【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完) 作:藍沢カナリヤ
ーーーー東京駅構内ーーーー
「うまい!!」
私は人目も憚らず、叫んだ。
そう。それほどに旨かったのだ。私の人生で一番と言っても過言ではない。
「くっ、涙が……」
つい涙腺が緩くなる。
いかんな、もう私も歳だ。こんなことで涙が溢れてしまうとは。
しかし、それほどまでに旨かった。
こんびにで邂逅したちょこれーとの味を知ってから、私はどうも甘党になってしまったらしい。
さらに、この間の真希と真依との任務で東京駅を訪れたことで、私の枷が外れた。つまり、
「東京駅。ここまでのちょこれーとを出す甘味屋があるとはな」
そう。
私は東京駅内にて、食べ歩きをしていた。
まぁ、食べ歩きといっても、数件の店内で飲食を楽しんでいるだけだ。
「多少値は張るが、この旨さには変えられまい」
ありがたいことに任務を受けることで収入はあるから、こうして値の張る甘味屋での飲食ができる。
平成、なんといい時代だ。
「あぁ、極上だッ!!!」
「あの、お客様……他のお客様のご迷惑になりますので……」
ーーーーーーーー
追い出された。悲しい。
しゅんと肩を落としながら歩いていると、ふと気づく。
「ん?」
東京へ行くからと憲紀に持たされた鞄がなくなっていた。あのちょこれーとの店に入る前には持っていた……あれ? 持っていたか?
「なんということだ……」
ともかく、その事実に震える。
あの中には帰りの新幹線に乗るための金が入っている。その上、金を出し入れできる不思議な機械えーてぃーえむを使うための札もあの中だ。
つまり、今の私はーー
「一文無し……!?」
思わず膝から崩れ落ちる。
いや、最悪東京から京都までなら歩いて帰ることもできる。普通の人間ならばともかく、私ならいけるはずだ。今は6月。夏もまだ先だからそこまで暑くもない。多少疲れはするだろうがな。
だが、真の問題はそこではないのだ。
「……せっかく憲紀に貰った鞄なのに」
自分の子孫から初めて貰った贈り物。それを失くすなど、人として最低だ。このままでは憲紀に顔向けできないではないか。
しばらくその場から動けなかった。その間、道行く人から変な目で見られていたのは感じていたが、それでもあまりの衝撃に動けない。
「…………よしっ!」
一通り自分を責め、落ち込んだ後。
沸々と怒りが沸いてきた。それは憲紀から贈られた私の鞄を盗んだ者への怒りだ。それ相応の仕打ちを与えねばな。
そんなことを考えながら、私は勢いをつけて立ち上がった。
そのせいで、
ーーバキッーー
「いってぇぇ!?」
私を心配して上から覗き込んでいた彼の顔面に、頭突きをかましてしまったのである。
無論、私は無事だ。『天与呪縛』で底上げされた肉体がある。だが、私を心配してくれた心優しい彼は恐らく……。
私は顔面がぐちゃぐちゃになっている可能性も考慮して、恐る恐るうずくまる彼の顔を見た。
「すげぇ石頭だな……」
驚いたことに彼は無事だった。右手で押さえている鼻は多少赤くはなっているが、それだけだ。
「すまない。少々考え事をしていてな」
鼻は大丈夫か?
そう訊ねながら手を差し出すと、彼は大丈夫と笑いながらその手をとる。なんとも人懐っこい笑みに、荒んでいた心が和むのを感じた。
「それでこんな駅のど真ん中でうずくまってたけど、どったの?」
首をかしげる学ラン姿の彼。どうやら彼は中々のお人好しのようで、初対面の私に何かあったなら手伝おうかとも言ってきた。
鞄を盗まれた後だ。初めてあった人間なんて多少警戒すべきなんだろうが、彼はなんだか信用できる気がしたのだ。
「実は……」
……………………
事情を話すと、それは大変だと返し、なにやらけいたいで何かを検索する彼。そして、私を連れて駅を練り歩く。
「へぇ、京都から来たんだ!」
「あぁ、ついこの間、私用で初めて東京に来てな。通りがかりに見た駅内のすいーつに強く興味を惹かれた」
「それでまた来たと。甘いもの食うために、ひとりで来るなんて中々行動力あるんだな。まぁ、そういう俺も野暮用で東京来ただけなんだけどさ」
確かに言われてみれば、多少訛りのようなものもある気がするか?
そうして、2人で話をして、私たちは駅を出たところの交番とやらに着いた。どうやらここは失くしものや盗難などの届けを出すところで、つまりは明治でいう藩兵による治安維持のようなものか。
それよりも恐らくずっと組織的なものなのだろう。揃いの制服を着た2人の警官が出迎えてくれた。
案内をしてくれたお人好しの彼に促され、私はその2人に状況を話した。駅内に私の鞄についての情報を流して、連絡を待ってくれとのことだった。
「見つかるといいな、その鞄」
ニカッと笑う彼。
……あぁ、そういえば名前を聞いていなかったな。助けてくれた恩人なのだ。無事京都まで帰った後、礼をするのに聞いておかねばなるまい。
そう思い、私は彼に名を訊ね、彼はそれに答えた。
「俺?」
「
彼はまた、人懐っこい笑みを浮かべ、笑った。
ーーーーーーーー
2018年6月5日。
その日、私は彼ーー虎杖悠仁と出会った。
その彼が『両面宿儺』の器になると知るのは、また後の話である。
ーーーーーーーー