「まさか、静寂か……?」
凍りついた表情。見開かれた瞳は有り得ないものを見るような、驚愕を通り越した感情を体現している。
かく言う私も相当に動揺している。あの
……まあ、上客がロキファミリアだとは想像つかないのも致し方がないか。
「隣、いいか」
「……ああ」
どうしよう。滅茶苦茶気まずい。隣でぷかぷかしてるアミッドも私にぎゅっと抱かれているベルも困った顔。あちらの金髪の女の子もキョトンとしている。
「アイズ、あの子たちと遊んできなさい。ちょっとこの人とお話したいから」
「え……リヴェリア、遊んでくれないの?」
「っ……。あとで、後でな。すごく大切なんだ」
「むぅ……わかった」
「ベル、アミッド。お前たちも遊んでもらえ」
「お母さんは?」
「この人とお話しなくちゃいけない」
「ええ、やだ「わかった!ほら行くよベル」ま、待ってよお姉ちゃん!」
どうやら思惑は一致したようで、あちら側からもおずおずと出てきた金髪の女の子が2人に話しかけようとしている。相変わらずベルはアミッドの背中にくっついている。流石極度の人見知りなだけある。
「して、
「何の用も何も、休暇だ。暗黒期とも言われてるこの時期に働き詰めも効率が落ちるし、あの子もたまには戦場から離れさせないといけない」
よく見れば、切れ長の瞳の下にはうっすらとクマが出来ている。今はオラリオにて二大巨頭の一角を担うファミリアの幹部。私のように奔放な振る舞いをしないだろうから、負担を真正面から喰らっているのだろうと推察出来る。
「なるほど。アレはお前の子……では無いな。
目を伏せ、頷く。重苦しいその動作に言わずとも心労が滲み出る。
「ああ。考えている通りだ。かく言うあの子たちはどうなんだ?」
ベルとアミッドに目をやる。確かに、1人は銀髪で1人は白。私は灰色。2人とも非常に可愛いので、私の子だと思われても仕方ないのかもしれんな。
……だが、
「2人とも私の子ではない。1人は友人の子供で、1人は妹の子だ。まあ、妹は亡くなっているから事実上の親子関係ではあるんだがな」
小声で、絶対に聞こえぬよう呟く。ベルはまだ知らなくても良いことだから。
すると、また隣で驚いた声をあげる。
「なんだ、文句でもあるのか」
「いや、男の子なんてお前とよく似ているから実の親子だと本気で思っていた。お前の話を聞いて、意外だと思って」
今度はこちらが驚いて、閉じた瞼をこれでもかと持ち上げた。あまり人に見せたくない翡翠と黄金の
「そんな目で見るな。本心だ」
「……全然似ていないと思うが」
「いや、親子でも通じる。はたから見たらそっくりだ」
アルフィアは固まった。その言葉は本来言われるはずのない、そして自分が言われるべきではない言葉だと思ったから。
そして、同時に嬉しかった。ただ純粋に、愛するベルと『似ている』と言われた事が。心が飛び跳ねるくらい嬉しかった。
2つの相反した感情が入り乱れ、急速に体温が上がってゆく。生まれてこの方したことも無いくらい動揺してらしくもなく俯き、小声で「……そうか」と、言うくらいには……恥ずかしかった。
もちろんその反応に気づかないリヴェリアでは無く。年齢的には……少し、ちょっぴり高めの彼女は年上の余裕を持って赤くなったアルフィアを覗き込む。
「どうした?顔が赤いぞ」
「いや、それは……だな」
「恥ずかしがることでもないだろう。事実、お前とあの子はとても似ているんだから」
「」
音にすらならない声をパクパクしながら発して噤む。そして、向こう側で遊ぶベルとアミッドを呼び寄せそそくさと風呂から出ていってしまった。
その背中に一言だけ。
「ここで会ったことは他言しないから安心しろ。風呂で
アルフィアは足をピタッと止め、これも聞こえるか聞こえないかの声で
「すまん……感謝する」
と言い残し脱衣所へ消えてしまった。
アルフィアを見送ったリヴェリアは深く息を吐く。アイズがちゃぷちゃぷと泳いできて「どーしたの?」と問うが、答えずに上を見上げてそのままズルズルと沈んでゆく。
「リヴェリア、まなーいはん、だよ」
珍しく注意される対象が逆になる。それが少しおかしくて、苦笑いをしながらアイズの頭にポンと手を置く。
「ごめんな。それでアイズはあの子たちと遊んでたのか?」
「ん、楽しかったよ」
「それは良かった。お前にも友達ができたんだな」
「とも、だち?」
「そうだ。友達だ」
「うれしい……!また、あそぶ!!」
「ああ。楽しみだな」
※※※
脱衣所に入った瞬間、アルフィアは深いため息を吐く。そのまま壁に背を預けて瞳を閉じ、俯いてうなだれた。
「お母さんどうしたの?」
不安げにベルは上目遣いで覗き込んできている。心配させまいと、無意識にベルの頭を撫でる。日頃から自身の虚弱さで心配をかけているから出てしまう癖。いつもはやってから辛さが込み上げてくるが、今はそんな余裕すらない。
「アルフィアさん顔色悪いよ?」
「ああ……大丈夫だ。ちょっとびっくりしただけ」
「あのひときらい?」
「いや、きらいとかそういうのではない。……難しいな、なんといえば良いものか」
「お母さんにも分からないことあるんだね」
「当たり前だ。私にだって分からんことはある。それより、お前たちはあの金髪の子と仲良くなったか?」
「うん!またあそぶ!」
「ベルってばずっと私のうしろでちゃぷちゃぷしてたじゃん」
「しー!しー!」
「ふふ……またいつか遊べるといいな」
「「うん!」」