【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完) 作:藍沢カナリヤ
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「慌てるな、大丈夫だ」
京都校の寮の前で待ち合わせた幸吉に伝えた言葉。
大丈夫だ。それは自分に言い聞かせている側面もあるが、ともかく私も幸吉も焦ってはいけない。頭を働かせねば。
「まだ2日。憲紀も母君の居場所が分かって動いたのではないだろう」
「だから、焦らずにやれることをすべきだ。まずは京都校の皆に声をかけよう」
憲紀がどこへ行ったか探すならば、人海戦術も手のひとつ。それに西宮先輩がいれば捜索範囲も一気に広がるはずだ。
「幸吉、頼めるか?」
「あぁ、すぐに傀儡を皆に送る」
幸吉は私の言葉に頷き、寮内へ戻っていった。
「さて……また、頑張るか」
実のところ、この2日間は加茂家の人間ということで呪術界の上層部から事情を聞かれたり、様々な手続きをしたりとあちこちに引っ張り出されていた。そのため、寮の自室にはほぼ帰れていなかった。幸吉から電話をもらったちょうどその時も、本家のことが一段落し、少しうつらうつらしていたところだったのだ。
だが、他でもない我が加茂家の、そして、憲紀の危機なのだ。休んでもいられない。
だから、まずはーー
……………………
「おかえりなさい、パパ!」
自分の部屋に戻ると、ベッドでごろごろしていた少女は飛び起き、私に向き直った。
結局、『焼相』は私の部屋までついてきていた。彼女の兄・『脹相』が関わっている事件だったから、放っておく訳にもいかず、とりあえず部屋から出ないように言いつけていた。
「今日もこれからお仕事?」
「あぁ……」
「ダイジョブ……?」
私の顔を見上げる『焼相』。その表情は、本当に私を心配してくれているようだった。
「ありがとう、『焼相』」
お礼を告げて頭を撫でてやると、『彼女』はくすぐったそうにはにかんだ。こうしてみると、まるでただの少女だな。勿論、私は『彼女』たち『呪胎九相図』を作った覚えはないけれど、それでも『焼相』曰く、私はパパなのだという。私の目にもその姿は父親を心配する娘に見えた。
きっと少し親睦を深めてもいいのだろう。『彼女』をどうすべきかを考えるのはそれからでも遅くはないはずだ。ただ、今はそんな悠長なことを言ってられる状況ではない。
「『焼相』、教えてくれ。君の兄『脹相』は何故、加茂家を襲ったんだ?」
私はそれを訊ねた。
「それは……」
言い淀んでいる『焼相』を見て、頭の片隅にあった予感は確信に変わる。
……あぁ、分かっていたよ。もう察しはついていたのだ。
きっとこの事件自体が、
「お兄ちゃんは……パパを殺そうとしてる。お兄ちゃんは言ってた」
「パパのせいでママが死んだんだって」
『加茂憲倫』という呪術師のせいなのだろう。
そうだ。
考えてみれば遅すぎたくらいだ。気のいい仲間に囲まれて、明治の世とは比べ物にならないくらい居心地のいい場所に身を置いていたことで目を反らしていた事実。今回の件で、私はやっとその事実と向き合うときが来たのだ。
私、『加茂憲倫』が何故最悪の呪術師と呼ばれるに至ったか。
私はそれを知らなくてはならない。
例え、知りたくないことだとしても、だ。
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『焼相』を連れて、幸吉たちと合流する。幸吉の呼びかけに応じて、真依と霞、西宮先輩が集まってくれていた。ちなみに、東堂先輩と新田は高専にて待機が命じられているらしく、この場には来ていなかった。
「ふぅん……この娘がねぇ、呪霊には見えないけど」
「ふふふ、かわいいですね」
西宮先輩は『焼相』と視線を合わせながら、霞は『焼相』の頭を撫でながらそんな会話を交わしていた。真依は……子供が苦手なのか近づく様子もない。
当の『焼相』はというと、霞に撫でられ満更でもない表情をしていた。
「それでメカ丸。憲紀は見つかったわけ?」
「いや、まだ見つからない。思ったよりも離れているらしく、もう俺の傀儡の操作範囲外に出てる可能性が高いな」
幸吉の呪力の出力範囲はメカ丸の頃と比べると、ずいぶん狭くなっている。勿論、それは喜ばしいことだし、私や霞、真依よりもずっと索敵には向いているから、彼なしに憲紀の捜索はできないだろう。
それを分かっているようで、西宮先輩は幸吉に傀儡での捜索範囲を京都校から南に絞るように提案した。北を西宮先輩が捜索することで、出力の範囲を伸ばそうという提案だった。
「それで頼む、西宮」
「はいはーい」
幸吉から通信用のいやほん型メカ丸を受け取り、西宮先輩はすぐに箒で飛び立っていった。即断即決。流石である。
「俺も少し移動しながら捜索範囲を広げてみる」
「わたしも行く!」
「……あぁ。それでいいか、鶫」
幸吉と霞。私と真依。
その分かれ方でいいかという問いかけに私は頷き、幸吉たちを見送った。
「真依、私たちはーー」
「ここで待機でいいんでしょ?」
「あぁ」
話が早くて助かる。
私も真依も索敵向きではないから、幸吉か西宮先輩の連絡が来てからそちらへ向かった方がいいという判断である。私の脚力があれば、真依を抱えて走っても、それなりに早く現場につけるはずだからな。
さて。
「『焼相』」
「なに? パ……おねえちゃん」
「聞いていたとは思うが、私たちはここで連絡があるまで待つことになった。それまで、あの辺に座っていなさい」
「はーい!」
よし、事前の打ち合わせ通り、完璧だ。
私以外の人がいるときには『おねえちゃん』と呼ぶ約束事。周りを混乱させるのを避けるためには、この方がいいだろうと、当たり障りのない呼び方にさせたのが上手くいってる。
「ねぇ、鶫」
私と『焼相』とのやり取りを見ていて思うところがあったのか、『焼相』が少し離れたタイミングで真依が話しかけてきた。
「あれ、なんなの?」
「……言っただろう、とある呪物の『受肉体』だ」
東京校の虎杖悠仁と同じな。
虎杖の名を出したのは、真依を安心させるため。あの善人の名を出せば、少しは警戒を解いてくれるかと思ったのだが、余計に眉を潜める結果となったようだ。
「そんなに警戒をしなくても『焼相』は無害だよ」
確かに雰囲気は人間のそれとはかけ離れてはいる。だが、彼女自身の呪力はそれなりだし、なによりこの2日間も誰にも危害を加えずに、大人しく私の部屋で待っていたのだ。
2日前の襲撃でも『脹相』と私の間に割って入り、私を庇ってくれた。味方だと言っても過言ではないだろう。
それは伝えたはずなのだが、真依はまだ納得がいっていない楊子で。
「何を根拠に……」
何かを企んでいるのかもしれない。
ただの気まぐれの可能性だってある。
だから、たった2日でそれを判断するのは早計だと、真依は続ける。
「……それは、そうだが」
「私達はそういう『呪霊紛い』とも殺し合ってきた。そんな簡単に信じられると思う?」
「…………」
否定はできない。
否定するには材料が無さすぎる。
「もちろん、憲紀の捜索はするし、力が必要なら貸すわよ」
「……でも、私は『あれ』には近づかないし……私に近づかせないで」
それだけを言い放ち、真依は私に背を向けたのだった。
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真依は幼少期のこともあり、呪霊に類するモノへの嫌悪感は異様に高いと思ってます。
あぁ、ふざけた話を書きたい。
でも、今の話でふざけたら意味分からなくなるぅぅ……。