【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完) 作:藍沢カナリヤ
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ーーゴツンッーー
「痛っ!?」
殴られた。グーで。
「何をする、幸吉!!」
いきなりの暴力に、私は抗議の声をあげた。
暴力反対! 暴力反対! 感謝こそされても、殴られる覚えなど私にはないぞ。
そう言う私を幸吉は軽く睨みながら、ため息混じりに叱りつけてくる。
「東堂の術式があるとはいえ、無茶をしすぎだ。『真人』を引き付けるのも、奴を抑え込みながらメカ丸の『三重大祓砲』を喰らうのも」
「大丈夫だっただろう?」
「結果論だ!!」
あ、これ本当に怒ってるやつっぽい。
もちろん、それが心配からくるものだとは分かってはいる。だから、今は彼の怒りも受け入れよう。親友の感情を受け止めるのも、友の役目というものーー
「何をにやけてる、鶫」
「ん? いや、それも若さだと思ってな」
「…………こいつ……」
呆れ果てたような視線を私に向けた後、彼は、
「ふっ」
不意に笑った。その笑顔は屈託のない17歳の少年らしい、年相応の笑顔だった。
その顔からはもう痛みは感じられない。
彼は内通者であった。その情報で死者も出ている。きっと報いは受けなくてはならないのだろう。罰はきっとある。
けれど、幸吉。
今は喜ぼう。
今、こうして笑い合えることを。
君が皆に本当の意味で会えることを。
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京都校に帰った後のこと。
どうやら歌姫女史が内通者の当たりをつけていたようで、既に呼び出された教室には歌姫女史が神妙な顔をして待っていた。あとなんか五条もいる。
「メカ丸」
「歌姫女史、彼は幸吉だ! 間違えないでいただきたい」
「えぇと、幸吉」
歌姫女史が名前を呼ぶと、幸吉は一歩前に出る。本人も分かっているんだろう。自分の罪の重さを。
「呪術総監部からの通達よ。与幸吉。貴方は呪霊側に情報を流し、多くの犠牲者を出した。よって、呪術規定に基づき、死刑とする」
「っ」
「幸吉、ごめん……私の力じゃあどうにもできなかった。ホントにごめん」
「…………いや」
京都校の面々のことを大切に思っている歌姫女史の口から出る言葉だからこそ、その重さはよく分かる。それはきっと覆すことのできなーー
「っていうのを僕が有耶無耶にしといたから!」
歌姫女史の言葉を仏陀切るように、五条悟が明るい声色でそう言った。
「は?」
「だって、彼、向こうの情報をもっているんでしょ? なのに、何も聞かずに死刑なんてどうなんだって交渉したんだよ。というより、脅した」
「おい、五条! 私聞いてないんだけど!?」
「うん。言ってないからね」
「おまっ!? そういう大事なことはまず京都校の私にーー」
「歌姫、うるさーい」
五条と歌姫女史が言い合うのが聞こえる。だが、私も幸吉もそのやりとりは耳に入ってこなかった。顔を見合せながら、徐々に大きくなる喜びの感情をーー
ーーバァァァンッーー
「メカ丸~~っ!!」
喜びの感情は不発に終わる。それよりも大きな感情で、盗み聞きしていたこの教室の扉を力一杯に開け、幸吉に抱きついた人物がいたからである。
その人物こそ、
「めかまるぅぅ……よかった、よかったよぉ……っ」
「お、おいっ、三輪っ!? はなれ、いや、離れろっ」
三輪霞その人であった。
続けて、憲紀や真依、西宮先輩と東堂先輩、新田と京都校全員が教室に入ってくる。
「うたひめ、せんせぃから、きいてっ! どうなっちゃうかって……っ!」
「わ、わかった! わかったからっ!?」
恐らくこの場面であれば、涙のひとつでも流すような感動的な場面であろうが、真依と西宮先輩の表情が少々気になる。
「……真依」
「なによ?」
「何故ニヤニヤしているのだ?」
単刀直入に聞いてみた。私がいない間に、何かあったのかもしれない。そう思ったからだったのだが、どうやらそういうわけではないようで。
「はあ? あんた、気づいてなかったの?」
「?」
「あの2人……というか、メカ丸はーー」
そこで真依は私の耳にあることを囁きかけた。
それは衝撃の事実であった。
「なん、だと……!?」
一難去ってなんとやら。どうやら内通者問題が片付いたと思ったら、別の問題が浮上してしまったのである。
……そう。
幸吉は霞のことが好きらしい!!
「ふっ、親友として、これは力にならねばなるまい!」
ーーーー鶫は知りえない会話ーーーー
「は、はぁ…………」
その小さな呪霊は息も絶え絶えに、その場所に辿り着いた。戦闘を行ったダムから遠く離れた山中。ほとんど呪力も残っていないせいで、肉体の再生も難しいようだった。
「あの時……以上に、ヤバかった」
満身創痍。彼はそのままゆっくりと山中に入ろうとして、止まる。
「……夏油」
目の前には、黒の僧衣を着た彼らの協力者・夏油がいた。彼は静かに『真人』を見下ろしている。
「流石の君も祓われたかと思ったが、よく生きてたね」
「……呪力はほぼ残っていないけどね」
「……そのようだ」
顎に手をあて、夏油は何かを考えているようであった。少しの思考の後、彼は『真人』に手を差し伸べた。
弱り果てていた『真人』は、そのまま彼の掌に乗る。
「帰ろうか、『真人』」
内通者であった与幸吉が生存したことで、計画は大きく狂った。だが、まだ手の打ちようはある。
そう言って、夏油は
ーーゴクッーー
『真人』を呑み込んだ。
「少々、計画を変えるとしよう」
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祝・幸吉くん生存!
ちなみに、東堂先輩は勝利して喜び合う親友の間に挟まるような野暮な男ではありません。クールに去りました。
次回、新章『恋焦』編スタート
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