【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完)   作:藍沢カナリヤ

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第4話 落第者共

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「やっと辿り着けた」

 

 

こんびにえんすでの衝撃的な体験に、しばらく呆然としていた私だったが、どうにか加茂家本邸へ辿り着いた。

 

 

「ここは変わらんな。あの頃のままだ」

 

 

ほぼ変わらないその外形に、懐かしさと安堵を覚える。転生してからずっと訳の分からないまま、知らないものに囲まれていたからか、見慣れた場所を目にして、少々涙腺が緩んでしまう。

 

 

「っ、私も歳だな……」

 

 

こんなことで涙ぐむなど、恥ずかしくて仕方がない。

軽く目を擦ってから、私は加茂家の門を叩いた。

 

 

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私を案内したのは、1人の女性だった。女中の1人なのだろうか、私を先導するように歩く。会話はない。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

見慣れた長い廊下を進む。流石に当時から変わっている部屋もあるようだが、基本的な作りは変わっていないようだ。確か、この先は客間だったか?

先導する彼女に促され、私は襖の中へ入った。

 

 

ーーピシャッーー

 

「ん?」

 

 

私が部屋に入るのを確認したと同時に、彼女は襖を後ろ手に強く閉じた。先ほどまでの静かな雰囲気とは一転して、彼女の纏う雰囲気が変わる。

怒の感情。それを感じた。

 

 

「……なぜここに来たのですか」

 

「?」

 

「なぜ加茂家に来たのかと言っているのですッ!!!」

 

 

物凄い剣幕で彼女は私に迫る。

 

 

「……何を言っているのだ。私は加茂家の人間なのだから、ここに来てもおかしくはーー」

 

「貴女はここを追い出されたことを忘れたのですかッ!」

 

「追い出された……?」

 

 

待て、そんな話は初耳だ。そんなこと、現当主である彼から聞いていないが……。

 

 

「とぼけないで! 貴女のような出来損ない、見たくもないっ」

 

 

怒鳴り声をあげ、彼女は私の胸ぐらを掴む。

近くで見ると、彼女の目は血走り、私への憎しみに似た感情すら読み取ることができた。だが、同時に間近で見た彼女の顔立ちはどこかで見たことがある。

…………いや、どこかというよりは……。

 

 

「もしや、あなたは加茂鶫の母親、なのか……?」

 

「っ、どこまでもッ!!」

 

 

ーーパシンッーー

 

 

頬を平手で打たれた。

本気で叩いたのだろうが、痛くはない。力を感じなかった。

それほどに弱々しい彼女は、そのまま全体重を乗せ、私を押し倒し、馬乗りになる。

 

 

 

「貴女のような出来損ないのせいでっ! 私は加茂家での地位を失ったのよっ」

 

「相伝の術式を生むようにと期待されたあの人からは見捨てられ、それでもここにしがみついて……」

 

「縁談の話を聞いたときは喜んで貴女を差し出したわよっ、相手はいい噂を聞かない呪術師だとしても、それでも私が加茂家の、あの人の役に立てるのなら喜んで差し出すわッ!」

 

「けれど、それでも私は貴女を見たくもないのよ。なのに、ノコノコとその汚い為りで現れてっ」

 

 

「どこまで私を不快にさせれば気が済むのよ、貴女はッ!!」

 

 

怒号。憎しみ。

母親である彼女からの言葉は私の心には響かない。だが、この体は別なようで。彼女の言葉で、私の体は完全に硬直していた。

やがて、息も苦しくなっていきーー

 

 

 

「貴女なんて、生まなければよかったわッ」

 

 

 

その言葉と共に、私は意識を失った。

 

 

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次に目覚めたのは、白い天井の場所だった。

ゆっくり体を起こし、辺りを見渡すと、そこはベッドが数台並べられた小さな部屋。病院の一室であることは予想できた。

 

 

「……私は……」

 

 

頭がまたぼやけている。思考がまとまらない。

 

 

 

「目が覚めたか」

 

 

 

病室の入り口に、彼は立っていた。

 

 

「少年」

 

「だから、私の方が歳上だ。少年は止めてくれ」

 

「……憲紀」

 

 

手に小さな籠を持った彼は、そのまま私のベッド脇の小さな椅子に座った。見舞いだと言って差し出した籠の中には、果実が入っていた。

彼の話によると、あの後、意識を失った私は、あの母親と思われる女性から殴られ続け、その騒動に気づいた女中に助けられたという。

 

 

「食欲はあるか?」

 

「……いや」

 

「そうか」

 

 

その会話以降、しばらく沈黙が流れる。

そして、その沈黙を破ったのは、彼の方だった。

 

 

「すまない」

 

 

第一声は謝罪。それが何に対する謝罪なのかはすぐに理解できた。

 

 

「私は加茂家を追放されたのか」

 

「…………あぁ」

 

 

彼曰く。

正妻でありながら、相伝の術式を持たないどころか呪霊を見ることしかできない子を生んでしまったあの女性。つまりは加茂鶫の母親は、鶫が生まれた後、一族から随分と陰口を叩かれ、嫌がらせを受け続け、精神的に追い詰められていったらしい。

鶫を産むときに子宮を失っていた彼女はもう世継ぎを産むことができない。役立たずだと。そんな風に言われ続けた。

そして、鶫が5歳になったその日、彼女は凶行に走った。

 

寝ていた鶫の首を絞め、殺そうとした。

 

運良くそれを女中が発見し、止めたことで、鶫は助かったらしいが、それ以降も事あるごとに母親は鶫を殺そうとしたという。

鶫の命を守るためか、それとも術式を持たない厄介者を追い出すためか、加茂家元当主は、鶫を毎月最低限の資金だけ援助した上で加茂家から追放した。

それが彼から聞いた事のあらましだった。

 

 

「元の当主が生きている間は本当に最低限の資金だったようで、君は日に日に弱っていった」

 

「一時、生死の境を彷徨うこともあったようだ」

 

 

そう言って、彼は目を伏せ、私と視線が合わないようにした。

鶫を追放した当時は当主でなかったとはいえ、次代の当主として思うことがあるのだろう。

 

 

「酷い話だ」

 

「っ」

 

 

ポツリと、そんな言葉が溢れた。

私が繁栄してほしいと願った加茂家がここまでおかしくなっているとは、本当に酷い話だった。

せめて私がもう少し生きていれば、どうにかなったのかもしれないが……いや、どうだろうか。そんなのは、たらればの話だ。私が生きていたとしても、その次の代にはこうなっていたのかもしれない。

 

 

「本当に……すまない。加茂家次代当主として、謝罪することしかできないことも……」

 

「憲紀……」

 

 

その声からは申し訳ないという気持ちが伝わってきて、彼の人柄に少し触れられた気がする。同時に、不思議に思う。

 

 

「なぁ、憲紀。君はなぜ私によくしてくれるのだ?」

 

 

話を聞くに、加茂家内部はどうやら血筋と術式に重きを置くような人間の巣窟らしい。いずれその頭になるであろう彼が、鶫の様子を見に来たり、世話を焼いたりする理由が思い当たらない。

 

 

「…………」

 

「女中のひとりでも寄越せばいいだろうに、君が私を見に来ていた理由はなんだ?」

 

 

私の質問に彼は少し悩んでから、口を開いた。

 

 

「私は正妻の子ではない。元当主と側妻との間に出来た子だ。相伝の術式をもつというだけで嫡男として迎えられた」

 

「…………なるほど。得心がいったよ」

 

 

顔を下げ、私と目を合わせないまま、彼は更に言葉を紡ぐ。

 

 

「私は加茂家の人間として相応しい振る舞いをしなければならない。母様のために」

 

「本当ならば、加茂家の次代当主ならば、君のような術式をもたない人間を追放するのは利に叶っている。加茂家の繁栄を思うならば正しい判断なのだろう」

 

「だが、君のことを知ったとき、放ってはおけなかった。他人を見ている気がしなかった」

 

「だから、私は…………」

 

 

彼も私と、加茂鶫と同じような立場というわけだ。

その差は術式をもつかどうか。それだけだ。

そのせいなのだろう、彼が鶫を気にかけるのは。

 

 

 

「…………分かった。もういい」

 

 

 

彼の肩に軽く手を置く。

 

 

「……鶫」

 

「もうよい。憲紀の気持ちは十分に伝わった」

 

 

私の死後、加茂家が血筋と術式に固執する家になってしまったことは本当に残念だ。

けれど、不幸中の幸い。

加茂憲紀がいる。彼は良い子だ。

本当に、彼のような優しい人間が加茂家次代当主で本当によかったよ。

 

 

「ありがとう、私は君の存在に救われたよ」

 

 

そう言って、私は思わず彼の頭を撫でる。

幼子をあやすように、そうしてしまった。

 

 

「っ、止めろ。歳上に、次代当主に向かって、何をしているっ!」

 

「おっと、すまない」

 

 

中身は中年男性とはいえ、見た目は加茂鶫。

年下の女子に撫でられれば、年頃の男子ならば照れて当然。これは少し配慮が足りなかった。反省だ。

 

それから私と憲紀は、任務の話や呪術高専での話、他愛のない話をして。

少し、彼との距離が近づいたような気がしたのは、きっと私の気のせいではないだろう。

 

 

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私が転生した理由は全く分からないままだが、そんなことは些末なことにすら感じた。

 

彼の話を聞いて。

私が体験したことを通じて。

私は強く思ったのだ。

 

加茂家の真の繁栄のため、私は加茂憲紀の補助をしよう、と。

 

 

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次回、京都呪術高専入学編スタート!
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