終わった少女の英雄譚   作:メーメル

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まだいたの? なんというか……粘り気凄いね

 ──パチ、パチと響き渡る音。

 

 それに、おお、という驚きと面倒くさいという感情をブレンドした、これまた何とも言えない表情を形作る。そして、果物ナイフを構えながら反転──

 

「『絶光(ブライト・ライト)』」

 

 ──魔術式を構成。果物ナイフに付与、定着。そして強化された肉体能力そのままに、全力でナイフを振るった。

 

 ギィイイイイ──、と薄気味の悪い音が奏でられた。それに目をしかめる。

 相殺したのだ。だけど、まあまあ不味い。以前ならなんともないスピードでの魔術式構成……なんだけど、今の私には結構な負担だった。右手に魔力を流す霊晶体(れいしょうたい)にズキズキと痛みが走る。

 光が晴れ始めると、私は果物ナイフを片手に正面に向いた。

 

「まだいたの? なんというか……粘り気凄いね、君。才能あるよ。ところで相談なんだけど、私の家に『頑固な油汚れ』っていうポストがあるんだけど、興味ない? ちなみに年中無休給料は応相談」

 

 そして目に入ったのは、金髪の女だった。聖職者のような服装に身を包み、腰に下げるのはまるで『勇者』を思い浮かべるような神々しい剣。

 彼女はニコニコとして笑みを浮かべていた。

 

「おや。相変わらずその軽口を叩く癖は治ってないみたいですね」

 

「軽口も年中無休なので」

 

「それは素晴らしいですね」

 

 軽口の応酬の最中、流れるように再び絶光。迸るそれに、私は余裕を()()()()()()()()()()()()()対応した。

 

「とっ」

 

 突き出した左手にそれが触れた瞬間、左手の霊晶体から直接魔力を放出──ぐしゃりと光が崩れた。そのまま、光の束が消えるまでそれを続けると、私はあんまりな脱力感に座り込みそうになりそうなのを堪える。

 今やるとやっぱクるな、これ。特にこの娘ほどの使い手だと。

 

 向こう側に見えるのは、少し目を見開いた女の姿。少し前傾姿勢だ。次は剣で攻撃でもしようとしていたのだろうが、当てが外れたので止まったのだろう。

 そりゃそうだ。昔の私なら例えどんな速度で斬りつけられたって問題はない。なんなら攻撃自体を()()()()()()にすら出来た。

 

 だから、私はまるでそれがまだ可能であるかのように振る舞う。残念そうな顔を形作る。

 

「うーん、うちの油汚れに光っけは求めないかなぁ。ごめんね! 不採用!」

 

 そして、少し呆然としていた彼女はどこかこの結果を噛みしめるように俯いた。

 多分、あっちも私が雑魚雑魚の雑魚になっていると予想していたんだろう。正解ではあるのだが、まあこちらの底は彼女には分からない。そして女は悲しそうに呟いた。

 

「……そう、ですか」

 

 なんかまるで油汚れに就職出来なかったことを悲しんでいるみたいだな、これ。顔は見えないが本当に泣いているみたいに見える。ちょっと罪悪感が出て来たぞ。

 

「まあまあ! 悲しまずに! ほら、うちにはまだ魔力灯とか抱き枕とかいろんな就職先があるよ!」

 

「あぁ、もう……相変わらず貴女は……。それで良いです。あてが外れたので私は帰ります」

 

 ショックから立ち直ったように彼女はふるふると頭を振ると、そしてくるりと後ろを向いた。

 

「ふふふ……私が君みたいな美人さんを見逃すとでも?」

 

 それを聞き、今度こそ彼女はしっかりと直るとこちらを一瞥した。

 

「見逃しますよ、だって貴女は私に負い目があるでしょう?」

 

「……む」

 

 そして、私が停止したその一瞬で彼女は滲むように消えた。転移魔術だ。どうやら相当なレベルに至っていたらしい。

 ……本気で戦ってたら負けてたかも。ふぅ、一安心だぜ。

 

 そして私は辺りになにもないことを悟ると、果物ナイフをしまう。このままだと空中を睨みつけてナイフを構えてる頭イっちゃってる人だからね。

 元々頭がイっちゃってる人とか言われてはいたが、流石にそこのプライドはあるのだ。

 

「……あっ、どうしようこの人達」

 

 そこで周りに散らばってるローブ達に気が付いた。死体だし、気軽に騎士に報告なんてしたら問題だ。どうしよう。

 

 そして、数分うーんと唸りながら悩み、思い付いた。

 

 

 ──そうだ。あの娘に任せよう。


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