「おはようございます! デイブレイクちゃん!」
「んあ? あー…… おはよう?」
ある日。今日は学校も休みであり、練習も「デイブレイク、君練習しすぎだから一日くらい休んで」とのトレーナーのお言葉により休みとなった。
別に身体に影響が出ない程度には自己管理もしてるし、大丈夫だと訴えたのだが…… 結局、トレーナーの決定が覆ることはなく、休みの日を迎えることとなった。
しかしそれならそれ、せっかくなので今日は昼まで眠っていようと考えていたのだが……
「スペシャルウィーク。どうした、こんな朝っぱらから?」
「どうした、じゃないですよ! 昨日一緒に買い物に行くって約束したじゃないですか!」
「……え? は、え?」
……確かに、昨日、いつも通りの昼食の際、買い物がどうこう言う話をしていた記憶はある。
『みんなメイクデビューも終わったみたいだし、お祝いとしてどこかに遊びに行こうよ!』
とはスペの提案だ。多分、そのことを言ってるのだろうが……
さらに記憶を思い返す。俺の他4人は快諾、そして俺が……
『俺は行かねぇぞ。てか、お前ら5人で行った方が楽しいだろ』
……うん。確かにそう言った。
「なぁ、スペシャルウィーク…… 俺、断ったはずなんだけど?」
「あれ、そうでしたっけ〜? ちょっと覚えてないですね〜…… 覚えてないから言ってないってことで! 30分後に正門の前で待ち合わせましょう!」
「は? 何言って…… おい、ちょっと待っ…… あ、行きやがった……」
スペもだいぶ強引になってきたな…… これが打ち解けた証とでも言うのか? いいことなのかそうじゃないのかは知らない。相変わらず俺には敬語使うのにな。
ともあれ、あんな強引なものに強制力もなにもあったものか。いくら休日の予定がないとはいえ、惰眠を貪るのも俺の自由な訳で。それを邪魔する権利なんて、誰にもないはずだ。ならばよし、無視してもなんら問題はないだろう。はー、寝よ寝よ。
そんな訳で30分後、そこには門の前に立つ俺の姿が!
……違うからな。寝ようと思ったらまたスペが部屋の扉ドンドン叩いてきたせいで寝れなかっただけだから。
俺が到着する頃にはすでに他のメンバー……いつものスペ、スカイ、グラス、エル、キングの5人は到着していたようだ。
「あっ、デイブレイクちゃん! 来てくれたんですね!」
「おお、本当に来た。……ちょっとチョロすぎない?」
「強引に誘っといて何言ってんだよ……あとセイウンスカイ、チョロいとか言うんじゃねぇ」
ちょっと自分でも思ってるから本当に言わないでほしい。でもウマ娘相手にはあんまり強く出れないし……
「……というか、なんで制服なのさ?これからいくのショッピングモールだよ?」
「私服がないもんでな」
「ええ……嘘でしょ……」
「別に困らないだろ。学園内なら着る必要もないし、外に出るのも用具を買いにいく程度だし」
「いや、でも女の子としてそれはどうなの……?」
女の子として、なぁ…… 俺も、考えたことがないわけじゃない。俺の振る舞いはアットデイブレイクというウマ娘の評価に直結するわけだし、違和感ない立ち振る舞いをしようと思ったのだが。
……いかんせん俺と「女の子っぽい」ってのの相性がすこぶる悪いらしく。トレセンに来てから数日間は取り繕ったりしてみたのだが……まあすぐに素が出てしまうので開き直ったわけである。クセの強いウマ娘が多い中央ではそこまで悪目立ちしないのが幸いか。
「うるせー。今更だろうが」
「でも、私服がないのは後々困ってしまうかも知れませんよ? せっかくですし、今日デイブレイクちゃんの私服を私たちが選んで買う、というのはどうでしょうか?」
「おおー! いい案だよ、グラスちゃん!」
「いや別にいらねぇよ……困ってないし……」
俺は女の子の洋服選びというのがとんでもないほどに時間がかかることを知っている。それに今日行く予定のショッピングモールはトレセン学園の近く、必然的にウマ娘の学生をターゲットにした店が集まる。
つまり、おしゃれな洋服店が多いのだ。ついていくくらいならまぁ……と思っていたが、何箇所も引き回されるのは勘弁願いたい。
「ふふん、そういうことならキングに任せなさい。 私はファッションセンスも一流なのよ!」
「いやいや、買わないからな!? 外に出る予定もないし! 学校にいる内はそんなもん……」
「買、い、ま、しょう?」
「ハイ……」
こうして、俺の必死の抵抗はとある大和撫子の圧によって無に帰すこととなった。いや本当になんなんだよ、あの圧。中等部が出していいもんじゃなくない?
ーーーーーーーーーーーー
「着きましたよー! じゃあ、まず午前中はデイブレイクちゃんのお洋服を探しましょう!」
「「「「おー!」」」」
着いてしまった…… それにしても、なぜ女子という生き物は買い物だけでこんなにテンションを上げられるのだろうか。それも他人の服選びで。こいつらと共に過ごしてしばらく経つが、未だ感性についてはさっぱりだ。
その後は……まぁ、予想通りに、手当たり次第の店に入っては「こんなのもいいんじゃないですか?」なんていくつも薦められて……
「おいこら、俺はお前らの着せ替え人形じゃねぇんだぞ……」
「そう言うくせに全部着てるのは誰デスか……」
小声でぼやくのはエル。聞こえてるからな。でもこれは単に断ったらもっとめんどくさくなると判断してのことだ。楽しんでるとか思われるのは心外である。
そもそもこいつらが持ってくる服、なんかすごい女の子っぽいのばっかだし…… 入る店もそういうとこばっかだし…… 女の子が選んだ服なんだから当たり前なのかも知れないが。流石に俺の趣味には合わないものだ。
「分かってますよ!でも、デイブレイクちゃん何着ても似合うんですもん…… 可愛いし、髪だってツヤツヤだし……」
「その割に、髪と尻尾のお手入れをサボってる形跡があるけれどね? 今度機会があったら覚悟しなさい、このキングが一からやり方を叩き込んでやるわ……」
口々にそう答えつつ、また別の服を探しに行く。この様子だと、まだ当分終わりそうにないか…… この中では1番俺の感性に合ってそうなエルがあんまり服選びに積極的じゃないのがつらい。多分他の4人とは違うタイプの服を持ってきそうだし、本人もそれをわかってて遠慮してるって感じなんだろうが……
正直、頼りになるのお前だけだぞ。端的に言うと、頼むから助けてくれ。
そんな心の叫びも届くことはなく、また誰かが持ってきた服を持って、それを試着する。その間にも他の誰かが別の服を持ってきて、披露し終わったらすぐにそれに着替える。
ワンピース。セーター。ダサい文字T。メイド服。……メイド服!? なんでこんなんあるんだ。真面目に探せ。試着? する訳ないだろ。
その無限ループの繰り返しで、だんだん疲れてくる。主に精神的に。今更なことではあるんだが、俺が女物の服着てると思うとな……
よし決めた。次誰かが持ってきたやつ着て、それに決めよう。そうすりゃ終わるはずだ。
持ってきたのは……スペか。
「あっ、デイブレイクちゃーん! こんなのとかどうです!?」
……そう言って、スペが持ってきたのは……
——フリッフリのロリータ服だった。
「こんなん着れるか、バ鹿ァ!」
ーーーーーーーーーーーー
「はぁ……疲れた……」
「まぁまぁ…… 一応買えたんですし、楽しかったじゃないですか」
「まぁ……」
結局、買ったのはカジュアルなパーカーとズボン。ついでにスカート……スカート以外はスカイのセレクトである。他の奴らが薦めるものも、まあ自分が着ていると思わなければ可愛いと感じるようなものばかりだったが、普段から着るってなると…… やっぱり、俺には着飾るような服は向いてない。
1人だけ制服姿のままだと浮くということで、さっき買った服に着替えてから昼食をとる。
フードコートでの食事だが、正直いつもの食堂の雰囲気と変わらなかった気がする。変わったところといえば、スペが食べる量だろうか。トレセン学園と違って普通に食えば食っただけ料金はかかるので遠慮してるようだ。……そんなに食いたければバイキング形式のとこあったのに。まぁ、いつもの調子で食った場合、もしかしたら出禁になっていた可能性はあるが。
「ふぅー、美味しかった〜! 午後はどうします?」
午後の予定を話しながら歩くスペ達。俺はその半歩くらい後ろについていく。
「デイブレイクちゃんはどこか行きたいところありますか?」
「え、俺? いや、俺は……」
特にない、と言いかけつつ、自然と顔を上げて周りの店を見回してみる。すると、見たことあるような屋台が目に入る。
「あ、はちみー……」
「デイブレイクちゃん、はちみー好きなんですか? いいですね、飲みましょう!」
「いや別に、飲みたいって言った訳じゃないんだけど」
自然に口から溢れてしまった言葉を取り消そうとするも、あれよあれよという間に屋台へ連れていかれる。
「さぁ! 何にします!?」
「え、えー…… まぁいいや。えっと、あれ何つってたかな…… 確か、カタメコイメオオメだの何だの……」
「硬め濃いめ多めですね、かしこまりました」
あ、合ってたっぽい。その証拠として、前来た時に飲んだのと同じものが出される。
ちょっと高めの代金を店員さんに渡してから、一口啜る。
……うん、飲みづらい。そして甘い。ひたすら甘い。甘い以外の感想が無い。
「でもなんか美味いんだよなぁ……」
甘ったるくてドロドロの、飲んでると逆に喉が渇いてきそうな飲み物。言語化すればマイナスの感想しか出てこないと言うのに、なぜか悪い感じはしないんだよなぁ……
「はー…………」
「ん、どうしたスペ? そんなに俺の顔を見て。何か付いてる?」
「ああいえ…… デイブレイクちゃんって、そんな顔出来るんですね……」
微妙な表情で呟くスペ。え、何、どういう感情なのそれ。
「いや〜、これはまた何とも……」
「そんなの反則デース……」
続いて口々にそんなことを言う。本当に何なのお前ら!?
「うーん……強いて言うなら……ギャップ萌え?」
「うふふ、いい笑顔でしたよ〜?」
「……ほっとけ」
ニヤニヤとした笑みを浮かべる5人。緩んだ表情を見られてしまったと気づいたのはスペが「で、でも可愛かったですよ!」なんて謎のフォローを入れてきた時だ。
ああ……最悪だ。顔が熱く感じたのは、効きすぎた暖房のせいだろう。きっと。
ーーーーーーーーーーーー
「いやー、楽しかったね、みんな!」
「だね〜。キングがクレーンゲームで全財産溶かそうとしてる時はどうなるかと思ったけど」
「んなっ…… でも、あそこまで行ってこのキングが退くなんてありえないわ!」
「とか言って〜。結局デイブレイクちゃんが取ってくれなかったら無一文になってたんじゃない?」
結局夕方まで遊んでしまった…… 帰路に着く5人を半歩後からついていく。
しかし、こうして見ると本当に楽しそうだな、こいつら。なんだか微笑ましい。俺が憧れてたウマ娘のキラキラっていうのは、こういうものなのかもしれない、と思ったりもする。
本当に、輝いていて、眩しくて……
——なんだか、とても遠いものに感じられて。
「……デイブレイクちゃん? どうかしました?」
「いや、なんでもない。ほら、暗くなる前にさっさと帰るぞ」
……やめだ。俺がするべきはアットデイブレイクを強いウマ娘にすること。それだけでいいだろ。それ以外は俺がどうこうしていいものじゃない。俺に与えられたのは第二の人生でも、憧れを叶えるチャンスでもない。ただ、デイブレイクの夢を叶えること……それが、それだけが、俺が今ここにいる意味なのだから。
お久しぶりです。更新遅くなってしまい申し訳ありません(土下座)
今作においての「番外編」は本編外のウマ娘とデイブレイクたちの絡みだったり、デイブレイクちゃん視点以外の話にする予定です。なのでこういう日常回みたいなのはタイトルに番外編とは付きません。分けてほしいなどのご意見などあれば遠慮なくどうぞ
感想・評価・こんな話が読みたい!の声等お待ちしてます。