本編にはあんまり関係ないかもしれません
ある日。学校の休日に、俺は近くの大型複合施設を訪れていた。
その目的は、新しい蹄鉄とシューズを買うため。
そうして今俺はウマ娘のためのレース専門店に居るのだが……
「こっちか? それともこっち……?」
何を基準に選んだらいいのかが全くわからない。シューズって軽い方がいいのか?でも蹄鉄とかつけるんだし……
蹄鉄はどうだろうか。丈夫な方がいいのか?一個で足りんのかな……
何も分からん…… そもそもウマ娘歴が浅いからな、俺。蹄鉄だの何だのは本来ならば縁のないはずのものだ。
俺がどうしたものかと悩んでいると。
「あーっ! キミ、この前の!」
やかましい声が辺りに響き渡った。うるせぇ……
音源の方を振り返ると、そこにいたのはどこかで見覚えのあるウマ娘だった。
「誰だっけ?……って、思い出した、あの時のクソガキ!」
あの時の、ってのはシンボリルドルフとのレースの話だ。直接対面したわけじゃ無いが、俺はこいつをよーく知ってる。多分こいつがレースの噂を流して、あの場に人を集めた張本人だからだ。
「おいクソガキ、お前のせいでなぁ……」
「ちょっと! 会っていきなりクソガキって何さ! ボクはテイオー! トウカイテイオー様だよ!」
自分で様って付けるか普通……?クソガキを否定してる割には喋るたびにクソガキ度合いが増してる気がする。
「はぁ…… お前の名前はどうでもいいよ。それより、お前が人呼びまくったせいで負けた俺が惨めになっただろうが」
「そんなの知らないよ! ボクはカイチョーの走りが見たかっただけだし!」
「このガキ……」
「またガキって言ったー!」
クソガキじゃないだけ良いだろうが。逆にどの要素とったらガキじゃなくなるんだよ。
「ガキはガキだろうが!」
「なんだとぉー! というか、キミだってボクと身長変わらないじゃんか!」
うん…… それを言われるとちょっと弱い。今の俺の身長はとても小さい。目の前のガキと同じレベルだ。もしかしたらそれよりちょっとだけ低いかもしれない。
「チッ…… 言動の問題だよ! お前に落ち着きってものは無いのか?」
「なっ…… 何さ! キミこそ澄ました顔しちゃってさ! そもそもキミが負けなければよかっただけじゃん!」
無茶言うな。
「はぁ…… もういい。俺は忙しいんだよ、お前に構ってやる時間はないんだ」
トウカイテイオーから視線を外しシューズの棚に向き直る。
「ふーん、靴見てるの? ボクにも見せてー」
……話聞いてた? 何で隣に陣取ってるの? ちょっと良い匂いするからやめて欲しい。
「あっ、こっちのも可愛い〜! うーん、でもキミにはあっちにあるやつの方が合ってるかもよ?」
「え、そうなの?」
「うん。カイチョーと走ってる時にちょっと見た感じだと……」
「そうなのか…… なぁ、シューズと蹄鉄ってどうやって選ぶんだ? よければ教えてくれ」
トウカイテイオーの方がウマ娘としては先輩、靴に関しても俺よりかは詳しいはずだ。
「え〜? どうしよっかな〜?」
「……頼む。この通りだ」
あんまりこいつを調子に乗らせたくないとは思いつつも頭を下げる。
「ええ〜? んふふ、仕方ないな〜」
もうすでにウザい。まぁ我慢だ、我慢……
「ほんっと、しょ〜がないなぁ〜!」
「よし表出ろや」
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別に表出ることもケンカすることもなく。
トウカイテイオーの意見は至極まともなもので、買い物は無事に終わった。
唯一不満点があるとするならばトウカイテイオーが事あるごとにあっちこっちへ行こうとしてたことくらいだ。それも付き合ってもらってるこちらが言うことではない。
「あっ、見て見て! はちみー!」
スポーツショップを出てしばらく歩き、トウカイテイオーが指さしたのは飲み物?の屋台だった。何人かのウマ娘が並んで列をなしている。
「はちみー? なんだそりゃ」
「ええー! キミ、はちみー知らないの!? 美味しいのに!」
ずかずかと俺の手を引っ張りながら屋台へ歩みを進めるトウカイテイオー。おそらく抵抗は無意味だ。
「ねぇ、せっかく付き合ったんだしさ、奢ってよ!」
「はぁ? 何で…… まぁいいや、感謝はしてるしな」
「ホント? やったー!」
飛び跳ねながら喜びを表現するトウカイテイオー。こういうのも年相応なのだろうか。
「はちみー硬め濃いめ多めで!」
そう時間のかからないうちに俺たちの番になり、店員さんに注文を伝えるトウカイテイオー。
カタメコイメオオメ…… なんだって?よくわからない呪文みたいなの唱えていたが……
「キミは? どうするの?」
「あ、俺? うーん…… とりあえず同じので」
頼んだこともなければ呪文の意味もわからないので注文の仕方がわからない…… なので同じのを頼んでおくのが無難だろう。
「あっ、来た来た!」
トウカイテイオーはカップを受け取って嬉しそうにしている。
……てか高いなこの飲み物。割に合わなくねぇ? まあいいけどね。他に金使うところもないし。
「おいしー!」
もう飲んでる……
どっかベンチにでも座って落ち着きながら飲もうと思ってたんだが…… まあいいか。俺も歩きながら一口啜る。
「甘……」
甘いだけだわこれ。あとめっちゃ啜りづらい。
「でも美味いな……」
「ふふん、でっしょー?」
いや自分でも不思議だ。甘いだけなのに…… この身体の影響か?
そういや店の列にもウマ娘が多かった気がする。単純に学校が休みだからトレセン学園生徒が多いのかと思っていたが……
ウマ娘の超人的な身体能力を使うにはそれ相応のカロリーが必要になるはずだ。だからこういう高カロリーなものが美味しく感じるとか……? どうでもいいけど。
「あっ、ねえねえ、キミ! この後時間ある?」
「ん? あるにはあるが……」
「じゃあさ、ゲーセン行かない?」
「ええ〜? なんでだよ」
「いいじゃんいいじゃん! ここまで来たんだから付き合ってよ!」
「むー…… 仕方ねぇな……」
「ニシシ、じゃあ決まりね!」
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建物の中にあるゲームセンターへたどり着いてすぐ、トウカイテイオーはある筐体の前に向かった。
「なにこれ?」
「ダンスゲームだよ! 知らないの?」
「知らん。ゲーセンにはしばらく来てないからな……」
トウカイテイオーがお金を投入したのはなんだか大きな筐体だ。
目の前の大きな液晶の他に、足元にも画面がある。ダンスゲームってことはもしかして、この画面の上で踊るのか。
「そうだ! せっかくだから勝負しようよ! どっちが高い点数取れるかさ!」
「いや俺このゲームやったことないんだけど……」
「ボクからね! いっくよー!」
「聞いてないし……」
仕方ない。こうなってしまってはやりたくない、とゴネるほうがめんどくさいだろう。早々と抵抗を諦める。
「やるな、あいつ……」
正直ゲームの点数基準はわからないが、そんな俺が見てもトウカイテイオーの踊りは圧巻の一言に尽きた。
持ち前の足の柔らかさを使ったダイナミックなステップ。それでいて全くリズムが崩れる様子はない。正面の画面に流れ途絶えることのない『perfect!』の文字が彼女のステップの正確さを表していた。そして何より——
「楽しそうに踊るな、あいつ」
弾けるような笑顔。それが多くの人を魅了する。1人、また1人と客が足を止め、気づけば辺りは大勢のギャラリーで埋め尽くされていた。
「よっ、ほっ、ほっ」
当の本人は全く気にしていない様子だ。こんなことには慣れっこなのだろうか。
「っと…… 見て見てー! 自己ベスト!」
画面に表示されたのは『98.255』の点数。
多分、いや間違いなくすごい点数なのだろう。ギャラリーからは歓声と拍手が上がる。
「よーし! じゃあ今度はキミの番ね!」
「は? 正気かお前」
観客気にしないにも程があるだろ。こいつの視界には映ってすらいないのか?自信があったお前ならともかく、俺は完全初見の初心者だぞ?
なんか大勢が期待の目で俺のこと見てるし……
「ええー! やってよー! 勝負するっていったじゃん!」
言ってない。俺は確実に言ってない。お前が勝手に言ってるだけだからな?
だがこれ以上この場で駄々をこねられても悪目立ちするだけだ。
腹をくくり、財布から100円を取り出す。
「ほんとに、後で恨むぞ」
シンボリルドルフの時といい、こいつは大勢いる中で俺を負けさせるのがどうも好きらしいな。
たどたどしい手つきで楽曲を選択する。……あいつと同じのでいっか……
そのうち曲が始まり、目の前の画面に楽譜が表示される。
えーと、確か…… こう、こう、こう……
たん、たん、たん、たん。いち、に、さん、し。
右、左、右……
見よう見真似でトウカイテイオーがやっていた足を再現する。ただ、あのステップはあいつの才能があってのものだ。再現できるのは足の位置で精一杯だった。
「ははっ……」
なんかだんだん楽しくなってきた。ぴょんぴょんと跳ねながらノーツを踏んでみる。ちょっとだけ腕の振り付けも入れてみる。
そんな感じで、大きなミスもなく曲の終わりまで踊りきることが出来た。
「ふぅー」
「おお……すごい! すごいよキミ!」
トウカイテイオーが興奮した様子で詰め寄ってくる。
「近い近い、あんま近寄るな」
「いやいや! キミほんとに初めてなの!?」
「ああ……」
「すごい! すごい!」
「そうでもねぇだろ……」
肝心の点数は『90.188』。トウカイテイオーの点数には遠く及ばない。だが——
観客からは拍手が巻き起こった。
「すげぇ! ハイレベルだったぞ、お2人さん!」
「2人とも、かっこよかったぞー!」
その声を受けて、トウカイテイオーがいたずらっぽく笑う。
「ほらね?」
「……」
思わず言葉に詰まる。恥を晒すのは免れたが、これじゃ別の意味で恥ずかしい。
「もう行くぞ、トウカイテイオー……」
「ええ〜! もっとやろうよー!」
「こんなとこにいつまでも居られるか!」
俺はトウカイテイオーの腕を引っ張り、強引にその場を後にした。
そのあともクレーンゲームやら何やらで勝負を仕掛けられ続け、店を出る頃にはとっくに日が沈んでいた。
「あー楽しかった! ね、キミも楽しかったでしょ?」
「……そうだな、悪くなかったよ。そもそも目的は達成したしな」
そう言ってシューズと蹄鉄の入ったビニール袋を掲げる。
「んふふ。また遊ぼうね!」
「二度とやるか」
「ええー! なんでよー!」
「冗談だ。あんなに注目されんのは勘弁して欲しいけどな」
「ボクのせいじゃないもん!」
いや、お前のせいだろ。でもまあ……
「お前が魅力的だからな、仕方ねぇか」
「ピェ…… 急に何言うのさー!」
「事実を言っただけだ」
「〜〜〜〜! もう!」
トウカイテイオーはそう言い残して早歩きで逃げ去ってしまう。もう寮の目の前だけど……
「あー、トウカイテイオー! ……またな」
「……うん! バイバーイ!」
トウカイテイオー。今日1日付き合っただけだが……
彼女も間違いなく、俺が追いかけるべき星の1人だと確信できた。
ちなみに時系列はルドルフとのレース後ですが割とあやふやです
感想・評価等くださるとモチベと更新ペースが爆増します
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他のいろんなウマ娘が登場する番外編みたいなの書いていいですか
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いいよ
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ダメ