終わった少女の英雄譚 作:メーメル
「あー、もしもしー! うん、うん、私。えっ? なんのようって……ほら!」
私は死体を右手で浮かしながら歩いていた。気分はまるで風船配りのバイトだ。そこらへんの人達に適当に渡したら受け取ってくれないだろうか。
ぼんやりとそんなことを思いながら歩く。片手の指輪は、まだ公開されていないものの実用化されている技術、魔通器だ。
「久しぶりに会いたくなっちゃって! ……えー、うん? いや、ほんとだって! ほんとほんと!! 嘘じゃないよ! いや、そんな疑わないでよ!! ほんとなんだって! えー? あー、もう聞こえなーい!! じゃあ今からいくから!! よろしくね!!」
こんなものなくても通話できる魔法があるのだが、今回のお相手はそこまで魔術に精通しているわけでもなく、というか何ならごみカスみたいな才能しかなかったのでこのような文明の利器を使っているのだ。
魔術は才能で全てが決まる世界だ。魔力量、霊晶体の強度、魔術式を構築するセンスetc…。魔術が主戦力かつ能力の基準にされがちなこの世界では、イコールで生まれたときから格差があると言えよう。
……ニィーリアは、そういった格差を正そうとした連中の集まりが元だったらしい。
「理想は正しいのに何でこうなっちゃったかね……」
右手の手のひらで構築する『浮遊』の魔術により、ふわふわと浮かぶ元不審者どもを眺める。今では半崩壊の組織。それがまだ音響魔術師という第二級に相当する魔術師を抱えている。
それはそれだけ奴らが掲げる理想に、信念に、思いに共感した人間が多かったことに他ならない。
あの娘がまだニィーリアに所属しているのは、
勇者のようなあの娘。この国の特権階級に生まれ、物語の勇者に憧れ、目指し、折れず努力し、そして最も近づいたあの娘。
昔は勇者パーティーみたいなの組んでたんだけどなあ、あの頃は楽しかった。
そんな感傷に浸っていると、人の気配。すわまた敵襲かと体を向けたところで、声が響いた。
「おかあさーーーん!!! 不審者がいるーーー!!!!」
7歳くらいの男の子だった。指さす先には、私。ゆっくりと私の状況を整理する。
1.右手で元不審者を多数浮かしている。
2.左手を耳に当てている。
3.ぼんやりと空を見上げ喋っている。
──よし、不審者だな。魔通器が一般的ではない今では、特に。
「おかあさーーーーーん!!」
それが聞こえた瞬間、私は脱兎の如く駆けだしたのだった。もちろん、元不審者たちも連れて。