【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完)   作:藍沢カナリヤ

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第14話 散策を楽しむ憲倫くんと

ーーーー東京駅構内ーーーー

 

 

「うまい!!」

 

 

私は人目も憚らず、叫んだ。

そう。それほどに旨かったのだ。私の人生で一番と言っても過言ではない。

 

 

「くっ、涙が……」

 

 

つい涙腺が緩くなる。

いかんな、もう私も歳だ。こんなことで涙が溢れてしまうとは。

しかし、それほどまでに旨かった。

こんびにで邂逅したちょこれーとの味を知ってから、私はどうも甘党になってしまったらしい。

さらに、この間の真希と真依との任務で東京駅を訪れたことで、私の枷が外れた。つまり、

 

 

「東京駅。ここまでのちょこれーとを出す甘味屋があるとはな」

 

 

そう。

私は東京駅内にて、食べ歩きをしていた。

まぁ、食べ歩きといっても、数件の店内で飲食を楽しんでいるだけだ。

 

 

「多少値は張るが、この旨さには変えられまい」

 

 

ありがたいことに任務を受けることで収入はあるから、こうして値の張る甘味屋での飲食ができる。

平成、なんといい時代だ。

 

 

「あぁ、極上だッ!!!」

 

「あの、お客様……他のお客様のご迷惑になりますので……」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

追い出された。悲しい。

しゅんと肩を落としながら歩いていると、ふと気づく。

 

 

「ん?」

 

 

東京へ行くからと憲紀に持たされた鞄がなくなっていた。あのちょこれーとの店に入る前には持っていた……あれ? 持っていたか?

 

 

「なんということだ……」

 

 

ともかく、その事実に震える。

あの中には帰りの新幹線に乗るための金が入っている。その上、金を出し入れできる不思議な機械えーてぃーえむを使うための札もあの中だ。

つまり、今の私はーー

 

 

「一文無し……!?」

 

 

思わず膝から崩れ落ちる。

いや、最悪東京から京都までなら歩いて帰ることもできる。普通の人間ならばともかく、私ならいけるはずだ。今は6月。夏もまだ先だからそこまで暑くもない。多少疲れはするだろうがな。

だが、真の問題はそこではないのだ。

 

 

「……せっかく憲紀に貰った鞄なのに」

 

 

自分の子孫から初めて貰った贈り物。それを失くすなど、人として最低だ。このままでは憲紀に顔向けできないではないか。

しばらくその場から動けなかった。その間、道行く人から変な目で見られていたのは感じていたが、それでもあまりの衝撃に動けない。

 

 

「…………よしっ!」

 

 

一通り自分を責め、落ち込んだ後。

沸々と怒りが沸いてきた。それは憲紀から贈られた私の鞄を盗んだ者への怒りだ。それ相応の仕打ちを与えねばな。

そんなことを考えながら、私は勢いをつけて立ち上がった。

そのせいで、

 

 

ーーバキッーー

 

「いってぇぇ!?」

 

 

私を心配して上から覗き込んでいた彼の顔面に、頭突きをかましてしまったのである。

無論、私は無事だ。『天与呪縛』で底上げされた肉体がある。だが、私を心配してくれた心優しい彼は恐らく……。

私は顔面がぐちゃぐちゃになっている可能性も考慮して、恐る恐るうずくまる彼の顔を見た。

 

 

「すげぇ石頭だな……」

 

 

驚いたことに彼は無事だった。右手で押さえている鼻は多少赤くはなっているが、それだけだ。

 

 

「すまない。少々考え事をしていてな」

 

 

鼻は大丈夫か?

そう訊ねながら手を差し出すと、彼は大丈夫と笑いながらその手をとる。なんとも人懐っこい笑みに、荒んでいた心が和むのを感じた。

 

 

「それでこんな駅のど真ん中でうずくまってたけど、どったの?」

 

 

首をかしげる学ラン姿の彼。どうやら彼は中々のお人好しのようで、初対面の私に何かあったなら手伝おうかとも言ってきた。

鞄を盗まれた後だ。初めてあった人間なんて多少警戒すべきなんだろうが、彼はなんだか信用できる気がしたのだ。

 

 

「実は……」

 

 

……………………

 

 

事情を話すと、それは大変だと返し、なにやらけいたいで何かを検索する彼。そして、私を連れて駅を練り歩く。

 

 

「へぇ、京都から来たんだ!」

 

「あぁ、ついこの間、私用で初めて東京に来てな。通りがかりに見た駅内のすいーつに強く興味を惹かれた」

 

「それでまた来たと。甘いもの食うために、ひとりで来るなんて中々行動力あるんだな。まぁ、そういう俺も野暮用で東京来ただけなんだけどさ」

 

 

確かに言われてみれば、多少訛りのようなものもある気がするか?

そうして、2人で話をして、私たちは駅を出たところの交番とやらに着いた。どうやらここは失くしものや盗難などの届けを出すところで、つまりは明治でいう藩兵による治安維持のようなものか。

それよりも恐らくずっと組織的なものなのだろう。揃いの制服を着た2人の警官が出迎えてくれた。

案内をしてくれたお人好しの彼に促され、私はその2人に状況を話した。駅内に私の鞄についての情報を流して、連絡を待ってくれとのことだった。

 

 

「見つかるといいな、その鞄」

 

 

ニカッと笑う彼。

……あぁ、そういえば名前を聞いていなかったな。助けてくれた恩人なのだ。無事京都まで帰った後、礼をするのに聞いておかねばなるまい。

そう思い、私は彼に名を訊ね、彼はそれに答えた。

 

 

 

「俺?」

 

虎杖(いたどり)悠仁(ゆうじ)。えぇと、虎に杖って書いて『いたどり』。珍しい名字だろ?」

 

 

 

彼はまた、人懐っこい笑みを浮かべ、笑った。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

2018年6月5日。

その日、私は彼ーー虎杖悠仁と出会った。

その彼が『両面宿儺』の器になると知るのは、また後の話である。

 

 

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