【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完) 作:藍沢カナリヤ
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「伏黒君」
憲紀を優しく抱きとめた後、私はその場で唯一動ける彼の名前を呼んだ。
「憲紀と……そこの彼を頼む」
「無事だったんですね」
「敬語はいらないよ。私は君と同い年だ」
「…………戦えるのか?」
その問いに私は黙って頷く。
相手は恐らく特級。ひとりでは手に余る。だが、今の私にはここに近づいてきている彼女の気配が分かっていた。だから、
ーーブンッーー
ーーギンッーー
私たちに意識が向いていたからだろう。奴は背後から現れた真希の一太刀を完全に食らっていた。だが、奴の硬度は異常なようで、真希の刀はあえなくへし折れる。
「恵!」
「っ、真希さん!」
真希の声に合わせて、伏黒君がどこからか何かを取り出し、彼女へ投げる。彼が真希へ投げ渡した代物ーーその三節根は私も知っていた。
「『游雲』!」
「これを使うのは、胸糞悪ィけどーーなッ!!」
特級呪具『游雲』。
術式が付与されていない呪具で、その特性は純粋なる力。使う者の膂力によって威力が左右される珍しい武器だ。それを手にするのは『天与呪縛』の超肉体をもつ真希。
その威力は
「らぁッ!!」
ーーバキッーー
特級にも通用する。
真希の一振りは呪霊の頭頂を完全に捉えた。流石に特級呪具、しかも真希の膂力を上乗せした威力で不意を突かれては呪霊も堪らず膝をつく。
「恵、今のうちに行け!」
「すぐ戻ります」
真希の言葉に言葉少なに答えた伏黒君はそのまま犬の式神に憲紀を乗せ、『呪言』使いの彼と共に走っていった。
『逃げられるとーー』
ーーバシュンッーー
「っ、鶫!」
「分かっている!」
ーーバキッーー
逃げていく伏黒君たちへの追撃。木の毬から突き出る根を、瞬時に膝蹴りで破壊する。瞬間的に放ったものだからだろう。私を襲った先程の大樹よりも脆い。これならば何本出されようが、伏黒君が逃げていく間は防ぎきれるな。
『無駄、という訳ですか』
私が攻撃を防いだのを見て諦めたのか、その呪霊は攻撃の手を止めた。その上で、話しかけてくるのだが、
「っ、なんだこれ……」
「……ふむ、音としては理解できないが、頭では理解できる。興味深いな」
我々、人間とは別の言語だが、意味自体は理解できるという違和感。それだけでなかなかに厄介であることが分かる。かなり高い知能をもった呪霊だろう。
そうこうしている間に憲紀たちの気配が完全に離れた。これだけ距離が離れていれば、奴も簡単には追いつけない。
『仕方がありません。それでは貴女方2人を始末しましょう』
「鶫、気を張れよ」
「あぁ」
真希と共に腰を落として構える。瞬間、奴の姿が目の前から消えた。
「っ、鶫!」
ーーグンッーー
いや、目の前から消えたのではない。奴の木の根がいつの間にか私の足に絡みつき、体が宙に浮かせた。そのせいで視界がぶれる。その隙を逃す特級ではなく。
ーーバシュンーー
ーーバシュンーー
奴の前に展開された2つの木の毬から放たれる木の根。普通であれば直撃だろうが、私ならば!
ーーグンッーー
『空中で身体を捻って!?』
「真希!」
「!」
名前を呼んだだけで伝わるのは戦い方が似ているからだろう。
真希は宙に浮く私へ『游雲』の先端をこちらへ投げ渡す。反対側は真希が持っており、私が掴んだタイミングで、
ーーブンッーー
私ごと『游雲』を振るった。
真希の膂力。遠心力。それに私の自重で、打撃の威力が増す。
ーーバギィィィッーー
『ッ!!』
そこから放たれる私の蹴りは確実に奴の首を抉る。勿論、これで終わりではない。
「真希!」
ーーグンッーー
今度は私が『游雲』を横に薙ぐ。反対には真希。またも攻撃は加速し、真希の隠し持っていた暗器は奴の顔の木を砕いていた。
そのまま私たちは距離を詰め続け、打撃を繰り返す。私と真希は遠距離から攻撃する手段をもたない。だから、引くわけにはいかなかった。
ーーバギッーー
「真希!」
ーーバキィィーー
「鶫!」
互いに『游雲』を投げ渡し、隙を見て殴る。これで決定打を奴に悟らせないで戦える。
そして、威力の高い攻撃で奴を吹き飛ばしながらも距離は離さない。気づけば高専の校舎からは遠く離れた森の中。川沿いまで私たちは移動していた。
特質を考えればこの場所は不利。その上耐久力はかなり高い相手だが、私たちの攻撃は通じている。このままなら祓えーー
『ナハッ』
「っ!?」
「鶫っ!」
勝利を確信したその時だった。いきなり腹に激痛が走る。
視線を落とせば、私の腹には呪いの種子が打ち込まれており、それが腹を突き破ってきたところだった。
「……しまった、な」
「クソッ!」
ーードスッーー
「真希ッ」
私への攻撃で動揺していたせいだろう。木の根が真希の左肩に突き刺さる。
『心臓を狙った一突き……素晴らしい反応です』
気づけば、奴は私たちから距離を取っていて、こちらの射程外まで離れてしまっている。
『術師というのは殊の外情に厚いのですね。仲間が傷つく度、隙が生じる』
奴はそう言うと、自らの体を守るように私たちと自身の間に低い木の壁を作り出す。奴は呪霊。肉体の回復など人間に比べれば容易い。この間に回復されれば、こちらに手の打ちようがなくなる。
「真希っ、このままーー」
『ナハッ』
「ぐっ……」
力を込めようとすると、腹の種子が不気味な笑い声をあげ、体の力を奪う。私自身には呪力はないはずだが、生前感じた呪力を奪われる感覚と近しいものを感じる。
ーーギリギリギリギリーー
私の動きが止まっている間、真希は私を庇いながら戦ってくれていたが、それもここまで。真希は私の目の前で木の根に拘束され、今まさに奴にトドメを刺されようとしていた。
「…………や、めろ」
『無駄です。その種子は貴方の呪力を糧により強く成長する。動かない方が身のためですよ』
「はっ、馬鹿を言うな」
ここで動かない?
そんなことできる訳がないだろう。
ここで、目の前で真希を見殺しにしたら、
「きっと真依に殺されてしまう」
ーーガシッーー
私は腹の呪いを掴んだ。
あぁ、少し無茶でもしてやろうじゃないか。腹が裂けてもきっと私ならば戦える。
そう覚悟を決めた私だったが、
「やめろ」
真希の絞り出すような声でその手を止める。
……あぁ、なるほど。真希のおかげで少し周りが見えたよ。
「私らの仕事は終わった。選手交代だ」
ーードバァァァァンッーー
突如として、真希を縛る根が引き千切られた。
同時に彼らは現れた。着地した衝撃で水飛沫をあげながら、2人は言葉を交わす。
「いけるか!?
「応!!」
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