義母の日記   作:あルプ

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初心に帰ります。


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「ん……」

「おはようベル」

「マ、マ………。えへへ」

「本当に天使のようだな、お前は」

「て、んし?」

「すごーく可愛いってことだ」

「へへ……スゥ」

「あっ、こら。二度寝は癖になるからやっちゃダメだ」

「むぅ」

「ふくれっ面になってもダメ。起きてご飯にするぞ」

「ごはん!」

「ああ、ご飯だ。ほら、こっちにおいで」

「わあい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

私はアルフィア。黒龍討伐作戦において生き残ってしまった敗残兵だ。しかし、自分のことを死に損ないだとは思わない。何故なら生きる理由があるから。

 

神への崇拝?抜かせ。

 

ファミリア?いや違う。

 

妹?それならば死ぬ理由になってしまうだろう。

 

だが、妹が生きる理由を文字通り生み出してくれた。それがこの子。名前はベル・クラネル。小柄な身体に母親譲りの白い髪。父親譲りの赤い瞳。性格は母親譲りなのだろう、とても純粋で優しい。それに甘えん坊で泣き虫だ。

 

どうして妹の子を?

 

その疑問に答えるのは……正直あまり答えたくない。簡単に言えば、黒龍討伐の際に託された。それだけだ。

赤ん坊の頃から育てて今は3歳。最近ようやく他の子に遅れて歩けるようになった。

 

これはそんな毎日の記録を綴るだけの義母親日記だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

「マ、マ」

「どうした?」

 

ベルは外を指さしていた。

 

「外で遊びたいのか?」

「そ」

 

こちらに向けて手を伸ばしている。抱っこしてと目で訴えかけているのだろう。

私はベルと同じ目線になってしゃがみ、頭をひとなでしてから持ち上げる。未だに他の家の子より小柄なので、片手でひょいと持ち上げられる。これが私より大きくなるなんて、正直想像も出来ないな。

 

「にしても、お前は本当に口べたと言うかなんと言うか」

「?」

「まあ、このままずっと可愛くあって欲しいな」

 

頬をぷにぷにすると、イヤイヤした後にくすぐったそうに笑う。はあ、天使だ。神はいたのだな。いや、いるけども。

 

「いつもの草原でいいか?」

「ん!」

「よし、行こう」

 

ベルに麦わら帽子を被らせて私も同じものを被り扉を開ける。

 

今日も雲ひとつ無い良い天気だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

草原に来ると、1人の女の子がしゃがんで草花を摘んでいた。銀髪の長い髪に人形のような可愛い、見慣れた顔。

 

「ね、えね!」

 

ベルが抱っこされてる状態で身を乗り出し、その娘に声をかける。

その声で気づいたようで、あちら側も笑顔で振り返る。

 

「ベル!今日は来てくれたのね!」

「アミッド、今日もベルと遊んでくれないか?」

「言われなくても遊ぶ!さあベル、こっちに来て!」

「うん!」

 

彼女の名前はアミッド・テアサナーレ。ベルより5つは上の村の医者の娘だ。しっかり者であるのだが、如何せん背伸びした性格が災いして村の子達とは馴染めてないよう。だから、よくここまで来て1人遊んでいる。

ベルがまだ赤ん坊の時にアミッドは父の付き添いでやって来た。その時はベルに興味津々で、頬をつんつんしたり指を掴まれて「はわわわわ」と妙ちくりんな声を出したり、抱き枕にしたりされたりしていた。人見知りの激しいベルも最初こそは泣いていたが、徐々に心を許したらしくアミッドが帰る時には私の腕の中でえんえんと泣いていた。

かなり手のかかる子だったのに、今では聞き分けのいい素直な子だ。今も2人で草原を走り回っている。

 

「成長してるなあ」

 

子供たちの成長を見て感傷に浸り、つい間抜けな声が出てしまう。

しかし、その言葉は誰かに聞かれることなく、風に乗って飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

ベルは抱っこが好きだ。これ見よがしにすぐせがんでくる。ベルが抱っこを求める時は必ず手をこちらに広げる。この子の可愛さで少し俯いて軽く上目遣いで、「ん」や「だっこ」と言われたらしない人はいないだろう。そんな奴がいたらそれはもう人類では無い。いや、生命体かどうかさえ怪しいな。

それはそうと、今は軽いからベルを抱きながら料理も出来ないことはないが、いつでもどこでも手を伸ばしてくるので大変だ。でも、本当に忙しい時は無理だと分かっているみたいでその時は服の裾を引くだけに留まってくれている。

だが、最近のベルは少しおかしい。以前もあったが、最近は特に抱っことせがんで来ない期間が長いのだ。

 

「何故だろうか?体調も見たところ悪くないようだが」

 

首を傾げていると、とある1つの可能性が浮上してきた。それはアミッドの母との談笑の時の一幕に出てきた。

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

「育児で難しいことはあるか?」

「そうね〜。ベルくんは夜泣きしない?」

「あまりしないな。1度叱りつけたらそれ以来泣いてない」

「……あまり厳しくしすぎたらダメよ?」

「?」

「まあいいわ。その後だと……ちょくちょく反抗期が来るわね」

「反抗期だと?」

「そ。親の言うことなんか聞くもんかーってなるのよ。そうじゃなくても親離れって言うのかしら?急に冷たくなったり」

「それは耐えられそうにないな」

「潔いわね……」

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

「これが反抗期……!」

 

不味い。それは、それだけはダメだ。くっ、胸の奥が痛んできた。

 

「ただいまあ」

 

ベルが帰ってきた。今日はアミッドに連れられていつもの所で遊んでいた。

……まて。そういえば私が送ってこうか?と尋ねた時も

 

「大丈夫だよ」

 

って1人で行ってしまっていた。まさに親離れじゃないか!?まだ4つになったばかりだと言うのにそんなっ!!

 

「ベ、ベル?」

「なあに?」

「どうして最近抱っこしてーって言わないんだ?」

 

私は上手くオブラートで包むようなことは出来ない。だから、ど真ん中ストレート勝負だ。

 

「もうすぐ冬だから」

 

ベルの答えに私は唖然とした。なんでだ?よく分からないと言う顔をしていると、ベルがその続きを話してくれた。

 

「えと、アミッドおねえちゃんがね、冬は、かぜ、引きやすいって。お母さん、体よわいから。ぼく、重くなったし、お母さんの、えと、ふ……た?になるかもって。だから、ガマンしてた」

 

たどたどしくも紡いでくれた言葉は、私が涙するには十分だった。かつてはドSやら真性のサディストやら散々に言われたものだが、どうやらこの子と出会って私も大きく変わったらしい。今はレベル7の隠居した冒険者では無く、ただ息子の成長を喜ぶ1人の母親であれている。

私はベルをぎゅっと抱きしめた。

 

「お母さん、いたい」

「ベル。お前は我慢なんてしなくていいんだ」

「なんで、泣いてるの?」

「お前が大好きだからだよ」

「分かんない。へんなの」

 

私はベルを抱き上げ、リビングにあるソファに一緒に座った。

 

「ベル、今日は好きなものを作ってやる」

「ほんとっ!?」

「ああ。なんでもだ」

「じゃあじゃあ、お肉食べたいっ!!」

「よし、焼くか?煮るか?」

「焼くっ!」

「じゃあ今日は焼肉だ!」

 

 

 

 

 

 

 

私とは違って、心優しい素直な子に育ってくれて本当に喜ばしい限りだ。この子がいれば、私の病など吹き飛んでしまいそう。誇張などではなく、本気でそう思えてくるから子供という存在は不思議だ。改めて、この子の人生が平和で、幸せに包まれたものになることを心から願うばかりだ。

 

 

 

 

 

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