【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完)   作:藍沢カナリヤ

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第37話 『焼相』という少女

ーーーー廃病院エントランスーーーー

 

 

目の前の少女……いや、呪霊は『焼相』と名乗った。

聞き覚えのない名前で、ますます混乱する。呪霊からパパと呼ばれるなんて経験は初めてだ。

 

 

「覚えはないな……人違いじゃないか」

 

 

警戒しつつそう返す。おぞましい気配は感じるが、今のところ、害意はないように見える。勿論、それを巧妙に隠しているだけかもしれないが。

 

 

「ひどーい!! あたしはこんなにもパパのこと探してたのにっ!」

 

 

探してた? しかも、加茂鶫の状態の私をパパと呼ぶということはつまり、

 

 

「お前の目的は『私』なのか?」

 

 

加茂鶫の中の『加茂憲倫』。つまり、『焼相』の目的は私を見つけることなんだろう。

憲紀たちには聞こえないよう、目の前の『彼女』に小声でそう聞く。それを察したのか『彼女』は小声で、そうだと私に耳打ちしてくる。

私の正体は誰も知らないはすだ。なのに、この少女が知っているのはなぜだ?

 

 

「鶫! 避けろ!」

 

「っ」

 

 

不意に響いたのは憲紀の声。声の方向に視線を向けると、彼は掌を合わせていた。瞬時に、彼が『百歛』で血を圧縮しているのが分かった。

 

 

「『穿血』」

ーーバシュンーー

 

 

私の方へ向かってくる血液を身を伏せて躱す。頭上を掠める『穿血』。軌道は完璧だ。

……どうだ?

私は少女の様子を視界に収めるため、身を翻す。見れば、攻撃は確実に『焼相』の身を貫いていた。

 

 

「っ」

 

 

この期を逃す手はない。私はそのまま目の前の少女の頭を掴み、床へ叩きつけた。手応えは、ある。

さらに、少女を宙へ投げ飛ばし、その首めがけて払い蹴りをかました。見た目のせいで気後れはするが、相手は恐らく一級以上であろう。ならば、手加減などできるはずもない。

 

 

ーーバギィィッーー

 

 

私の蹴りで『焼相』は、床へ転がる。

 

 

「やったか……?」

 

「鶫、油断をするな」

 

 

私の側へ来た憲紀。『赤鱗躍動』を使い、身体能力を上昇させた憲紀と『天与呪縛』による超強化の肉体をもつ私が警戒しているのだ。これで近接戦で負けはしない。

 

 

「う……」

 

 

あれだけの連撃を受けたにも関わらず、少女は起き上がった。そしてーー

 

 

 

「うえぇぇぇぇぇんっ!!!」

 

 

 

「「は?」」

 

 

『彼女』はいきなり泣き始めてしまった。

まぁ、普通の少女ならばそれが普通、どころか私たちが最悪の屑人間になる訳だが……。しかし、この少女は、

 

 

「パパがっ! パパがあたしのこと虐めるぅぅっ」

 

「虐めるって……お前、呪霊だろう……?」

 

 

そのはずだ。少なくとも私にはそうとしか見えない。

 

 

「ちがうもんっ! あたし、『受肉体』だもんっ!!」

 

「『受肉体』だと?」

 

 

つい聞き返してしまった。

『受肉体』。

呪物を取り込み、肉体を得た呪物そのもののことだ。『彼女』は自らをそう言った。

……なるほど。手応えがあるわけだ。呪力で作られた肉体をもつ呪霊とは違い、『受肉体』なら元々の肉体ももっているのだから。

 

 

「うぅぅ……」

 

 

起き上がったと思ったら、今度は座り込んでしまった。目を擦りながら、ぐずる『焼相』。

 

 

「おい、どうしたんだ」

 

 

『焼相』が目の前にいるにも関わらず、私たちが攻撃を止めたのを不審に思ったようで、遠くから隙を窺っていた幸吉が駆け寄ってきた。

 

 

「いや、それがだな……」

 

 

憲紀とともに、未だに泣き続ける少女の方へ視線を向ける。幸吉もつられてそちらを見て、

 

 

「……どういう状況だ?」

 

「私も何がなんだか分からんが」

 

「ひとつだけハッキリしていることがある」

 

 

端から見たら、まるで我々が悪者だ。

その言葉に、2人も神妙に頷いた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

幸吉が持っていた飴玉を舐めて落ち着いたのか、『焼相』はやっと話せるようになっていた。

女性である私の方が警戒もしないだろう。それに例の呪詛師がまだいるかもしれないからと説得し、2人にここを離れさせることに成功させた私は、『焼相』の隣に座り、話をすることにした。

ちなみに、幸吉にお前が一番派手に蹴っていただろうと突っ込まれたのは、まぁまぁまぁ。

 

 

「聞きたいことは色々あるが、まずは聞かせてくれ」

 

「うん、パパ」

 

「……お前は『呪胎九相図』の『受肉体』で間違いないな」

 

「うん、そうだよ」

 

 

私の質問に頷く『焼相』。

先日の姉妹校で奪われたという『呪胎九相図』のひとつが受肉した姿だと彼女はそう言った。そして、目的は、

 

 

「私に……加茂鶫に会うことか?」

 

「ううん、あたしが会いたかったのはね、パパ……えっと、『加茂憲倫』さん!」

 

「…………」

 

 

やはり目の前の少女は、私の中身を知っている。だが、誰にも言っていないはずのそれを知っているのはなぜだ?

 

 

「もうひとついいか」

 

「うん!」

 

「パパっていうのは……」

 

 

『呪胎九相図』。

幸吉から聞いた話だと、姉妹校交流会で『真人』たちが高専に現れたのは、それの盗難が目的だったという。気になって調べたのだが、それは確かに前世の私が生きた時代、明治に生まれた呪物だ。

 

呪霊の子を孕む女性がいた。

その女性が九度の懐妊、九度の堕胎で出来た胎児が死後、呪物に転じたものであり、階級でいえば特級。

……ふむ。確かに呪霊の子を孕む人間には興味はあるが、『呪胎九相図』などという呪物を作ったことなどない。そもそも倫理的に許されないことだろうし、作ろうとも思えない。だから、先程も覚えがないと言ったんだがな。

 

 

「パパはパパでしょ? あたしたちを作ったのは『加茂憲倫』だって聞いたもん」

 

 

聞いた? それは誰に……?

 

 

「『脹相』お兄ちゃん!」

 

「それは……」

 

「あたしたちの1番上のお兄ちゃんだよ! パパのむすこ!」

 

 

9体いるという『呪胎九相図』。この娘の話を信じるならば、少なくともそのうちの2体は既に受肉しているということか。

恐らくそれをしたのは、『真人』と行動をともにしていたという呪霊たちと夏油傑だろう。五条悟がいるとはいえ、未知数の敵が増えたのは厄介だな。

 

 

「ねぇねぇ、パパ」

 

「…………パパというのは止めてくれ」

 

「?」

 

 

違和感もすごいし、否定したいのは山々なのだが、どうやら『焼相』は私へのパパ呼びを止める気はないようである。

仕方がないか。

どうにか2人の前では止めるようにだけ頼み込み、話を続けることにしよう。

 

 

「お前」

 

「やだ!」

 

「ん?」

 

「お前なんて呼ばないでよ!」

 

「いや、そうは言うがな」

 

「やだ! やだもんやだもんっ! パパがあたしのことそんな風によぶなら、あたししゃべんないもんっ!!」

 

「……………………」

 

「ふーんっ」

 

 

そっぽを向かれてしまった。

……はぁ、本当になんなのだ。

 

 

「『焼相』」

 

「なぁに、パパ!」

 

 

名を呼ばれた途端にご機嫌になる『焼相』。呪霊ではないとはいえ、元呪物として名を呼ばれて喜ぶのはどうなのだ……。

まぁ、今はいい。

 

 

「私に会うのが目的だったのは聞いたが、それは誰の指示だ?」

 

 

『脹相』という兄か。それとも、夏油傑の一派か。

先程の戦闘から考えるに、『焼相』自身には恐らく大した戦闘能力はないのだろう。ただし、この娘に接触してしまったというのは大きな痛手だ。もしかしたら、奴らが『彼女』に何か細工をしているとしたら……。

どちらに転んだとしても録なことにはならないだろう。

そんな私の予想を、

 

 

 

「? そんなのーー」

 

「ーーあたしが会いたかったからだもん!」

 

 

 

『彼女』は裏切ってきた。

会いたかったから。ただそれだけだと言った。さらに、『焼相』は声を弾ませて、こう宣言した。

 

 

 

「だって、あたし、将来パパと結婚するって決めてるんだもんっ」

 

「ね、パパ! あたしと結婚しよっ!」

 

 

 

どうしよう。

自称娘(同性)からプロポーズされたんだけど……。

助けて、憲紀。

 

 

 

ーーーー幸吉視点ーーーー

 

 

「どうだ、残穢はあるか?」

 

 

そう聞いてきた加茂に、否定の言葉を返す。さっきから丁寧に見て回っているが、残穢はもう残っていなかった。つまり、ここには既に呪詛師はいないということか。

 

 

「ふむ。となると、件の呪詛師はどこにいった……?」

 

 

腕を組み、思案する加茂をチラリと見ながら、俺は鶫と一緒にいる例の『呪胎九相図』の『受肉体』のことを思い出していた。

俺が向こうに情報を流していたのは2週間ほど前のことだが、その時点で『脹相』たちは、そこまで夏油たちに協力的な態度をとっていなかった。

さらに、虎杖悠仁と釘崎野薔薇により『壊相』と『血塗』は祓われている。もし、あの少女が『脹相』の指示で動いているのならば、その目的は恐らく弟たちを殺された復讐。

……間接的に探りを入れてきたのか?

 

 

「おい、メカ……与、聞いているのか?」

 

「あぁ、すまん。少し考え事をしてた」

 

 

どうやら加茂は何度も俺に話しかけてたみたいだった。

あの少女のことは今は鶫に任せよう。任務は任務で進めなきゃならない。ただでさえ、内通者だった俺は上から睨まれてるんだから、やることやって信頼を取り戻さなきゃな。

 

 

「……皆のためにも」

 

 

ボソッと呟いたその言葉は、幸いなことに加茂には聞こえていないようだった。

 

…………そういえば、鶫から頼まれてる人探し用に駆り出してる小型の傀儡はどうなってるだろう。

加茂の顔を見て、ふとそれを思い出した俺は、視界をそちらへ移し変えた。

 

 

 

「………………は?」

 

 

 

……おい、待てよ。

なにが、あった?

 

 

「与?」

 

「っ」

 

 

加茂に名前を呼ばれて、呆けていた意識が戻る。それと同時に、俺は加茂に向かって、叫んだ。

 

 

「すぐにここを出るぞッ!」

 

「ど、どうした? 何か見つけたのか?」

 

 

何か見つけた?

そんな生易しいものではない。俺が偵察用の傀儡で見た光景はーー

 

 

 

「加茂家が襲撃を受けてるんだよッ!!」

 

 

 

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