「お母さんお母さん!へんなひときた!」
夏の日差しが強くなって、外に立っているだけで汗ばむ陽気になってきたこの頃。洗濯物を取り込んでいる時にアミッドと遊んでたはずのベルが走ってきた。
「どうした?正直お母さんは暑くて動きたくないんだが」
「お姉ちゃんが、お姉ちゃんがっ!」
「なに?アミッドがどうしたんだ」
「お姉ちゃんが危ないの!」
「分かった。すぐ行くから」
大抵はベルが遊んで欲しくて駄々をこねるが、アミッドをダシにするとは思えない。私は慌てて洗濯物が風で飛ばないようにして、ベルに引っ張られながらいつもの草原の方へ走っていった。
※※※
「かーえーれー!」
「止めてストップストップ!痛い痛い髪を引っ張るんじゃあない!!」
「誘拐だ!危ないおじさんの誘拐だ!」
「誘拐じゃないって!それに俺はおじさんじゃなくてお兄さん!!」
ベルを抱いて走ってきた先にあった光景は、同じように何者かに抱っこされたアミッドが抱いている男に髪の毛をひたすら引っ張っているものだった。
「誰だ貴様?」
アミッドに色々やられている男は、ブロンドの髪に旅人風の服装に身を包む青年だった。被っていたであろう帽子は地に落ちていて、爽やかな美貌はアミッドにより崩れている。彼のことは何となく記憶にある。旅の神だ。軽薄な神物で、ウラノスの操り人形だと噂されている食えない神。
とりあえずアミッドを彼から奪い取る。アミッドは相当怖かったようで、私の胸でえんえんと泣き始めた。
「
アミッドが泣くことは滅多にない。ベルがいる手前、お姉ちゃんを務めるために強くあろうとする子だからだ。大人っぽくありたい気持ちが強いこの子が、人目もはばからず泣くなんて一体何をしたというのだ。
という訳で、思わず吹き飛ばしてしまった。星になったのを見届けてから、2人を降ろす。怖い思いをしたんだ。自発的に話すまで待った方が良いだろうと、泣き止むまで私は2人をあやし続けた。
※※※
「お姉ちゃん大丈夫?」
「グスッ……ありがとうベル。アルフィアさん」
「ああ。怖かったな」
「連れてかれるかと思った……」
「よく抵抗したな。アミッドは強い子だ」
「そ、そうかな」
「お姉ちゃんかっこよかったよ!僕なら怖くて何も言えなかったかも」
「ベルはお姉ちゃんが守ってあげるからね。でも、今日はベルに助けられたよ」
「僕も大きくなったらお姉ちゃんを助けられるようになりたいな」
「ベルならなれるさ」
「ほんと?」
「ああ。頑張らなきゃいけないけどな」
「僕、頑張るよ!お母さんくらい強くなれるように頑張る!」
「私も負けないように強くなる!」
「そうかそうか。じゃあ2人のために剣を買ってやろう」
「「やったあ!!!」」
その後、ベルも連れてアミッドを家へ送った。ことのあらましをある程度伝えた上で、その輩が何を考えているか分からんから気おつけてくれとも話した。
「確かに危ないわね。またアミッドを狙って来るかもしれないし……そうだ、ベルくんもアルフィアもうちに遊びに来たら?」
「え、いや」
「アルフィアさんって元冒険者だったんでしょ?近くにいたら心強いわ。アミッドをあの草原に行かせるのも当分の間は気が引けるし、私もお話したいから」
確かに、これが原因でベルがアミッドと遊べなくなってしまうのは可哀想だ。私が行くのなら万が一にでもベルが誘拐されることは無い。
「分かった。お昼過ぎにでも邪魔する」
「ええ、待ってるわ!」
※※※
平穏な生活を壊しかねない奴との再会は、意外に早かった。2日後、アミッドの母・・アネット・テアサナーレと子供達を外で遊ばせながら談笑をしている途中、割り込むようにしてやってきた。彼と同じように奔放そうな美女と獅子の面影を残すいかにも生真面目そうな大男に引きずられて。見るまでもないが、顔が変形するくらいタコ殴りにされたようである。ん?知らんぞ私は。ただ吹き飛ばしただけだ。
「いやあごめんよ【静寂】。うちの
「気軽に声をかけるな三下風情が。何の用だ」
「いやー、ウチの
「ならばここにそんなやつはおらん」
「さっき【静寂】で反応したからそれは通じないよ♪」
「
「ちょちょちょ待って待って待った。私達はお願いがあって来たんだよ」
「ほう。言ってみろ」
「オラリオに…」
「
「はいストップ!頼むから最後まで聞いてくれよお」
「ならば早く言え。子供達が怖がっているだろうが」
現在ベルは私の後ろで、アミッドは母親の後ろで小さくなっている。この2人を怯えさせた罪は重い。
「単刀直入に言うと、オラリオに来て欲しい。1度でいい。
それに君レベルの冒険者がフリーだとあちら側も接触を図って来るだろうから、と至極真面目に話してくる。一応こちらの身を案じているようだから、無礼は不問にしてやるとして……さあどうするか