義母の日記   作:あルプ

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一通り話を聞き、3日後に結論を出すことを条件に帰らせることにした。 私だけオラリオへ行けばまた要らぬ問題を引き起こすだろうし、ベルを連れて行くにも仮にも暗黒期と言われるほど不穏な状況の中に居させたくない。教育に悪い。あんなゴミ共と同じ空気すらこの子には吸わせたくはない。しかし、行かなければそれはそれで問題になるかもしれない。闇派閥(イヴィルス)の動向は不穏なものもある。以前山を下った際に、不気味な黒鋼の鎧を着た大柄な大男が髪の毛を逆立てたよからぬ雰囲気の神と接触しているということを小耳に挟んだ。十中八九ゼウスファミリアの生き残りであるザルドだろう。もしその神があちら側なのであれば、ザルドに接触するとあればこちらに来てもおかしくはない。

私はどうすれば良いだろうかと、突然湧いて出た問題に頭を抱えることになってしまった。

約束の日は明日に迫っている。どうすれば良いだろうか?と私は唯一の友人であるアネットに相談していた。

 

「行ってこればいいんじゃない?ここからだとオラリオまで1週間かからないくらいでしょ?そんなに長く滞在するわけじゃないだろうし」

 

家の管理もベルの面倒も私が見てあげるわよと、机の向かいに座るアネットは軽く言う。

 

「そう簡単な話でもない」

「そうなの?」

「私としてはベルを常に視界に捉えておきたい」

「目をいつも瞑ってるくせによく言う」

「五月蝿い。ベルを見る時は開けている」

「なんだそれ。ってか、さっきの話を聞く限りもしかしたら帰ってこないって可能性もあるの?」

 

思考の外から突き刺された感覚。確かに、帰ってこれない可能性が十分ある。考えもしなかったが、相談するにあたり提示した選択肢を考えると帰ってこられないかもしれない。

 

「図星かあ。ん〜」

 

何か悩みながらスタスタと子供達の方へ歩いて行ってしまった。おい待て、今は私の相談の最中じゃないか。にしても、どんな話をしているんだ?ベルもアミッドも目を輝かせている。あ、アミッドがベルを諌めてる。いつもの光景だが、状況的に何が何やらって感じだ。

と思ったら、また戻ってきた

 

「良いわよ!」

「……なにが?」

「アミッドも行くって」

「………はあ?!」

「支度しないと行けないわね〜!さーてどんな風におめかしさせてあげましょうか」

「待て待て待て!何故アミッドが着いてくる!?それにお前の旦那の意見も聞かねばいけないだろう!?親バカ丸出しのアレに!!」

「あー大丈夫大丈夫。アミッドが行きたいって言うなら喜んで行かせるわよ。天国か地獄以外なら」

「今のオラリオは文字通りの地獄なんだが……」

「でも、絶対帰って来なきゃ行けない理由は出来たでしょ?」

 

その言葉に、私は「あっ」と素っ頓狂な声を上げてしまった。その時の私の顔はなんとも情けないものになっていただろう。

 

「いや、でも……」

「私はあなたを信頼して言ってんのよ。それにこの前長いことベルに会えなかった時、アミッドったら酷かったのよ。泣いて泣いて。可哀想で見てらんなかったわ」

 

確かに、少し前に地震があった。その際発生した土石流で、1週間ほど例の草原へ行くのを止めたこともあったな。堆積した土砂や岩はは私が吹き飛ばしたが、自然は怖い。この私でも予期せぬ動き、そして被害をもたらしてくれる。

……じゃなくて!!!!

 

「だから……と言うのか?」

「だからこそ、よ。アミッドがあそこまでベルにメロメロだとは思わなかったけどね〜。あんな可哀想な思いさせるんならってこと。即答だったわ」

「存外乙女なのだな」

「いやね。うちの娘は立派なレディーよ」

「確かに私よりは」

「あなたもレディーじゃない」

「村のレディー代表に言われるとは光栄だな」

「ふふっ。どういたしまして」

「礼を言った記憶は無い」

 

などと余計な話をして時間は過ぎ、気がつけばもう夕暮れ時。明日に奴らが来て、数日後には出発だろう。

私は「まだ遊ぶ!」とねだるベルを引きずって戸を開く。礼と別れの挨拶を言い、1歩踏み出す……前に、振り返った。

 

「アネット。本当に良いのか?………今のオラリオで、安全は保証できない」

 

紛れもない私の本心。出来るはずの無かった友人と、その娘を危険に晒したくないという想いだけでその言葉を彼女へ送る。

しかし、彼女が見せたのはすこし困ったふうに笑う、そんな顔だった。

 

「良いのよ。アミッドにはこの小さな村より、大きな世界を見てもらいたいもの。それこそ、海とか山とか、【神様】の集う街とかをね」

 

呆れた。他所の教育方針にとやかく言うほど野暮では無いが……とんだ物好きだ、この親は。

 

「そうか。なら、必ず連れて帰る。元冒険者である私の威信と誇りにかけてな」

「そうしてもらえないとせっかくの友達を恨む羽目になるから。絶対帰ってきて」

「ああ。勿論だ」

 

ふと、思考をさらう強めの風が草木をさざめかせ、自然の音色を奏でる。聞こえてくる音の一つ一つが、まだ遊び足りないと泣き叫ぶ息子の声と重なり合って私の中で溶け合う。

それは酷くデタラメなものなのに、私には凛とした美しさを伴う美麗なものに聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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