火牙刀太陽(アポロ)とノインが神羅万象チョコの世界で成長していく話 作:不知火勇翔
プロローグ「新世界」
「新世界」と呼ばれるその世界では、鬼人、魔人、獣人、鋼人と呼ばれる四種族が巨大な国を築き、天下統一の覇権を争い戦っていた。多くの勇者が己の野心を胸に、群雄割拠の戦国時代を駆け抜ける!
そして今、新世界の東の最果てに位置する鬼の国「鬼龍」では、鬼龍統一の戦いが今もなお繰り広げられているのであった…。
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あまりの光に閉じた目蓋を恐る恐る開くと、また知らない景色が広がっていた。
今度は火も叫び声も無い、長閑な平原と綺麗な青空だけが視界を埋め尽くしていた。
ふと手の感触が気になって自分の腕に視線を落とすと、さっき倒れていた少女が俺の手を握っていた。
「………………ここって、どこだか知ってる?」
「…知らない」
少女が小さな声で、返してきた。
「……だよね。転移っぽかったし。というか憑依からの転移って……事態が飲み込む時間をくれよなー……」
少女を見ると、黙って俺を見ていた。
見定めていたとかではなく、ただ見ていた。眺めていたの方が近いかもしれない。
「………………何?」
「………………なんでもない…」
「そうか…」
「………………」
髪の色も一緒だし、この少女から受ける印象がエヴァンゲリオンの綾波レイと酷く似ていた。肌が少し焼けている違いはあるが。
「えっと、名前、聞いていい?俺はアポロ。多分アポロだよ」
「………………名前なのに、多分?」
「んっ!?んっとね、まぁ色々あってねー」
なかなか鋭いな。というか俺がアホなだけか。
「それで、君の名前は?」
このままでは心の中で、綾波、と呼びそうなので俺は早めに名前を聞いた。
それに対して少女は逆に黙った。
「…分からない」
「え?」
「…思い出せない…」
今にも消え入りそうな小さい声で、彼女は言った。
記憶喪失?俺が起こした場所には何も無かったけど、地面に頭をぶつけたとか?
「…そっか。じゃあなんて呼べばいい?」
「…何でも」
「何でもって、ほら、何か」
「………」
「じゃあ本当にコッチが決めていい?」
俺が聞くと、少女は黙って頷いた。
「じゃあ『ノイン』なんてどう?本当の名前が分かるまでの仮の名前だけど」
文句は無いのか、少女『ノイン』は再び黙って頷いた。
「ん。じゃあノイン、とりあえず移動しようよ。こんな平原で立ち止まっていて餓死、なんて笑い話にもならないしさ」
「でも、どっちに向かうの?」
ノインが地平線を指差す。
見える景色の全てが平原と青空だった。これには絶望しかない。
「じゃあ太陽の方へ向かおうよ。あっちにチョコッとだけ山が見えるし、山へ行けば食料も手に入るかもだし。ノイン、おんぶするから背中に乗って」
俺がしゃがんで背中を差し出すと、ノインは黙って背中に体重を乗せた。
「じゃあ出発」
俺が意識すると足元にだけ炎が上がり、常人では到底出せないようなスピードで俺は平原を駆けた。
なんだかんだで半日くらいで目的の山まで到着した俺達だが、どっちも半日同じ体勢だったため疲れがハンパないことになっていて、山の麓で少し休憩することにした。
この山は相当大きかった。富士山ぐらいはあるんじゃないかと思う。頂上が雪に覆われているし、多分そうだ。
それから、ちょっと川が多くなってきたから海が近いのかもしれない。まぁ調べるのは明日になるかな?
「…アポロ…」
さっきまで地べたに座り込んでいたノインが立ち上がると、俺の名前を呼んだ。
「もう休憩はいいの?」
ノインは頷いた。
疲れた顔が隠し切れていない。無口だが根が頑張り屋なのだろう。それか、俺も感じている転移による寄る辺なさというか不安感みたいなものをノインも感じているのかもしれない。
「アポロは、ずっと走ってたけど大丈夫?」
「俺は大丈夫だよ。ちょっと炎が回復してない気がするけど、移動を捨てるよりかはね」
そう言ってまた俺はしゃがんで背中を差し出し、ノインが乗った。
再びの火炎ダッシュ。
山を迂回して越えようとすると、道のようなものと出くわした。
ただ土が踏み固められただけだが、草木もなくちゃんとした道だった。少なくとも草原を走っていた時みたいな段差トラップや凸凹トラップは無いのだろう。
「道が…」
「そうだね。道沿いに行けば人に会えるかも」
俺がノインに笑いかけると、そこで道の先から足音近づいてくるのに気が付いた。
それも高速で。よく見れば砂煙も上がっていた。
「どけどけどけ~い!進助様のお通りだ~!」
格好としては江戸時代の飛脚が正しいだろうか。
飛脚の格好をした少年が砂煙を巻き上げながら高速でコッチに向かって来ていた。
てか人じゃん!!!
「あ、あの!ちょっと聞きたいことが」
「悪いな他を当たってくれぃ!!!」
俺が尋ねようとするが、彼は華麗に断ると俺の横を通り過ぎていった。
「ちょっ、逃がすか!!」
今なら地方のロケ番組で人に会えたのを喜ぶ芸能人の気持ちが分かる。初めて出会う人を絶対に逃がしたくない気持ちが。
俺は火炎ダッシュで飛脚(進助?)に追いつくと、併走しながら聞いた。
「進助さん!ここって何処ですか!!」
「うお!?俺に追いつくたぁいい度胸だな!!競争だ!!どっちが早く目的地に着くか勝負だ!」
「目的地を俺は知らないんだけど!」
「お、そうだったな!川中島だ!川中島!真幻様と剣真様が戦をされているんだ!!俺は真幻様へ伝令、って言ったらマズいじゃねぇかよ!!」
伝令。しんげん、けんしん。戦国時代か?タイムスリップ、いや『アポロ王子』のいた世界には邪神群がいたし俺魔法みたいな炎使えているし、和風ファンタジーって所か。
「いや、俺は敵とかじゃないよ!!分かった。とにかく戦場の端まで競争な!!伝令が終わったら色々教えてもらうぞ!!」
正直走りには前世から自信があった。
だから火炎ダッシュを身につけた俺は少し増長していたと思う。ノインをおんぶした状況で本業の飛脚と戦う状況に気づけない程に。
「お?もう限界っすか?」
少しすると飛脚のスピードが上がり、俺は逆に限界が間近に迫っていた。
「まだ!!」
俺が足の炎に集中すると、ふと不思議な感覚に陥った。
何かが感じられる。
温かみ、みたいな?ノインにもだが、併走する飛脚の進助の心臓辺りにも、炎みたいな、灯りみたいなものが見えた。
ノインに実験するのは気が引けるので、まだまだ余裕そうな飛脚の進助の灯りに触れてみた。
「ちょっ俺男っすよ!?何胸触って……、!?何すか!?力が…」
急にげんなりし出す進助。
理解した。今見えている灯りは魂なんだろう。
魂を灯りとして認識し、手を加えることができるのが感覚で分かる。
「…あ、」
ノインが呟くと、飛脚の進助は走りながらぶっ倒れた。
足を止めた俺が進助が地面に倒れるのを阻止すると、進助を安否を確認するため脈を計った。
うん。ちゃんと動いてる。危なっ。凄いビビったわ。
背中から下りたノインが、聞いてきた。
「アポロ、負けそうだからって妨害は駄目」
「ごめんって!だって灯りが見えたんだもん!それより、飛脚さんをどこかに寝かせないと」
俺は進助の肩から荷物を外すと、荷物を枕にして道の端に寝かせた。
6時間後。
進助をそのまま道の端に放置する訳にもいかず、俺とノインはここで野営することになった。
幸い近くに果物の木が沢山生っていたし火は俺が起こせるので、夜盗に警戒しないといけないのと寝袋関係が全く無いこと以外は大丈夫そうだった。
日が暮れてから、進助は起き出した。
「……夜っすか…」
月明かりを頼りに周囲を見回す進助だが、俺がノインが黙って近くに待機しているのを見て表情を変えた。
「妨害は、ないっすよ……」
「それは本当にゴメンナサイ。妨害できるとか思っちゃったんだよ。ホントごめん」
俺が平謝りすると、まぁいいっすけどね、と気安く許してくれた。
「そう言えば、何か聞きたいって言ってたっすね。このままじゃ仕事の邪魔されそうっすから、ある程度は答えるっすよ」
進助さんの優しさで更に俺は申し訳なくなってきた。
「えっと、じゃあここって何処なんだ?日本?」
「?日本ってのは知らないっすけど、ここは『鬼龍』っすよ。丁度、中央の国境付近っすね」
「鬼龍?」
「鬼龍も知らないんすか?てことは、よその国の出身っすか?言われて見れば、変な服着てるっすね」
俺とノインは、転移前にいた世界の服装のまま。中世、ではない現代寄りなシャツを着ていた。
「鬼龍は地名っす。他には何かあるっすか?」
まずは身の安全か。
「じゃあさ、近くに町とかある?あと、俺達余所者が入れるような所とかは」
「いや~、どうっすかね。今戦争中っすから、みんなピリピリしてるっすよ」
ピリピリかー……。戦国時代に戦は日常茶飯事だって言うけど、そりゃあするよね。
「近くに町はあるか?」
「あるにはあるっすよ。真幻様の領地が。ただ真幻様が出陣されて久しいっすから」
ピリピリしてると。どうしようかな。
「今は身を隠すことを優先するべきっすね。巻き込またら洒落にならないっすよ。特に剣真様の聞かん坊達は」
「面倒なのか?」
「剣真様リスペクトなんすよ。だから他をぞんざいに扱う。結構真幻様の領地では有名っす」
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せっかち進助と分かれた俺とノインは、結局近くの森をウロウロすることになった。
森暮らしなんて俺は初めてだったが、ノインも初めてらしく2人ともどうすればいいか分からないままやれることをやった。
動物に警戒しながら焚き火して、果物みたいな食べ物を探して、服が汚れるから工夫して。
本当に大変だった。
そんな生活を先が見えないまま続けていると、俺は森の中で少女を見つけた。
草木と話し、蝶や小鳥と戯れる少女だった。
本当に綺麗だった。
ノインが月だとしたら、この娘は太陽か。
月が下という意味ではなく両方が際立っているという意味で言ったが、本当に彼女で綺麗だった。神々しいまであった。
少女は俺に気づくと可愛らしく眉をひそめ、俺を警戒しているのか後ずさりを始めた
「あー、驚かせてごめん…決して怪しい者じゃないんだ。俺の名はアポロ。君は?」
少女は少し逡巡した後、俺を見て驚いた表情をした。しかしすぐに表情を固くした。
「私はヒカリ…ヒカリといいます、アポロさん。」
「おう。よろしく」
俺は警戒させないように近づかないまま座り込むと、ヒカリを見た。
「……こんな所に1人。ご飯がいるならご馳走しようか?ノインが今作ってるし、分け合えば3人分にはなると思う」
笑いかけて安心させる努力をすると、ヒカリは安心したのかコクンっと頷いた。
「……アポロさんとノインさんは異世界の人なんですね。それで鬼龍をよく知らない、と」
俺はノインとヒカリの3人で火を囲んで食べながら話している。
今はヒカリある程度事情を話して情報を得ようとしている所だ。
ヒカリは何というか浮き世離れしているのでうっかり異世界の話をしてしまったが、ヒカリは真剣に受け止めてくれると色々教えてくれた。
「ここは『新世界』の東の端、『鬼龍』です。今は武神真幻と龍上剣真の二大勢力が拮抗しているため、長らく戦争が続いています」
「ふーん。二大勢力ね。他にはどんな勢力がいるんだ?」
正直信長がいるなら最悪ソッチにつくべきだと思ったから言ったのだ。
「そうですね。あるにはありますがパッとしませんよ。身を寄せるなら二択だと思います。それから、私個人としてはお二人は真幻側に身を寄せるべきだと思います」
「どうして?」
「真幻個人が、アポロさんが好きそうな性格をしていますから」
そう言ったヒカリは立ち上がると、「ご飯、ありがとうございます。ご馳走様でした」と言った。
「もう帰るのか?」
ヒカリが頷く。
「はい。邪神群がここの所うるさいので」
「邪神群を知っているのか?」
俺が食いつくが、ヒカリはニッコリと笑うだけだった。
★彼女こそが『天星輝神ヒカリ』だということを、アポロとノインは想像もしていなかったらしいゾ!