【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完) 作:藍沢カナリヤ
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昨日、霞と目撃したメカ丸と黒い僧衣の男。
その話は今日は置いておこう。なぜなら、今日は東京の呪術高専との交流会ーー団体戦が行われるからだ。
今は、友の応援をするのが筋というものだろう。
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「負けるなよ! メカ丸! 霞! 真依! 憲紀! 西宮先輩!」
画面ごしに私は吠えた。
「ちょっと加茂……ええと、鶫。静かにしなさい」
「おっと、失礼」
少々、熱が入りすぎたことを歌姫女史に謝る。
そんな私を厳しい目で睨む楽巌寺学長殿。やはり彼の視線は中々に力がある。私が彼より年寄りでなかったら確実に身がすくんでしまう場面だろう。
「楽巌寺学長、彼女は……」
「気にするでない。あれは加茂家の人間じゃ。ちと変わっておるが」
そんな楽巌寺学長に話しかけるのは、東京校の学長を務めるという男性。名前は確か夜蛾といったな。かなりの強面で見るからに戦闘向きの呪術師だ。
他には、髪の長い女性。といってもただの長髪ではなく、特徴的な……長い髪を顔の前で三つ編みにしている。彼女も筋肉の付き方を見るに相当の肉体派のようだな。
あとは……。
「開始1分前でーす。では、ここで歌姫先生にありがたーい激励のお言葉を頂きます」
「はぁ!? え……えーっと」
目隠しをした白髪長身の男性。歌姫女史をおちょくるような態度。おおよそ教員とは思えない雰囲気の人物だ。
たった今も自分から振っておいて、歌姫女史の挨拶をぶった切って交流会の開始を宣言するという鬼畜の所業をしている。彼は私が見てきた術師の中でも、なかなかいい人格をしてらっしゃる。
だが、そんなことがどうでもよくなるくらいには強い。ここにいる誰よりも、圧倒的に強い。
呪力の感じ取れない私でもハッキリと分かる。それほどに彼の気配は異様なのだ。
「さて、おじいちゃん。その子は?」
勝手に交流会を開始させたその男性は、楽巌寺学長に訊ねた。彼の態度には畏敬の念は欠片も感じない。
「加茂家の者じゃ。今日は荷物持ちで同行させておる」
「なるほど、保守派らしい御付きではあるね。さて……」
品定めをするように、彼は私の体を見る。じろじろと見られるのはあまりいい気分はしない。中身は中年男性とはいえ、外見は未成年の女子なのだから尚更である。
「ふーん、その割には……」
「?」
なんだろう。含みのある笑いをされたのだが……。
人の神経を逆撫でするのが上手いのだろう。楽巌寺学長殿も歌姫女史も彼の態度に苛立っているようであった。
敵には回したくないが、敵の多そうな男だ。
先ほどもーー
ーーーー回想ーーーー
私たちを待たせていたその男は何か巨大な箱を台車に乗せて現れた。どこかの外国の土産を我々京都校の面々に渡し、東京校の皆には別のものを用意していると告げる男。
「故人の虎杖悠仁君でぇーっす!!」
中から出てきたのは、いつか東京駅で私を助けてくれた虎杖悠仁であった。
そうか。彼も呪術師だったのか。呪術師の絶対数は少ないのだが、存外世間も狭いものだな。そんなことを考えていると、先ほどまでは穏やかだった楽巌寺学長殿が声をあげる。
「『宿儺』の器!? どういうことだ……」
「楽巌寺学長! いやぁ、良かった良かった。びっくりして死んじゃったらどうしようかと心配しましたよ」
「糞餓鬼が」
そのやり取りだけでこの2人の関係性が分かる。
憲紀から多少は聞いていたが、保守派筆頭の楽巌寺学長とは相容れない存在のようだな、彼は。
……って、ん? 『宿儺』の器……?
「憲紀」
「ん、なんだ?」
「彼が件の死んだという『宿儺』の器なのか?」
私の質問に頷く憲紀。憲紀も写真でしか見たことはないとは言ったが、確かに彼は『宿儺』の器であるという。
『両面宿儺』。
その名を知らぬ呪術師はいないだろう。
今から千年以上前の呪術全盛の頃に実在した呪詛師ーー呪いの王。死してなお20の指の死蝋は呪物として残り、破壊することも祓うことも叶わない。それほどまでに強力な『化物』。
生前、というか転生前に私も現物を一度見たことがあったが、それの放つ禍々しいあの呪力は到底忘れられるものではない。
まさかその『宿儺』を抑え込める器が、
「あの時の彼だとは思わなんだ」
ーーーー回想終了ーーーー
この目隠し男のおかげで、その後の京都校のミーティングでもさらに一波乱あった。
楽巌寺学長殿が虎杖の抹殺を指示したこと。東堂先輩が何故かいきなり暴れ、その場から出ていったこと。正直、虎杖の抹殺については私も一言物申したかったが、憲紀から余計なことを言うなと釘を刺されている手前、その場で余計な話は出せなかった。加茂家の次代当主は憲紀なのだ。それは立てるべきであろう。
それはともかく、だ。
「それよりさっきからよく悠仁周りの映像切れるね」
「動物は気まぐれだからね。視覚を共有するのは疲れるし」
「えー、本当かなぁ」
この場所の壁一面に映されている映像はどうやら彼女ーー冥冥の術式に関係するものらしい。だが、白髪男の言うように、虎杖周りの映像が妙に途切れるのには、少々作為的なものを感じる。恐らく楽巌寺学長殿の仕業だろうな。
ともかくここからでは彼の周りの様子を確認することはできなさそうだな。どうなっているかは自分の目で見ておかなくてはな。
彼には恩がある。それを仇で返すわけにもいかない。
それに状況がずいぶん動いている。そろそろ私が動いても目立たないだろう。
「……さて」
「鶫? どこ行くの?」
「いや、少々花を摘みにな」
「そう。ここ、迷いやすいから気をつけなさいよ」
「あぁ」
歌姫女史にそれだけを答え、私はその部屋を出た。
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私のやることは3つ。
1つ目は、虎杖の抹殺を阻止すること。
2つ目は、パンダに敗れ、動けないメカ丸に接触し、例のことを聞き出すこと。
そして、3つ目は、憲紀を叱りつけることだ。
まずはその優先順位を考えよう。
京都校全員襲撃による虎杖殺害は東堂先輩により避けられた。だが、あの学長殿のことだ。何か手は打ってあるのだろう。
……それには悲しいことに憲紀も噛んでいるはず。学長殿があの場で手を下すことはできないと考えると、実行役は恐らく憲紀。
メカ丸はどちらにせよあの場からは動けないのだ。
ならば、私が優先すべきはーー
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高専の校舎内。
私が感じた気配の主は、ちゃんとその場にいた。ツンツン髪の……確か、伏黒君と対峙していた。
せっかくの団体戦で、若い術師同士が互いを高めているのを邪魔するのは、正直気が引ける。だが、私も加茂家の元当主として言わなければならないことがあるのだ。
「……すぅ」
おもいっきり息を吸い込んで、
「のーりーとーしーッ!!!」
私はその名を呼んだ。
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