【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完) 作:藍沢カナリヤ
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「木の幹……?」
「なんだ、あれは!?」
私と憲紀との戦いを中断させたのは、ここから離れたところに突如出現した大樹だった。それが、
「こちらへ迫ってきている……!?」
「憲紀! 掴まれ!」
憲紀は私の攻撃を受けて、ふらふらになっている。あの大樹の成長速度を見るに、明らかに自然物ではない。呪術関係の何かだ。あれがこちらへ迫ってきているのは何者かの害意と見ていいだろう。
憲紀に肩を貸し、そこから離脱する途中で視界の端、校舎から続いている屋根の上に誰かが見えた。
「狗巻先輩!」
校舎から降りてきていた伏黒君が声をあげた。それに気づいたようで、狗巻と呼ばれた少年が口を開いた。
『逃げろ』
頭に響くこの感覚……『呪言』か。それを受けて、伏黒君と私の身体はその場から離れるようにすぐさま反応する。だが、
ーーふらっーー
「くっ……」
「憲紀っ!」
私が『呪言』に従い、逃げることを優先したせいだ。憲紀は支える者もなく、その場でうずくまっていた。
しまった。『呪言』はあくまでも耳から入って脳に作用し、肉体を動かす。だから、肉体が限界を迎えている者には通じない。
「っ、鶫、私はいい……その代わりーー」
「ーー母様を頼む」
憲紀は諦めたように笑った。
「っ」
止まれ、私。
止まれ止まれ止まれ止まれ!
憲紀を助けろ。今、逃げるのを止めろ!
そうしなくてはーー
「憲紀を……支えるんだろっ! 加茂憲倫ッ!!」
ーーブチッーー
逃げる方向へ動く筋肉を無理矢理止める。筋肉が断裂する音が聞こえたが、気にするものか。私はそのまま激痛の走る足を無理矢理、憲紀へ向けた。
ーーグイッーー
「鶫!?」
ーーブンッーー
「諦めるな、憲紀」
その大樹の進行方向から逃れるように憲紀を放り投げる。
そして、私は憲紀と入れ替わるように、木の幹に襲われ、意識を手放した。
……………………
意識がゆっくりと浮上してくる。
それに連れ、身体を痛みが走る。
「っ……痛い」
激痛。だが、『天与呪縛』による恩恵なのか、まったく動けないほどではない。ただし、物理的に体はほとんど動かせない。目を開けると、周りは何も見えない暗闇だった。視覚に頼れないから、手を動かして辺りの様子を探る。
背面には岩。前面には木の幹。
「……あの木の幹に押され、どこかの壁かにめり込んでいる。そんなところか」
岩も削り取るほどの勢いの大樹。この攻撃は並の呪術ではない。呪詛師か。それとも呪霊か。どちらにせよ、我々の敵であることだけは間違いないな。
今はそれだけ分かっていればいい。
「すぅ…………」
大きく息を吸い、
「はぁっ!!」
ーードゴンッーー
目の前の木を無理矢理破壊する。だが、まだ前は見えない。
「少々、面倒だが仕方がないか」
この大木がどこまで続いているかは分からないが、このまま地道に破壊していこう。そうすれば、いずれ外へ出られるはずだ。
ーーーー憲紀視点ーーーー
「伏黒君、私のことは置いていけ」
「ちょっと黙っててもらえますか」
伏黒君の犬型式神に運ばれながらの提案はすぐに却下された。
「あの人、加茂さんの従姉妹なんですよね」
「あぁ。鶫はそう、だった」
「…………狗巻先輩の『呪言』を無理矢理破ってまで救ってくれたんでしょう。命、無駄にしないでください」
「……分かっている」
伏黒君のいう通りだ。あのままだったら、あそこで死ぬのは私だった。それを鶫が身代わりになって助けてくれた。
そして、私に諦めるなと言ったのだ。ならば、今はその言葉を呪いにして生きなくてはならない。
そのために私がやるべきことは……。
「伏黒君、呪力は残っているか?」
「えぇ……お陰様でかなり残ってます。狗巻先輩もそれなりには残ってるみたいです」
「しゃけ」
彼の言語の意図は正直読めないが、肯定の意味なのだろう。狗巻も伏黒君の言葉に頷いた。
かくいう私も鶫と戦って体にはガタがきているとはいえ、呪力の方にはそれなりに余力はある。だから、
「『苅祓』!」
牽制での一撃。だが、効果はあまりないようだ。
外装は硬く、再生能力も高い。あの大樹の成長速度や攻撃範囲も普通の呪術とは段違いだ。恐らくだが、特級相当の相手。
「狗巻で止め、私と伏黒君で削る。それで『帳』の外へ出て、教員と合流すれば私たちの勝ちだ」
「しゃけ。めんたいこ」
「はい。五条先生のところへ向かうのが話が早いと思います」
正直な話、狗巻と意思の疎通が図れていることに突っ込みたい。だが、移動を伏黒君の式神に担ってもらっている身ということもあり、彼の意識を別なことに割くのは止めておこう。
ひとつのミスが死に直結するような状況なのは私も理解している。
「『百歛』」
「『穿血』!」
ーーバシュッーー
彼の式神に乗ったまま、それを放つ。移動に意識を割かれない分、『百歛』による血液の圧縮に専念できる。それに、
「『止まれ』」
狗巻の『呪言』による足止め。余程格上だからか『呪言』は効きにくい。だが、これで距離を離せる。このままならば、
「加茂さん、このまま校舎に入って奴の射線を絞ります」
「分かった」
「狗巻先輩、まだいけますか?」
「こほっ……しゃけ」
そのまま校舎内へ。駆ける、駆ける。
途中、また狗巻の『呪言』で攻撃を止めつつ、私の『苅祓』や伏黒君の『鵺』で迎撃し続ける。
そして、校舎の窓を割って、屋根の上へ。
「あともう少し、なのだが……」
「狗巻先輩が止めてくれる。ビビらずいけ」
伏黒君は『鵺』にそう指示を出し、奴へ電撃を帯びた一撃をーー
ーーブシュッーー
「!?」
目の前で、『鵺』が奴に貫かれた。慌てて私は背後を振り返る。そこには吐血する狗巻の姿があって。
先に限界がきたのは狗巻か!!
「加茂さん!」
「っ!?」
一瞬だった。奴から目を離したのは、狗巻の様子を確認するために振り向いた一瞬だったにも関わらず、奴はそこにいて。
ーーバキッーー
顔面に走る激痛で、私は殴られたのだと理解した。体が吹き飛ぶ感覚。それから、誰かが私を受け止めてくれたのも分かる。
「生きてますか!! 加茂さん!!」
くっ……。
だめだ、意識が遠退いていく。だめだ、起きるのだ。
ここで意識を失ってしまえば、この場には伏黒君と喉の潰れた狗巻だけになる。そうなれば、絶望的だ。距離を離すなど無理だろう。
だから、まだ私が倒れるわけにはーー
だが、無情にも意識は薄れていく。薄れゆく意識で、私はその声を聞いた。
「すまない。少々遅れた」
それは私の代わりに襲われたはずの彼女の声だった。
きっとこれは、
「幻聴……だな」
「あぁ。だから、少し寝ていろ、憲紀」
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