「この世界」の日常   作:黒ピ

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※今回は、現在は「ポップ」と呼ばれるポッパラムの過去話となっています。


#7 何も知らなかったあの頃

「~~。~。」

 

創られてからすぐに、亜空軍の主要施設での任務に投入されていた『わたし』。

 

『ポッパラム』という名の兵士として『影虫』という素材から創り出されたわたしは、『敵』であるファイター達が来てないか見張る為、『亜空間爆弾工場』という、「この世界」を亜空間に引き込むために必要だという兵器を造る場所を歩き回っていました。

 

「~~?~~?」

 

……わたし達亜空軍の『敵』だというファイター達に出会った時のことを考えると、正直な話とても怖かったんですけど、この場所から逃げることで、わたし達を創ってくださったタブー様に怒られるのはもっと怖かったので、『どうにか頑張ってみよう』と、この時のわたしは自分に繰り返し言い聞かせていました…。

 

工場に配備されてから随分経ったある時、わたしは自分の持ち場である『動く床が並んだ場所』(その頃のわたしは「コンベア」という言葉を知りませんでした)の外へ出て、少しお散歩をしていました。

 

この時のわたしは、同じところをぐるぐると巡回し続けたり、なんだかよく分からない重いものを動く床に載せ続けることに少しだけ退屈さを感じてきてて、少し前から自分の中でちょっとだけ芽生えた「他の場所も見てみたい」という好奇心にあえなく押し負けてしまったんだと思います…。

 

けどまあ、ちゃっちゃと行ってちゃっちゃと戻れば、多分怒られずには済むはず。

 

「~♪~♪」

 

そんな気持ちで、ルンルンと鼻歌を歌いながら歩を進めていくわたし。生まれて初めての冒険は、それほどまでに楽しいものでした。

 

これまで見た事のなかった様々な機械に、施設内にいる沢山の動く機械の兵士さん達。そこから外に出てみれば、緑の豊かな景色と大きな山、それから石のようなものでできた崩れてたり古びてたりする感じの白い立体物の数々。

 

足を動かす度に自分の両眼に飛び込んでくるものはどれも新鮮で、そのせいかとてもキラキラして見えました。

 

しかし…

 

 

 

「~!?~~!?」

 

この辺りの地理など微塵も把握していなかったわたしは、まぁ…当然といえば当然なんですが、自分の持ち場への帰り道が分からなくなってしまいました…。はうぅ、このままでは他の亜空軍の方々に怒られてしまうのです…。一体どうしたら…

 

…とまぁ、考えうる限りの最悪の未来を頭の中で思い浮かべながら、どことも知れない場所を歩いていたわたしでしたが、

 

「……。…………、……よ…。」

 

ふと自分の近くで、誰かの喋り声がすることに気が付きました。微かに聞こえてきたそれは、タブー様とはまた違った感じの低い声。なんとなくだけどどこか温かく感じるようなその声に導かれるかのように、わたしは再び歩を進め始めました。

 

 

――それからしばらく歩いていると、お部屋の入口が見えてきました。

 

…ですが、そのすぐ傍には機械でできた深緑色の兵士さん2体が通せんぼするかのように立ちはだかっていました。

 

「…………」

「「…………」」

 

当然そのお二方は、突然現れたわたしの方に頭を向けていました。丸みを帯びた長方形の形をしたそのお顔には他の機械の方にあるような眼と呼べるものが無く、代わりに一つの穴のようなものがありました。

 

「~~…~~~、~~~…~~~~~~?」

 

自分よりも大きな方々にじーっと見つめ(?)られてたこともあり、胸の辺りがバクバクいってて身体もガタガタと震えてましたが、それでもどうにか「現在迷子になっている」ということを懇切丁寧に伝えようとしました。

 

その時、

 

「おや、この子は…?」

 

不意に、兵士さん達の背後にあった扉が開きました。その瞬間に深緑色の二人の身体が、扉から出てきたあるお方に向きました。

 

「父様」「あ、とーさま」

「メイデイ、スコーク。このポッパラムはどうしてここにいるのかな?この子は確か、工場のコンベアに配備されていたはずなのだが…」

「それがねー、なにか言いたげにはしてたみたいなんだけど、ぼくらにはぜんっぜん分かんなくてさ。ねぇ、メイデイ?」

「ええ。なので、『弟』を造っているところ非常に申し訳ないのですが、この兵士の言葉を解読してもらえませんか?」

 

緑色の布に包まれたような恰好をしたそのお方は、『エインシャント卿』と名乗る機械の兵士さん達のリーダーだったと、わたしも朧げながら記憶していました。

 

「ああ、分かったよ。さて、そこの君」

「!?」

「はは、怖がらなくても大丈夫だよ。私はただ、君から話を聞きたいだけさ。理由を聞いたからって決して怒ったりしないから、遠慮なく話してみなさい」

「…………。」

 

急に話を振られビクリと肩を震わせたわたしに近づいてきたエインシャント卿は、先程機械の兵士さん達と話していた時と同じような柔らかな声音で言葉を送って下さいました。それを聞いて、あの温かな感じの声の持ち主はこの方だったのだと確信しました。なので、わたしはエインシャント卿のことをすんなり信じて、自分の状況について話すことにしました。

 

「~~、~~~…、~~~~~~~~~~~~、~~~~~~~~~~~~~……」

 

すると、エインシャント卿はふむ、と頷いた後、背後の兵士さん達に向き直り、こう言いました。

 

「話を聞いてみたところ、このポッパラムは迷子になってしまったとのことだ。私は、この子を元の持ち場へと送ってくるから、お前達は『弟』の居るこの部屋をしばらくよろしく頼むよ」

「了解です、父様」「分かったよ、とーさま♪」

「さて、ポッパラム。私と一緒に持ち場へと戻ろうか」

「~、~~!」

 

 

――そんな訳でわたしは、自分の元居た場所に戻る為にエインシャント卿と共に歩いていました。

 

「ところでポッパラム、君は何故島の様々な場所を歩いていたのかな?」

「~、~~~…、~~~~~~、~~~~~~~~~、~~~~~~~~~…」

「……なるほど、工場の外が気になってついつい外に出てしまったわけか」

「~~…、~~~~~…」

「…今回は私が君を見つけたから良かったものの、もしそれが他の者であれば君が恐ろしい目に遭っていたかもしれない。次からは持ち場から離れないよう気をつけるんだよ」

「~、~~!」

「よしよし、良い子だね」

 

固い道の上で繰り返し歩を進めている間、エインシャント卿はわたしに対してとても柔らかな感じで話しかけて下さいました。

 

「……~~、~~~~~~~~~~」

「ん、どうしたのかな?」

 

だからでしょうか、人見知りしやすかったわたしも、気がつけば自分から彼に話しかけていました。

 

「~~~~、~~~~~~~~~~~~~、~~~~~~。」

「……ああ、そうだね。確かに此処には沢山のロボット達が住んでいる。君が見てきた子以外にも大勢のロボット達がこの場所で生きているんだ」

「~~~~~~~…」

「……あの子達は皆、私の大切な子供達なんだ」

「~~!?~~~~~~~?!…~、~~、~~~~~~~~~~~~…」

「はは、驚いたようだね。私の古くからの親友にも前に同じような表情を向けられたことがあるよ…。だけど私にとっては、あの子達の誰もがかけがえのない大切な宝物なんだ」

 

緑の衣を着た機械の兵士さん達のリーダー改めお父様の子想いなその言葉を聞いて、彼の持つ温かさの正体が少し分かったような気がします。

エインシャント卿は、自分の創り出した存在に対してとても深く愛情を注げるお方なのだなと、思わずジーンとなったのです。

 

……ただ、それと同時に、わたしが生まれて初めて掛けられた言葉を思い出し、頭の中に引っかかりのようなものを感じ始めました。

 

『お前は物を運ぶことと逃げる事しかできない無益な存在。故に僕は、お前には大した期待などしていない。』

 

……分かってる、タブー様の言うことはすごく正しい。そんな無価値な自分が「この世界」で僅かでも生きられること、タブー様の役に立つために働けることに、それだけでもありがたいことだと思ってる。

 

……なのに何故なんだろう、胸の中がこんなにも激しくざわざわと主張しだしてしまうのは…

 

「…だが、私は今、そんな大切な子達に犠牲になることを強いてしまっている」

「…………?」

 

少しの間内側に飛んでしまっていたわたしの意識が外界へと引き戻されたのは、エインシャント卿のお話ししている声が少し暗くなったことに気づいた時でした。

 

「……今度完成する…つまり生まれてくるあの子も、戦うことのできる爆弾として使い捨てられるだけの哀れな存在だ。マスターハンドはそれが他の子供達を護る為に必要なことだと、そう言っている。私だって友人である彼の言葉を信じている…、信じている、のだが…」

「……~~…?」

 

どうやら内面に向いていたのはわたしだけではなかったようです。緑色の布の中に吸い込まれていくかのように段々と小さくなっていくその声色に、意味を理解できないながらもどこか底知れない不安を覚えたわたしは、慌てて彼の名前を呼びました。

 

「~~~~~~~~~~…!」

「……っ!?ああ、すまない。私としたことが、おかしなことを言ってしまったね」

「……~、~~…」

「良いんだ、忘れてくれ。……今のは本当に、私に起きたエラーのようなもの、だからね…」

「…………。」

 

…………その時の、布の間からわたしを見下ろしていた両眼は、わたしにはなんでか、泣いたり怒ったりするを我慢してるような感じに見えました。

それでも、エインシャント卿はそういった感情をすぐに隠してしまうと、元の柔らかで温かな態度に戻っていきました。

 

「それよりも、君の居るべき場所が見えてきたよ」

「……!」

 

彼に言われるままに視線を前に向けてみると、そこには確かに、随分と見慣れた動く床の沢山ある光景が存在していました。戻ってこれて良かった…!

 

「さあ、早く戻りなさい。そして、今後は自分の持ち場から離れないように」

「~、~~!~~~~~、~~~~~~~~~~…!」

 

それから、ここまで送ってくださったエインシャント卿に、わたしは深々と頭を下げ、元の居場所へと駆けて行こうとしました。

 

「~、~~~~~~!」

 

…ただ、その前に彼に伝えたいことがふと思い浮かんできて、それを言わないままではいられなかったわたしは、少しだけ立ち止まって全身を緑の布に包んだお方の方へ振り向くと、胸の奥底から紡ぎ出した言葉を彼に贈りました。

 

「~~~、~~、~~~~、~~~~~~~~~…!」

「……ああ。時間ができたら、ゆっくりと話そう」

 

彼の返してきた最後まで温かなその声と言葉に、また会えることへの期待で胸がいっぱいになったわたしは、軽やかに歩を進めて自分の持ち場へと戻っていきました…。

 

 

……ただ、残念なことにその後あの方とお会いできる機会は全くと行っていいほどありませんでした…。

 

エインシャント卿、もとい彼の本当の姿である『マスターロボット様』と再びお話が出来るようになるのは、この時よりもずっとずっと先のこととなるのです…。

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