目の前に突然現れた。

その事実に、脳が追いつき始める。

そんな....まさか、日輪様の命を狙って?

朝廷を根絶やしに出来ていないことを知って幕府は庭先を派遣したのか?

だとしたらまずい。

 

「ま、一応それなりに有名な家の顔を潰してる凡夫だよ。とはいえどんなに才がなくても良いところ出身だからその辺に居る連中なんかよりは護衛として役立てるんじゃないかなっと...」

 

呑気に語る男を見て、悟る。

通りで捉えどころのないはずだ。

庭先は本来暗殺専門の忍者集団。

忍術を用いる面妖怪奇な連中。

コイツに会話の主導権を握られてはならない。

 

この男は...危険人物だ。

生かしておくわけにはいかない。

背後に背負うのは朝廷最後の生き残り、日輪様。

私の行動によって、この国の皇の血統が絶えるかどうか決まってしまうのだ。

 

であれば、たとえ奴がこちらを威嚇する目的で恐れられている庭先の名を騙っている山賊とかでも構わない。

ここで殺す。

気絶では済まさない。

脅威は事前に摘まなければ。

そして何よりも....庭先の名前を聞いた瞬間から、心が収まる所を知らなかった。

 

刀を引き抜こうと、腰もとへと目を向ける。

その瞬間。

 

「おい、人が話そうとしてる時に刀なんか抜くんじゃないよ。あぶねぇな、こちらは丸腰だよ?...没収させてもらうな。」

 

顔のすぐ近くから奴の声。

視線を前方に慌てて戻すと、鼻先が触れてしまいそうな距離に奴の顔。

いつの間に....っ!

 

刀を抜こうにも懐に入り込まれた。

驚愕しながらも背後に飛び退こうとするも、それよりも早く私の腰もとへと奴の手が伸びる。

そして刀を掴まれた。

 

「雑草術、《お笑い草》。」

 

掴まれた手を振り払おうとするよりも早く奴の方が鞘ごと刀を掴んだまま後方へと飛び退いた。

掴まれた刀は奴の手の中。

私はこの一瞬で武器を失ったのだ

 

「貴様....ッ!!」

 

「おいおい、そんなに睨むなよ。そりゃもちろん後で返すよ?ただこちらは話そうとしてるのに、アンタに斬られたらたまらないからな。それに、どうだ?これで割とここまで出来る実力があるという証明になったろう。」

 

奴は睨みつけられても、諫めるようにそう言葉を発する。

白々しい....っ!

貴様の...庭先の魂胆など分かっている。

 

「抜かせ、庭先....。貴様らが話すだと?貴様らが一番不得手な方法だろうが、人の情緒を知らぬ獣め....。まさか、日輪様を.....!」

 

「えっ、なに?まさか俺の所の実家、アンタらと敵対してる感じ?うっわぁ~面倒臭い奴じゃん。せっかくめいんきゃらに会えたと思ったのに.....。いや、違うんすよぉ?俺ほら庭先って言いましたけど、元って言った通り戦力外通告されてまして~。そもそも庭先の血を引いてるわけじゃない養子ですし?なんなら端くれの端くれの端くれの端材のささくれって言った通り、才能のない無能って言われて追い出されてるんですよぉ。だからほら、睨まれてもこちらは困るっていうか.....。」

 

目の前の男、庭先雑草は私の言葉を受けると途端に苦笑いを浮かべながらあたふたとそう弁明し始める。

庭先衆が養子を取ったことがあるなどとは聞いたこともない。

奴の言葉に意味などない。

私の油断を誘うつもりの言葉か....いや、そんなことはどうでもいい。

なんにせよ庭先を名乗る人間を前にして、気を許すことなどはありはしなかった。

 

「ていうか、逆に俺は庭先から追い出されてるし?庭先衆に恨みがあるっぽいアンタらとは結構うまいことやっていけると...いや、違うな。」

 

奴は私の視線の意図を解して、溜息を吐きながら言葉を途中で止める。

そして、刀を見せて私たちに対して口を開く。

 

「アンタ、剣士だろ?まぁ俺みたいなのに刀を取られてる時点で大したことはないんだろうけど、剣士は刀を使うもの。そしてアンタの武器は俺の手の中、つまりは今の状況で優位に立っているのは俺というわけだ。そして俺はアンタにとってみれば憎い庭先衆と同じ庭先の名を名乗っている。つまり、アンタは色んな意味で俺の要求を呑むしかこの状況を打破する方法はないということ。アンタらの護衛をやらせてもらうぞ、そして俺に金か飯と宿をよこせ。そうすれば、この刀は返してやるよ。」

 

奴はそう言うと、笑みを浮かべる。

こちらを追い詰めたと思っているのだろう。

確かに、追い詰められている。

刀を持つものが刀を奪われた。

普通であれば絶体絶命の危機だ。

....普通であれば。

 

「水代.....。」

 

「心配いりません、日輪様。」

 

日輪様の不安げな声が背後から聞こえる。

そんな日輪様を安心させる為に、振り返らずに言葉を掛ける。

 

「さて、どうする?」

 

庭先は柄で自分の肩を叩きながらそう尋ねる。

良い気になるなよ....逆賊が.....。

私は、奴の眼を真っ直ぐ見据える。

一歩も引くつもりがないということを、身体で表す。

 

「貴様の言葉など信頼に足りない。」

 

「まぁ、今はそうだろうな。...ただ二回目も言いたくないんだけどさぁ、アンタは聞き入れるしかない状況って奴なんだよ。首を縦に振っておけ、少なくとも俺はアンタらの敵ではないつもりだよ。」

 

軽々しい振舞いを見せていた男の表情が一瞬真面目になる。

だが、最早奴の言葉を聞く必要もない。

既に、刀は私の手の中同然なのだ。

 

「戯言を....、貴様は前提から間違っている。なぜなら...その実、貴様はまったくと言って良いほどに私に対して優位になど立っていないからだ。」

 

私がそう言うと、庭先が顔を少し顰めた。

 

「は?何を言っているんだお前は。アンタの後ろには戦えそうにない少女。武器は俺の手の中。一体どこが優位じゃないって言うんだよ。強がりを言うのは止めろ。」

 

男の言葉に安心する。

あぁ...良かった。

この男はまったく何も分かっていない。

油断して鞘を持っている。

だからこそ、私は主として命じる。

私の刀、配下にして私と同じ忠義の士に。

 

「召集命令、八號。」

 

「何を....っ!うぉっ...な、なんだこれ....っ!!」

 

私が呼びかけると、余裕な様子を見せていた男がまるで刀に手を引っ張られるかのように体勢を崩す。

まるで引きずられるかのように刀に引かれて、庭先は右往左往と振り回される。

 

「ちょっ、お前何やった!?なんだこれ...なんで刀に引っ張られて....!!あっ!!!!」

 

鞘を持っていただけあって、遂には一人でに鞘から刀が引き抜かれて私目掛けて飛んでくる。

それを見て、掌を広げる。

すると刀はそこ目掛けて飛んできて丁度柄が手に収まった。

別段不思議ではない。

これがこの刀の性質だからだ。

 

「これが私の愛刀。複製錬忌数多刀が一振り、<忠剣八號>。どのような状況であっても主人の手の中に帰ってくる忠義深い刀。それがこの刀の本質だ。」

 

しっかりと刀を握ると、構える。

そして、腰を落とす。

その首を地面に切り伏せる為。

 

横凪の一閃。

それを奴は後方に飛び退いて避ける。

あと一歩踏み込んで突きを放てば、いくら何でも当たるはずだ。

そう思った矢先。

 

「っざけんなぁ!!んなインチキな刀あって堪るか!!!」

 

庭先は歯噛みしながらも叫ぶ。

そして鞘を投げた。

技術も何も感じない勢いだけの投擲。

苦し紛れの一手か?

何にせよ、そんな者を受けるわけ....。

避けようとして、動きを止める。

 

(...背後に、日輪様がいらっしゃる。)

 

避ければ日輪様に当たってしまうだろう。

....であれば、取るべき行動はおのずと一つになってしまう。

一歩踏み出すことを諦めて、刀を振る事で鞘を叩き落とす。

その隙に奴は木の上にまで跳び上がっていた。

 

「えろげだからそんなのもあるってわけか。はぁ....こんなことばっかだ、俺。やってらんね...。」

 

一際高い木のてっぺん。

こちらを見下ろしながらも、庭先雑草はうんざりした表情で肩を落とす。

そして、こちらから視線を外すとそのまま隣の木々のてっぺんを経由してどこかへと去っていく。

 

刀の間合いではないのはもちろんのこと、いくら何でも私にあんな所まで一瞬で上る技術はない。

であれば、追いかけることは叶わないのだ。

庭先という忍者特有の技術だろう、忌々しい。

...それに、そもそも追いかける必要すらない。

私達はただ坂崎家という目的地に辿り着くことこそが最優先事項なのだから。

 

だが...庭先が近くに居る。

事態は、良くない方向へと転びつつあるのかもしれない。

急がないと.....。

いつまた奴のような刺客が現れるかもわからないのだ、いち早く辿り着かなければ....!

 

「大丈夫?水代?」

 

「えぇ、問題ありません。しかし、奴のような刺客がいつまた現れるか分かりません。...日輪様、私の背中にしっかりと御掴まり下さい。全速力で御運び致します。激しく揺れることになるでしょう。乗り心地は保障出来かねますが、ご容赦ください。」

 

足元に転がった鞘を手に取ると刀を収める。

そして、日輪様の前にしゃがむ。

すると、日輪様の腕が肩に掛けられた。

 

「そう...構わないわ。でも疲れてるなら言ってね?急いでいるのだろうし、さっきの人みたいな危ない人が居るかもしれないけど、でも私は水代が潰れてしまう方が嫌だものっ!」

 

「心得ておきます。それでは...行きましょうか。」

 

日輪様の心遣いは痛み入る。

しかし、それでもこの身はこの背の尊き者の為に使い潰される者。

朝廷を....主を守れぬ湖口に、生きる価値はない。

背中に感じる、重みと温もり。

父たちが果たせなかった使命、私こそが今生を以てしてでも必ず果たしてみせる。

 

日輪様を背負いあげると、土を踏みしめる。

そして悪路の地面を蹴ると、一気に駆けだした。

頬に感じる風。

 

凹凸の地面は足を取ろうとして、平常時よりも更に心身を疲弊させる。

上下する身体、切れる息に捻りそうになる足。

しかし走る速度は変えない。

例え、足が疲労でへし折れようとも今はただ坂崎へと到着を目指すのみ。

少女は、主を背負ってただ一目散に山道を駆けていった。




マジで追放されているのに、刺客扱いされる主人公。
言ってしまえば主人公がやろうとしていることは、海外の観光地とかで勝手にスーツケースとか運んでお金をよこせって言ってくる奴と同じだけなのにね。
まっ、庭先とか言っちゃったから多少はね?

視点が変われば見え方が変わる。
次回は今回の話の主人公視点になります。
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