【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完) 作:藍沢カナリヤ
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「のーりーとーしーッ!!!」
「「!?」」
私の大声に憲紀だけでなく、伏黒君もこちらを注視した。『天与呪縛』で肺活量も底上げされている私の全力の叫びだ。これで気づかぬ者はいないだろう。
戦いを中断し、憲紀はこちらへ向き直った。
「なんの真似だ、鶫」
そう問いかける憲紀の雰囲気はいつもの、我が家にいるときのものとは違う。ヒリついた冷たい気配。
目の前にいるのは加茂家次代当主としての憲紀だ。
「なんの真似? それは私の台詞だ」
「? 何を言っている」
「決まっているだろう。虎杖の殺害の件だよ」
「…………」
そう言うと、憲紀は鋭い眼光をこちらへ向けた。口を出すなということだろうが、
「彼には恩があるのだ。憲紀にも話しただろう。彼は私にお金を貸してくれた」
「……それとこれとは話が別だ」
「それに憲紀や京都校の皆はまだ彼のことを知らないのだろう?」
「知る必要などない」
一蹴。知る必要などない、ね。
「彼の本質はきっと善性だ」
「………………」
「このまま、何も知らないまま彼を殺してしまったのならば……きっとお前は後悔する」
「………………」
私の言葉を受け、憲紀はしばらく沈黙する。時間にして10秒弱。それから憲紀は私に背を向け、一言、私へ言葉を返した。
「虎杖悠仁は『両面宿儺』を宿している。私は呪術規定に基づき、彼の死に賛成しているだけだ」
「話はもうない。早く学長の元へ帰れ、鶫」
もう話す気はないということなのだろう。
私に背を向けた憲紀は、伏黒君に向かい、構え直した。
「……なるほど」
憲紀の意見はよく分かった。ならばーー
ーーグンッーー
ーーバキッーー
「……なんの、つもりだ」
私の不意討ちの跳び蹴りは止められてしまう。その反応速度、なかなかやるじゃないか。
「なんの……なんのつもりだと聞いているのだッ! 加茂鶫ッ!」
吠える憲紀。
なんのつもり? そんなの決まっているだろう?
「力づくでお前を止めるんだよ、加茂憲紀!」
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『どうした、恵。憲紀とは終わったのか?』
「それがですね……」
『? なんだよ、歯切れが悪いな』
「前に真希さんから聞いてた加茂さんの従姉妹」
『あぁ、鶫か? あいつがどうした?』
「その人が乱入してきて、加茂さんと戦い始めました」
『はあ?』
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一瞬、憲紀が視界から消える。私の動体視力でも見失うほどの速度で動いた。
「『赤鱗躍動』か!」
ーーバギッーー
死角からの一撃を受け止める。攻撃を受けた左腕がビリビリと痺れるほどの怪力は本来の憲紀にはない。つまりはそういうことだ。
「それを話したことはなかったはずだが」
「生憎『赤血操術』のことはよく知っているのだよ」
一言だけ言葉を交わし、すぐに離れる。憲紀も私相手に接近戦を長く続ける気はない。距離を取ってきた、ということは……。
ーーギリギリギリギリーー
「『百歛』」
来る!
「『穿血』」
ーーバシュッーー
どうにか避ける。だが、完全には回避し切れておらず、私の頬を『穿血』がかすめていった。
「これを避けるか!?」
「『穿血』は基本は直線。発射点さえ見極めれば避けられる」
そのまま私は憲紀の懐へ入る。私に飛び道具はない。それは憲紀も分かっているから、すぐに『赤鱗躍動』に切り替えてくる。
ーーバキッーー
私の拳の一振に合わせて、横から『赤鱗躍動』で強化した掌底を当てて軌道をずらす憲紀。上手いな。正面からの膂力では私には勝てないと判断し、避けやすいように軌道をずらすために攻撃を当てたわけか。
そして、私の攻撃の軌道上には、
「なんだこれは?」
ーーブシューー
袋に入った何かを私は潰していた。潰した途端に、中に入っていたであろうものが辺りに飛び散る。
これは血液……ということは、
「『赤縛』」
血液が憲紀の声に反応して、私の体を瞬く間に縛った。
「なるほど。あれで血液を保存していた訳か」
明治にはなかった技術だ。『赤血操術』は私の手足のようなものであった。それ故に少々傲っていたようだ。
「……これで大人しくなったな」
「やられたよ、憲紀」
床に転がる私を見下ろす憲紀と言葉を交わす。
「『赤血操術』は応用の効く術式であるが、その性質もあり、貧血を起こす可能性もある。いわば諸刃の剣。それを血液を保存しておくことで欠点を補うとは」
「……本当に、なぜ『赤血操術』のことをそれほどに知っているのだ」
話したことはない。それに『赤血操術』は歴代加茂家でも相伝された数の少ない術式だ。憲紀はそう言った。
「まぁ、それはいいだろう。それよりも憲紀ーー」
「ーーお前は何を怖れている?」
「っ」
戦いの中で感じたもの、それは焦りと怖れだ。
学長殿からの指示を果たそうという焦りでも、伏黒君との戦闘に早く戻ろうという焦りでもない。もちろん、私を怖れているわけでもない。それよりもずっと根本的な……。
「加茂家の当主になれないことに怖れているのか?」
「っ、黙れ!」
どうやら私の直感も鈍くはないらしく、憲紀は分かりやすく狼狽える。
加茂家は保守派の筆頭だと言っていたな。なるほど、それならば虎杖の抹殺に積極的に動くのも頷ける話だ。次代当主としての術式は十分。ならば、あとは『覚悟』を見せろといったところか。
「母親のことか?」
「っ、黙れと言っているっ!!」
ーーグッーー
憲紀は『赤縛』で動けない私の胸ぐらを掴み、無理矢理立たせる。いつも冷静な憲紀らしくない乱暴な行動だった。
「あの時、お前は話してくれた。自分の生い立ちのこと。母親のために当主らしく振る舞うこと」
そして、
「私に自分を重ねていること」
放ってはおけないと憲紀は言っていた。
「黙れ、黙るのだ!! 私のことをそれ以上知らない癖に知ったような口をきくな!」
「あぁ、知らないさ。お前が話してくれた以上のことは何も」
「ならば、私の邪魔をするなッ! 何も知らないお前が私の覚悟に水を差すんじゃない!」
そうだ。その通りだよ、憲紀。
だから、私は、
「お前のことを知りたいのではないか」
「知って、お前の支えとなりたい。そのために私はここにいる」
知らなくては何もできない。何をする権利もない。
だから、私は『知りたい』のだ。
私に何ができるのかを考えるために、何かをするために。
それはきっと虎杖のことも同様だ。彼のことを憲紀は何も知らない。確かに、このまま抹殺に成功すれば加茂家の当主にはなれるだろう。だが、そうして得た地位でお前は母親に胸を張れるのか?
「っ、うるさいッ!!」
「……ふむ。少し熱くなりすぎだな」
これ以上、言葉で語るのは無理だろう。ならば、憲紀に冷静になってもらってからの方がいい。
「伏黒君!」
「あ、あぁ?」
「邪魔して悪いが、憲紀は私が引き受けるよ」
「別にいいですけど」
「物分かりがよくて助かるよ」
ーーブチブチブチッーー
ーーブチンッーー
伏黒君の返答を受けて、私は体に力を込める。そのまま、『赤縛』でできた血の縄を引き千切った。
「なっ!?」
「全力で殴る。しっかり受けろ」
ーーブンッーー
全力で振り抜いた結果、憲紀の体は校舎を突き破り外へ吹き飛ぶ。私もそれを追って、外へ飛び出し、空中で身動きの取れない憲紀の頭上へ。
「これで一旦終局だ」
ーーバギッーー
そのまま憲紀を地面へ蹴り飛ばした。
「っと」
着地すると、その周りは土煙があがっている。憲紀の体が地面へぶつかった際に巻き上げられたものだろう。手でそれを軽く払いながら、視界が確保されるのを待つ。
数十秒後、私の目の前には、
「……はぁ、はぁっ……」
「驚いたな。まだ立つとは」
正直起き上がれないくらいには力を込めたのだが。よろよろとではあるが、憲紀は立ち上がっていた。その視線は私、ではなく、何か別のものを捉えているようであった。
「……たしは……」
ブツブツと何かを呟く憲紀。そして、
「負けるわけにはいかないのだッ!!」
ーードゴォォォォォンッーー
『それ』ーー巨大な樹木が現れた。
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