「ふぃー…」
「お疲れさんです、坊っちゃん」
右手から頼まれてた運び仕事を午前中に終えてしまったオレは、今は休憩がてらプリムと一緒に昼飯を食ってたりする。
「…やっぱ、ポップの作ってくれた弁当はうめえなぁ」
「いいですねぇ。あの子なら真心込めて作るでしょうし」
この影虫から生まれた亜空軍の兵士がなんでオレと一緒なのかというと、オレの世話を焼いてくれてるポップの方がいつも以上に忙しいから代わりに…ってところ。
アイツにとってプリムは姉貴か妹みたいなもんだから、何を頼むにしても一番信頼しやすいって、前にポップが言ってた気がする。
「今日は、姉貴と兄貴が付いててくれるみてえだから大丈夫とは思うが」
「確かに。坊っちゃんのお姉ちゃんお兄ちゃんならその辺の信用は出来るですね」
「けど、オレ今日は午後からは休みだし、もしアレならアイツの方の手伝い行こうかな…。そしたらアイツも早く家に帰ってこれるし」
「…ま、楽に仕事終えれるならそれに越したこたねえですよね」
…実際、こうしてオレと会話してくれたり、大乱闘で出てきたゴミの運び仕事に付き合ってくれたり、ポップの代わりをきっちりやってくれていて、アイツがああ言うのもちょっと分かる気はする。
けど、プリムは別にオレのために動いてくれてるわけじゃないんだよな。
「あちきは、あの子に頼まれたことならなんだってやる、ただそれだけですわ」って、こないだハッキリそう言ってたし。
「そういや、家からアイス持ってきたですけど、坊っちゃんも食います?」
「お、食う食う」
「本当はあげたい人がいたですけど、そいつが『今は別に要らない』とほざくんで…。はい、どうぞ」
「ん、サンキュ。…お、これってオレが気になってたやつじゃん」
「…ったく、せっかくあちきが買ってきてやったってのに」などといった小さな声のぼやきとともに渡されたアイスは、昨日新しく発売されたばかりのまん丸なラムネの入ったソーダ味のカップアイスだった。
「ん~っ!めっちゃ美味えっ!爽やかな甘さにアイスのシャリシャリさとラムネのカリカリ具合が、良い感じに合わさっててめちゃくちゃ美味え!!」
「そいつは良かった。このアイスも美味しく食ってくれる子に巡り合えてさぞかし幸せでしょうねぇ」
…とまぁ、それなりに休憩時間を満喫していたオレだったが…、
「わあ。がれおむ、いいものたべてるねぇ♪」
「げっ!?」
……突然目の前に現れた『そいつ』に、オレは思わず声を上げてしまった。
ツヤツヤした白くて長い髪に作り物みたいに綺麗な白い肌を持ち、オレの姉貴の着てる巫女服に似た白い服を着たそいつは、両腕に引っ掛けたとりどりの色に染まった長めの布をヒラヒラと揺らしながら、オレの食ってるアイスの方に顔を向けている。
「ねぇねぇ、それちょうだい?」
「はぁ!?ぜっっってえやだっ!!」
見た目だけならすっげえ美人な女性っぽく思えるその『光の化身』は、しかしながらそんな外見とは裏腹にめちゃくちゃ自分勝手な奴だった。
「いいじゃないケチー!ちょっとぐらいくれたっていいじゃないー!」
「んなこと言いながらこないだオレのコーンアイスのアイスのとこだけ丸ごと食い尽くしたのはどこのどいつだっ!!」
「うぅ…、そんなのいいから、ぼくがちょうだいっていったらちょうだいってばー!」
「だあもう、しつけえっって!」
…正直、こいつに絡まれるのマジでめんどくせえ。だって、オレの都合や気持ちも全部無視して、自分勝手にオレのことを振り回そうとしてくるわけだし…。
実際オレを『光の勢力』に加えた時だって、都合のいいおもちゃみたいに扱ってきたわけだしな。
だから、この光の化身とは出来るだけ関わりたくはなかった。なかったんだけど…
「はいはい。その辺にしとけですよ、キーラサマ」
「むぅ?」
俺とキーラがアイスを巡って争っている間に入って止めに来てくれたプリム。自分よりもめっちゃデカい奴二人を前にしても全然怖がらずに落ち着いてられんのって、かなり度胸なきゃできねえことだろうよ…。
「そういうのはやめとけって、右手サマとかからもいつも言われてるでしょ?」
「うっ、そ、そうだった…」
「キーラサマ、アンタは何のために『この世界』で生かされてんのか分かってるですか?」
「……『やさしさやこころのぬくもりをいろんなひとからおそわって、いいこになるため』…」
「で、なんで良い子になろうとしてんですか?」
「…………『おとうさん』と、ちゃんとなかなおりしたいから」
「ですよねぇ。だけど、さっきみたいな他人の都合を考えねえようなことをしていたら?」
「…………『また、むかしのぼくにもどっちゃう』」
「キーラサマは、そうなりたいって思ってるですか?」
「…っ、やだ…、いやだよ…!おとうさんとケンカしてた、あんなひどいぼくになんて…!」
「だったら、しつこくクレクレ言うのは良くねえですね」
「うん…」
プリムに言い聞かされた後、さっきまでの勢いが嘘のようにすっかり大人しくなったキーラは、
顔を地面に向けながらとぼとぼとオレの方へ歩いてきて、開いているかどうかも分からないほど細い両眼をこっちに向けながらこう言った。
「えっと…、むりやりほしがっちゃってごめんね、がれおむ…」
「…おう」
……目の前の光の化身には、オレと同じように『父親』がいる。
キーラが言うには、その父親が自分の生みの親で、昔(つってもオレからすりゃものすごい気の遠くなるぐれえのもんだが)はそいつとも仲が良かったんだと。
オレも父さ…親父に造られた存在だから、その辺りは自分と似てんよなぁなんて思ったり。
「……ほら」
ややあってオレは、一口分だけすくったスプーンをキーラの前に差し出した。
「え…?」
「…やるっつってんだよ」
「…いいの?」
「…おう、一口だけな」
意外そうにオレの顔を見上げてくるキーラに、『こいつホント面倒くせえな』とため息を吐きながらもオレはスプーンをそいつの目の前に突きつける。
「いいからさっさと食えって。アイス溶けちまうだろ」
「う、うん…。じゃあ、いただきます…」
ぱくっ
「おいしい…!」
スプーンの上に乗っていた爽やかなソーダ色を口に入れた瞬間、ただでさえキラキラとしてる白い髪の輝きがさらに強くなった。いや、気のせいとかじゃなくてマジで髪全体がピカーってなってる。
「おいしい!このアイス、すっごくあまくて、すっごくおいしいよっ!」
「…そりゃよかったな」
「良かったですねえ。で、他人からモノ貰った時の言葉は?」
「あ、そうだった!…がれおむ、その、えっと…、あ…、あり…、がとう……?」
「……ん」
…………こいつのことは、正直言ってオレとしては好きじゃねえ。
けど、自分の父親のために頑張ってるってところは、少しだけ応援したいって思っちまう。
あいつの父親がかなりカタブツそうな感じだし、あいつ自身も心のひん曲がったところがだいぶ残ってるわけだし、仲良くできるまでにはまだまだ相当時間は掛かりそうだけど、まぁ、どうにか願い叶えられたらいいかなって。
オレだって、いつかは造られたばかりのあの頃みたいに親父と楽しく話をしたいって、そういう未来を求めてるから…
「だけど、ここまでおいしいと、もっとたべたくなっちゃうなぁ…」
「え」
「そんなわけだから…、やっぱりそのアイスぜんぶちょうだい?」
「はあっ!?何言ってんだてめえっ!!一口だけっつったろうがっ!!!」
「やだあ!ほしいったらほしいのうっ!!」
「ぜってえ嫌だっ!!お前ほんっとわがままだなっ!!」
「だーもう!あちきが同じの買ってきてやるですから、大人しくしやがれです!!」
…………やっぱり、関わり合いにはなりたくねえけど。