眼前に広がっていたんは、正に『地獄』やった。
「なんで…、なんでや……」
俺の周りにあったんは、轟轟と燃え盛る炎と、
その近くで微動だにせず倒れ伏している無数のフィギュア達。
惨憺たる光景を目の当たりにした俺は、ただただ絶望に打ちひしがれとった。
「なんで、お前はこないなことをするんや…?」
自分のすぐ目の前におるのんは、黒いもやのようなもんを纏うた『何か』。
惨状を引き起こした張本人たる『そいつ』に、俺は、声を震わせながら問い質した。
『どないな答えが返ってくるかなんて、とっくに解っとったはずやのに』。
「……すべては、お前の望んだことだ」
「…っ、違う、違う違うっ!俺は、俺はそんな…」
ノイズ交じりの無機質な声の発した言葉を、俺は必死に否定した。
もしも肯定してもうたら、自分の心が完全にどす黒く塗り潰されてまう、そう思たんや。
…それでも、目の前の『そいつ』は、無慈悲に俺の心を支配しようとする。
「…違わない。何故なら…、何故ならお前は…、」
「っ、やめ――――」
「――――ニキ、アニキ!」
「う、うぅん…、はっ」
「ああ、アニキ!やっと起きてくれたのねっ!おはよ、アニキ!」
……そして気が付くと、俺の両眼には愛する弟の『真っ白な手』が真正面に映っとった。
「……おはよう、クレイジー」
「なんかさぁ…、アニキ、今日もすごいうなされてたよ…?」
「…………そうなん」
周囲には、俺と弟のクレイジーがいつもいる異空間――『終点』の景色が広がっとって、
それでようやく、さっきまで見とったのが『ただの夢』やって気づいたんや。
「……心配せんでも、俺なら大丈夫や。何の問題あらへんよ」
「……そう?」
「…ああ。全然平気やさかい、心配なんてせんでええんよ」
「……まぁ、アニキがそう言うんなら。…けど、もし本当にヤバかったら、アタシのことちゃんと頼るのよ?」
「ああ、分かってる」
不安げな声音を向けてくる弟をなんとか安心させようと、俺はなんとか笑顔を作って話しかける。
すると、弟はどこか納得できなさそな声色を見せながらも、それ以上は追及しいひんくなった。
「とりあえず、『端末』をスタジアムに向かわせましょ」
「そうやな。けど、その前にちょい…、行ってきてもええか?」
「もちろんよぉ。んじゃ、アタシは先に行かせとくからね」
――――クレイジーと一旦別れた後、俺はステージから離れた場所に存在する、
あるひとつの空間を開いて、『あるもん』を取り出しとった。
「……おはよう」
俺の両の眼に映し出されとったんは、透明なガラス瓶に入った輝く球体。
とりどりの色に輝く水晶玉のように一見綺麗にも見えるそれの中には、
混沌とした渦が閉じ込められとって、俺には酷う汚れているように思えた。
「…………いっつもこないなとこに閉じ込めて、かんにんやで、『俺』」
……それもそのはず、この球体は、俺の『心』そのもので、『心臓』といえるもの。
そやさかい、こいつは俺のことを鏡なんかよりもずっとよう映してる、…自分でも嫌になってまうほどに。
「そやけど、今はここで待っとってほしい。今はまだ、自分の罪を滅ぼすこと出来てへんさかい…」
……そう。俺は、罪を償わなあかんのや。「この世界」のありとあらゆるものに対して、散々迷惑をかけてきた分のな…。
どれだけの時間がかかるかは俺にも分からへん…。ともしたら、気も遠なる程になるかもしれへん。
そやけど、ほんでも俺は、贖罪を終えるまでは、自らを甘やかすことは決して許されへん。
何故なら俺は、それだけ大変な過ちを犯して犯してしもうたさかい…。
「……ほな、また後でな」
自分の『心臓』の入った瓶を、俺は再び別の空間内にしまう。
こいつとまた対話するのは、今日の試合が終わってからや。
「さて」
ステージの方へ戻りながら、俺は自らの精神をこことは別の場所におる『端末』へと繋げていく。
隣では、クレイジーが既に「この世界」の誰かとの会話を始めとった。
楽しそうに喋ってるこいつの姿を見てると、俺も思わず笑いとうなってまうな…。
んなこと思うとったら、すぐに俺の思考の中に終点とは別の景色が明瞭に映り出した。
『俺』が居るのは、白を基調とした小さな部屋。
そこの一番奥にあるソファの上で横たわっとった『身体』をゆっくり起こした後、トントンと控え目に叩かれた扉に向かって歩き出す。
『端末』の白い右手がレバーを倒して扉を開くと、そこには俺の補佐役である桃色の髪の女の子がおった。
「おはよう、マスターハンド様」
彼女の頭に装備されとるROBの頭部を模したゴーグルのレンズには、銀縁眼鏡と書生服を装備した、腰まである長い髪が特徴的な男が映っとる。
無論、これが俺の『端末』としての姿や。
ニコニコと屈託の無い笑みを浮かべるマスターロボットの娘に対して、
俺は、いつものように自らに誰かに向けるためだけの笑顔という『拘束』を付与して、挨拶を投げかけた。
「おはようございます、コトノハ。本日も私の補佐の方、よろしくお願いします」