【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完)   作:藍沢カナリヤ

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転生
第1話 憲倫くんと憲紀くん


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最期の記憶は『あの術師』に殺される場面。

 

私は死んだ。

 

残念なことにそれは間違いない。記憶は嘘をつかない。

殺されたことは口惜しいが、悔いはない。加茂家も十分大きくなり、御三家と呼ばれ、呪術界の中枢と言われるまでになった。

せめてもう少しだけそれを見守りたかったが、きっとそれは叶わないだろう。

 

願わくば、加茂家が末長く繁栄していくように。

死にゆく者はそれだけを願うとしよう。

 

そうして、私の生涯は幕を下ろしたーーはずであった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「?」

 

 

 

私の意識は、急にそこに現れた。

 

 

(ここは……どこだ?)

 

 

知らない場所、知らない景色で覚醒したものだから混乱する。辺りを見渡すと、そこはどこかの建物の中のようだった。だが、妙に小綺麗で、どうも落ち着かない。確か西洋ではこのような建築物もあると聞いたが……。

殺されたかと思ったのだが、私はいつの間にか西洋に飛ばされたのか?

混乱したまま、私はよろよろと歩き出す。頭は痛むし、足取りも重い。声を出そうとしても、何故か上手く発声できない。酸素が脳に回っていないのがぼんやりと分かる。

とにかく身体のあちこちが不調を訴えていた。

 

 

「…………」

 

 

目の前の西洋風な扉を開けると廊下が広がっている。そのまま外へ出ようとして、壁に沿って歩みを進めると、廊下の脇に洗面所を見つけた。

そこには鏡。

外の様子よりも、自分の状態を確かめるのが先か。

そう思って洗面所へ向かう。

そして、そこで私は自らの目を疑うこととなった。無理もない。鏡面の下の洗面台は未来的で私の知るものではなかったし、なりよりーー

 

 

「誰だ、この女は……?」

 

 

鏡を見れば、そこに写るのは私自身の姿のはず。

それは不変で、当たり前のはずだった。

だが、そこに写っていたのは、14、5ほどにしか見えない見知らぬ女子だったのだ。

 

 

「…………私、なのか?」

 

 

やっと出せた声も、私のものではない。少なくとも男の声ではないことは混乱した頭でも分かる。

顔を触ると鏡の中の女子も同じように動く。

……いや、ありえないだろう。

そうは思うが、この状況だ。嫌が応にも察してしまう。

そんな術式聞いたこともないが、それでも目の前で、私自身に起こっているこの現象はそう呼ぶしかないであろう。

 

 

「……女に転生している……?」

 

 

そう。

加茂家の呪術師。明治時代の加茂家当主。

私こと『加茂憲倫(かものりとし)』は、年頃の女子に転生してしまったのだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

私の目覚めた家らしき場所の玄関から取ってきた新聞によると。

私の生きていた時代からは随分と時が経っているようで、明治の世は平成と呼ばれる年号に変化していた。なにやら来年には更に年号も変わるようで……。

 

 

「信じられんが……事実なのだろうな」

 

 

時代を越えたこと。それを実感するのは簡単だった。

冷気の出る白い箱や逆に熱風の出る機械。中に人が入っている薄い板に、自動で動く掃除用具とおぼしき物。

この部屋の中にあるもののほぼ全てが私にとって見たことも聞いたこともない物体で。勿論、その使い方なども分からない。

正直な話、呪霊などよりもよっぽど怖い。

 

だが、そうして訳の分からない状況で気を張っていたとしても、人間腹は減るもの。私が件の冷気の出る白い箱入っていた唯一分かる代物ーー鶏卵に手を伸ばした時だった。

 

 

ーーピンポーーーンーー

 

「!!」

 

 

何かの機械音が部屋中に鳴り響いた。

咄嗟に音の鳴った方に、呪力を飛ばそうとするが、

 

 

「っ、呪力が練れない!」

 

 

術式はおろか、呪力すら練ることができない。

その事実に打ちのめされかけていると、ガチャガチャと外へと続く扉から音がした。

そして、扉が開く。

そこにいたのは、

 

 

「…………なぜ卵を潰しているんだ」

 

 

私のことを訝しげに見る黒髪長髪で糸目の男。

歳は18かそのくらいか。

この時代に来て、鶏卵の次に見慣れた黒い和服を着てはいるが……。

 

 

「何者だ」

 

「?」

 

 

私の問いに首を傾げる男。

何を言ってるのか分からないが、と前置きをしてから男は事情を説明してくる。

自分は女の従兄弟に当たる人物じゃないか。

いつまで経っても連絡を返さないから心配になったのだ。

少なくとも彼は、私ーーこの女子にとっては敵ではないらしく、敵意や殺意の類いは感じられない。

 

 

「…………」

 

「…………それよりもいつまでそんな格好でいるつもりだ」

 

 

男はそう言って、私から目を反らした。

言われるまで気づかなかったが、この女子はかなりの薄着で薄い布切れを羽織るだけという格好だった。

 

 

「早く何か着ろ。いくら従兄弟とは言え、年頃の女性が妄りに肌を見せるものじゃあない」

 

 

それには同感で、私はその辺りに丸まっていた洋服らしきものを羽織った。これならば、まぁいいだろう。

 

 

「……失礼」

 

「いや……それよりもなんだ、その口調は。何か変なものでも食べたのか?」

 

 

あぁ、そうか。

目の前の男にとって、私は見知った従姉妹のはずだ。そもそも女がこんな口調で話していては変にも思うだろう。

 

 

「失礼いたしました。お恥ずかしいところをお見せして」

 

「…………本当に、どうしたんだ……?」

 

 

ふむ。

どうやらこれも変らしい。

まぁ、時代も変わっているのだから、当然と言えば当然だろう。今は仕方がない。変に思われるだろうが、この口調で通すしかあるまい。

この男には申し訳ないが……あぁ、そういえばまだ名を聞いていなかったな。

 

 

「あの……」

 

「あ、あぁ」

 

「大変申し訳ありませんが……お名前を教えてはいただけませんか?」

 

「……私のか?」

 

「はい」

 

 

会話をしようにも、名前が分からなくてはどうしようもない。

まずは名を知ることから始めよう。

その程度の軽い質問のつもりであった。だが、男から返ってきた答えは、あまりにもーー

 

 

 

加茂憲紀(かものりとし)

 

 

 

「……本当にどうしたんだ、(つぐみ)

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

私を『(つぐみ)』と呼ぶ、私と同じ名を持つ男。

彼と出会ったことから、私の第2の人生が始まったのだ。

 

 

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