星を追いかけ、朝日は昇る   作:それおすとろ

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VS「皇帝」

「君に、模擬レースを挑みに来た」

 

 俺は耳を疑った。会長さんは一体何を言っているんだ? こいつはあのシンボリルドルフだぞ? 「皇帝」と称される間違いなく超一流のウマ娘だ。それがまだデビューすらしていない俺のレース? ありえないだろそんなの。

 

「……冗談だろ」

 

「いいや、私は本気だよ」

 

 その目はまっすぐ俺を見つめている。確かに嘘は全く感じられない。

 

「……受けてくれるかな?」

 

「なんで俺に?」

 

「君の走りを私の身で感じたいんだ。それでは理由にならないかい?」

 

 本当かよ…… 嘘には聞こえないが、だからといって信じるには少しリアリティが足りないな。こちとらただの新人だぞ。なんならこの学園の誰よりもウマ娘歴が短いと言える。

 

「まあいいや…… なんのつもりか知らないですけど、受けますよ」

 

 シンボリルドルフは考えなしにこんなことをするようなウマ娘ではないはずだ。依然として意図は読めないが、ここは乗るのがいいだろう。

 

「ありがとう。それでは、明日の放課後はどうだろうか」

 

「いいですよ。じゃ、そういうわけで」

 

 なんだか人が集まり出したので急いでその場を後にする。

 シンボリルドルフとの勝負……正直、考えるだけで憂鬱になる。いわばこれは負けイベントってやつだ。今の俺じゃ実力は彼女の足元にも及ばないだろう。まあ確実に、俺は惨敗するだろう。だが最強の一角の走りを間近で感じられるまたと無いチャンスだ。せめてこの勝負で得られるものがあると信じよう。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 時間を意識して生活しているとかえって早く感じるもので、気づけば約束の放課後になっていた。

 

「仕方ねぇ、行くか……」

 

 重い足取りでグラウンドへ向かう。着替えてシンボリルドルフに指定されたコースに到着すると、そこには体育着姿のシンボリルドルフ……と、大勢の観客の姿があった。

 

「おや、来てくれたのか、デイブレイク君」

 

「どーも、お早いですね。……何ですか、この人だかり。」

 

「ああ……すまない、どこからか話が漏れてしまっていたようだ」

 

「ふーん……」

 

 学園全員の憧れであるシンボリルドルフがレースをするとなればこうもなるか。耳をすませてみれば

 

「ルドルフさんが走るってマジ!?」 「マジマジ!」 「会長自らが!?」 「流石だぁ……」

 

 みたいな声が聞こえてくる。

 

「はあ……こんな大勢の前で新人イビリとか、いい趣味してますね」

 

「勘違いさせてしまうのも無理はないかもしれないが、決してそんな意図はないさ」

 

「分かってますよ」

 

 その時、ざわざわとした話し声の中で一際目立つ声が耳に入った。

 

「あっ!カイチョー!みてみて、カイチョーが走るってことみんなに伝えたらこんなに人が集まったよー!」

 

「テイオー……」

 

 ……なんだあいつ。なんか見るからにガキっぽい。てかあいつが噂流して人呼んだのか? ニッコニコ顔でシンボリルドルフに向かって手を振ってるそのクソガキをちょっと睨む。

 

「あはは…… すまない、彼女にも悪気はないんだ。許してやってくれ」

 

 まあ悪気はないんだろうってのはすぐにわかる。シンボリルドルフの熱狂的なファンって感じなんだろう。おそらくシンボリルドルフのことしか見てない。

 

「君が嫌ならば人を除けることも可能だが、どうする?」

 

「いや、いいですよ別に……」

 

 ここまで集まってしまえば全ての人を払うのは一筋縄ではない。それに集まった人のほとんどはシンボリルドルフの走りを見たくてここに来たのだ、急に追い払われても不満が残るだけだ。そもそも実害も、負けた俺が惨めに映るくらいしかないだろう。でもあのクソガキは許さねぇ。

 

「……」

 

「じゃあアップしてきますね。また10分後で」

 

 そう言って隅っこの方に移動する。負けるにしてもせいぜいベストパフォーマンスは出せるようにしておかなければ。

 こんな大勢の前であのシンボリルドルフと模擬レースねぇ。普通のウマ娘なら緊張で泡吹いてぶっ倒れるんじゃないだろうか。なんならプライドへし折られてそのまま引退コースまであり得る。ますます何でこんな場を設けたのやら。

 

 持っていたタイマーがアップの時間の終了を知らせると共に、シンボリルドルフの下へ戻る。

 

「お待たせしました」

 

「来たか。では始めよう」

 

 ゲートに入る。途端に辺りは静寂に包まれ、独特の緊張感が流れる。俺は深呼吸を一つ、思考をクリアにしてゲートが開くその時を待つ。

 

——さあ、レースが始まる。

 

ガコン

 

 ゲートが開くとほぼ同時に勢いよくスタートを切る。悪くないスタートだ。

 

 シンボリルドルフは…… 俺のすぐ後ろか。なるほどな。これは……

 

(好きに走れ、ってことか)

 

 やろうと思えば序盤から大きく突き放して勝つことも可能なはずだ。それをしないのは、本当に俺の走りが見たいって目的からなのか。

 なんであれ、ならばお言葉に甘えさせてもらうとしよう。できるだけ体力を温存して走る。勝負は最終コーナーからだ。

 

 そう決めたものの、めちゃくちゃ走りづらい。後方のシンボリルドルフは上がってくる気配がないにも関わらず、とんでもないプレッシャーを放っている。

 

 後ろに意識を向けざるを得ないほどの威圧。思わず呼吸が乱れそうだ。今すぐにあいつから距離を取りたいとさえ感じる。だが、それに屈してここで掛かってしまえば最終直線まで息が続かないのは明白。こういう時こそ冷静に、だ。

 中盤までは不安になるほど何もない展開が続いた。シンボリルドルフは俺の後ろにピタリと付いたまま離れることはない。あっという間に最終コーナーが見えてきた。

 

 

 その瞬間、後ろからの圧がいっそう増す。

 

(なんだこれ……!? 足がすくみそうだ……)

 

 間違いない。……来る!

 

 瞬間、空間が爆ぜる。唸るような風切り音と共に、一瞬のうちにシンボリルドルフが俺の前へ躍り出た。

 

「うっわ…… 速……」

 

 声が漏れる。これが「皇帝」…… ぐんぐんと差が広がっていく。もはやここから全力で走ったとて追いつける距離ではない。

 

 ……仕方ないさ。最初からわかっていたことだろう? 俺はシンボリルドルフには勝てない。あっちはベテランのスターウマ娘。対してこっちは無名の初心者。勝負になんてなりっこなかったんだ。相手はあの絶対のウマ娘だぞ? 奇跡なんて起こるはずもない。そうだ、だから、これは仕方ないことなんだよ。仕方ない、仕方ない……

 

「…………違う」

 

 そうじゃないだろ。何が仕方ない、だよ。

 

「…………いやだ」

 

 追いつけない?それがどうした。そんなこと、諦める理由になんてなる訳がない!

 俺はここにいる、だから走る! 追いつけないから諦めるなんて。そんなの、

 

「嫌に、決まってるだろ!!」

 

 足に力を入れる。強く地面を蹴って推進力を生む。それでもまだ差が縮まることはない。

 

「まだ……まだぁ!」

 

 足りない。もっとだ。もっと強く、もっと速く! 他の全てはもはや必要ない。走ることだけを考えろ。邪魔な雑音をシャットアウトし、集中を極限まで高める。

 呼吸の暇もないほどに足を動かす。限界を超えて足の回転数を上げていく。

 動け。動け。動け!

 

「うおおおああああああああああっ!!!」

 

 勝ちたい! 勝ちたい! 負けたくない!!

 シンボリルドルフの姿がだんだん大きく映ってくる。

 ——あと少し——。

 

 だが残酷にも、シンボリルドルフに追いつくことはなかった。その背中に届くよりも先に、ゴール板を通過してしまった。

 それを知覚した瞬間、一気に身体中の力が抜ける。立っていられなくなり、そのまま地面に倒れ込んだ。

 

「ぐあっ……」

 

 何度も起きあがろうとしたが失敗した。もはや指先さえも満足に動かせない。

 息が苦しい。うまく呼吸ができない。そのくせ身体は際限なく酸素を求め続ける。

 

 ……ああ、これやばいな。徐々に意識が朦朧としてくる。

 

「デイブレイク君! 大丈夫か! しっかり——」

 

 シンボリルドルフが何か言っているようだが俺の耳に言葉として入ることはなかった。

 

(……またかよ……)

 

 この感覚。あの時の——事故の時と同じだ。

 

 意識が深く沈んでゆくのに、そう時間はかからなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

『……さい』

 

 声が聞こえる。

 

『……ごめんなさい』

 

 ゆっくりと意識を取り戻していく。

 ここは……どこだ?辺りは真っ暗だ。というより、何もないように思える。物も、光も何もない真っ暗な世界に俺は居た。

 

「何だここ…… それに、この声……」

 

 黒一色の世界で、どこからか聞こえてくる声の主を探す。すると突如として、目の前に少女が現れた。光はないはずなのに、その姿ははっきりと見える。黒い髪。頭上にある大きな耳。髪と同じ色の尻尾。あれは……!

 

「デイブレイク!」

 

 その姿は、俺が庇った少女そのものだった。

 少女は俺の声に気づいたのか顔を上げる。だが俺を見た瞬間、泣いていたような表情が怯えたものに変わる。

 

『ごめんなさい、ごめんなさい……!』

 

「デイブレイク、俺は……」

 

 少女に近づこうと歩き出す。だが奇妙にも、いくら進んでもその距離が縮まることはなかった。それどころか、だんだん遠ざかっているようにも感じる。

 

「おい、待て! 俺は、お前に聞きたいことが……」

 

 その声は届かない。次第に輪郭が小さくなり、やがて跡形もなく消えてしまった。

 

「はぁ、はぁ、クソ……」

 

 とうとう追いつけなかった…… 幻かも知れないとはいえ、せっかく会えたのに。

 ならばせめてもの足掻きだ。俺は思いっきりの大声を出す。

 

「デイブレイク!! 俺は、お前を、絶っっ対、()()()()()()()!!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「——ちゃん! デイブレイクちゃん!」

 

「ん……」

 

 目を開ける。そこは先ほど居た黒の世界とはうって変わって、白い天井だった。

 

「また病院か……?」

 

「違いますよ! 保健室です!」

 

「……スペシャルウィーク?」

 

 ……保健室? そうか、俺はレースの後……

 

「よかったー! デイブレイクちゃん、目を覚ましたんですね!」

 

「おう…… っておいこら、抱きつくな」

 

「だってぇ……レースの後急に倒れたから、心配で……」

 

「……悪かったよ」

 

 まだ身体には倦怠感が残っている。レース一本もロクに走れないなんて……不甲斐ない。

 

「そういや、お前がここまで運んできてくれたのか?」

 

「えっと、デイブレイクちゃんのことは会長さんが運んでくれました」

 

「そうか……」

 

「あっ、そうだ! デイブレイクちゃん、レース、すごかったですよ!」

 

「どこがだよ。俺のボロ負けだったろ」

 

「いやいや! 会長さん相手にあれはすごいですって! 特にあの最後の直線! こう、ガーッて! ぐわーって!」

 

「ふふっ、何だそれ。意味わかんねえよ」

 

「そんなー! でもでも、ほんとにすごかったんですってー!」

 

「分かったよ、ありがとな。てかお前もいつまでもこんなとこ居ていいのか? 選抜レースまでもう時間ないぞ」

 

「あ! そうでした! じゃあデイブレイクちゃん、お大事に!」

 

 そう言って忙しそうに保健室を出て行く。ほんのちょっとだけ元気を貰えた気がした。

 

「ふぅ……」

 

 レースのこともそうだが、俺の頭はあの夢のことでいっぱいだった。

 あれは確かにデイブレイクだった。ってことは……

 

 間違いない。デイブレイクの魂はまだこの身体の中にある。まだ、希望は残ってる。

 

「待ってろ、デイブレイク…… 俺は、諦めたりなんてしないからな……!」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「失礼します、会長」

 

「おや、エアグルーヴか。お疲れ様」

 

「会長。今日のレースは……どういうお考えだったのでしょう。あの時期のウマ娘にあんなこと……一歩間違えれば、引退させてしまうことだってあり得たかもしれないですよ」

 

「……エアグルーヴ。私たちウマ娘が最初に学ぶことは何か、覚えているかい?」

 

「はい? 急に何を……」

 

「それはね。己の特異性だよ。相手を怪我させないように、そして自分を危機に晒さないように、自分がどんな力を持って産まれてきたのかをよく学ぶ」

 

「だから何の…… あの最終直線のことですか」

 

「ああ。だからウマ娘は、幼少期より自分の力に知らず知らずの内リミッターを掛けるものだ。だが……あの子は違った」

 

「……」

 

「速さだけで言えばあの走りはとんでもないものだろう。何せ全力の私に追いつかんばかりだったからね。……だが、あの走りは自分の身体への負担をまるで考えられていない。そうやって、自分の限界以上の力を出せる…… 決して褒められたものではないが、あんなことが出来るのは中央でも彼女だけだろうね」

 

「何をするおつもりですか?」

 

「私が目指すのは全てのウマ娘の幸福だ。そのためにも——彼女が何なのか、しっかり見定めなくては」




どうも。更新頻度が落ちると言ったな、あれは嘘だ。
ってことで前話の後半みたいなものなので早く出来たもののこれからはマジで更新頻度落ちます。ご容赦ください。

あと感想と評価待ってます

2021/12/11 誤字修正しました

他のいろんなウマ娘が登場する番外編みたいなの書いていいですか

  • いいよ
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