屋号・火炭。
それは伝説や幻とまで言われた手銃使いを唯一この世に産み落とすことの出来る一族であり、僕の生きる血族である。
日曜日。あまりに知らなすぎた自分のルーツを知るために、僕は並盛中央図書館へと足を運んだ。
正直、こんな所に火炭の資料があるとは思えないんだけど、リボーンによれば閲覧禁止区域には裏社会に関するものが置かれていることが多々あるという。
「さらっと言ったけど、閲覧禁止って読んじゃいけないから閲覧禁止なのでは?」
「読む方法なんていくらでもあるだろ」
「マフィアの常識を僕に求めないでおくれ……」
肩に乗っているリボーンにツッコミを入れながら広々とした図書館の中を歩いていく。
なんでちゃっかりリボーンがいるのかと言うと、僕が図書館に行ったことがないから利用方法が分からないと伝えると、同じく火炭のことが知りたいという彼が使い方を教えるという名目でくっついてきてしまったのだ。
下手に独りで彷徨って終わるよりはずっとマシなので、僕はリボーンの同行を快諾した。
「この先だぞ」
リボーンの誘導にて、あっさり閲覧禁止エリアの入口までやってきてしまった僕は、その閉ざされた扉と侵入者を拒む南京錠を見つめた。
……入れないじゃん。
立入禁止の札も出てるしダメじゃん。
透明マントとか持ってないからこっそり入るのも無理だしね。
うん、透明マントが欲しくなってきた。
「そっちは立ち入り禁止だよ……って、また君か」
「え?」
突然声をかけられたと思えば、“また”?
「あ、雲雀さん。こんにちわ」
声の主はやっぱり雲雀さんだった。
日曜日なのに学ラン姿とは……愛校心強過ぎか、もしくは見回り中とかかな?
それにしても雲雀さんと図書館ってなんか似合わない。
「そうだ、この中に入る方法って知りませんか?」
「馬鹿なの? 不法侵入でもする気なら咬み殺すよ」
「ひえっ」
どストレートに馬鹿って言われると結構傷つくよ……。
「できれば合法侵入がしたいです。じゃなくて、調べたいものがここにあるかもしれないんです」
「調べたいもの?」
「僕の家系と言いますか……火炭という一族について」
「霞の資料ならないよ」
「あ、いえ、その霞ではなく、火の炭って書いて火炭です」
火の炭で火炭、そう伝えると雲雀さんが少しだけ反応した。
え、もしかして知ってる?
くるっと背を向けたかと思うと、雲雀さんは何食わぬ顔で南京錠を外して扉を開けた。
しかもそのまま中に入っていってしまう。
待ってどういうことですかこの状況。
「突っ立ってないでついてきなよ」
「え、でも立入禁止じゃ……」
「合法侵入したいんでしょ」
「したいです」
まさかの展開に本音ダダ漏れのままに後ろをついていくことにした。
入れちゃったよ……いいんですか。
「ここは良くない情報が置いてあるからね、人目につかないようにしてあるんだよ」
「へぇ……。でもどうして僕のこと入れてくれたんですか?」
「ただの気分だよ。だけど関係の無いものを読もうとしたり、知ったことを悪事に使うようなら咬み殺す」
めっちゃ怖いし言うこと聞くのでトンファーをしまってくださいお願いします。
雲雀さんの案内で僕は火炭について書かれている本が置いてある棚までやってきた。
そのどれもが古くてかび臭い。
しかもやたらと量が多い!?
戦国時代からいるって言ってたし、もしその頃からの記録があるんだとしたらこの量でもおかしくないだろうけど……。
一番取りやすい位置にあった一冊を手に取って軽くめくってみる。
……な、なんてことだ。
「大変だよリボーン……」
「なにか分かったのか?」
「僕……漢字が難しすぎて何も読めない」
「……」
「後生だからその哀れんだ目をやめておくれよ」
古典なんて勉強したこともないんだからか読めるわけがないだろう。
おバカな中学1年生に何を求めているんだ。
「よく蔵書を読もうと思ったな」
「こんなに難しいなんて聞いてない」
「気づけ」
「無理」
というわけで代わりにリボーンが読んでくれることになった。
僕はというと、比較的最近の本を探し出して、読める範囲で読んでいくことにした。
手に取ったのは、手銃使いについて詳しく且つわかりやすくまるでおとぎ話のようにまとめられた本。
手銃使いの歴史から始まっていたけど、大体はリボーンから聞いた通りの話だった。
戦国時代に突然現れたことや武器を持たないでその威力を引き出せること、手銃使いが住む家は繁栄すること……。
そして僕は気になるものを見つけた。
「扱える銃器とその威力……?」
書かれていることによると、手銃使いは多種多様の銃器の威力を引き出すことが可能だという。
ただし手銃使い本人の知識に強く依存し、架空の銃器を生み出すことは出来ない。
使用する銃器をよく理解し構えを正しく再現することが出来れば本物と同じ威力を出せるが、できなければその威力は大幅に減少する。
そこまで読んで僕は不意に思い出した。
あの事件があった日、僕はツナに対して銃を向けた。
西部劇で使用されている銃という明確なイメージを持って。
ツナが気絶で済んだのは僕が正しい持ち方をしていなかったから大幅に威力が軽減されたから?
そのあとにコップが割れたのは被害がそれだけで済んだのは、銃という大雑把なイメージと子供遊びの構えをしていたから?
さらに読み進めていくうちに、確信に迫るものを見つけた。
「明治に入ってから火炭は手銃使いの数を減らし、霞と名乗って身を潜めた……。手銃使いが現れる頻度は数十年に一度となり、最近で素質を持った赤子が生まれたのは……」
書いてある西暦を確認する。
「これ、僕のことだ……」
それは間違いなく僕が生まれた年だ。
慌ててこの本が書かれた年を確認すると、およそ十年前のことだ。
こんな最近まで、ここにある資料は更新されている……。
「恭華、ちょっといいか」
難しい方の資料を読んでいたはずのリボーンに呼ばれて本を閉じる。
「どうしたの?」
「気になることが書いてあってな。火炭が霞と名を変えて100年以上経ってから、本家の娘に異端がいたらしいんだ。手銃使いを繁栄の道具と考えるのを極端に嫌っていたらしく、素質を持った一人娘を連れて行方不明になったらしいぞ。素質のある娘の名前は載ってねえが、その異端の名はある」
「……聞いても?」
「霞 恭奈、という名前だ」
しばらく、言葉が出なかった。
僕はその名前を知っていた。
いや、知っていたとかそんな次元の話じゃない。
「僕の、お母さんの名前だよ」
生まれてからずっと、僕は家族を母しか知らなかった。
父も祖父母も、いとこであるあの子以外の親戚も、誰一人として親族を知らなかった。
どうして父がいないのか聞いたこともあったけど、母は必ず笑って頭を撫でるだけだった。
事故か病気で死んでしまったのかと思っていたけど、今なら違うとはっきりわかる。
僕に父親がいなかったのは、母が僕を連れて家を出たからなんだ。
「ね、ねえリボーン、霞 弥奈って人は!?」
「ミナ? いや、どこにもそんな名前は載ってなかったが……誰だ?」
「僕の、いとこ、の、はずなんだけど……従姉妹、だって……」
弥奈ちゃんの名前は載ってない……?
いや、そもそも家から逃げてきたっていうお母さんが霞の人を家にいれるなんてあまりにおかしすぎる話だ。
……じゃあ、僕がずっと仲良くしてきたあの子って、誰?
「調べてやろうか?」
「もし、迷惑じゃなければ」
知ることが出来るなら、知りたい。
弥奈ちゃんは一体何者で、どうして僕と仲良くしてくれていたのか。
出来ることなら知りたい。
「うちに写真があるから、よかったら来る?」
「いいのか?」
「うん。だって本当は関係ないのに調べてくれるんだもん、協力しなくちゃ」
読んでいたものを片付けて、ずっと待っていてくれた雲雀さんにお礼を言ってから僕達は図書館をあとにした。
家に着いた時に僕の住まいが高級マンションだと知ったリボーンにツッコミを入れられたのはもはや気にしない。
「確かこの辺にアルバムが……あ、あった。この子だよ」
本棚から出したアルバムの中から一枚の写真を取り出す。
それは12歳の誕生日の時にお母さんが撮ってくれた写真。
僕はリボーンに差し出し、隣に写っている女の子を示した。
僕より歳上であることは確かなんだけど、歳を聞くたびに何故か毎回めちゃくちゃな回答をよこしてくるもんで正確な年齢はわからない。
「僕のお母さんも弥奈ちゃんって呼んでたんだけど、弥奈ちゃんが僕の従姉妹じゃないっていうならお母さんとの関係も謎だし、なによりわざわざ従姉妹として接してきた理由がわからない。だから、また会うことが出来たら……。でも、弥奈ちゃんを探すことをメインにしなくてもいいからね。手が空いて暇な時で構わないから」
矢継ぎ早に言ってしまったが、本心としてはどうしても会いたい。
出来ることならお母さんにだって会いたい。
これは前世での話になってしまうけど、あんなに泣いたお母さんを見たのは初めてだったから、悲しませてごめんなさいってちゃんと言いたい。
写真を渡してなにか分かったら連絡するといったリボーンが突然動きを止めた時、正直に言ってリボーンを家に招いたのは失敗だったんじゃないかと思った。
油断してたんだ、きっと。
「火薬の匂い……?」
そうでなければこの一言で思考が止まることは無かった。
「恭華、なんで火薬の匂いがするんだ?」
「ナ、ナンノコトカナー」
「こっちの部屋からするな」
そう言って迷いなく向かったのは、ネロに作らせたあの防音室。
ダメだって、そっちには僕のコレクションが――!!
ガチャッ
止めようにも間に合わず、あっけなくドアは開かれてしまった。
「……恭華」
「弁明のしようもございません」
見られてしまった。
僕の大事な
よりによってリボーンに。
「うう、そうだよ銃が好きなんだよ集めるのも撃つのも好きなんですよもうっ!」
「まだ何も言ってねーだろ」
「どうさなんでこんなに銃が置いてあるんだとか言いたいんでしょ全部趣味で集めたモデルガンだよ毎日撃ってるよそこら辺の人より銃について詳しい自信あるよもうっ!」
「だからまだなんにも言ってねーって」
するとリボーンは壁一面に飾られた銃の中から一つを手に取った。
それは僕のお気に入りにうちの一つだ。
「恭華、これの名称と特徴を言ってみろ」
「コルト。シングル・アクション・アーミー、通称SAA。西部劇で保安官が使用してることでも有名で、その事からピースメーカーとも呼ばれる」
一瞬驚いた顔をしたリボーンだが、すぐに違う銃を取った。
「S&W M19。.357マグナム弾を装填できることからコンバットマグナムと呼ばれる。ルパン三世でおなじみ次元大介の愛用銃」
「じゃあこっちは」
「グロック17。警察間では世界的に幅広く使われている銃。ちなみに隣に置いてあるのはグロック18。デザイン的には17と大差はないけどフルオートで危険だから僕はまだ撃ったことがないん」
ペラペラと銃知識をおおっぴらに披露していると、さすがのリボーンも呆気に取られていた。
あ、そうそう、さつまきコンバットマグナムの話が出たけど、もちろんワルサーP38もあるよ。
なんでって、好きだからだよ。
ルパンってカッコイイよねー。
次元ってかっこいいよねー。
こうやって構えてさー、ちょっとだけニヒルな笑み浮かべちゃってさー、それでズガンと
ズガンッ!
「…………」
「…………」
いやホントごめんなさい自分のことド忘れしてました銃のこと語りたすぎて忘れてました。
「今の、すごい威力だったねえ……あはは。さすがコンバットマグナム」
「笑ってる場合か。それより威力を引き出せるようになったのか」
「え? あ、うん。銃を理解してることと正しい構えができることが最大条件らしいんだ。今日読んだやつに書いてあったよ」
あー、ちょっと試してみたいことが出来ちゃった。
的に向けて作る構えはピースメーカー、つまりは西部劇のあれだ。
ツナに撃ってしまったアレがもし本物の威力を持ってきたらどうなっていたのか、確認しておきたかった。
ズガンッ!
……ひぇ〜……。
とりあえずやばかったっていうのはよーくわかった。
「お前が銃に詳しくなったのは必然だったのかもな」
「え、やめてよ。銃コレクターってことリボーンしか知らないんだよ。お母さんも弥奈ちゃんにも言ってないんだよ」
ただの偶然だと信じたいよ僕は。
だって銃を好きになったきっかけなんてルパンやリボーンなんだからさ。
方向を間違えてたら日本刀フェチか錬金術マニアにでもなってただろうさ。
なんにせよ中二病まっしぐらであることには変わりないんだけどね。
「ところで今日一日付き合わせちゃったけど大丈夫だった? 一応はツナの家庭教師なんだよね?」
「心配すんな。アイツには俺が帰るまでに終わらせなきゃなんねー課題を置いてったからな」
「えげつない……」
「で、お前またツナのこと呼び捨てになってるぞ」
「げっ」
やっばい、リボーンと話してるとどうしても素に戻る。
いや普段がキャラを作ってるって訳では無いんだけどね。
ただやっぱりツナのことはツナくんと呼びたくなるのさ。
素でいるとどうしても抜けるみたいだけど。
「んじゃ、今度こそ帰るぞ。あとでお前にも課題やっからな」
「いらない……」
どうやら僕も生徒認定されたらしい。
というかファミリーに入った時点でそうなるか……。
……で、課題って何。