【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完) 作:藍沢カナリヤ
ーーーーーーーー
2018年10月28日。
京都、加茂邸が特級呪霊により襲撃された。交戦した楽巌寺嘉伸一級呪術師を始めとする複数の呪術師の証言と、元内通者・与幸吉から得た情報から、襲撃したのは特級呪霊『呪胎九相図』の受肉体・『脹相』であることが判明。
また、この襲撃には協力者がおり、その者の素性は現段階では一切公表されていない。
ーーーー京都校寮内ーーーー
ーーコンコンーー
部屋の扉をノックするが、返事はない。
彼が1人にさせてくれと言ってから、早2日。部屋の前に置いた食事にも手をつけておらず、彼がこの2日間飲まず食わずだということが分かる。
鶫や真依からもしばらく放っておいてやれと言われたから、傀儡は使わずにそっとしておいたが、そろそろ限界だろう。
「加茂!」
扉越しに声をかけるが、返事はない。
気持ちは分かる。俺も自分の目を疑った光景だったから。それを加茂も目にしてしまったのだから、ショックのあまり部屋に籠ってしまうのも無理はないとは思う。
だが、それで身体を壊してしまったら元も子もない。
「開けるぞ」
一言だけ断り、俺は加茂の部屋の扉を開けた。抵抗はなく、ドアが開く。中には加茂が、
「なんで、いないんだよ……っ」
俺は急いで、スマホを取り出し、鶫へコールする。3コールで鶫は電話に出た。呂律が回っていないことから推測するに、寝ていたのだろう。ただ、今はそんな場合ではない。
「鶫、加茂が部屋にいない。無理にでも傀儡を放っておくべきだった。傀儡で見張っておけば、いつの間にか部屋を抜け出すなんてことは……いや、今は止めよう」
たらればの話なんて、無意味だ。
今考えるべきは加茂の動向。どこに行ったのかは分からない。だが、その目的だけは分かる。
「あぁ、たぶんそうだろ」
「十中八九、母親ーー『脹相』と一緒に襲撃の現場にいた彼女を探すためだ」
ーーーー回想ーーーー
何年振りだろうか、あの人にあったのは。
久しぶりに会うあの人は、酷く窶れた様子で加茂邸の前に立っていた。その姿を見た私は、生家が襲撃されている現状すら忘れ、彼女の元に駆け寄ろうとしてしまっていた。その姿からは次代当主としての誇りなど欠片も感じられなかっただろう。
「母様っ!」
私の声に、彼女は反応を返してはくれない。まるで何かに憑かれているかのように、ただ虚空を見つめている。
たまらず私は母様の肩を掴み、揺らした。視線がこちらへ向くようにと。
「母様、私です……憲紀ですっ」
「………………」
だが、彼女の目は虚ろなまま、私に視線を向けることはなかった。そんな私を鶫が止める。
「落ち着け、憲紀!」
「っ、これが落ち着いていられるかッ」
「加茂、冷静になれ。何かが変だ。気持ちは分かるが、一旦ここは引くぞ」
「母様を置いていける訳がないだろうっ!」
今であれば、鶫や与の言う通りだったと分かる。いつもの私であれば、それが敵の罠である可能性に思い至っただろう。だが、その時の私は冷静さを失っていたのだ。
だから、判断が遅れた。
ーーバシュンッーー
突如として、血液が私の肩を貫いた。
「っ」
「憲紀!」
「加茂っ!」
咄嗟に激痛に襲われたことで、思わず片膝をついてしまう。2人が私を庇うように、私の前へ出た。そして、母様の後ろ、加茂邸の中から1人の男が姿を現した。
「殺し損ねたか」
無造作に伸び、左右に跳ねた髪。どこかの民族衣装のようなものを身につけた鋭い眼光の男。
見たことのない呪詛師だ。
そんな私の思考を否定したのは、
「お前……『受肉体』だな」
鶫の言う通り、目の前の男から醸し出される気配は、先ほどの『焼相』と名乗る少女にどこか通ずるものを感じ取れる。そして、それを裏付けるように与が口を開いた。
「……『脹相』」
『脹相』。
それは先ほどの少女から聞いた名で、鶫の指摘が正しいことを証明していた。
だが、彼の正体を一目で見破った鶫や彼の名を呼ぶ与すら無視して、彼の視線はただ1人の人物に注がれていた。
「『焼相』」
「お兄ちゃん」
鶫に着いてきた『焼相』。少女に彼は話しかけていた。
「戻れ、『焼相』」
「イヤ!」
「お兄ちゃんのお願いを聞いてくれないか」
「やだもん! だって、お兄ちゃん、パパを殺そうとしてるんでしょっ!!」
まるで私達が視界に入っていないかのように、彼らの会話は進む。
「……加茂憲倫は殺す。それは説明しただろう?」
「わかんない!!」
ブンブンと首を横に振る『焼相』。
……この呪霊たちは何を言っているんだ。
加茂憲紀……私のことか? 彼が狙っているのは私ということか? 母様に何かしたのもこいつなのか? 加茂邸が襲われたのもまさか私が狙いだから? 分からない。動揺しているせいなのか、思うように考えがまとまらない。
私が混乱している間にも、彼らの会話は進んでいく。
「…………そいつか」
「っ、だめ!!」
鶫を庇うように『焼相』が前へ進み出る。掌を合わせたまま、『脹相』と呼ばれた彼は動かない。
「また迎えに来る。その時はーー」
そう言って、彼は掌から血の塊を放ち、弾けた。
「『超新星』」
全員が身を屈めたことで一瞬、奴を視界から外してしまう。そのせいで、
「母様!!」
気づけば、そこに母様はいなかった。
状況から想像するのは難しくない。
加茂邸の襲撃。その手引きしたのはきっと母様だ。
だが、
「何かの間違いだ……」
私はそれを受け入れられなかった。
ーーーーーーーー