可哀想なのは抜けないので転生したら、俺が忌子だった。 作:胡椒こしょこしょ
里から追い出されて数週間。
名前も雑草なだけあって、根無し草状態の俺には、現状二つの課題がある。
一つ目、それは庭先衆という世間から外れた価値観の狭いコミュニティから急に弾きものにされたことで何をしたら良いのか分からない。
訪れた村で働こうとしてもそううまく行かないのが現実である。
なんたってこの時代は村社会だったりするわけだし、余所者はあまり住みにくいコミュニティ...それが村なのだ。
狭い村社会でありがちである。
ぶっちゃけた所、まだその中の一人から正式に招かれたという点であれば庭先の方が死にかける思いはすれど過ごしやすかったと言えるだろう。
そして二つ目は、俺はこの世界『少女抜刀錬金』についてまったく知らない。
世界観設定や用語、ストーリー内容だけでない。
誰がメインキャラかすらも分からないのである。
俺はこの世界で知っている知識というのはヒロイン格の可愛い女の子が酷い目に遇うということだけ。
神様からそんなに可哀想な物が抜けないなら自分で助けてギャグエロにしろやとか暴論かまされてここに転生させられたワケだが、正直現状は自分のことで手一杯で他人のことなど気にしていられない。
だけど、酷い目に会う人間が居るというのにただ何もしようとしないというのは何故だか謎の罪悪感を感じてしまうのである。
ここで開き直れるほど、非情にはなり切れない。
我ながら中途半端な男である。
悲しいことにこういうところでも庭先衆にはまったく適した人材とは言えないなと納得する毎日だ。
とはいえ、助けようと思ったとして誰がメインキャラでどこに居るとかそう言った情報がまったくないのだから八方塞がりなのである。
この二つの課題に直面した数週間。
その中で、俺はやっとその二つを同時に満たすことが出来る方法を思いついたのである。
それは.....。
「今日も人通りが多いなぁ....。誰に護衛になるって吹っ掛けよ....?」
人通りの多い場所を俯瞰して、良い感じの奴に声を掛けて護衛もしくは用心棒として雇うように言うことである。
その為に、俺は毎日こうして一際高い木の上で寝転がって下を眺める日々を送っているのだ。
まず、村というのは働くというコミュニティに属する行為は疎まれるが逆に言えば旅の人間...言うならその場に留まらない自分達のコミュニティに影響を与えない人間に優しい人はそこそこ居る。
そこで、行商人などの流通の経路や旅人が大抵通るであろう道を聞くのである。
そうすれば大体は親切で教えてくれるものだ。
そして次に木の上で見ながら、人を選ぶ。
断れなさそうで金持っていそうな奴。
そこで護衛か用心棒に雇うように言って、報酬として金かその日一日の宿と飯を要求するのだ。
正直、やってることは海外の観光地とかで観光客に荷物を運ぶとか道案内するとかで恩を押し売りしてチップをもらおうとするのと似ているなと思う。
しかし、現状こうするしかないのも事実だった。
ここでこれを行うにあたってミソなのが金の具体的な値段を言わないということ。
これをすることで相手にいくら吹っ掛けられるかと言った不安を与え、逆に後者に挙げた方の一日の宿と飯を大した出費ではないと思わせる。
心理学的なテクニックで言うところのドア・イン・ザ・フェイス効果のようなものだ。
そんでもってメインキャラやサブキャラなどのこの世界の大筋に関わるであろう相手を見つけるのに、現状俺が取れる唯一の方法である。
だって、俺はこの少女抜刀錬金の内容はおろか登場人物すら知らないのである。
だからこそ、判別する方法としては他の人よりも顔が良くて派手で歩いているだけで華のある人間に目を付けるくらいしかない。
だってほら....メインキャラって大体派手だったり美人だったりでモブとかとは違って一目見ただけでメインキャラだってわかる見た目してるものだろ?
人通りの多い場所であれば、通りがかる人の母数が多いだろうし確率的には闇雲に探し回るよりかは出会える可能性が高いと思う。
もしかしたら例外があるかもしれないが、これ以外には現状メインキャラに関わる方法が思いつかない。
これをすることで、一応メインキャラであろうヒロインを探しているという胸の中の謎の罪悪感に対する免罪符になると共に、護衛をすることで生活をすることが出来るというわけだ。
まっ、それでも運がなくて人通りがない日はそこらへんの食い物を食うことになる。
ただまぁ?メインキャラとかに会えばそう言う連中って大抵なんか特別だったりするし?
関わりが持てたら運が良ければこの根無し草のような生活も変わるのではないかという希望的観測があるのも事実である。
ずっと通りがかる人を眺める。
そんな中、長い間そんなことを繰り返していたのが幸いしたのか俺は遂にそれらしき人間を目に収めたのだ。
こんな道を息を切らしながら歩いている二人の少女。
片方は背が高く、侍然とした格好に刀を腰に下げている。
凜とした少女。
確かにその子にも目が引かれるが、もっとも目が引かれたのはその傍らで介抱されるかのように歩いている幼い少女だった。
巫女服に身を包み、二つに結ばれた髪。
たれ目な所からおっとりとした印象を受けるが、その和やかさの中にどこか雅...と言っては変だが他の人とは違うと思わせるような何かを感じさせた。
具体的に言えば、どことなく上品さって言うの?
なんか良いとこのお嬢様を目の前にしたような気品を感じさせたのだった。
どうやらその巫女服の少女がこけたのをきっかけに、これ以上歩かせるのは無理だと感じたのか侍然とした少女が彼女を背負おうとする。
巫女服の少女は最初は抵抗したものの、結局は背負われたようである。
まぁ、そうなるのも当たり前か。
見るにどうやら女二人でここまで来たようだし、大変だったんだろう。
そんでもって刀を持っているとは言え、彼女を背負っている以上は刀を使いづらいのは事実だろう。
....つまり、こういう事情を抱えた人間こそ俺のような護衛を必要とする可能性が高いと見て良いだろう。
それに、メインキャラらしき人と交流を持つことでこの世界のことについて少しでも情報が得られるかもしれないからな。
声を掛けてみるか。
「大変そうだねぇ、綺麗な御両人。」
そう考えると、ここら辺を通り過ぎる前に急いで声を掛ける。
少し横着して木にぶら下がったまま。
眼が合うと、なんか侍然とした方の女の子が目を細める。
やっぱ横着なんかするもんじゃないわ。
それにしたって視点を少し下げて改めて見ると、さっきまではもしかしたらサブキャラの線もあるかもなと心のどこかで思っていたのが霧散する。
なんというか、この顔の良さと属性が色濃く出た容姿は多分ヒロインだ。
多分胸の貧相な巫女服可愛い系ほんわか幼女と巨乳の帯刀綺麗系クールお姉さんという一見相反するヒロインを抱き合わせることでお互いにお互いを補完させる手法だろう。
こういう手法は珍しくない。
「サブ....ではないよな。派手だし、二人とも顔も良くって華がある。やっぱメインキャラの一人って線が濃厚かぁ....。」
いかん、貴重なメインキャラと自分で確信を持って言える相手に出会ったことでちょっと浮足立ってたのかも。
心の声が少し漏れてしまった。
それに、今回に関してはメインキャラ云々というよりは俺の生活にとって重要な要求をするわけだからそこんところはちゃんと切り替えないとな。
そう思い直しながら地面に降りる。
長い間木の上に居た分身体が凝っているので、身体の筋を伸ばす。
「ねぇ!何かしらあの御方!とても凄い身のこなしだわ!!水代、やっぱりこの道を使う人はみんなああいうことが出来るのかしらっ?やっぱり足腰が鍛えられるのかしらねっ!!?」
なんだ...巫女服の子が凄い俺を見て目を輝かせているけど。
まぁ確かにこんな時代だから娯楽も少ないだろうし、俺がやったこと曲芸まがいだから彼女の眼に止まったということだろうか。
だとすれば、割と交渉もしやすくなるかもしれない。
そんな一縷の期待を抱くも、侍然とした少女は背に背負った巫女服の子に声を掛ける。
すると巫女服の子がどこか怯えた様子で彼女の後ろに隠れた。
少女には睨まれている始末だ。
....やっぱりびっくりさせちゃったか。
「そんな警戒すんなよ、びっくりしちゃった?悪かったって~俺こうやって木にぶら下がって見た方が楽だからさぁ~癖になってんだよ。俺別にアンタらに敵意があるわけじゃないからさぁ~。寧ろその逆っていうか?」
俺は彼女に笑顔を向ける。
ほら、なんか紛争地とかでジャーナリズムが現地の人に囲まれるなど危機的な状況に陥った際に笑顔を向けていただろう。
警戒を解く時には一応の効力というのを笑顔は発揮する...みたいなこと言ってたんじゃないかな。
ほら、こちらは敵対の意思はありませんよって示すことになるし。
「えーと、じゃ...じゃあ、貴方は一体どういう....」
ほら!
効果を期待した相手ではないが、一応はこちらの話を聞いてくれようとしてくれているだろう?
こういう展開を期待してたんだよなぁ~。
まぁ、女子だけだし?
子供だからそこらへんは警戒緩いのかもしれないな。
「日輪様。」
「え、えっ!?わ、私...何かまずいことしちゃったかしら...こういうこと初めてだから....水代、な、なんだか分からないけど謝っておくわね?ご、ごめんなさい....。」
あっ、女の子が叱られた。
なんというか、俺の話を聞いてくれた子がしゅんとしているのは見ていてあまり快い物ではないな。
これもなんというかこの世界に来てからのこと。
昔だったら年下は苦手だからそんな風に思うことなどなかっただろうが、この世界で唯一純粋に慕ってくれた子が血が繋がっていないとはいえ妹だけだったからな。
今でも苦手だが、年下の女の子が悲しんでいるという状況に少し思うところが出てきてしまったのだ。
なんというか、こういうのが丸くなったというものなのだろうか?
「いや、俺としては話が切り出しやすくなって助かるよお嬢ちゃん。」
俺が言ったところで何の意味もないかもしれないが、一応彼女にフォローを飛ばしておく。
一応こういう幼い女の子にはこちらからもフレンドリーに話しかける必要がある。
怖がらせてしまう恐れがあるからな。
まぁ、こちらを伺うような目で少女の背の影から目だけだしてこちらを見ているだけなのだが。
「.....。」
あっ、刀持った子になんか知らんけど殺したろうかお前みたいな目で見られてる。
え....なんでだ?
俺そんな悪いことしてないと思うんだけど.....。
もしかして悪手だったか.....?
....まぁ極論言ってしまえば嫌われてても護衛は出来る。
そんでもって護衛が出来れば一応俺はそいつの為に働いたという事実...もとい恩を売れるので報酬もちゃんと受け取れる。
正直、相手にどう思われていようとも無問題だったりするのだ。
ここはさっさと話を切り出してしまおう。
「俺が今ここに居るのは、ただ単に見ていられなかったからさ。そこのお姉さんは帯刀をしているな。とはいえこんな山道を女二人で行くっていうのは、少し...危ないだろ?だからさ、俺が護衛...というか用心棒?をやってやろうってわけ。報酬としては金かその日の食事と寝床。どうだ?後者の方はコスパが.....いや、支出を抑えられるし、良い条件だと思うけどね。」
あぶねぇ、あやうくコスパって言いかけた。
どうにもこの世界は多分日本史でやるような結構昔っぽいんよな世界観。
そのせいでカタカナ語通じなかったりするんだよね。
こういうところで交渉の時とか説明しにくかったりするんだよなぁ....。
でも良い言い換えは出来たはず。
これなら意味も通じるだろう。
そう思っていると、目の前の帯刀少女に鼻で笑われた。
何だこの子、なんか感じ悪いな。
「却下だ。...私達の目的地はとある大名の家。そしてここからそれは近い。そもそも最早護衛は必要ない。そして第一....名前も分からないようなどこぞの馬の骨を雇うわけがないだろう。」
まぁ、確かにそれはそうだな。
割とそういうのが緩い時代ではあるけれど、当然こう言ってくる相手にも何度か遭遇している。
まぁ、そういう人をなんとか首を縦に振らせるのが交渉の腕の見せ所なんだけど。
こちとら長期間実質ヒッチハイク及びに観光地の厄介現地人生活やってるんだぞ。
そういうところでの年季は違うわ、しつこいぞ~。
しかし、それにしたって大名の家か。
ならそれなりに身分が高いのかもしれない。
もしかしたら使者とか?
それか後ろの女の子がその大名の娘とか?
....なんにせよ、これは良いぞ。
もしここで護衛とか用心棒とかでその大名の家についていければ恩を全面に押し売りして、今度こそ久しぶりにお米が食べられるかもしれない。
もしかしたら肉もっ!
なんなら寝るところも櫓の上とか縁側でも良いから借りられるかも。
それとついでにこの世界の情勢とかが分かるかもね、うん。
そう考えるとテンション上がってきたな。
メインキャラ云々抜きにしてもぜひとも逃したくない相手だ。
「へぇ~、じゃあ名前を言えば良いってわけか?困るな~俺、今の名前と前の名前で二つ名前があるんだよ。どちらを言えば良いのか迷ってしまうよ。」
ここで相手の発言を逆手に取りつつ、ユーモアもあるところも見せておく。
ほら!一緒に歩いたら楽しませようと頑張るよ!
それにここでお茶を濁すことで相手側の様子を見ることも可能だ。
上手く行けば俺のことについて知ってもらうことも出来るかもしれない。
しかしマジで悩むな。
名前二つあるんだよなぁ...俺。
まぁ、名前的に考えればどっちも酷いしなぁ.....。
ただどちらがマシかと言われればそりゃ....。
「俺の名前は庭先雑草。庭先衆がひと...違うな。『元』庭先衆の端くれの端くれのそのまた端くれの端材のささくれみたいな者だ。」
糞親父が付けた名前よりも、厳しいながらも一応ちゃんと育ててくれた赤松さんのつけてくれた名前の方に決まっているよなぁ!?
刹那無用って要するに、刹那家のいらん子って意味だしな。
到底血を分けた息子につける名前ではない。
母さんもナチュラルに俺の名前ではない判定していたしな。
まぁ、でもそれはそれとして悲しいことに字面は刹那の方がかっこいいんだ.....。
なんでだよ.....。
ただ知っている人には庭先=強い、ヤバイって印象になって護衛の交渉がうまく行きやすいんだよな。
そういう意味で大抵庭先雑草と名乗ることにしている。
俺が名前を口にする。
庭先育ちなのに自分の不甲斐なさのせいで庭先衆が一人と名乗れないことに情けなさを覚えていると、目の前の少女の異変に気付く。
眼を見開き驚愕した表情。
そんな彼女を心配そうに見ながらも、こちらに恐れの視線を向ける巫女の子。
...えっ、なにこれ....なんだこの空気。
「ま、一応それなりに有名な家の顔を潰してる凡夫だよ。とはいえどんなに才がなくても良いところ出身だからその辺に居る連中なんかよりは護衛として役立てるんじゃないかなっと...」
なんか変な空気感になったが、話を告げる。
まぁ、多分庭先衆のことについて知っていたのかな?
だとしたら申し訳ない。
でも、それなら俺のことも役に立ちそうと思ってくれるんじゃないか?
ここで話を続ける。
その次の瞬間、彼女の目つきが険しく鋭い物に変わる。
そして、刀へと視線を滑らせていく。
あっ....まずい。
なんだか分からないけど、これ刀使う気だぞ。
正直、武器なんか取り出されたら交渉もクソもなくなってしまう。
そうなる前に....足を一歩前に滑り出す。
武器術も忍術もダメで、強いてやるとすればと教えられた拳術すらも10年やっても覚束ない。
そんな俺でも赤松さんにさえ十分に出来ていると言われた唯一の物、それが歩法だった。
これは、庭先衆で教えられるものでは名前のない...それだけ当たり前の技術であって出来て当然だ。
言うなら格ゲーで言うところのスティック倒しての移動は出来るねってくらいだろう。
それでも、こと庭先の人間相手でなければ....初見であれば十分に機能するものだった。
踏みしめた地面を蹴る。
すると、まるで地面を縫い寄せるかのように滑り出す。
彼女のすぐ目と鼻の先にまで肉迫する。
今から俺がやること。
それをする為には俺の手元から意識を外さなくてはならない。
言うならば俺個人か俺の発言に意識を向けて隙を作る必要がある。
「おい、人が話そうとしてる時に刀なんか抜くんじゃないよ。あぶねぇな、こちらは丸腰だよ?...没収させてもらうな。」
敢えて不敵な感じで言ってみる。
すると彼女は驚いた表情をする。
きたきた.....。
彼女が間合いを開く前に腰もとの刀に手を伸ばす。
そして、しっかりと鞘ごと掴んだ。
彼女がそれに反応して手を振り払おうとする。
ここで振り払われたら今度こそ切りかかられるだろう。
だからこそ、後ろへと瞬時に飛び退く。
「雑草術、《お笑い草》。」
それっぽい術の名前を口にする。
これは、はっきり言って術でもなんでもない。
基本技術である歩法で近づいて、ただ武器を握って歩法で帰って行くだけの行動である。
一度、才能ないなりに考えてこれ良くね!?と思って夏凜に見せたら何とも言えない顔されたし、そもそも他の庭先の連中に見られて「お前武器取ったところで武器なんか使えないだろw無意味じゃんww」と笑いものにされて、イジリのつもりか雑草術《お笑い草》と名付けられてしまったのだ。
ようするにネットで言うところの『ざっそうくんのかんがえたつよいじゅつww』として嘲笑に付されてしまったということである。
まぁ、確かにおっしゃるとおり武器なんか取ったところで使いこなせないのは事実なのでぐうの音も出ない。
それに本来庭先の術は庭先忍術と付くので、それと俺の児戯のような術擬きと明確に分ける意味合いもある雑草術も、今や庭先の人間でない以上は奇しくも在り方としては正しいのである。
これだって初見でしかも気を逸らさないといけない忍術ですらないただの初見殺し。
それどころか、歩法に反応出来る人間相手であれば初見であっても通用しない。
少なくとも庭先の連中に使ったところで通じることはないだろう。
今回だって、彼女は振り払おうとした
もう少し反応が早ければ失敗していた。
やっぱり、自分は庭先失格である。
まぁ目的としては斬られないようにするための武器没収と、ここで武器を奪うことで実力差があるように見せて戦意を奪うことなんだが。
「貴様....ッ!!」
キッとこちらを睨んでくる。
今にも殴りかかってきそうだ。
流石に一応敵意がないということを伝えないとヤバイかもな。
「おいおい、そんなに睨むなよ。そりゃもちろん後で返すよ?ただこちらは話そうとしてるのに、アンタに斬られたらたまらないからな。それに、どうだ?これで割とここまで出来る実力があるという証明になったろう。」
そう言うも、彼女は眼光を和らげずに言葉を続ける。
「抜かせ、庭先....。貴様らが話すだと?貴様らが一番不得手な方法だろうが、人の情緒を知らぬ獣め....。まさか、日輪様を.....!」
....おや?
なんか流れ変わったな....。
まるで庭先が悪い奴であると言わんばかりの言われようである。
...いや、よくよく考えたら『卑怯、外道、非情』を掲げ、金さえ払えば前の主人ですら惨殺してみせるいかれた殺人集団というのが庭先衆である。
そうなればもちろん、恨みを買っている場合が多いだろう。
大名の家に行っているということはそれなりの地位があるということ。
そういう地位の人間相手に色々やるのが庭先だしなぁ。
....アレ、もしかして俺チョンボした?
名前言っちゃまずかった?
「えっ、なに?まさか俺の所の実家、アンタらと敵対してる感じ?うっわぁ~面倒臭い奴じゃん。せっかくめいんきゃらに会えたと思ったのに.....。いや、違うんすよぉ?俺ほら庭先って言いましたけど、元って言った通り戦力外通告されてまして~。そもそも庭先の血を引いてるわけじゃない養子ですし?なんなら端くれの端くれの端くれの端材のささくれって言った通り、才能のない無能って言われて追い出されてるんですよぉ。だからほら、睨まれてもこちらは困るっていうか.....。」
やべぇ.....実家のせいでメインキャラと敵対とかシャレにならんぞ。
なんとか自分が無害であるとアピールしないと.....。
つーか、端くれの端くれの端材のささくれってなんだ?
ただの木屑じゃん。
「ていうか、逆に俺は庭先から追い出されてるし?庭先衆に恨みがあるっぽいアンタらとは結構うまいことやっていけると...いや、違うな。」
そして目の前の少女はこちらを親の仇がごとく睨みつけている。
こうなったらしょうがない。
どうやっても無理っぽいということは明らかである。
ならば、嫌われていても護衛や用心棒をする為の方法を取るしかあるまい。
仲良くできない、話の出来ない相手であれば、勝てる相手ではないと思わせる。
そして衝突しなくてもやっていける道として護衛として味方にするということを暗に示すのだ。
これは半ば脅迫のような物。
あまりやりたい方法ではない。
だって、俺弱いもん。
ただの見掛け倒しで押し切る。
露見すれば軽んじられて喜び勇んで潰されてしまうだろう。
現状、刀を取ったことで俺の方が優位だ。
ならば上から脅迫するやり方が一番通用するはずである。
「アンタ、剣士だろ?まぁ俺みたいなのに刀を取られてる時点で大したことはないんだろうけど、剣士は刀を使うもの。そしてアンタの武器は俺の手の中、つまりは今の状況で優位に立っているのは俺というわけだ。そして俺はアンタにとってみれば憎い庭先衆と同じ庭先の名を名乗っている。つまり、アンタは色んな意味で俺の要求を呑むしかこの状況を打破する方法はないということ。アンタらの護衛をやらせてもらうぞ、そして俺に金か飯と宿をよこせ。そうすれば、この刀は返してやるよ。」
別に俺があの子の憎い庭先衆を名乗っているからといって要求を呑む以外にこの状況を打破する方法がないということは決してない。
しかしまぁ、こう言葉を掛けておくことで相手の思考をそちらへと誘導....出来たら良いなぁって思う。
ほら!武器ないよ!!
そんな状態で戦うもクソもないよね!?
ちゃんと刀も見せて、不敵に笑っていよう。
多分こうすればなんか強そうに見えるんじゃない?
「水代.....。」
日輪と呼ばれた少女が刀を持ってた女の子に心配そうに視線を向けている。
なんだか心が痛むなぁ.....。
俺、悪者じゃん。
すると、彼女は息をゆっくりと吐く。
そして口を開いた。
「心配いりません、日輪様。」
振り返らずに声を日輪に掛けていた。
安心させているのだろう。
「さて、どうする?」
話している所悪いが、ここで畳みかけさせてもらう。
急かすことで判断能力を低下させる。
どうだ....うまく行くか....?
彼女はこちらの眼をまっすぐ見る。
そして、口を開いた。
「貴様の言葉など信頼に足りない。」
でしょうね。
俺がアンタらの立場でもそうなるわ。
でもね、俺が言っていたのはそういうことじゃなくてさ.....。
「まぁ、今はそうだろうな。...ただ二回目も言いたくないんだけどさぁ、アンタは聞き入れるしかない状況って奴なんだよ。首を縦に振っておけ、少なくとも俺はアンタらの敵ではないつもりだよ。」
信じられるか云々以前に俺の要求を呑むしかないんだけど、貴方はどうしますかということなんだよなぁ。
少し真面目な顔で言って、そこらへんについてはまともに味方やりますよって所をアピールする。
しかし、残念ながら彼女は首を横に振る。
「戯言を....、貴様は前提から間違っている。なぜなら...その実、貴様はまったくと言って良いほどに私に対して優位になど立っていないからだ。」
.....?
俺はどうするか、護衛にするか否かを聞いているのに何を言っちゃってるんだろうこの子。
そもそも自分の武器を取り上げられているのに、なんでこんな自信満々に優位に立っていないとか言えるの?
追い詰められて錯乱してんのか?
わけわかんねぇ....こわ.....。
とにかく、これじゃまずい!
俺が優位であると認識させないと!!
「は?何を言っているんだお前は。アンタの後ろには戦えそうにない少女。武器は俺の手の中。一体どこが優位じゃないって言うんだよ。強がりを言うのは止めろ。」
状況を改めて理解させる。
そのつもりで刀の柄で肩を叩きながら声を掛けるも、彼女は此方の様子を見たまま返事をしない。
一抹の不気味さを感じたその瞬間、彼女は呟いた。
「召集命令、八號。」
そう言葉が紡がれた直後、刀を掴んでいた腕が何者かに凄い力で引っ張られる。
引っ張られた方向に身体を持っていかれる。
な、なんだよこれ....。
その方向を見ても、誰かが引っ張っているということもなく刀があるだけ。
...いや、違う。
刀が小刻みに震えている。
まるで、俺の手から逃れようとするかの如く。
「何を....っ!うぉっ...な、なんだこれ....っ!!」
凄い力で左右に振り回される。
刀の震えはどんどん増して行く。
何が起きているのか分からないが、これが手元から離れると俺の優位が崩れてしまう。
それは避けなければ!
その一心で刀を掴み続けるも、遂にはかちゃりと刀を抜く音が鼓膜を震わせた。
「ちょっ、お前何やった!?なんだこれ...なんで刀に引っ張られて....!!あっ!!!!」
鞘を握っていたからか、刀がすっぽ抜ける。
剥き出しの刀身はまるで意思を持った生き物のように、彼女の元へと飛んでいく。
そして、それを彼女はなんなく握った。
こんなこと....普通、あり得ない。
それこそ、庭先の忍術とかそこらへんと同じくらいの摩訶不思議さだ。
「これが私の愛刀。複製錬忌数多刀が一振り、<忠剣八號>。どのような状況であっても主人の手の中に帰ってくる忠義深い刀。それがこの刀の本質だ。」
ふくせいれんきあまたとう?
なにそれ。
つまりは彼女がその気になれば、刀はいつでも彼女の手元に戻るような性質だったってこと?
...え?じゃあ必死に刀取って優位作ってたつもりになってた俺滅茶苦茶ピエロじゃん。
忠犬ハチ公みたいなふざけた名前しやがって....絶対モチーフにしてんだろうがこれ。
彼女は刀を受け取った瞬間、腰を落とす。
あっ、これ斬りかかってくるな。
それが分かると、後ろに少し踏み込む。
横薙の一閃。
それを、歩法で後方に間合いを開くことで避ける。
横薙が当たらないと見れば、今度は突きの構えを取る。
コイツ.....刀持った瞬間急にイキイキとしやがってぇ.....!
こりゃ、無理だな。
ここに居ても斬られるだけだし、多分コイツ刀抜けた瞬間からこちらの話を聞くつもりないもん。
一旦退くのが得策だ。
それにしたってこんなことばっかり、なんでうまく行かないんだよ...。
せっかくメインキャラっぽい人達に会えたのに、庭先に悪印象持っている奴だしさぁ!!
そもそもそんな変な能力持った刀があるとか聞いてねーよ!!
「っざけんなぁ!!んなインチキな刀あって堪るか!!!」
しかし、ここで距離を開けようとしても追いすがられた場合はどうしようもない。
なんとか、俺から意識を外してその隙に逃げなければ。
何か....何か.....。
見えるのは沢山の木々や草、そして刀を構える水代と呼ばれた少女とその後ろに隠れる日輪。
そして、俺の手の中にはあの刀の鞘。
確か、水代は日輪を常に守っている。
そして日輪自身は、自分の見る目には自信がないんだが多分戦闘などが出来るような人間ではない。
言ってしまえばただのひ弱な子供だ。
だったら、水代ではなく日輪を狙う。
そうすれば水代は意識をそちらに向けるだろう。
鞘を日輪目掛けて投げる。
日輪に投げる場合、一直線上に水代が居る。
そして、水代は目を見開いた。
ここで避ければ当たってしまうということに気づいたのだろう。
いいぞ.....成功だ....。
....こんなことばっか成功してもしょうがないんだけどな。
意識を逸らした間に木の上に飛び移る。
背後で硬い物と硬い物が当たる音。
出来る限り距離を開ける為に木のてっぺんまで登る。
下を見ると、彼女の傍らに鞘が落ちていた。
多分刀で叩き落としたのだろう。
しかしまぁ....おかしな刀であるが、それ故に俺自身にも落ち度があるなこりゃ。
だってこの世界はエロゲの世界なんだから。
普通ではあり得ないようなとんでも設定があっても不思議ではない。
そして、この世界ではああいう...えーとなんだっけ.....ふくへいれんぎあたたとう?っていう特殊な力を持った刀が使われている世界なのだろうな。
「えろげだからそんなのもあるってわけか。はぁ....こんなことばっかだ、俺。やってらんね...。」
だとしてもよりにもよってこのタイミングでそんな物と出会うなんてな.....。
実際世界観を知らなかった俺自身のせいではあるが、それにしたって体感的には後出しじゃんけん感が否めない。
しかし前向きに考えれば、この世界の基底観念について触れることが出来たのだ。
そういう意味では収穫はあった。
彼女はこちらを見上げている。
水代という少女は敵意を持って、そして彼女の背後の日輪はずっとこちらの様子を伺うような視線を向けている。
状況は明らかに俺の不利。
まぁここでやることなんか決まっている。
踏み出すと、また隣の木へと飛び移る。
木々を踏み繋いでいって彼女らから距離を離す。
木立の中へと身を潜ませると、ある程度遠目に彼女らが見えるくらいの周囲でも一際大きい木の中でしゃがみ込む。
水代は日輪を背負うと一目散に駆け出す。
こちらを警戒して、いち早く目的地に着こうと急いだのだろう。
俺がどこに潜んで目を光らせているか分からないから。
確かにその判断は正しい.....正しいが殊今回に関しては完全に正しいとは言い切れない。
「頼むから飯の種になってくれよ、あたたとうとやら。」
そう言いながら、俺は一定の距離を開けつつ彼女らの後を付ける。
気づかれないようにゆっくりと、音を立てないように注意して。
本来であれば交渉が決裂した時点でその相手に追いすがったところでリターンがないので次の顧客を探す。
だが、彼女らはメインキャラであり目的地が大名。
そして手に持っているのはこの世界の異能の刀である時点で話が違ってくる。
つまりは彼女らはこの世界におけるキーパーソン。
そんでもって大名って要するに偉い人達ってことだ。
つまりは、そういう連中は他の大名と小競り合いしたりするかもしれない=さっきのインチキ刀を集めている可能性があるということ。
そんでもってこの世界の大筋に絡んでいる可能性が高いので、目を光らせておけばもっとこの世界のシナリオ?というかこの世界について何か分かるかもしれない。
それで得た情報はきっとこれから食っていくのにも役に立つ。
もし他にもなんちゃらレンチあたた刀?っていうのが大名の家にあって、いけそうだったら一本くらい拝借してどっかの金持ってそうな奴に売りつけて金に換えても良い。
多分あの女がバトル漫画でありがちの能力説明なんかするってことはそういう刀はありふれた物ではないだろうから高い価値が付くだろうし、刀である時点でどうせ俺には使えないだろうしな。
そうと決まれば見失わないように、気を引き締めないと。
俺は悪路を駆け上がる彼女を見ながらも、今後の方針を固めたのだった。
なんも分からないから人通りの多い所で虱潰しに人に護衛吹っ掛ける日々。
原作知識ないとなんも分からないから効率悪そうで大変そう。